Charlotte 奈緒あふたーっス!
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卒業式
07 帰還
小鳥たちが楽しそうに青空を駆けている。
それを見上げる有宇は星海学園の屋上のベンチに寝転んでいた。
ここが自分から指示された最後の場所。
そして最後の指令まで残り一時間程の余裕がある。
ふと屋上へと続く階段をかけ上る音がしていることに気付き、やがてガチャリとドアを開いて有宇の元へと歩いてくるその人は…
「こんなところに居たんですね。何も連絡がないから探しましたよぉ。ん?どうかしたんですか?」
彼女を横目に見るだけで反応を示さない有宇に違和感を抱いた奈緒が真上から覗き込むようにして立つ。
「…僕のこと気にかけてくれてるの?」
視力の低下に伴ってぼやける視界に映る奈緒は眉根を寄せたまま答える。
「それはそうですよ。だって、私はあなたの恋人なんですから」
有宇は心に引っ掛かる何かを感じて、彼女に尋ねる。
「恋人…もしかして、君が奈緒?」
「は?」
奈緒は唖然として口を閉じることが出来ないでいる。
なんの前触れもなくそんなことを聞かれれば、彼女の反応も当然と言えよう。
「そ、それは何かの冗談っスか…?まさか…あなたの脳は定期的に記憶をリセットされるほど能力に圧迫されてるなんて言いませんよね」
奈緒のその言葉に今度は有宇が困った顔をして回答を探し、やがて何かを見つけたように眉を開いた。
「よく分からないけど、この携帯にはこう指示があるんだ。えっと…シャーロット彗星の欠片を用いた実験が成功して、大人でも能力者になれるようになった。だから過去に存在する欠片と現在の本体を全て駆逐した後に、この時間のこの場所に戻ってくるって」
何度読み返しても覚えた記憶が曖昧になっていくその内容を再び読み返しながら奈緒に説明する。
「やっぱり、あなたという人は…本物の馬鹿です」
俯いた彼女の頬には幾重もの光の軌跡が浮かんでいた。
「どうして泣いてるの…?」
その雫がこぼれ落ちてしまう前に有宇がそっと掌で頬を包む。
「そんなの、あなたがあまりにも自分を犠牲にし過ぎるから…そんなところもカッコ良くて、好きだからに決まってるじゃないですか」
「そうなんだ。でも、僕は大丈夫だよ」
「またそうやって…」
「嘘なんかじゃないよ。体はほとんど動かないけど、心はこんなにも晴れやかなんだ。なんだか全てをやりきった。そんな清々しい気分なんだよ。まだ一つ残っているけどね」
満天の空を見上げる晴れた表情の有宇は、純朴な少年のように笑う。
その有宇の横顔が、少しばかり奈緒の笑顔を作る。
「そう…ですか。あとは何をするんですか?」
「あと三十分程後から無数の時間平面が構築されるから、それを消さなきゃいけない」
「あなたが時空間移動の能力を使うからですよー」
少女がからかうと、頭を掻く少年はにっこりしてそれに応える。
「あはは…。覚えてないけど、そうしなくちゃいけなかったんじゃないかな」
「あなたのことですからそれくらい分かってますよ。それ以外どう考えろというんですか」
抑揚をつけて言う奈緒の心情は有宇には伝わるはずもなかった。
何故なら奈緒は記憶を失う前の有宇と話したことを思い出していたからだ。
『ああ、僕はただのカンニング魔だからな』
「っ…!!」
青空から声が降り注いだように感じた奈緒は思わず声を漏らしてしまう。
「また、泣いてる…。君、凄く泣き虫なんだね」
奈緒は自分の心を覗くようにして現れたその声に心臓をキュッと握り潰され、声をあげて泣いている。
「全部、有宇くんのせいなんだからああああああ…」
「僕のせいなの?分からないけど、ごめんね」
有宇が彼女の頬に手を添えたまま親指で涙を拭い、その手を奈緒の頭へと移動させてポンポンと撫でる。
「バカ…ばかぁ…ばかぁ…有宇くんのアホぉ…」
寄り添う有宇の胸を叩く奈緒はひた泣き続けた。
そのまま十数分、奈緒が泣き止むまで有宇は彼女に肩を寄せて頭を撫で続けた。
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