どっちが本当!?
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1部分:第一章
第一章
どっちが本当!?
置久保裕二郎は驚いていた。相手のその剣幕にだ。
「だから言ってるじゃないの!」
向かい側にいてそのえらい剣幕を見せているのは同じクラスにいる萩原華である。
華は背はわりかし高く茶色がかった黒髪をロングにしている。厚めの唇に太いややげじげじした眉をしているが日本人離れしていると言ってもいいはっきりとした目鼻立ちをしていてかなりの美人である。しかも脚もすらりとしており胸も腰の辺りもかなりのものだ。誰が見てもはっきりと言える美人である。
しかしそれだけに怒るととてつもない剣幕を見せていた。その剣幕に裕二郎も驚いているのである。
「あの、そんなに怒ることないじゃない」
「怒ってないわよ」
とは言っても今にも火を吹きそうである。
「別にね」
「そうなんだ」
「とにかくね。絶対に駄目よ」
華はあくまで引かない様子だった。
「それはね。絶対に駄目よ」
「わかったよ」
「やったら只じゃおかないからね」
華の言葉はさらに続いていた。
「どうなるかわからないわよ」
「わかったからしないからさ」
裕二郎はその大柄の身体にもかかわらず完全に華に圧されてしまっていた。たじたじとなっている様が完全に出てしまっていた。
「もうそれはさ」
「よし、じゃあいいわ」
これでやっと納得した感じの華であった。
「これで話は終わりね」
「そうだね」
まさにやれやれといった感じの裕二郎であった。ほっと胸を撫で下ろしてさえいる。
「これでね」
「わかったらいいのよ」
華は如何にも気の強そうな顔で裕二郎を見上げて言う。彼は背は一八〇を超えていてかなりの筋肉質である。顔は顎がやや長くホームベースを思わせる形をしているがその顎の先が尖ってはおらず角ばっている。眉も目つきも強いものがあるがその目の光は穏やかなものである。髪は短く刈っていてそれが実によく似合っている。一目見ただけで強そうだがそれでも華には完全に気圧されてしまっているのだった。
その華はさらに言うのだった。
「全く。最初からそう言えば話しなくても済んだのに」
こう言って去る華だった。裕二郎はその背を見送るだけだったがその彼にクラスの男連中が集まってきてこう声をかけるのだった。
「相変わらずすげえな」
「まるで鬼だな」
「夜叉っていうのか?」
その華の剣幕のことを言っているのは言うまでもない。
「怒るとすげえな、本当に」
「っていうかいつも怒ってるよな」
「怖いよなあ」
皆苦笑いで言い合う。裕二郎は黙っているが彼等の話を聞いてはいた。
「折角顔はいいのにな」
「スタイルはいいしな」
「脚だってな」
実際に華はクラスでも美人で評判である。スタイルのよさも有名でとりわけブレザーの制服のミニから見えるその脚線美が絶品だった。しかしであった。
彼女に声をかける男はいなかった。理由は簡単であまりにも怖かったからだ。それで折角の美人が台無しだという言葉もあった。
「あれで性格が穏やかだったらな」
「言うことなしなんだけれどな」
「全くだよ」
これが彼等の華への印象だった。しかも彼女が強いのは気だけではなかった。
「古武術だったか?」
「ああ、それやってるってな」
武道もたしなんでいるのである。
「部活は空手だしな」
「しかも主将だろ?女子の」
「三段だってよ」
つまりかなり強いのである。容赦ないまでに。
「あれじゃあ本当に誰も言い寄らないよな」
「実際痴漢をのしたことあったしな」
「おい、そんなこともあったのかよ」
「何でも中学校の時な」
彼女の中学校時代のことは既に伝説になっているのだった。
「電車の中で胸触ってきた奴をな」
「一撃か」
「みぞおちにこれだったらしいぜ」
一人が実際にみぞおちに拳を放つ動作を見せてきた。その動きはあまり速くはなかったが周りには華がそうした光景が目に映ったのだった。
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