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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  121 神の黄昏

SIDE 《Teach》

目を開けるとそこはかとなく〝既視感(デジャヴュ)〟を(いだ)かされる、広大なの建物の屋上の様な場所。

(ここは一体…)

辺りを見回していると、遠くの(おおぞら)に浮かぶ、〝ど〟でかくて──今もなお崩れゆく宙に浮かんでいる〝城〟を目にした。……俺はその〝城〟に見覚えがあった。

「あれは…」

……〝それ〟は【ソードアート・オンライン】のパッケージに記されていた〝(もの)〟で──いみじくも俺達数千人ものプレイヤーを2年近くの月日にわたり閉じ込めていた〝史上最悪の電子の城〟で、その名も…

「……アインクラッド」

――「どうだい、こうして見れば中々に壮観だろう?」

黄昏(たそがれ)──(かれ)(だれ)? とか云われる様な時間帯だと思わされるこの空間だが、俺の何てことも無い呟きに〝誰が〟返答したのかはすぐに判った。

「……〝茅場さん〟…」

「現在アーガスの本社に設置されている【ソードアート・オンライン】は〝前以てのセッティング〟によって自己削除されている最中だよ。〝あれ〟はその過程を客観的に鑑賞するための──云わば〝私自身への敢闘賞〟の様なものだよ」

〝誰か〟──茅場さんは一息おき、さらに言葉を繋げる。

「……それにしても〝茅場さん〟──か。君に〝そう〟呼ばれるの久方ぶりだね。……さて、とりあえずは〝ゲームクリアおめでとう〟──とでも言えば良いのかね」

「〝ヒースクリフ〟──ラスボスを倒してクリアしたのはキリトだよ」

それは謙遜でも何でもなく、純然たる事実である。実際俺がやったのは、俺にしか出来ない方法でこのゲームの抜け道を突き──悪い言い方だが〝不正(チート)〟でキリトをちょっとだけ援護しただけである。

ユーノから前以て〝キリトがヒースクリフの正体を見抜く〟と云う、一見すれば荒唐無稽な話を聞けていた事も大きかった。

ユーノの話し振りではキリトとヒースクリフは〝相討ち〟になって終わる様な旨も聞いていたので、【ソードアート・オンライン】と云う〝原作〟を識らない俺はどうなるか知らなかったし──〝事の顛末(てんまつ)〟を聞きすらしなかったので少々過敏すぎる方法かもしれないが干渉させてもらったのだ。

……どこの世界に〝仲の良い弟の死〟を簡単に──抗える力があるかもしれないのに、〝それ〟を享受出来る兄が居ようか。

閑話休題。

(……ユーノから全部が全部を聞いてなくて正解だったかもな…)

もしユーノから1から10までの展開を聞いていたら、〝その展開〟から少しでも外れてしまった場合には動きが取れなくなる可能性もあった。……なので、ユーノからの前情報は大体、〝キリトがヒースクリフの正体を看破〟と〝キリトとヒースクリフが一騎討ちの末に相討ちに近い状態でゲームクリア〟と──その辺の事をふわっと教えてもらっていた。

……それでボス戦の後に大体の筋書きが書けるようになったのだ。……敢えて云うのなら、〝それからの展開を識らないからこその強み〟と〝それまでの展開を識っていたからこその強み〟が上手い事にマッチングしたので無事にヒースクリフを打倒する事が出来たのだろう。

「キリト君へは後ほど祝いの言葉を送っておくとしよう。……話は変わるが、君初めて出会った瞬間に直感したよ。……〝この少年は私の想像を越えてくれる人間だ〟──とね。……実際君は〝麻痺〟を──〝私の世界〟のルールを突破した」

「……あー、〝PSY(あれ)〟のことね」

〝PSY(サイ)〟や“マヌーサ”は厳密に云えば──このゲームシステム的観点から見たら、チート行為になりかねないので苦々しい気分になってしまう。……しかしそれは、気持ちの良いものではないと云うだけで、後悔とかそういうのは特にしてないが…。

「ふっ、尚更君の様な人間に若い頃に逢いたかったと思わされたよ。……さて、では私はそろそろ行かせてもらおう──ああその前に、真人君に〝私の世界(ルール)〟を越えてくれた事に関する報酬を聞いていなかったな。……君は私に何を望む?」

「報酬、かぁ──あっ」

いきなり茅場さんから言われて困るが、ふと〝とある事〟を思い付いた。

「茅場さんは《Yui》を知っているだろう?」

「《Yui》──ユイとはもしかしてMHCPの事かね? ……なぜ君が〝アレ〟について知っているのかはさておき──どうやら〝観測場所〟からは居なくなっている様だったが…」

「……多分今は【リンダース】にいるはずだ」

茅場さんはふむ、と1つ頷くと手を振る。……どうにも、俺の言葉の真偽を確かめているらしい。……ちなみにユイが【リンダース】に居る理由はキリトとアスナがリズにユイを預けていたからである。

……理知的なユイはその時に珍しくも〝聞かん坊振り〟を発揮させていたが、アスナの根気強い──〝飴と鞭〟ならぬ〝飴と飴〟な説得によってお留守番を承諾。……それもユイがリズに(なつ)いていたから出来た説得法だった。

