リリカルなのは~優しき狂王~
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Vivid編
第五話~今の日常と男の気持ち~
前書き
読者のみなさんお久しぶりです。
と言う訳で、久方ぶりの本編です。
……投稿しておいてなんですけど、やっぱり作品内の登場キャラの平均年齢が中々下がりません。
Vividなのになんででしょうね?
では本編どうぞ。
???
――――アナタハコノママデイイノデスカ?――――
「――――」
――――ソウシテススンダサキニナニガアルノデスカ?――――
「――――」
――――アナタノシアワセトハナンノデスカ?――――
「…………」
――――アナタハ■■■■■…………――――
「…………」
ミッドチルダ・高町家・一室
瞼を開けると朝日が差し込む天窓が見える。
ぼんやりする寝起きの頭が思考し始める前に、上半身をベッドから持ち上げる。
「…………少し冷えるな」
基本的に一年中温暖な気候であるミッドチルダでも、日が昇って間もない時間帯は部屋の中でも少しだけ肌寒い。
そして、寝起きだというのに少し汗で湿ったパジャマが余計に体温を奪っていると理解した、この部屋の主にして、ここ高町家に居候をしているライはシャワーを浴びるために着替えを用意し、自室となっているその部屋をあとにした。
高町家・風呂場
寝汗を洗い流し、伸びた髪の毛を丁寧にシャンプーで洗っていく。
「……なんで皆髪を切るのを止めるんだろ?」
髪についた泡を洗い流していきながら、思ったことを口にする。だが、そんな疑問に答える人間がその場にいるはずもなく、テキパキとライは自分の体を洗っていく。
そして、湯船には浸からず、最後にお湯で全身を洗い流すと脱衣所に出て体を拭く。
髪を拭き終わり、あとは身体を拭くだけとなった時に、その事故は起こった。
「おはよ~、フェイ……ト…………ちゃん?」
(あれ?鍵しなかったっけ?)
脱衣所の扉が開かれた。(若しくはその時歴史が動いた、または時が止まったとも言う)
最初は寝ぼけ気味なまったりした声を漏らした扉を開け放った勇者――――なのはの言葉はどんどん尻すぼみになり、最後は疑問系になったためか発音が上がり気味になっていた。
そして生まれたままの姿になっていて、しかもシャワーだけとは言え湯上りのライを見た彼女は眠気が覚めるのと反比例するように、赤面していく。
(……あ、前にもこんなことがあったような……シグナムさんだっけ?)
見られている当人はこういう時どんな顔をすればいいのかわからない。まさか笑うわけにもいかないので、取り敢えず相手の反応があるまで静観するしかないかなと、無駄な思考を重ねていたりする。
「あ、ぅ……えぁ?」
人類が理解するには恐らく数百年はかかるであろう謎言語を口に出している彼女にどう対処しければならないか、真面目に考えたライは取り敢えず脱衣所の扉を閉めると言う至極真っ当な答えに辿り着く。
「閉めるよ」
一言声をかけると、局部を隠すように持っていたバスタオルをそのままに、ライは扉の方に一歩動いた。だが、未だに濡れている腕に掛けるようしていたタオルは、今では長髪になったライの頭を拭いたあとのため、それなりに多めの水分を吸っている。
なので、一歩歩いた振動で、そのタオルが重力に従い腕からすり抜けるようにして脱衣所の床に落ちることも何ら不思議ではないのだ。
「――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その日のご近所の目覚ましとなったのは、鶏や時計ではなく。管理局の誇るエースオブエースの絹を裂くような悲鳴であったとさマル。
高町家・リビング
早朝の珍事件から少しして、リビングで朝食をとり始めるのは、この家に住んでいるなのは、フェイト、ヴィヴィオと居候のライの四人である。いつもは賑やかな食事はしかし、今朝は少し静かな感じだ。
その原因として、なのははライの方を直視できないのか、朱が差している顔を隠すように俯き気味でもそもそと食事を取っており、それに対するようにライの方はいつもと変わらずに食事をしている。
事情を聞いたフェイトはそんな二人に苦笑い。一方、事情を知らないヴィヴィオは首を傾げるだけであった。
「そう言えば、今日ライはどこかに行くって聞いたけど、どこに行くの?」
空気を変えようと話を振ったのはフェイトであった。
質問をされた当人は咀嚼していた朝食を自身のカップに注がれている水を煽り、流し込むようにして飲み込むと口を開いた。
「戸籍云々の手続きとその受領が完了したから、今日は無限書庫に行くつもりだよ」
「書庫に?」
「うん。見たい資料がある」
無限書庫とは、管理局の創設以前から存在する文字通り全容が把握できないほどに広い書庫である。
現時点では、管理局がその管理を行っているため、そこを利用する為にキチンとした身分証明書が必要なのである。
