ソードアート・オンライン〜Another story〜
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キャリバー編
第218話 スリュムへイムの戦い
前書き
~一言~
何とか、投稿が出来て良かったです!
GGOの世界がとても 重たかったので、ちょっぴり 楽しく書けてる? よーな気がしたり! ……シノンさんとリュウキくん、レイナさんとの楽しそうな絡みが中々出来てないのが………、あれですが。苦笑
では、最後にこの二次小説を読んでくださってありがとうございます。これからも、頑張ります!!
じーくw
ALOに於けるパーティーの上限人数は、9人である。
前衛、中衛、後衛と 3×3×3と振り分ける事が出来る為、ややパーティー数とすれば、多いと思われるがバランスは十分だと言えるだろう。だが、他のタイトルと比べると、確かにやや多い印象を受ける。大体のタイトルでは、6人、若しくは8人が主流だったから。
かの男が残した遺産、世界の種子により、様々なVRMMOが芽吹き、花を咲かせている為、本当に無限に存在しているのでは? と思える世界の数は、把握しきれていない。 だから、その中でも判りやすい《MMOトゥモロー》で紹介されているタイトルでは、大体そうだったと記憶をしていた。
そして、大攻略パーティー 即ち レイドパーティーの上限は合計63人、9人×7パーティー。人数だけを訊くと、凄まじい多さだ。と感じるだろうが、決して多すぎる事はない。 ……それ程までに、ALO内でのBOSSが強力だから、と言っておこう。
さて、その9人の枠を親しい友人たちだけで埋める場合、7人は大体固定している。
キリト、アスナ、リュウキ、レイナ、リズ、シリカ、リーファ。全員が高校生であり、更にはリーファ以外は同じ高校に通っている。リーファに至っては、キリトと兄妹である為、タイミングは非常に合わせやすい。今回の突発的なパーティーでも真っ先に、問題ないかどうかを訊けたのだから。
そして、固定……とは言っても、やや異なるのがリュウキだ。
彼も高校生と言えばそうだが、この固定メンバーの中で唯一、働いている。バイト~ではなく、完全就職?をしているのだ。自宅での仕事だから、そこまで合わせられない、と言う訳ではないが 遊びの理由で、そのスケジュールを削ったり、更にハードにさせる様な事は忍びない為、訊く時はやや遠慮をしてしまう。
以前までは、キリトは勿論、その恋人であるレイナも大分気を使っていたのだが、リュウキは笑って『大丈夫』だと言っていた。そして その親である綺堂氏も 同様だった。しなくていい、と何度も言っていたし、……綺堂氏は寧ろ『嬉しい』と言っていた。
――……隼人坊ちゃんに、年相応の事をさせてくれて、嬉しいです。友達の様に接してくれて本当に嬉しいです。もう、感謝しかありません。
そう、感謝をされた。本当に澄んだ目で 微笑みかけてくれながら。だからこそだ、隼人に関しては、言われるまでもなく、当たり前だった。SAOでの戦い、その期間で 長く共にしてきたのだから。……なのに、本気で照れてしまったりした。
さて、話がやや逸れてしまったので、元に戻そう。
その7人を含め、更に2人はやや流動的である。会社員の《クライン》や、喫茶店兼バーの店主《エギル》、多忙な高級官僚様のクリスハイト、リーファのリアル友達レコン。彼らの中で都合がつけば加わる事になっているのだ。
そして、今般、その枠にGGOで知り合った弓使い。アーチャーではなく、スナイパーと読むのシノンが加わって、大変喜ばしい。
接近戦を好むプレイヤーが非常に多いパーティーメンバーだったからだ。
だが、全体的に見れば、後衛に強力な戦力が得られたものの、まだまだ魔法使いが非常に少ない、と言える。
