普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ソードアート・オンライン】編
123 帰還
SIDE 升田 真人
「どうも、升田 真人さんで間違い無いですね? 私は総務省、総合通信基盤局通信ネットワーク内仮想空間管理課から派遣されて来ました、菊岡 誠二郎と云う者です」
「ベッドの上から不躾で悪いと思う。……いちいち名指しで接触してきている事から、俺の名前はすでに知っていると思うが──敢えて自己紹介しておこうかね。……俺は升田 真人。〝あっち〟では《Teach》と名乗っていた」
ベッドの縁に腰を掛けながらも両足を遊ばせつつ、目の前に居る慇懃な態度で自己紹介をしてきた男に、俺もまた相応の態度──ベッドの上で正座をして自己紹介で返す。
……何故〝うわべだけのぞんざい〟な返答──または、いつもみたいに冗句を交えながらあしらう様な態度をとらないかと云うと、それはひとえに俺の勘が云っていたからだ。……〝この男もまた、ただ者ではない〟──と。
「いえ、真人さん──真人君はまだリハビリを頑張っている最中なんだろう? ……あ、珍しい事に君の家族が3人【ソードアート・オンライン】に巻き込まれていたから取り敢えず名前で呼ばせてもらったけど大丈夫かい?」
「いやいや、リハビリに熱を入れすぎてね。それが医者にバレて今日は安静していろと言われているだけだよ。自分的にはもう動けるんだけどね。……ああ、名前については構わないよ。〝トモダチ〟が増えるのは良いことだ」
〝ふふふ〟と意味ありげに俺と菊岡さんは笑い合う。……実際問題、俺は身体を〝気〟や〝氣〟、〝魔法〟やらでサポート出来るので〝多少〟以上──現代医学的観点から見ての〝多少〟の無茶が出来たりする。
……そして、これは俺の身体を世話してくれていたナースさんから愚痴混じりに聞いた事だが、【ソードアート・オンライン】に囚われていた全員が戻ってきた時、〝現実世界〟では驚天動地だったらしい。……何しろ7000人以上ものプレイヤーが一気に目を覚ましたので、病院側
があたふたするのも判らなくはない。
もちろんの事ながら、母さんや父さんにも多大に心労を掛けさせてしまった。息子と義娘が全員もデスゲームに囚われてしまったのだ。その心労も一入だっただろう。
……なので、退院したら暫くは親孝行をしていきたいと思っていたりする。
閑話休題。
「……?」
〝トモダチ〟──そう〝含み〟を込めた顔でそう言ってやったら菊岡さんが胸元からメモとペンを取り出し、何かを書いていく。……淀み無い筆のリズムから察するに、書き慣れているものか。……それこそ──〝自分の名前や自分の電話番号〟みたいな。
「〝トモダチ〟──ね。……ふふ、どうやら君はとても〝愉快な〟人柄の様だね。……あ、友誼を結べた記念として〝これ〟を渡しておこう。〝それ〟は僕のプライベートの番号だ。後で君の携帯から掛けてくれ」
「どうも。……これが俺の番号だよ。菊岡さんも〝適当な時〟に連絡してくれて構わないよ。……もちろん、電話に出れないタイミングはあるだろうけどさ」
菊岡さんから貰ったメモを見て、時間をおく意義を見出だせなかったのでその場で菊岡さんの番号にワンギリをする。
「……っと、早速かい? ……それはさておき──これ以上お邪魔していて君の身体に障ってもあれだし、僕はそろそろ行くよ」
(……ふむ…。〝俺だけに〟会いに来た訳じゃないんだな)
菊岡さんの言葉から類推するに、〝俺との面通し〟──と云うよりは〝トッププレイヤーとの面通し〟が目的だった様で、他のプレイヤーとの面通しがあるのか、今日の菊岡さんは会話もそこらにして、手早く帰っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
菊岡さんとの邂逅から幾日かして、俺達は3人とも──〝補助〟を行使した俺を除くとして、和人と直葉が多少の不便があるにしても身体を動かすには不便の無くなった頃、無事退院出来る事となった。
