どっちが本当!?
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6部分:第六章
第六章
「これ、萩原さんの?」
「あの馬鹿っ」
「どうなっても知らねえぞ」
七割か八割は信じていない面々は今の彼の行動を見て思わず声をあげた。
「どんだけ怒鳴られるかな」
「噛み付かれるか」
完全に華を猛獣か何かだと思っていた。それで思わず言ってしまった。しかしここで彼等もまた見るのだった。その信じられない光景を。
「有り難う」
華はまずはこう裕二郎に言ったのだった。男連中はそれを聞いてまずは大いに驚いた。
「何だと!?御礼を言った!?」
「あの萩原が!?」
鬼は無愛想なものである。だからその鬼が応えてしかも御礼を言ったので驚いたのである。これは彼等の先入観による考えであったがそれでもだった。
「まさか。そんなよ」
「嘘だろ」
皆唖然としている。しかしその唖然はさらに物凄いものになった。
何と華が笑ったのだ。裕二郎に対して。その笑みがまたとても優しく柔らかいものだった。
「笑ってるし」
「御礼を言っている笑顔だよな、あれ」
「ああ。しかもよ」
「優しい笑顔だよな」
彼等は確かに見たのだった。その華の笑顔を。自分の目で見たものは流石に否定できなかった。それだけは否定できるものではなかった。
「ってことは」
「まさか」
そのハンカチを受け取る華だった。こうして裕二郎は無事ハンカチを送り届けることができたのである。
そのうえで皆のところに帰ると。その皆が口々に言うのだった。
「やっぱりそうなのかな」
「本当は優しいのか?」
「さあ」
裕二郎は皆の問いにまずは首を傾げさせて応えた。
「今はどうとかは言えないかな」
「言えないっていうのかよ」
「それは」
「とりあえず御礼は言ってもらえたけれどね」
いつもの凄い剣幕ではない華は見たというのである。
「けれど。それだけじゃ何ともね」
「まあ一度見ただけじゃな」
「断定はできないか」
「ただ」
しかしここで裕二郎は言うのだった。
「人の顔って一つじゃないから」
「一つじゃないってよ」
「幾つもあったら化け物じゃねえか」
皆今の彼の言葉にはすぐにこう突っ込みを入れた。
「そんなのよ。二つも三つもあったら怖いぜ」
「そりゃ人間じゃねえよ」
「いや、そうじゃなくてね」
すぐにその突っ込みに対して返す裕二郎だった。
「優しい顔もあれば怖い顔もあるってこと」
「優しい顔に怖い顔」
「つまり心ってことかよ」
ここで話がわかった一同だった。そう言われればわかるのだった。
「心ってことか」
「そうだよ」
その通りだと答える裕二郎だった。
「俺はそう思うんだけれどな」
「ううん、そうなのかよ」
「どうなんだろうな」
みんな今の裕二郎の言葉にあらためて考える顔になる。
「それは」
「けれど。有り得るよな」
こうした意見も出された。
「置久保は話は下手だけれど嘘は言わないしな」
「ああ、それはそうだな」
「こいつはそんな奴じゃないからな」
人間としてはかなり信頼されている裕二郎であった。
「本当なのかね、やっぱり」
「だよなあ」
「俺こうも思うんだけれど」
ここでまた言う裕二郎だった。
「普段は優しくても怒ると怖いって人なのかもね、萩原さんは」
「そんなものかね」
「まあそういう人もいるけれどな」
これで納得しかけた一同だった。ここでその彼等に華が声をかけてきた。
「ねえ皆」
「おっ!?」
「俺達かよ」
「実家からお饅頭差し入れもらったのよ」
こう彼等に言ってきたのだった。
「お饅頭。よかったらね」
「ああ」
「お饅頭?」
「皆で食べましょう」
優しい声で彼等を誘ってきた。
「皆で。どう?」
「えっ、いいのかよ」
「御前が貰ったやつじゃないか」
「皆で食べないと美味しくないじゃない」
だが華は優しい笑顔でこう彼等に言うのだった。
「だから。一緒にね」
「そこまで言うんならな」
「それじゃあ」
彼等も華の言葉を受けることにした。そして全員で彼女のところに行く。彼女はその彼等にまた声をかけてきたのであった。
「じゃあ私お花の水換えてくるから。先に食べておいて」
「あっ、ああ」
「お花もか」
言うまでもなくクラスの花のことである。花瓶に入れているのである。
「それじゃあね」
こうして彼女は実際に花瓶を持ってクラスを出た。男達はそんな彼女を見送ってからここでも言うのだった。
「やっぱり。置久保の言う通りなのかね」
「かもな。それに俺達が今まで気付いていなかっただけなのかもな」
「そうかも知れないね」
その裕二郎は皆の言葉に頷くのだった。
「今そのことに気付いた。そういうことかな」
「そうか。今気付いたってわけか」
「気付いていなかったことにな」
こう思いはじめた彼等だった。そのうえで彼女が勧めたその饅頭を食べてみる。その饅頭は実に美味かった。塩に包まれその味もするがそれと同時に餡子の甘さが中に詰まっている、そんな饅頭であった。
どっちが本当!? 完
2009・8・22
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