――ああ、魔法使い、と言えば シルフ領土に存在する大魔法使い様を忘れてはいない。大魔法使いのリタは その豊富な知識や活発的な魔法研究もあって、シルフ領主のサクヤに非常に気に入られている。熱心なスカウトもあって、リタは領主の懐刀的な存在となっているのだ。最初は大参謀にしよう、としていたのだが 『魔法以外の事はめんどい』と拒否されてしまったらしい。
それまでも色々とあったが、リーファ曰く、『リタとサクヤは、元々大の仲良し』そうであり、ツンケンしつつも、リタ自身もまんざらではない様子。……無論、その言葉を耳にした大魔法使い様に、リーファが鉄拳制裁をされていたのは言うまでもない。 ……因みに、リタの正拳突きは、いつも、『殴りやすい』と言う理由から、リーファの豊満な胸を狙って放たれる為、男達とすれば、非常に眼福モノ、だったりする。
勿論、アスナ達に睨まれてしまう為、あからさまに眺める様な事は出来ないが。
とにもかくにも、リタは基本自由にしているそうだが、実際の所シルフ領土のスイルベーンに常駐している為、一緒に遊べるのはアインクラッドがシルフ領上空を飛行している期間に限られたりするから、中々時間が合わないのだ。たまに 誰かさんと張り合う為に少しの間だけ、一緒に来たりしていたが、それでも直ぐに戻ってしまう所を見ると、リーファの言葉が嘘ではないのは、明らかだ。
そして、話は現パーティーの其々のスキルについてを説明しよう。
□ アスナは、ウンディーネとして支援魔法をマスターしているが、それ以外は細剣スキルに振っている。
□ レイナはプーカとしての最大限の能力を発揮、即ち《歌》のスキルをマスターしているが、それも効力を考えれば完全支援系。それ以外のスキルは姉のアスナ同様に細剣スキルに振っている。
□ リーファも魔法剣士、と言う役ではあるが、使えるのは戦闘用の阻害系呪文と軽いヒールのみ。
□ シリカも、やや魔法系をつけるが、それでも 彼女の相棒でもあり、大切なパートナーでもあるピナと同じく支援系メイン。
□ リズは、勿論のコトながら スキルの半分以上が本職?である《鍛冶》。
□ エギルも、3割程が《商人》残りが斧スキル。
□ キリトとクラインが近接物理戦闘系。
これだけを見てみれば、このクエストを行う前に、クラインが言っていた《脳筋》と言う意味がよく判るだろう。レコンやクリスハイトが揃えば、闇魔法と氷結系魔法のスペシャリスト、と言う事もあって、非常に戦術の幅が広がる。……が、それでも 火力集中と言う意味では、まだ弱い。
だが、何故……皆は 集中させる様な事をしなかったのだろうか?
魔法スキルの重要性は言うまでもない。この世界にも勿論《物理耐性》や《魔法耐性》と言うものは存在する。魔法の耐性の中には、《属性弱点》や《属性耐性》と言うものも存在する。物理系の中でも、斬撃系、打撃系とあるが、魔法の方が種類が多い為、その幅広さは 物理系を圧倒的に上回るのだ。
だから、必要と言えばそうだった。リタやクラインの様に好みだってあるが、それでも RPGにおいて魔法は必要だという事は誰しもが疑わないだろう。
なのに……誰もが心配はしてなかった
勿論、その理由はある。――そう、リュウキである。
場面は《スリュムへイム》第2層。
第1層のBOSSは 単眼巨人、以前までは この相手に相当手古摺った、と言わざるを得ない。『ないわー』と叫びたくなる程の攻撃力と耐久度なのだ。だが、初期動作を見極める事が出来たら、何とか躱したりする事が出来るが……延々と続く戦いに、先に精神力がごっそりと持っていかれる。
そんな中で、涼しい顔を出来るのは、《彼》くらいのものだが、流石に現実世界の予定があったりと、長く出来なかった為、前回は断念をしてしまった、と言うエピソードがある。
が、今回は勝手が違う。ソードスキルの存在だ。以前までの世界での経験をフルに活かす事が出来、時間はかかったものの、突破する事は出来た。
そして、現在は第2層。
「まさかの……、だな。大したコンビネーションだ」
