Charlotte 奈緒あふたーっス!
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03 トリック
気付けば有宇は体育館の天井から全く同じ姿をした自分と、その正面に立つ赤い目をした老人を見下ろしている。
そちら側に立っている「オリジナル」の僕は老人の異変に気付いた瞬間に複数の能力を発動していた。
「分身」、「透明」、「転移」。
自らの分身を作りつつそれを透明化する。
そしてその分身を体育館の天井へと飛ばす。
気絶した自分を大男たちが運んでいて、あまりに急な展開に混乱した生徒達が錯綜して逃げ惑っている。
友利がその男たちを追いかけるが、僕の持つ能力の一つ「遅延」(あらゆる行動を遅れさせる)を使って追い付かせないようにする。
異変に気付いた友利が左右をキョロキョロと見回して、最後に天井を見上げる。
既に姿を現している僕はピースしてサインを送り、友利の隣に「転移」(テレポート)する。
「もぅ。あまりビックリさせないでくださいよぉ。それにしても…分身能力ですか」
奈緒は一瞬ホッと胸を撫で下ろすとすぐに鋭い顔に戻し、ニヤッと片方の口角を釣り上げる。
「あ、うん。そうだよ。えっと…それで僕はこれから自分を辿って奴等が何者なのかつきとめてくるよ。まぁ、大体予想はつくんだけどね」
「科学者、ですね」
どこか遠くを見つめる奈緒の瞳に惹かれ、奈緒への想いが口からこぼれそうになるが、なんとか引き絞ってそれを止める。
「えっと…うん」
「ま、十中八九そうでしょう。私は能力を持っていないので足手まといになるだけですから、待ってます」
そう言って僅かにもじもじとする奈緒の頬は紅に染まっていた。
僕が首を傾げると、彼女は右手の小指を差し出した。
「必ず、必ずもう一度帰ってくると約束してください。何があっても必ず帰ってくるって」
そんな愛しい彼女を見て僕は微笑んだ。
「あぁ、任せて。いってきます」
「いってらっしゃいませ」
さよならは言わずに指切りをした。
気付いているのは奈緒だけだが、あの旅立ちの日と同じ会話を交わす。
指つめろとは言わなかったけれど。
百八十度ターンした僕は、振り向きたい欲求を抑え、一瞬で自分を拐った黒塗りの車の上空へ転移した。
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