閑話休題。

「……どうやら本当に【リンダース】に居る様だ。……で、〝ティーチ君〟が望む報酬は《Yui》で良いのかね?」

「俺じゃない、キリトだよ。……俺の望みを言おう。俺が望むのは〝《Yui》をこのゲームから切りだし《Yui》を和人のナーヴギアに入れる事〟だよ」

「ふむ、それだけでいいのかね?」

「……和人はプログラミングとかに強い。後は和人が〝あっち〟で《Yui》を展開するなりするだろう」

俺がそこまで言うと茅場さんはなぜだか呆れた様な表情をする。

「……人の事を言えた義理ではないが、君はもう少し俗物的な欲を持った方が良いな。……でないといつしか私の様な凶行に走ってしまう可能性があるからね」

呆れた様な表情は一瞬だけで、数秒後にはそう笑う茅場さん。……俺はそれを苦笑を浮かべながらこう思う。

(……〝凶行〟って、自覚はあったのか…)

そんな風にどこか〝他人事〟だと思ってしまう俺が居る。今度は俺が呆れていた。……普通の人なら〝どの口が言うのか〟とでも憤慨すべきなのだろうが、俺の腹の中からは何故か〝憎悪〟〝憤怒〟などのマイナス方面の感情が全くと云う訳ではなかったが──あまり湧いていなかった。

……俺は〝茅場 晶彦〟という人間を心の奥底から憎む事が出来なかったのだ。……色々な感情を茅場さんに(いだ)けど、最終的に内心に浮かんだのが〝呆れ〟だったのは、俺がきっと〝ひとでなし〟だからだろう。

「怒らない──か…。……やはり君と私はどこか似ている。……さて、私はそろそろ行かせてもらうとしよう。……報酬の件もある事だしね」

そう述べると、茅場さんは砂像の様に消えていった。

(……おのれは【スパイダー□ン3】のサンドマンかよ──っ!?)

……そんな益体も無い感想を懐いていると、今度は転移やら浮遊感とも着かぬ感覚に陥り、急に現れた──目蓋(まぶた)裏からでも更に目を覆いたくなるほどの閃光に意識を灼かれるのだった。……どことなく感じている懐古感に身を任せながら…。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「依頼を達成してくれた事について礼を言う。……ありがとう」

目を目蓋ごと灼かれるかと思わされた一瞬の閃光。……強い光を見た後特有の失明感後に──そして、地に足着かずの意識の最中に目を開けて見て一番最初に認識出来たのは、比喩表現なしの〝女神〟からの謝礼だった。

意識を取り直せた俺にとって、その〝女神〟が誰かを特定するのは簡単だった。……何しろその〝女神〟とは面識があったからだ。

「……ミネルヴァさん…」

「うむ。……堅苦しいのも良い加減にして元のスタンスに戻らせてもらおう」

〝女神〟──もといミネルヴァさんは俺が意識を取り直したのを確認したのか、どこか(うやうや)しかった佇まいを、いつものフランクな方向へ正す。……〝目上の人〟──と云うよりはミネルヴァさんに恭しい態度を取られると、どうにも調子が出なくなるのでそれについてはスルー。

「ミネルヴァさんが居ると云う事は、俺の〝お勤め〟が終わったって事で良いんですよね?」

「そうじゃが、〝特典(ほうしゅう)〟についての話もあるの」

単刀直入に聞いてみれば、どうやら俺の疑問は(あなが)ち間違いではなかった模様である。

……しかし、ミネルヴァさんに【ソードアート・オンライン】がある世界に転生させてもらって約10年。第三の人生を──〝平賀 才人〟だった頃には出来なかった青春を謳歌するあまり〝報酬(とくてん)〟についての話はすっかり忘れていた。……〝気になっていた事〟もあったのに、だ。

「訊きたい事があります。その〝報酬(とくてん)〟を貰ったら“有言実行(ネクストオネスト)”が消えたり──なんかはしませんよね?」

「……“有言実行(ネクストオネスト)”はお主の魂に──〝赤いドラゴン〟と同様に、癒着が如く引っ付いておるから大丈夫じゃよ」

(あ、そういう事か。……〝神器(セイクリッド・ギア)〟自体が〝幻想郷〟の方にあるからか…)

ミネルヴァさんのその言葉を聞いた時、〝〝神器(セイクリッド・ギア)〟が何故使えなかったのか〟が判った気がした。……そして、そこまで考えるともう1つ推論も浮上してくる。“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”は使えないが、〝似たナニか〟が使えるのは…

(……【幻想郷縁起】か…)

〝幻想郷〟に〝俺〟が居た時、阿求に〝能力(できること)〟を聞かれた時〝イメージした魔獣を創造出来る〟と答えた事がある。……今の状況は、そこに起因していると想像するのは難くない。

……【Fate】シリーズをイメージとして説明するなら、〝宝具〟が〝スキル〟になった感じに近く、“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”──〝双籠手〟が使えないのは阿求に〝ドライグの能力〟である〝倍加〟やらの件を話していないからだろう。

(少なくとも1つの〝報酬(とくてん)〟が貰えるとして──決まってきたな、〝特典(ほうしゅう)〟の件については)

「……さて以前と同じく賽子(さいころ)を振ってくれ」

「〝これ〟ですね? ……せいっ」

いつの間にか右手に収まっていた六面体の賽子(さいころ)を振る。地面(?)に落ちた賽子(さいころ)(やが)て回転を止め──〝とある数字〟を示した。

その後はミネルヴァさんから、〝特典(ほうしゅう)は再転生の際にしか貰えない〟と云う話を後付けの様に聞いてから〝元の世界〟──〝【ソードアート・オンライン】がクリアされた世界〟に戻してもらうのだった。

SIDE END 
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