リュウキは、その巨体を前に、呟いていた。前層と違うのは、BOSSが1体ではない、と言う所にある。
「っ~~……、ほんと、だよぉー。金色の方は、物理耐性が、黒い方は魔法耐性が高すぎだよ……」
その隣で、レイナもため息を吐きながら言っていた。
リュウキとレイナは、今は後衛の位置に配置されている。
レイナは兎も角、リュウキもなのだ。
それこそが、彼らが魔法をそこまで度外視していない絶対的な理由。オールマイティーな 《白銀の剣士様》がいらっしゃるからだ。
魔法耐性や物理耐性を備えた2体だという事は、いち早く見抜く事が出来た故に、後衛に下がった。ここでも、《なんでもできる!》を示されて、やや キリトが悔しそうだったりしていたが、直ぐに体勢を整えていた。魔法の詠唱文を覚えるのが大変だという事は、理解しているし……、あの魔法を習得するのが、はっきり言って無理だから。
「衝撃波攻撃、2秒前です! いち、ぜろっ!!」
そうこうしている内に、キリトの頭の上にいるユイが、必死に大声を振り上げていた。
ユイのおかげもあり、前衛と中衛の全員が、直撃を回避する事が出来た。……が、そのショックウェーブまでは、避けきる事が出来ず、吹き飛ばされ彼方の壁を激しく叩いた。
「くっ!!」
全員が吹き飛ばされたのを見たリュウキは、魔法用の杖を収めると長剣を取り出して攻撃を放ち、牽制する。
迫るショックウェーブとリュウキの剣スキルが衝突。それがパリィとシステム的に察知したのだろうか、相殺をする事が出来ていた為、レイナやアスナにまで衝撃が届く事は無かった。
「ありがと、リュウキくんっ! お姉ちゃん、MPは大丈夫??」
レイナは歌い続けてバフをかけ続けるが、相手の攻撃力が高すぎて、直ぐにバフ効果を吹き飛ばしてしまうのだ。攻撃力に関しては物理耐性が強すぎる相手だから、効果が殆ど見込めないのだ。
アスナも、咄嗟に仲間全員のHPを確認し、更に先程の攻撃によってどれだけ削られるかをも予測をして、全体回復魔法を即座に詠唱したのだ。
……優秀な支援魔法だが、その為に要求されるMP量も多い為、無限に唱えられる訳じゃない。
「だめ、今のペースじゃ……、皆っ! 訊いて、後150秒程で、MPが切れる!」
そのレイナの問いの答えは、全員に聞こえた。
こう言う耐久戦においては、ヒーラーのMPが尽きてしまえば、待っているのはパーティー壊滅は、時間の問題だろう。全員が《眼》で 回避に回避を、攻撃に攻撃をしまくれるのなら、話は別だろうが、それは不可能だから。それが可能だったら、SAO時代でも多大なる影響を与えた事だろうと思えるから。
「キリト、……魔法を生半可にしても無駄だ。……今引っ込んだ 奥のアイツが動くだけで 、殆ど意味がない」
「ちぃ……、リュウキの隕石も握りつぶすなんて、無茶仕様も良い所だな……幾らなんでも」
前衛へとシフトチェンジをしたリュウキが、キリトの隣でそう言った。
「くぅ……、リュウの字の攻撃魔法をあんな形で 止められるなんてよぉ!」
魔法には否定的だったクラインも、愚痴を言う程の衝撃だった。それを訊いた、リズも同じ気分だった。
「……リタが見てなくて良かったわね。あんなのみたら、絶対、《バーサクメイジ》になる所よ。ったく、やりづらいったらありゃしない」
悪態をつきつつも現状の不味さに歯噛みをした。
黒い方のHPは、物理攻撃で大分削る事ができるのだが、金色がそれをさせない。そして、金色は異常な程、物理耐性が高く、物理攻撃が殆ど通じない。金色が止めている間に、黒い方は、魔法で自分のHPを回復させている。金が黒を守っている以上は 手が出せない。
そう、いち早く相手の性質を見極めたキリトの采配で、リュウキは後衛に下がり、金色に《根源元素》の魔法を叩き込んだのだ。