「……漸く帰って〝来れた〟んだね…」
「……ああ、そうだな…」
直葉と和人は〝郷愁〟の色をありありと浮かべてはそんなやりとりをしている。それについては俺も納得出来る。然もありなん──それもそうだろう。思うところは多分に有るだろうし、何しろ──〝約2年振り〟なのだ。
「「………」」
「……?」
いざ家に入ろうとしたら、和人と直葉が家の門の前で所在無さげにしながら、その場に縫い付けられていた。……ひょっとしたら、あれだけ両親に心配を掛けたので──どんな顔をしながら家に入れば良いのか判らなくなってしまっているのかもしれない。
……ちなみに父さんと母さんは俺達を病院に迎えに来てはくれたが、先に「ただいま」と──〝気負い無しに〟そそくさと家に入ってしまっている。それについては薄情かと思うかもしれないが、父さんと母さんからしたら〝それ〟がやりたかったらしく、俺には〝その意図〟が判った。
「……さて問題。〝家に帰る時の挨拶〟といえば?」
「「っ!!」」
このまま和人と直葉を放って置いたら、足から根っこが生えそうだったので、軽く助言する。……そんな俺のヒントに2人は漸く〝言うべき事〟を思い出したらしい。
「「「ただいま」」」
「「おかえりなさい」」
そうして俺、和人、直葉の3人は、漸く、〝あの殺伐としていた世界から日だまり溢れる世界へと帰宅出来た〟と実感する事が出来る様になった。
………。
……。
…。
「……〝皆が皆〟が還って来た訳じゃないけど、これにて──身内だけでの〝退院パーティー〟を開始としましょう。……乾杯!」
「「「「乾杯!!!!」」」」
母さんの音頭と共に皆とグラスを鳴らし合い──大人組のアルコールや子供組の非アルコールの液体を揺らし合う。……もう判るかもしれないが、升田家の身内だけで〝退院パーティー〟を慎ましやかながらも開いていた。
〝【SAO】解放記念パーティー〟じゃないのは、他に〝電脳世界〟から未だに還っていない人物がいないからだ。……赤の他人とかならまだしも〝親しい人間〟がまだ〝電脳世界〟から帰還していなかったから。
菊岡さんから聞いた話だが、未だに300人のプレイヤーが目を覚ましていないらしい。そして、上記の──〝親しい人間〟とな言葉から類推できるかもしれないが、〝俺達にとって親しい人物〟も目を覚ましていない。
……ユーノ──乃愛が未だに目を覚ましていない。……もちろん──菊岡さんから教えてもらった乃愛の病室には幾度か顔を出しているが、乃愛が目を覚ます気配を一向に見せていない。……アスナ──明日奈は既に目を覚ましていると云うのにだ。
(……一体どこに…)
一応“答えを出すもの(アンサートーカー)”や、答えを知るスキル…“模範記憶(マニュアルメモリ)”やらで〝乃愛はいつ目を醒ますか〟と調べてみたら、〝2025年1月19日〟と出た。……どうにも乃愛は、近日中に目を醒ますらしい。
目覚める事が確定しているのなら、今は逸る気を抑え──その日は絶対に病院へ行くことを決心する。
……ついでに〝乃愛の居場所〟を探っているが、判るのは〝乃愛の肉体が在る場所〟だった。 ……肝心な時に役に立たない辺り、俺は〝この手の能力〟とはソリが合わないのかもしれない。
閑話休題。
「……真人兄ぃ、顔、暗くなってるよ」
「っと──悪いな」
直葉によって埋没しかけていた意識を起こす。
……ちなみそんな直葉だが、裏でこそこそとクライン──壷井 遼太郎と番号の交換していたりするを俺は見逃していない。……直葉はバレていないと思っている様だが、直葉の気持ちが誰に向いてるかと云うのも、殆ど──【SAO】をやっていた時からバレていて、俗に云う〝公然の秘密〟状態だったりする。
また閑話休題。
(……まぁなるようになるか…)
今は祝いの席であり──暗い顔なんて似つかわしくないので、目尻に涙を溜めている両親に心配を掛けさせない様に意識を定めるように努めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ほんと、いつまで寝てるのやら…」
