少年少女
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第一話
第55層 フィールド
「はっ!」
刀の横薙ぎをモンスターに放つ。鋭い一撃はオーク系モンスターの胴体を真っ二つに切り裂く。モンスターが細かい粒子となり、消滅する。
「ふぅ、今日はこれくらいにするか。」
俺は今日のレベリングを終え、街へと帰還する。この階層の主街地は鉄の街で、緑は非常に少ない。余談だが、この街にはSAOを攻略するプレイヤー、通称【攻略組】の中でもトップレベルのギルド、【血盟騎士団】の本拠地がある。
俺も入団を誘われたが、基本的にソロでやっている為、断った。
そんな事を思い出しながら宿屋へ向かっていると、道すがら声を掛けられる。
「お、ジンガじゃないか。久しぶりだな。」
声の方を向くと、全身黒ずくめの怪しい男が立っている。ちなみに、ジンガとは俺のキャラネームである。
「よぉ、キリト。久しぶり。56層のボス攻略以来だな。」
そういうと、俺は怪しい男改め、キリトの方へ近付いていく。
キリトは俺の数少ないフレンドである。お互いソロプレイヤーで、ちょくちょく攻略で顔を合わせていくうち、いつの間にか親しくなっていた。ボス攻略時以外でパーティーを組んだ事はほぼ無いが、街でこうして顔を合わせると立ち話をしたり、食事を共にする程度の関係であると認識している。
俺たちは久しぶりの再開を喜び、近くの飲食店に入り、食事を共にすることにした。俺は赤みの強い色をしたステーキのような肉類と、SAOでは主食扱いされているパンを注文し、キリトはパスタのような麺類(見た目はイカスミパスタ。味は不明。)を注文した。
「なぁジンガ、あの話、知ってるか?」
食事を摂りながら、キリトは神妙な顔つきで言った。しかし、硬いなこの肉。味は牛肉のステーキと遜色無い。
「あの話?」
肉を切る手を止めて聞き返した。
「あぁ、最近、新たなプレイヤーが現れているっていう話。」
新たなプレイヤー・・・?
妙な話である。SAOはデスゲームであり、開始当初の時点で現実世界でも問題になっていると茅場晶彦が言っている。そんな世界に来る物好きがいるのだろうか。
そもそも、出荷数一万本で、即完売したと報道されていたし、スタート時点で一万人いたはずだ。
「知らんが、妙な話だな。そのプレイヤーってのは今は?」
少し気になっている自分がいる。SAOでは度々、様々な噂が飛び交ったりしているが、キリトの情報は面白い。何でも、情報屋と繋がりがあるらしい。
「全員は知らないけど、数人は一階層の施設にいたらしい。」
数人?一人じゃないのか。一人くらいなら、物好きで片付けられるが、複数いるなら何か事件性を感じる。まぁ、リアルの世界で何かあったとしても、俺たちにはどうしようも無いが。
「複数人いるのか。というか、所在が分かっているなら、話を聞いてみればいいんじゃないか?」
俺の質問に、キリトは更に神妙な顔つきで話す。
「それがな、一階層の施設にいた人たちは、皆突然消滅したらしい。」
「なっ・・・」
どういう事だ?
この世界で消滅したという事は、、、
「モンスターにやられた、のか?・・・まさか、ラフコフとか、殺人ギルドの連中に?」
ラフコフとは、殺人ギルド【ラフィンコフィン】の事である。このデスゲームと化した世界で殺戮を楽しむ、俺が心底軽蔑する人種だ。いずれは攻略の妨げになると危惧されている連中なので、捕まえて牢屋に入れる必要があると思っている。
「いや、消滅した場所は施設内らしい。施設があるのは勿論街中だ。モンスターは出ないし、PKも基本的に出来ない。それに・・・」
キリトは更に続ける。
「全員バラバラのタイミングで消滅したらしい。現れてから数日の人もいれば、数時間の人もいたらしい。」
謎過ぎる事件だな。キリトの語尾がさっきから「らしい」って事が、更に噂レベルだという事に拍車を掛けている気がする。
まぁ、新たなプレイヤーというのが本当だとしても、今更何だというのだ?
攻略組に参加する事はかなり厳しいだろうし、街で大人しく暮らす他はないんじゃないだろうか?俺はそう考えると、この話題に対する興味を失っていった。
「ま、そんな話があるって事を聞いたんだよ。」
キリトは先程記した情報屋から、その手の情報をたまに仕入れている。
大体は噂レベルらしく、情報屋も「金をもらう情報じゃナイ。」と言っているらしいが。
「ふむ、どの道、高階までは来ないだろうから、あんまり関係無い話かもしれんな。」
俺は水の入ったコップを持ちながら言い、中の水を飲み干した。
「ご馳走さまでした。」
俺とキリトは食事を終えると、店を出た。
「それじゃ、またな。」
キリトが軽く右手を挙げ、挨拶をする。
「あぁ、またな。死ぬんじゃないぞ。」
俺も軽く右手を挙げて返事をする。
「ジンガもな。」
軽く笑いながらそう応えると、キリトと俺は別々の宿屋に向かっていった。俺たちの挨拶はいつもこんな感じだった。恐らく、リアルでの年齢も近いのだろう。少なくとも、キリトは年上には見えない。
俺は宿に戻ると、直ぐにベッドに横になった。
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