全魔法中でも、威力はリタも認める絶大な魔法だが、その魔法の発動から直撃まではややタイムラグが存在する。その隙を見たのか、或いはリュウキ自身が魔法を発動させた事を認識したのか……、それは判らないが、《黒い牛》が飛ぶようにやって来て、リュウキの放った《隕石》を、大斧で殴りつける様に撃ちかまし、威力を殺すと、あろう事か、隕石を手で握りつぶしたのだ。
そんな 衝撃光景を目の当たりにしてしまったのだ。唖然としてしまったのは言うまでもない事だ。
「ダメ、メダリオンがもう7割以上黒くなってる。《死に戻り》している時間はなさそう!」
リーファの言葉を訊いて、キリトはゆっくりと頷いた。
「大型の魔法。いや、明らかに通常の魔法攻撃だと、あの黒いのが途端に反応する。って事はだ……」
「……ああ。もう、1つしかないだろ?」
キリトの呟き、リュウキが答えた。
考えられる最善の策、攻略法は1つしかない。最近になって導入されたモノをフルに活かす。
キリトが、全員に向かって叫んだ。
「みんな! こうなったら、もうできる事は1つだ!!」
叫びの間にも、金色の牛・ミノタウロスが斧を振り回し続ける。
黒い方は奥へと引っ込んでいる状態だ。
「いちかばちか、金色をソードスキルの集中攻撃で、倒しきるしかない!!」
そう、もう1つしかない攻撃手段。それが、《ソードスキル》だ。
かつてのSAOをSAOたらしめていた最も特徴的なゲームシステム。そして、この世界でではそのスキルに《属性攻撃》も含まれているのだ。
明らかな攻撃魔法。即ち、詠唱をし 撃ち放つ魔法では モーションでバレバレだから、あの黒い方に見抜かれる。ならば、直前までの攻撃が 剣によるものだったら? 後から追加・発動するソードスキルであれば、あの黒いのが阻止しに来る筈もないだろう。
何故なら、ソードスキルには、物理攻撃も含まれているのだから。
仲間達は全てを理解した
「ウッシャあ! その一言を待っていたぜぇ! キリの字!!」
クラインが愛刀を冗談に据え、リーファも頷いて腰だめに構えた。
「シリカ、カウントで《泡》を頼む! ――二、一、今!!」
金牛の挙動を睨んだキリトの指示で、シリカが叫んだ。
「ピナ、《バブルブレス》!!」
「きゅるるるるっっ!!!」
ピナは、シリカの命令により、お腹に全力を込めたのであろう。大きく膨れ上がり、大きく口を開けると、無数の泡を放出した。
ピナとシリカのコンビも本当に素晴らしい。通常であれば、どんなマスター・テイマーであろうとも、命令の成功率は100%である事はない。そのモンスターによって、攻撃が好き・回復が好き と言った好みがある為だ。攻撃を好むペットに回復をお願いしても、『やっ! 攻撃、したいの!』と、断られてしまう事がある、と言う事だ。
だが、ピナは違う。
ピナが、好きなのは……《シリカ》なのだから。
そう判断して、笑ったのは ユイとリュウキだった。
もう、ピナは単なるペットではないから。ユイの様に、シリカにとっての家族なのだから。
ピナの泡が金牛の顔周囲で ぱんっ! と音を立てて割れると同時に その白目の力が抜けた事はすぐに判った。幻惑効果がほんの一秒ほど、あの泡には備わっている為、物理耐性が非常に高い分、魔法耐性が弱い金牛は、あっという間に動きを止めたのだ。
「ゴーーッ!」
キリトの絶叫に合わせて、後衛のアスナとレイナを除く、全員の武器が色とりどりのライト・エフェクトを迸らせた。
――あの牛達の弱点は、身体の腹部、……やや上の中心線上。左肩付近、そして頭部は、顎下だ。
瞬時に見抜いた相手の弱点。
それは、何度も何度も戦い、相手を見極め、様々な攻撃を検証した上で、初めて得られる、と言ってもいい情報だ。……が、リュウキの観察眼には 時間は必要ない。開眼すれば どの部位が弱いのか ダメージが通るのかを判別させてしまうのだ。効率が非常に良くなるのだが、明らかにBOSSのスペックが高すぎる故に、手こずってしまっていたのが現状だ。
だが、一気呵成に躍り出たメンバー。
