| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美容健康

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

1部分:第一章


第一章

                   美容健康
 松浦遼子はいつも努力していた。その努力の対象は何かというと他ならぬ自分自身に対してだった。
 毎日早朝のランニングとシャワーは欠かさない。トレーニングジャケットを着て汗をかいてからそれを浴びる。ストレッチも筋力トレーニングも欠かさず食事にも気を使っている。
「またそれかよ」
「そうよ、これよ」
 姉の誠子に応えながら朝食を食べる。朝食はサラダや野菜スティック、それに豆乳、野菜ジュースといったヘルシーなものばかりである。
「美味しいからよ」
「美味しいからってそればっかりだろ、御前」
「身体にもいいからよ」
 見れば姉の誠子はハムエッグやらトーストもある。しかもトーストには苺ジャムをこれでもかという程つけて美味しそうに食べている。しかし遼子はそのサラダと投入を食べ続けている。
「朝からこうしたものを食べてるとね」
「まああたしも食べてるけれどね」
「お姉ちゃんそれにしてもいつもよく食べるわね」
「食べないともたないんだよ」
 平気な顔で妹に告げる。赤髪をポニーテールにしていてもう制服を着ている。小麦色に日焼けした顔で目は大きくはっきりとしている。口元は引き締まっていていつも微笑んでいるように見える。胸はないがスタイルもよくとりわけ制服から見える脚のラインが美しい。
「陸上部だしな、あたし」
「そうなの」
「そうさ。それで遼子」
「何?」
「御前またあれか?」
 妹にからかうようにして声をかけてきた。
「これから。髪の毛をブローしてメイクして」
「そうよ」
 眉を少し顰めさせる。その栗色の髪はふわふわとした感じで肩のところまであり口元は穏やかな感じで目は姉に似て大きく眉は細い。儚げな感じで胸も姉より大きいが何処か幼い印象を受ける。それは童顔のせいでもあるが身体つきもそうした感じであった。
「いつも通りね」
「メイクなんてする必要あるのかよ」
 誠子は頭の後ろに両手をやって身体を伸ばしつつ述べた。
「そんなにないだろ。軽くファンデーションしてリップだけでいいだろ」
「それだけでいいわけないでしょ」
 目をきっとさせて姉に言い返す。
「いい?メイクはね」
「はいはい、わかってるさ」
 むきになった妹のその言葉を受け流すようにして返してきた。
「女にとっては武装だって言いたいんだよな」
「女はいつもフル装備でないといけないのよ」
 真剣な顔で姉にまた言い返す。
「服装だってね。お姉ちゃんみたいにそこいらにあるブラとショーツじゃ駄目なのよ」
「見えないところにもってか?」
「そうよ」
 そのきっとした顔でまた言い返してきている。
「いつも勝負下着よ。その為に私はね」
「バイトもしてるんだってか?」
「その通りよ」
「駅前のケーキ屋ねえ。まああたしはケーキの残りいつも貰えるからいいけれどね」
「ケーキ屋さんはアルバイトとして最適よ」
 遼子はあくまでこう主張する。
「ファッションだって勉強できるしケーキの作り方だって勉強できるし」
「女の子らしくってやつかよ」
「食べたら駄目だけれどね」
 これにはかなり注意しているようだった。
「太るから」
「デブになるのは駄目なのかよ」
「太る体質だとね」
 憮然として姉に語る。
「お姉ちゃんみたいに太らない体質じゃないのよ」
「けれどよ、遼子」 
 誠子はまたトーストを食べながら妹に言う。またジェムをたっぷりとつけてミルクと一緒に食べている。やはりカロリーがかなり高そうだ。
「御前もそんなに太る体質じゃないだろ?違うか?」
「油断大敵よ」
 遼子が気にしているのはこのことだった。
「太ったら絶対に駄目よ。適度でないと」
「適度かよ」
「だから食べ物にも気をつけてるのよ」
「気にし過ぎだと思うがね」
「お肌だってね」
 今度は肌についても言う。
「大事なんだから。いい?」
「聞いてやるよ。いつものことだけれどな」
「日焼け止めクリーム塗って」
 見れば雪の様に白い遼子の肌である。それは確かに奇麗だ。
「ボディソープも合うの使って。ちゃんと寝てシャンプーも洗顔クリームもね」
「確かに奇麗だよな」
 姉も妹が奇麗なのは認めるのだった。
「ちゃんとして。拭き方だってそうだし夜のお風呂の入り方もね」
「だからよ。そこまでするのかよ」
「するのよ」
 はっきりと断言する遼子だった。
「いい?お姉ちゃんはね」
「御馳走様」
 言っている側から合掌する誠子だった。
「それじゃあな。歯を磨いて顔洗って先行くからな」
「部活の朝練?」
「そうさ」
 にこりと笑って席を立ち妹に告げる。
「今からな」
「その顔で行くの?」
 じろっと姉を見て問う。
「ノーメイクじゃない」
「学校で軽くするからいいんだよ」
「髪もセットしてないし」
 まだ姉に対して言う。
「そんなので行くなんて信じられないわ」
「そうか?誰だってそうだろ」
「そうじゃないわよ」
 またムキな顔になる遼子だった。
「お姉ちゃんだけよ、そんな人」
「そうかよ」
「そうかよってね」
「じゃあさ、お母さん」
 遼子に構わずに台所にいる母親に声をかける誠子だった。
「これ。水につけとくから」
「ええ、それで御願いね」
 お母さんはもう洗いものに入っている。食器を洗いながら誠子に返すのだった。
「後は洗っておくからね」
「有り難うね」
「遼子ちゃん」
 どちらかといえば遼子に似ている若作りのお母さんは遼子に声をかけてきた。声の色も似ている。
 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