「ティーチ君、今日も来てくれてありがとう」
ナーヴギアから溢れ出ている少女の髪──乃愛の髪を鋤かしながら訊ねる。……しかしそんな投げ遣りの問い掛けに応えたのは今もなお眠っている乃愛ではなく、乃愛の妹である明日奈だった。
……〝〝いつに目覚めるか〟を知っていながらどの口が言うか〟──とは言いたくなるかもしれないが、明日奈が居る手前で、〝オカルトチック〟な──情報元があやふやな事を、おいそれと口に出す訳にはいかない。
閑話休題。
俺達のリハビリが一段落してから、幾つかの物事が変遷していた。……大まかに云えば俺達の学業の件と《Yui》の件である。
「だから、《Teach》はプレイヤーネームだって」
「あ、また間違えちゃった。ごめんねティ──真人君。……それともキリト君──ううん、和人君みたいに〝真人兄ぃ〟って呼ぼうかな? 義理のお兄さんになるかもしれないしね」
「止してくれ。……ところで学校の方はどんな感じ?」
そう──肉親が心配なのを〝明らかな強がり〟で、どことなく歪んだ微笑みを浮かべている明日奈を見かねたので、わざとらしく訊ねてみる。
「〝どうした〟も何も──〝私と真人君は同じクラスでしょ?〟」
呆れた様な顔をしながら明日奈はそう言う。
明日奈の言葉から判るかもしれないが、明日奈と俺は同じクラスである。〝遅生まれの18〟と〝遅生まれの17〟──年齢が違うはずの俺と明日奈が一緒の学年なのは、〝学修履歴を全体で一纏めにしたいから〟──と云うのは菊岡さんからの裏情報である。
……ちなみに〝一纏め〟のその性質上、和人も一緒の学年だったりするが──和人は運が無かったのか別クラス。……しかし、直葉やシリカ──珪子ちゃんみたいな〝義務教育を受けられなかった組〟についても突っ込むと、また話が変わったり。
閑話休題。
俺の認識では〝2年通学するだけで高校卒業の資格が貰える魔法の学校〟──みたいな認識でしかなかったりするが、〝カウンセリング学校〟とな側面を併せているのも否定できない。……2年もの月日を浮世から外れた場所──アインクラッドで過ごしていた事実は変わらないのだから。
……なので、結城京子──明日奈と乃愛の母親は明日奈がその学校に通う事に良い顔をしていない様だが──その辺についてもその内何らかのアクション(?)があると俺は予想していたりする。
また閑話休題。
「……取り敢えず話を変えようか。……で、《Yui》の件についての進捗状況は? ……和人のヤロー、昨日徹夜してやがったみたいだが…」
「それについては大丈夫だよ、真人君。……今朝キリトが丁度ユイちゃんを展開してくれて、そのデータを私の端末に送ってくれたから。……そしてそれだけじゃなくて──じゃんっ!」
話を《Yui》の事へと変えると、明日奈はポケットから携帯電話を取り出す。……和人から聞いた話では、初めて〝ユイ=AI〟と伝えた時、明日奈の驚き様は見物だったらしい。……それを考えると、明日奈のその態度にはほのぼのさせられる。
<真人さんは〝改めて始めまして〟でしたね。……私はユイですパパとママの娘です>
「うぉっ、ユイか。……俺は升田 真人だよ。……ユイからしたら多分〝伯父さん〟と云う続柄になるのか…?」
<ふふっ、そうかも知れませんね>
そんなこんなで改めてユイと互いに自己紹介して、皆と──徹夜明け+仮眠明けの和人と鍛練に打ち込み過ぎて遅刻してきた直葉と合流するまで、明日奈とユイ、あと俺の──割りと珍しいトリオで歓談しあった。
……その時、居なかった共通の親しい人物──和人が凡その話題源になるのだが、そこは〝居なかった人物が悪い〟〝徹夜するまで熱中するのが悪い〟──と、そう各々で自己弁護をしあい、明日奈とユイ、あと俺の──割りと珍しいトリオではあるが、謎の結束が生まれたりするのはご愛敬なのだろう。
SIDE END
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