このメンバーは、全てを剣技に ソードスキルに賭ける戦いをさせたら、全ALOプレイヤーの中でも最強クラスと言えるだろう。あのSAOを生き抜いてきたメンバーが大多数なのだから。そして、SAO関係なく、信頼出来るメンバーでもあるのだ。リーファは、初代ALOの時。……そして、シノンはGGOで死戦を共にした。
――……このメンバーなら、なんだって出来る。
「うおりゃああああ!!」
跳躍したクラインの唐竹割り。
刃には炎が宿っており、クライン自身が嫌っていた《魔》の力が宿っている。気合と共に撃ち放ったクラインの剣技は、相手の身体を炎で包んだ。
「―――せぇぇぃっ!!」
リーファは、剣道で言う中段の構えから 跳躍しつつ 一気に上段の構えにし、風の魔法属性を纏った斬撃を リュウキが言っていた左肩近辺に直撃させた。風の刃が左肩を中心に暴れ狂っている為、例え一撃が外れていたとしても、刃は余すことなく切り刻む故に、問題はないだろう。
「るぅぅぅ……ああああっ!!」
気合の入りまくったマスタースミス兼マスターメイサーのリズ。
中々漢気溢れる裂帛の気合は、そのまま メイスに宿る。幾百幾千の剣を鍛えたリズから放たれる一撃は重い。その上に雷撃の属性攻撃も含まれている為、更に強力だ。
「てやぁぁぁぁぁ!!!」
シリカは、ピナのアシストを受け、猫妖精族としての俊敏さと身軽さをフルに活かして、自身の身体よりも遥かにでかい金牛の頭上から、水の属性を纏った短剣で、左肩口を斬りつけた。
「………フッ!!」
気合の入る叫びが響き渡る場において、冷静極まりなく構えていたのは スナイパーのシノンだ。相手が、仲間達の剣擊で揺らぐだろう。標的の位置も僅かに変わる。だが、それも遠に頭の中に叩き込んでいる。――……狙いは頭部、顎下。そこが弱点。それを疑う訳がない。そう指示をしたのは、隣にいたら、どんな事だって出来る。……そんな 観測手…… リュウキの言葉なのだから。
放たれた氷を纏った矢は 正確に、少しもズレる事なく、直撃し、着弾点が氷結。 そして、氷塊を四散させた。
「ふっ……!! はぁっ!!!」
「うるぁぁぁぁ!!」
リュウキ、そして キリトの剣擊。
リュウキのそれは、影妖精族の黒よりも深い闇を纏った剣擊だ。神の剣と称されているのにも関わらず、闇。……いや、それは違った。その力は 根源の力。世界の始まる色だと 何処かで認識していた。……長い剣が金牛の上半身部分を滅多刺しにする。
そして キリトの二刀。その内の1つで放たれる炎の突きと同じだ。最後に、斬り上げ、斬り下ろすと同時に 炎の赤と根源の闇が混同し、闇の炎を作り上げていた。
殆ど同じに放たれたソードスキルは、金牛の全身を赤く染めた。
確かに、相手に最も効果的なダメージを与えるのは魔法攻撃。
それが証明された結果になった。普通の剣擊では、全損させるまで遥か遠くに感じられていたHPが見る見る内に消失していくのだから。
だが、及ばない。全損させるには、まだまだ、半分と言う所だった。
「キリトっ! リュウキっっ!! く……ぁ……、こ、硬直、が……」
即座に、手助けを、と構えたクラインだったが、大技であるスキルを駆使した為、遅延が発生した。発生した場合は、自らの意思で身体を動かす事はかなわないのだ。それは、クラインだけでなく、技を放った全員がそうだった。
まだ、HPを全損させる事が叶わなかった金牛は即座に反撃の体勢を取る。比較的一番傍にいたキリトとリュウキがその標的にされてしまった。技の動作から、相手が何を放ってくるのかは、すぐに判った。
両手斧スキル《クリムゾン・ブラッド》
縦横無尽に、強力な大斧を振り回し、その凶悪な大斧を7連続も浴びせてくる極めて強力なスキルだ。本来なら、即座に回避しなければならないのだが……、遅延が発生してしまうと、それも叶わない。
そう、叶わない、筈……だった。
「――ここだ!!」
裂帛の気合がキリトの眼に宿る。
