謎の犯人
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3部分:第三章
第三章
「無類の酒好きと甘党だから」
「物凄かったわね」
「まああれさえなければね」
夫はまた言う。
「完璧なんだけれどね」
「けれど。煙草にお肉にお酒に甘いものって」
雅美は関係者四人の嗜好について述べた。
「どれもこれも」
「脚本の荒木君は真面目だよ」
「そういうことはしないの」
「そうだよ、一緒に来てたあの痩せた若い人」
それが荒木だというのだ。
「真面目で大人しいいい子だよ。いつも四人のうちの誰かに付き合わさせられてるけれどね」
「大変ね、それは」
「そうだね。四人共凄いから」
雅美は徹の話を聞いて凄いどころではないと内心思った。
「もうそれはね」
「怨んでない?その荒木君」
「何で?」
「だから。あんなに煙草やらお酒やらお肉やらって」
「甘いものもね」
「付き合う方は大変よ」
雅美が言うのはこのことだった。
「強烈だから。あまりにも」
「そうかな」
「そうよ。本当に大丈夫なの?」
「だから四人共人柄はいいから」
それは雅美にもわかった。少なくとも悪人ではない。
「荒木君も人を怨むような人間じゃないしね」
「だといいけれどね」
雅美はこの時は二日酔いと胸焼けのせいで深くは考えなかった。考えられなかったと言ってもいい。だが数日後のことだった。
雅美が仕事をはじめようとした朝にだ。この日は泊りがけでロケに出ていた夫からだ。電話がかかってきたのであった。
「どうしたの、こんなに朝早くから」
「ああ、大変なことが起こったんだ」
こう妻に言ってきたのである。
「実はね。前に言ってた四人が」
「あの強烈な人達が?」
「倒れたんだ、一度に」
「えっ、倒れたって!?」
「とにかく。大変なんだよ」
夫はまた言う。
「事件なんだ」
「事件って」
話が一変した。そしてであった。
倒れた四人はそれぞれすぐに病院に担ぎ込まれた。四人共意識不明の重体であった。
しかもだ。その前の日に四人とそれぞれ一緒にいた脚本家の荒木にだ。疑いがかかったのである。
「彼四人に何かと付き合わさせられてたしな」
「それで迷惑してたんじゃ?」
「それじゃあやっぱり」
「毒を盛ったとか」
こう疑いがかけられたのである。自然とだ。
それを夫から聞いた雅美はだ。その日のうちに撮影現場に向かった。撮影現場は大変な状況だった。
「監督もプロデューサーさんも主役クラス二人もいないとね」
「うん、とりあえず最後の場面しか残っていないけれどね」
夫も困った顔になっていた。
「けれど。それでもね」
「四人も一気に抜けたし」
「しかも荒木君に疑いがかかってるし」
それもあった。
「厄介なことにね」
「その脚本家のね」
「そうだよ。四人とそれぞれよく一緒にいたから」
それで疑われているというのである。
「そのせいでね」
「ううん、この事件はね」
ここでだ。雅美は腕を組んだ。そうして言うのであった。
「荒木君よね」
「うん、だから彼が疑われてるんだよ」
「犯人じゃないわ」
すぐにだ。雅美は結論を述べた。
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