そして特定の人物から許可さえ貰えば、一般解放区だけでなく未整理区画の利用も一応は許可されていた。
「ちょうど昨日、はやてから申請の許可が下りたって連絡が来たから」
「へぇー、そう言えば戸籍の写真ってどんな感じなの?」
ふと思いついたようにフェイトが尋ねてくる。
いつの時代、世界であってもこういった誰かの写真は気になるらしい。
「……蒼月」
ライは首にかけていた蒼月を取り出すと、名前を呼んだ。それまでの会話をキチンと聞いていたらしく、それだけで蒼月は空宙にライの身分証を投影した。
映し出されたライの顔写真は六課時代に撮影したもので、髪型が以前の短いものであった。
「おぉ~……あれ?」
何故か感嘆の声を漏らしたヴィヴィオが何か気になったのか疑問の声を洩らす。
「パパ、この名前」
「「あれ?」」
ヴィヴィオの言葉を聞き、フェイトといつの間にか復活していたなのはが名前が記載されている欄を見ると、そこには見覚えのない苗字が表示されていた。
『白月ライ』
『ランペルージ』でも『ブリタニア』でもなく、『白月』と書かれたその名前にライ以外の三人に聞き覚えがあるはずもなく、彼女たちは首を傾げる。
「それは母の旧姓だ」
三人の疑問に対して、手短な返答をしたライは朝食を食べることを再開する。だが、ライの過去をそれなりに知っているなのはとフェイトはともかく、ヴィヴィオはその手短な返答で満足できるような話題ではなかったらしい。
「へぇ!パパのママってどんな人なの?」
興味津々といった表情を隠すこともしないヴィヴィオに、なのはとフェイトが思わずその話を打ち切ろうと口を開こうとするが、それよりも先にライが口を開いた。
「綺麗な人だよ。あと、なのはやフェイトが幼い頃に住んでいた国と同じ国の出身」
「それって、地球の日本?士郎さんや桃子さんがいるところ?」
「うん」
そこまで話して、ライは朝食を完食した。自身の食器を重ね、台所の流し台に持っていく。そこまで食器の数は多くないので、手早くそれらを洗い食器を干すと、リビングを後にする為に口を開く。
「それじゃあ、僕はすぐに出るよ。晩御飯までには帰る」
あっさりと居なくなったので、その時三人は気付かなかった。ライの戸籍データの年齢の欄の数字が『十八』になっていた事に。
そしてそれが、年齢の感覚が狂っているライのうっかりミスであることにこの時は誰も気付くことはなかった。
これが今のライが手に入れた日常の一幕である。
管理局・無限書庫
受付に時間が掛かり、ライの望んだ区画に入れるようになるのはお昼前ぐらいなる。
たどり着いた書庫で担当官からそう言われたライは、昼食として軽食を取ると指定された時間に、目的地であるそこの前に立っていた。
「ベルカの未整理区画……ここか」
近未来的な廊下や扉の中で、逆に時代を感じさせられる石で作られているその大きな扉はライの目を引いた。
無重力空間の中、ライはその扉の前で入ることはもちろん扉を開けようともしていなかった。彼には待ち人がいるのだ。
「すみません!白月ライさんですか!」
少し離れたところから、複数人が団体でライの元に向かってくる。その団体の先頭にいる金色の髪に線の細い顔、そして少し大きめのメガネを掛けた男性が確認のための声を投げかけてきた。
「そうです。八神はやてさんからの紹介で」
初対面の相手であるため少し事務的なお堅い対応になったが、はやての名前を出した時に金髪の男性の目元が緩んだようにライには見えた。
「今日、君と行動を共にする発掘チームの指揮をとっている、司書のユーノ・スクライアです。よろしく」
そう言って手を差し出してくるユーノに、ライは握手を返した。
「お世話になります。ところで…………大丈夫ですか?」
「え?……あぁ、あはは」
ライの『大丈夫ですか?』という言葉にユーノは一瞬なんのことか理解出来なかったが、すぐに察した。なにせ、ユーノの率いる発掘チームの内の殆どが既に疲れきった顔をしているのだから。それにどこか、ユーノ本人の顔色も良いとは言えない感じである。
「ここしばらく、管理局からの資料請求が続いていて、纏まった睡眠時間を取れていなかったから」
苦笑いで返すユーノに、ライはどこか申し訳なくなる思いであった。
ライは今の時点で一般人だ。その為、どんなコネで入室許可を得たとしても司書資格を持っていなければ、それを持つ誰かと行動を共にしなければならないルールがあった。
だから、今回は未整理区画ということでライの要望に応えつつ、ついでに整理もしてしまおうという理由で、発掘チームが編成されたのだ。
「なんか……スイマセン」
「気にしなくてもいいよ……どうせ仕事は増えるしかないし」
どこか諦めたような顔をしているユーノの表情には光源のない影が指しているようにも見えた。
事情を把握したライはどうすべきかと思考を巡らせ、取り敢えず応急処置ぐらいにはなるかと思いながらも切り出した。