右手の剣で放ったスキル、剣に宿った炎の赤が消失したかと思えば、まるで連動したかの様に、左手の剣が青く輝きだした。
間違いなく、スキル発生の証だ。
それは、全員が眼を疑う結果となる 本来なら存在しない筈の二刀流のスキルを、キリトが再現しているのだから。
右手の剣は、システムアシストに完全自動操縦され、技を出しきったとすれば、本来であれば、遅延が発生し、硬直するだろう。だが、その前にキリトは脳からアミュスフィアに出力される運動命令を一瞬全カットするイメージを浮かべ、左手の剣へと全集中させたのだ。すると、何が起こる……? まるで、遅延が起こる筈のシステム動作がキャンセル、或いは左手のスキルに上書きされる結果となり、技を繋げる事が出来たのだ。
脳の強さ、と言うよりは、卓越したセンス、そして 気の遠くなる様な修練の成果だと言えるだろう。
氷と炎の協奏曲を奏で続けるキリトだったが、それをいつまでも許さない者もいた。
そう、金牛である。
身体に叩き込み続ける攻撃だったが、相手の技そのものを止めた訳ではない。パリィをした訳でもないからだ。だが、袋叩きにされている、とさえ印象出来る攻撃の中、やぶれかぶれに見えるが 大斧を振りかざしていた。
例え、やぶれかぶれだとしても、その攻撃力は凶悪。故に一撃でも喰らえば、吹き飛ばされてしまい、完全にキリトのスキルを攻撃による、キャンセルをさせてしまうだろう。
だが、それをさせないのが、キリトの隣にいる男……リュウキである。
《極長剣》と言う武器カテゴリーは、この世界には存在しない故に、リュウキの持つ武器は、基本的には《両手剣》のカテゴリーに入る。『……悔しい!』 と思ってたキリトだったが、心のどこかでは《片手直剣》じゃなくて良かった、と言う点だろう。
名前の通り、両手で使用する剣なのだが、リュウキはその大きな剣を片手で使用していた。それは、SAOででも同じ事だった。別に両手で使用しなければ、技が発動しない、と言う様な制約はなく、ただただ正確性に乏しくなってしまうと言う点がある。武器自身の重量もそれを示していた。
重い物は両手で、じゃないと不安定。所謂常識だ。だが、リュウキは片手で難なく攻撃・スキルを繰り出していた。
そして、余った左手で拳を作った。
リュウキが使うそれは、ソードスキルを使うよりは、遥かに難易度が下がるモノだ。……更に言えば難易度が下がるのに……、その効力は極めて強力。難易度が高いキリトの二刀に負けずと劣らない。矛盾しているかの様な攻撃力となるのだ。
拳は光を放ち、そして 動く。《拳術スキル・閃打》
「はぁぁっ!!!!」
リュウキの左拳は、斧を振り上げている金牛の腕に直撃する。剣と拳を併用するキリトとは違う、リュウキが使う《二刀流》と言えるだろう。
「ぁ……」
シノンは、その姿を見て、一瞬だけ GGOの世界の彼を思い出していた。
拳術と銃撃を同時に使う戦い方、この世界ででは、銃が剣に置き換わっただけだから。
そして、リュウキの剣と拳、キリトの剣と剣はまだ続く。非常にシビアなタイミングが要求されるソードスキルの連携と、ソードスキルと拳術スキルの連携。比較的扱いやすいのが拳のスキルだ。脳から発生し、複雑な剣術の動きをさせる命令よりも、ただ一点を穿つ。若しくは 吹き飛ばすイメージを持てば発動出来る拳術だから。
が、拳術スキルには まだ 先がある。
基本的に拳術では、ダメージは見込めない。
だが、それを補っているのが《スタン》効果の成功率と、敵攻撃キャンセルの正確性だ。光を纏う拳は ある程度の相手の攻撃も相殺出来る。相手には、何もさせず、攻撃は当て続けると言う鬼神極まりない連携攻撃となるのだ。
2人の攻撃が金牛に集中させ、キリトの《バーチカル・スクエア》リュウキの《蛇突》が直撃した所で。
「ぜぇりゃあああああっ!!!」
ひときわ大きなクラインの雄叫びに乗せて、集中攻撃第二弾が始まった。
キリトとリュウキは、眼で互いに合図を送る。
――まだ、いけるか?
