Charlotte 奈緒あふたーっス!
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卒業式
05 再旅
【火星】
「へぇ、火星人っていないんだな」
氷水の張った湖に巨大なクレーターが出来ている場所を見下ろしてゆっくりと降下していく。
「あった」
クレーターの中心に直径10メートル以上はある大きな破片に手を添えると、その瞬間に破片はパキキキキと音を立てて黄金に変わっていく。
僕が奪った能力の一つ、「錬金術」が対象をあらゆる物質に錬成し、たとえシャーロット彗星の破片であろうとも、その全てを無力化することが出来る。
「次」
短い言葉のあとにはもう別の星へ移動が完了している。
有宇は錬金作業をひた繰り返し、かれこれ一週間が経過しようとしていた。
【土星】
「この輪上で止まることもあるのかぁ」
土星の周りの塵と共に浮かぶ破片を見つけ、疲れた体を伸ばしながらボケーっと呟く。
このとき既に数百の星や宇宙を周り、最初の火星のことなどとうに有宇の残り少ない記憶容量には収まりきれず、圧迫されて消えている。
「防御壁」の能力で宇宙空間でも存在出来、「生産」の能力で自分が望む者を何でも精製出来るので呼吸にも困らない。
浮いてる欠片から五メートル程の場所まで降下し、それを金に変える。
「次だ」
そこから更に一ヶ月が経過し、その時には黄金、あるいは他の物質に錬成した彗星の欠片は三千と三百二十一となり、次の欠片で最後になる。
【】
「ここで最後…ようやく終わるんだ」
ポケットに潜ませていた携帯のメモ欄に書かれてある「3321」の最後の1を消し、新たに2を書き加える。
こんなに回ってきたのか。僕は。
メモ欄に書かれてある開始日からまだひと月程しか経っていない。
つまり、単純計算で1日あたり100を越えることになる。
パキパキ…
音を立てて最後の欠片が黄金へと変じる姿を、疲れきってクマのできた目元から見下ろす。
数秒で欠片であったものはその物質の重さすら異なる金になっていった。
「終わった。でも、まだ…本当に最後にやらないといけないことがある」
そう呟いた有宇は、現在自身がいる時間から十四年後にタイムトリップを行うために時空の穴を広げ、躊躇することなく滑り込む。
トリップ中に揺れる脳を必死に庇い、何とか無傷で時空の穴を抜ける。
「よし、僕があの日の朝に出た時間に戻ってる」
携帯のメモ欄を再び確認すると、三月九日の八時に戻ってくるように指示がある。
勿論この指示は記憶が薄れていく前の有宇が書いたもので、それに従い動いてきたが、戻る場所は分かるのに、誰のもとに帰るのか、それが最も知りたいのに、メモ欄に求める情報は記されてはいなかった。
思わず溜め息を漏らす有宇。
「最後は本体か…」
遥か遠くの宇宙に漂っているであろうシャーロット彗星本体の位置を能力で見定め、再び「転移」によって彗星から数百メートル離れた位置まで近付く。
まず、十四年前の時点で彗星を錬金しなかったのは、十四年前に彗星が地球に近付いた事実を無くしてしまえば、時間的矛盾からこの場で有宇の能力は消え、宇宙空間に放り出される、あるいは有宇自身の存在自体が消えてしまうという可能性もあるからだ。
次に彗星から数百メートル離れた理由は、地球の表面にも存在する大気圏のように、彗星も仰々しく燃え盛っているからだ。
普段人間が地球上で生活している状態で感じるようなことはないが、地球は常に自転と公転を行っている。
超超高速回転を行うその球体が表面の空気や塵などと擦れあい、摩擦で燃えないことがありえようか。いや、ありえない。
それは数万光年を激しい速度で移動するシャーロット彗星も同じだ。
いくらバリアと冷却能力で己の体を覆っても、絶対に安全だという保証はないからだ。
第一、錬金術の能力は視界にさえ入っていれば、どんなに離れていようとも対象にその力は作用するので全く問題ない。
「これで、終わりなんだ。今から帰るからね」
彗星は巨大な黄金へと変じていく。
耳をつんざくような激しい硬化音も、全てを成し遂げた今の有宇には心地好く響く。
その様を全て見届け終えると、有宇は「転移」によってある場所へ移動した。
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