「今回、この未整理区画の整理……発掘は完了しなければなりませんか?」
「いや……そんなことはないけど」
「では、自分が今日申請した利用時間いっぱいは、貴方たちと行動を共にしなければなりませんよね?」
「うん」
「なら、ローテーションを組んで、休憩する班と活動する班で少しでも能率を上げましょう」
ライのその言葉に反応しなかった人間はこの場にはいなかった。
かくして、ライの『初めての無限書庫利用~発掘チームのHPはレッドゾーン?!~』が始まった。
まず、ライはこれまで彼らがどういった手法で発掘を行っていたのかを尋ねる。すると、意外なことに殆ど、ユーノのワンオペ作業だったらしい。
これは他の人員の能力が低いのではなく、ユーノの能力が他と比べて突出し過ぎているらしい。しかもどんな分野においても。逆に他の人員は能力に偏りがあるらしく、出来る作業とできない作業が大きく変わってくるらしい。
なので、これまではユーノが独自に動き、彼の手の付けていない部分を他の人が行うと言った事をしていたらしい。
「……チーム?」
そこまで聞いて、思わずライは疑問の声を漏らしていた。
取り敢えず、誰が何をできるのかを把握したライは、休憩班と作業班を分担し発掘作業を開始した。
取り敢えず、能率を上げるためにユーノが普段使用している作業用の術式を教えてもらい。蒼月とパラディンのシンクロシステムとチューニングシステムを起動させ、自身に最適化させながら、作業班の個人個人に仕事を振っていく。
幸い、疲れきっていたためか、いきなり陣頭指揮をとり始めたライに反発の声が上がることはなかった。
「作業項目の完了を確認、休憩に移ってください」
『古代ベルカ語の翻訳用のシステム構成完了。試運転を行いつつ修正は適宜』
『把握した書物のリスト作成。全体と棚ごと。それぞれタイトル順、発行年代順、ジャンル別で作成』
個人的になれている、キーボードの打ち込みを投影したものに行いながら、ライの頭と蒼月とパラディンはフル稼働であった。
ライのマルチタスクの使用枚数が一枚、また一枚と増える中、ライの事を観察している人物がいた。
(あれが、なのはたちが言っていた)
ユーノ・スクライアである。
彼の思った「あれ」というのが、作業方法のことか、それとも人物のことを指していたのかは、本人にしか分からなかった。だが、どちらもユーノにとっては気になる対象であることには違いない。
ユーノがライのことを知ったのは、機動六課の活動していた時期であった。
それは仕事の都合や、彼自身が調べていたわけではなく、教えてくれた人物がいたのだ。その人物は六課の隊長陣であるなのは、フェイト、はやての三人である。
この三人とユーノを含む四人は所謂幼馴染という間柄だ。その繋がりで、ユーノはライのことを聞かされていた。
(……確かにみんなが言うように“すごい人”だね)
自身の作業をしながらも、横目でライの方をあらためて窺いながらそんなことを思う。
当時ユーノは三人がよくするライという人物に少なからず興味を持っていた。そして、会話をする機会に三人にそれぞれ尋ねてみたのだ。
『ライって言う人は、みんなからしてどういう人なの?』
それぞれバラバラな時と場所で尋ねたところ、彼女たちは皆、最初少し悩むような仕草をした後にこう答えるのだ。
『一言で言えば、すごい』
最初これを聞いた時、ユーノはよく分からなかった。だが、それから数年後、直に本人を見た今、彼は彼女たちの言おうとしていた事を嫌でも理解することとなる。
「休憩が終了した女性と男性二人ずつで、全員分の軽食と飲み物を買って来てください。二回目の休憩を挟む時に少しでもお腹に何か入れておかないとキツイと思うので」
口頭で指示を出しながらも、作業を行っているタイピングの手の動きや、複数のモニターを行き来している視線の動きは止まらない。
それどころか、今の指示で抜けた人の担当するはずの作業のカバーにまで回っている。
(彼は人を使うのが巧い)
ユーノの感想はその言葉に集約されていた。
ユーノは自身の能力が高すぎるせいで、ついて来ることができない他人にどういう風に仕事を振ればいいのか分かっていなかった。そして、分野がより専門的であるため、自身のペースで作業をすることが重要であることを理解しているため、下手に口出しを行えなかったのだ。
だが、ライの場合はその逆である。
今回のチーム内で、ライの『発掘』に関する能力は下から数えたほうが確実に早いぐらいの能力しかない。
だが、それを理解している分、誰が何をできるのかを把握すると、適量の仕事を回し、それを参考に自身でもできる部分を探し、行い、少しずつ手を広げて行く。
その為、ライはユーノ程の知識や探索の能力がなくても、広い視野や全体を管理する能力が高い分、いつもより効率的に作業を行わせることができているのだ。
(あ、またタスクが増えた………………?どうして僕は彼がそこまで気になる?)