――ああ、大丈夫だ!
キリトの技の原理を当然知っているリュウキは、軽く頷くと、クラインたちに続いた。
キリトのソードスキルの連携《剣技連携》は片手剣技だけなら何でも良い、と言う訳ではないのだ。システムアシストによって動かされている、非攻撃側の腕の動きと、つなげようとする新しい技の動きが同じでなければならない。
その点、リュウキの《剣拳連携》は、幅広い。基本的にフリーとされている拳術は、対人デュエルででも、相手の意表を突く様に繰り出される事が多い故に、《決まった型》と言うモノが存在しないのだから。ただ、剣術は キリトと同様だから、拳術を繰り出している間に、両手剣のスキルを技の反動などで指定の位置に持っていく必要があるが、それは大した問題ではないらしい。……リュウキ曰く。
全身全霊を賭けた攻撃も、最早終盤だ。
最後の方は 相手のHPゲージは殆ど見ていない。キリトはただただ、スキルコネクトをする為に、集中を続けていた。何度、連携させたのか判らない。ただ、先を行くのはリュウキの姿だった。
それは当然の成り行きであり、拳術とソードスキルとでは、発生時間が全く違う。殆ど一瞬で終わるのが拳術だから。だが、それでも背中を追い続けているキリトにとっては、先を示されている様に見えるのだ。結局 キリトが今出来る限界の5回。リュウキは、9回程繋げた所で、長いスキル遅延に固まってしまった。
もう、相手は倒せただろう、と希望的観測を見たキリトだったが、……やはり 甘いものではなかった。 確かに、最初に比べたら大幅に削る事が出来ている。4分の3程残っていたHPゲージが、今は数ドットなのだから。
だが、残っているのは事実だった。
その巨大な角を生やした金牛がニヤリと獰猛に笑った。
まるで、『それで終わりか?』と言ってきている様にだ。少なからず挑発された様に感じたキリト、いや 他の全員だったが 固められている以上、何も出来ない。
その凶暴な斧が迫ってきた刹那だった。
「い――やあァァァァ!!」
「て――やあァァァァ!!」
と言う気勢が鋭く響いたのだ。
キリトの右横を、リュウキの左横を、青い疾風と白い疾風が駆け抜けた。
其々の手元には、レイピアが備えられており、まさに鏡合わせの様な連携で、目にも止まらぬ速度の5連撃、出が最速の高位細剣技《ニュートロン》が 金牛の全身を、いや 弱点と言われていた場所を穿った。
今まさに斧を振り下ろそう、としていた金牛だったが……、HPゲージが完全に消失すると、邪神ミノタウロスの動きがぴたり、と停止した。
その彼方で、瞑想の回復スキルを使用し、HPを全快させた黒ミノタウロスが、勝ち誇ったかの様に、大斧を持ち、迫ろうとしていたのだが……。
ばりんっ と言う硬質のサウンドエフェクトと共に、相方である金ミノタウロスが、その巨体を四方へと爆散させた。
――――え?
と明らかに動揺しているかの様な 豊富な表情を見せる黒ミノタウロスだったが、そこに硬直の解けた9人が一斉に視線を向ける。
「……おーーし、牛野郎。そこで正座!」
そこから先は最早リンチ、だと言えるだろう。
物理耐性がからっきしな、黒ミノに抗う事も、一矢報いる事も出来ず、金ミノを仕留めた時の 2~3倍速程の早さで、屠ったのだった。
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