どっちが本当!?
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4部分:第四章
第四章
「とにかくお掃除しなさい。いいわね」
「ああ、じゃあな」
「やるからな」
その後輩達が言うには優しい彼女の剣幕に従うしかなかった。裕二郎は掃除を再開しながら彼女の方を見た。彼女自身も真面目に掃除をしている。
その彼女を見て裕二郎は思うのだった。果たして後輩達の言う彼女は本当に存在するのかと。だがそれを自分の目で見る時が来たのだった。
「今日は部活前にだな」
「はい」
顧問の先生が裕二郎と他の柔道部員達に言っていた。
「空手部の手伝いをしてくれないか」
「空手部のですか」
「今空手部の部室の大掃除をしているんだ」
このことを彼等に話すのだった。
「それの手伝いをして欲しいんだ」
「はあ」
「悪いな。向こうからのたっての願いだ」
少し申し訳なさそうに裕二郎達に話す。
「手が足りないらしくてな」
「ひょっとして部室だけじゃなくえ道場もですか?空手部の」
「そこも掃除するんですかね」
「ああ、そうらしいな」
顧問もそうだと述べる。
「どうやらな」
「まあ空手部とはいつも仲良くなってるからな」
「いいか」
部員達からこうした言葉も出て来た。
「それじゃあいいな」
「はい」
「いいですよ」
裕二郎だけでなく皆その言葉に頷いた。
「それじゃあそういうことで」
「わかりました」
こうして彼等は空手部の手伝いでその部室や道場を掃除することになった。すぐに顧問に連れられて現場に向かう。現場には当然ながら女子空手部の主将である華もいた。
「うわ、萩原かよ」
「そういやあいつ空手やってたな」
柔道部の三年の間からうんざりしたような声があがった。華は既に空手着に着替えている。その長い髪をポニーテールにしてまとめていて帯は黒帯である。その姿はかなり凛々しく同時に強い美しさもあった。
「こりゃ真剣にやらないとな」
「何時怒鳴られるかわかったものじゃないぜ」
「全く」
「じゃあ男子はこっちで女子はそっちな」
空手部の顧問の若い先生が彼等に言ってきた。
「それで柔道部は悪いけれど肉体労働頼むな」
「ええ。その為の柔道部ですからね」
「わかりました」
皆少し苦笑いを浮かべてみせて彼の言葉に応えた。そうしてそのうえで部室の奥にあるもう使わない大道具やそういったものを捨てたり運んだりしていた。当然ながら裕二郎もそれに加わっており真面目に作業をしていた。そうして物を運んでいる時だった。
女子空手部の面々が掃除をしている場面が見えた。その中心にいるのは華だ。
主将である彼女は自分も雑巾を持ちながら動き回っている。そうして動き回りながらそのうえで部員達に対して言っていた。
「そうよ。そこはね」
「こうするんですね」
「ええ。そうよ」
温厚そのものの笑みで後輩の部員に対して言うのだった。
「そうやってね。丁寧に拭いてね」
「わかりました」
「ゆっくりでいいから」
そしてこうも言うのだった。
「ゆっくりしていいからね」
「けれど時間が」
「焦らなくていいの」
少し垂れたようにまで見える優しい目での言葉だった。
「焦ったら怪我したりするから」
「先輩がいつも仰ってることですね」
「ふふふ、そうね」
優しい笑みさえ浮かべていた。
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