一人相撲
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3部分:第三章
第三章
こうして今度はファッションを決めて告白することになった。話はどんどん進んでいた。というよりかは彼が勝手に一人で進めていたのであった。
「神藤さんっ」
「はい?」
隣のクラスを強襲して神藤さんのところに行く。そうして高らかに宣言する。
「今日の放課後ですけれど」
「放課後、ですか」
「そうです、体育館裏まで来て下さいっ」
大声で彼女に言うのだった。
「いいですか?」
「はあ」
神藤さんも少しきょとんとした顔で彼の言葉に応える。
「私はいいですけれど」
「いいんですね!?」
「はい」
彼の言葉にこくりと頷く。
「わかりました。それじゃあ」
「じゃあ今日の放課後に」
またそれを言う敬三であった。
「待ってますよ!」
「ええ」
ここまで言うとダッシュで自分の教室に戻る。そんな彼を隣の教室の皆は呆れながら見ているのであった。そうして彼等は口々に囁き合う。
「あいつひょっとして」
「気付いていないのかな」
「ねえ」
女の子達は神藤さんに声をかけてきた。
「彼、ひょっとして」
「あんたの考えに気付いていないのかしら」
「そうみたい」
神藤さんもそれに応える。
「やれやれ」
「自分だけでやってるのね」
女の子達は神藤さんの言葉を聞いて呆れるばかりであった。
「相手の気持ちも考えないで」
「何やってんだか」
「それでも」
けれどそんな友人達に対して神藤さんは言う。穏やかな笑顔で。
「今日なのね」
「相手の言葉だとね」
「一応そうらしいけれど」
「わかったわ」
その穏やかな笑顔でまた言う。
「それじゃあ」
すぐに化粧道具を出してメイクの手直しをするのだった。まるで何かを待っているように。クラスメイト達はそれを見てくすりと笑うのだった。
「まさか相良君もねえ」
「気付いていないんでしょうね」
「っていうか絶対気付いてないわよ」
そう言い合う。
「気付いていればもっと話は簡単に終わってるし」
「相手のことは目に入らないのね、彼」
それこそが敬三が敬三たる由縁であると言えた。ある意味非常にわかりやすい人物ではある。同時に極めてはた迷惑な話でもあるが。
そんな話があることも知らずに敬三は自分の教室で派手に騒いでいた。
「よし、遂に今日だ!」
彼は席を立ち高らかに叫んでいる。
「今日こそは!本番の勝負だ!やるぞ!」
「それはわかった」
先生もそれには頷く。
「健全な若者は健全な恋愛を楽しむ、いいことだ」
「そうですよね、先生!」
先生にも満面の笑顔に力瘤を入れて叫ぶ。
「だったら俺は。勝負をかけますよ!」
「わかったから。しかしな」
「しかし!?何ですか」
「廊下に立ってろ」
しかし先生はこう言うのだった。
「へっ!?何でですか?」
「今は授業中だぞ」
そう先生に言われる。
「それで馬鹿騒ぎする奴が何処にいる」
「何処にって」
敬三は言われていることにすら気付かずに応える。
「ここにいますけれど」
「わかったから立ってろ」
先生は慣れているのか平然として敬三に言葉を返す。
「いいな。両手にバケツを持ってだ」
「またえらく古典的ですね」
「古典的で結構。俺の授業は古典だ」
だから言うのだった。
「いいな。立ってろ」
「それじゃあそういうことで」
平然として廊下に出て立つ。しかし彼は全く平気だった。相変わらずの様子でうきうきとしていた。そうして放課後になる。彼も外見を万全に整え体育館裏に向かうのであった。
「決まるぜ」
「決まったじゃないのかよ」
「決まるんだよ、この場合は」
しかし彼はクラスメイト達の突っ込みにこう返す。
「俺が神藤さんとな」
「そういうことか」
「日本語って難しいな」
「やっと神藤さんに相応しい男になれたんだ」
そこまでの超人的な努力も。彼にとっては何でもないのだった。憧れの女神とも言うべき神藤さんと告白する為にはどうということはなかった。
「だからさ。決まるんだよ」
「まあ頑張りな」
「向こうにも気持ちは伝わってるしな」
「もうなのか」
やはり気付いてはいなかった。
「神藤さんにも」
「いいから早く行け」
「体育館裏にな」
「ああ、わかった」
そう応えて体育館裏に向かう。
「それじゃあ。決めてくるな」
「ああ。しかし」
敬三が行ったところで皆は言うのだった。
「あいつ、本当に気付いていないみたいだな」
「そうみたいだな」
彼等もとっくの昔に気付いていたのだった。
「鈍感っていうか」
「やっぱり馬鹿なんだろ」
結論はすぐにそこに落ち着く。
「自分だけで暴れてるだけだしな」
「そうだよな。暴走馬鹿は大変だぜ」
「全くだ」
そんな話をしながら彼が体育館裏に行くのを見送る。実は彼等にはことの行く末がはっきりと見えていた。だがそれは敬三にはあえて言わないのであった。
その体育館裏に敬三が行くと。そこにはもう神藤さんがいた。
「神藤さん」
「はい」
神藤さんは最初から敬三を見ていた。そうして彼の言葉に応えてにこりと笑うのであった。
「ここでいいんですよね」
「はい、ここです」
見れば神藤さんは普段よりさらに奇麗だった。それを見て敬三は笑顔になる。
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