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生徒会長

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7部分:第七章


第七章

「そういう心配は無用なのですよ。生まれた頃からの付き合いです」
「そうだったんですか」
「はい。ですから」 
 このことを述べてからまた彼に声をかけてきたのであった。
「お話させて頂いても宜しいですね」
「ええ」
 執事の言葉に対して頷く。
「御願いします」
「それではですね」
 一呼吸置いてきた。それからまた語る。
「お嬢様ですけれど」
「未月丘さんがどうされたんですか」
「貴方が手紙を出された時です」
 話はそこに遡るのだった。
「その後車に乗られたのですか」
「ああ、あの時ですか」
「そうです。貴方には至って冷静でしたよね」
 言葉に念押しが入っていた。
「貴方の前では」
「冷静っていうか」
 その時のことを思い出しながら執事に対して答えた。
「優雅で落ち着いていて。しかも気品があって」
「それはね、変わらないんですよ」
 それは同じだというのだ。
「車の中でも何処でも。お嬢様はお嬢様です」
「いつもああなのですね」
「これについてもその通りです。ですが」
「ですが?」
「お嬢様も人間ですよ」
 言葉が微笑んでいた。
「人形ではないですよ。それは御承知ですよね」
「それはまあ」
 心の中で当たり前だと思いつつ答えた。しかしそれは直弥がこのことについてあまりわかっていないということの証明でもあった。執事もさらにそこに突っ込んできた。
「そうですけれど」
「だからですよ」
 執事のその突込みが来た。
「お嬢様だって喜ばれます」
「はい」
 話を聞いていて当然だと思う。だが思いはしたが実感はなかった。その実感のなさが問題であったがやはり彼はここでは気付いていなかったのだ。
「それはわかっているつもりですけれど」
「御承知でも。御覧になられていないのですよ」
 また声が笑っていたのだった。
「それはね」
「僕が見ていないんですか」
「だから。車の中ですよ」
 話がそこに戻った。
「車の中で。お嬢様はですね」
「沙代子さんは」
「もうとろけそうな感じだったんでしたよ」
 これは彼にとっては意外な言葉であった。
「本当に。にこにこしてなんてものじゃなくてですね」
「とろけそうだったんですか」
「ええ、ですから内緒ですよ」
 このことをまた念押ししてきた。
「くれぐれもね。お屋敷に帰られてからも」
「とろけそうだったんですか」
「それがあまりにも凄くて」
 執事の言葉が続く。
「旦那様や奥様も驚いておられたんですよ。あんまりだったんで」
「そこまでだったんですか」
「嬉しかったんですよ」
 何故か嫌味さも哀しさも皮肉もそこにはなかった。暖かく、沙代子を祝福するような言葉であった。
「一文字様が告白して来られたのが。とてもね」
「じゃあ最初から僕を」
「もうそれはお手紙を受け取られていた時に決めておられたんですよ」
 このことも話す執事であった。
「実際のところはね。もうあそこで」
「じゃあ最初で」
 直弥にとってはこれまた驚くべきことであった。
 
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