ライの作業に感心しながらも、ユーノは少し自分に疑問を感じていた。
なのはたちから話を聞いて興味を持ち、実際に会って彼女たちの言うとおり“すごい人”であることがわかってより気になっている。当初、ユーノはそう考える。だが、それに当てはまるような人物が他にもいることに気付き、そこまで彼が気になる理由にはならないと思う。
(それなら、ティアナやスバルももっと気になっているはずだしね)
色々と自問自答しながら、ライの事を知った最初から記憶をひっくり返し始めるユーノ。
だが、それでも今行っている作業効率が全く落ちていない彼は、ライに負けず劣らず優秀である証拠である。
丁寧に目の前の仕事をこなしながらも、ユーノの頭の中には『何故』と言う言葉が席巻する。
このままでは埒が明かないと思った彼は、考え方を変えた。
何故彼の事が気になっているのかではなく、どういった状況で彼の事が気になったのかを考える。
(えっと……あれ?)
頭の中で再び記憶を掘り返していく。
すると、該当すると思われる状況が絞り込めていくにつれ、ユーノの作業スピードが少しずつ落ちていく。
(まって…………まって、まって、まって!)
そしてとうとうフリーズするように作業も思考も止めてしまったユーノは、恐る恐るライの方を見ながら、脳内に“その時”の光景を思い出す。
(なのはが彼の事を喋っているとき………………僕は嫉妬している?彼に?じゃあ、なのはは?…………彼は?)
視線の先には先ほどと変わらずに、作業を続けるライの姿があった。しかし、それを見るユーノの瞳に現れているのは、敬意や感心と言った好意的なものでなく、どこか恐れを含んだものであった。
(怖い?何が?状況証拠だけだろう。でも、彼女も彼も一緒に住んでいる。だけど――――)
歯止めの利かない思考のせいか、ユーノはライの方に視線を向けてはいるがそれでいて、彼自身を見ているわけではなかった。だからだろう、今はライ自身もユーノの方を見ていることに気付かなかったのは。
「――――?」
(彼が僕と会ったのは偶然。だけど、これをセッティングしたのははやて。ということは――――)
「――大丈夫ですか?」
「……え?」
頭の天辺から爪先まで、どっぷりと思考の海に浸かっていたユーノは、鼓膜を震わす声と、自身の揺さぶられる感覚で意識が現実に戻ってくることになった。
そちらに視線を向けると、開かれたパネルやキーボードを離れ、こちらを気遣うような表情で肩を掴んでいるライの姿がユーノの瞳に映る。
普段のユーノであれば、この時点でいつもの自分に戻れていただろう。だが、生憎と今彼の頭の中には『年齢が一桁であった頃から続けている片思い』についての重要なことを考えていたため、思考が現実に戻ってきていたとしても、冷静ではない。
何故なら――――
「君は――――」
ぼんやりとはしていても――――
「なのはの事を――――」
彼にとっての十四年間の気持ちをはっきりさせる為の――――
「どう想っているの?」
疑問を明確に口にしたのだから。
後書き
てな感じの五話でした。
ロスカラのゲーム的に次回の選択肢で、ユーノとライの関係が別れます。多分。
今回は執筆テンション高めで書けました。何故なら、双貌のオズでランスロットクラブの勇姿を拝めたので。パイロットはノネットさんでしたが、彼女の言葉的にライはR2で起きてるっぽいので本当にテンション上がりました。
あと思ったことは、取り敢えずマリーカさん生きてたんですねってことです。
では、次回は皆さん大好き(?)な修羅場かな?って感じです。
更新頑張らせていただきます。
ご感想とご意見、心よりお待ちしておりますm(_ _)m
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