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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【ソードアート・オンライン】編
  120 剣士達の夜明け


SIDE OTHER

二刀流(キリト)≫VS≪神聖剣(ヒースクリフ)≫の試合が〝ヒースクリフの勝利〟と云う──〝原作通り〟に大して面白くもない結果が下されてから幾日。【コリニア】の転移門前広場に、一目で〝レアアイテム〟と判る装備に身を包んだ数十人のプレイヤーが居た。

「諸君、集まってもらって礼を言う。私はティーチ君みたいに気の利いた言葉を持ち合わせてないので、簡潔に締めさせてもらおう…。……さぁ、蹂躙せしめよう」

――「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」

ヒースクリフの怜悧な宣言に反比例するかの様に猛々しい怒号が沸き上がる。……フロアボス前の発破。今回、ボス部屋を見付けたの≪血盟騎士団≫だったので、その団長であるヒースクリフが〝発破係〟となっていた。

「〝回廊(コリドー)オープン〟!」

ヒースクリフはギルド共通のストレージから〝ボス部屋の前〟にその出口が設置されている──ゴドフリーが設定していたらしい《回廊結晶(コリドークリスタル)》を開き、そのゲートを(くぐ)る。……すると他のプレイヤー達もそのゲートへと入っていった。

SIDE END

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE 《Teach》

(静かだ…)

まずフロアボスが居るだろう部屋に入って、一番最初に懐かされたのはそんな感想だった。

回廊結晶(コリドークリスタル)》を渡り、ボス部屋の扉がヒースクリフの手によって開かれて数秒。辺りを見回してもフロアボスが現れた様な演出もなく、目に優しくないボス部屋の背景を見ていても仕方なかったので耳を澄ましてもいても周りのプレイヤーの息遣いしか聞こえなかった。

〝ある違和感〟を持ったのは、そんな──何の変化も見せないボス部屋に拍子抜けを食らっている時だった。

(……ん? なんだ〝この影〟は──)

「全員その場から離れてっ!! 上っ!」

「っ!!?」

ユーノがいきなりそう叫んだのでその言葉に最早〝反射〟のレベルで──敏捷(びんしょう)値にものを云わせ、〝影の正体〟確認行為に移る前に〝その影〟から少しでも遠くへ離れられる様に全力で横っ飛びをする。

――パパァァン…

アインクラッド内で〝その音〟は誰もが──それこそ、ここに居るフロアボス攻略戦に参加する様なプレイヤーからしたら聞き慣れた音。……落ちてきた〝その影の正体〟に殺られたのか、生命(いのち)の潰える音が2回連続で響き渡る。

「ヒースクリフっ! 〝左〟を頼むっ! 俺とユーノが〝右〟を抑える!」

5本にもわたるHPゲージ。〝ドクロ+ムカデ+カマキリ〟と、おおよその人が懐かされる嫌悪感を集約してそれを煮詰めた様なボスの様相を見てのその指示は、咄嗟に思い付いた──無意識下のものだった。

「疾っ!」

ヒースクリフとユーノの返事を待たずにボスの──《ザ・スカルリーパー》の目前へと踊り出て、《ザ・スカルリーパー》へと槍で突き掛かる。〝槍〟の性質上、このボスへの相性が悪かったのかボスのHPは1ドットも減らなかったが、そこは良しとした。…ヘイトさえ稼げれば良かったからだ。

「ふっ──」

《ザ・スカルリーパー》から降り下ろされる、ゴドフリー達を含めれば少なくとも14もの生命を奪っている凶撃。それを相殺しようとしてソードスキルを立ち上げようとするが、俺とボス間に割り込んできた──俺の〝赤〟とも違う〝紅〟が見えたので相殺の行為止める。

しかし救援に来たのは〝紅〟の聖騎士──ヒースクリフだけではなく、ユーノも俺の指示に乗ってくれたようだった。

「……無茶をする」

「全くだよ」

「足並みを揃えるにはこうするしかなかったんだよ。……アスナっ! ≪DDD≫の指揮を一時的に任せる! 〝(メイン)〟は俺らが抑える!」

アスナにそう投げ掛ける。“二刀流”──キリトが居ればコンスタントにダメージを与えられるとも思ったからだ。

「了解!」

「≪KoB≫もっ! ゴドフリーの敵討ちがしたいなら立ち上がれ!」

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」

人望のあったゴドフリーである。俺の言葉を理解した≪KoB≫の皆の顔色に血潮が戻っていく。……それから漸く、本当の意味での〝75層フロアボス攻略戦〟の幕が切って落とされた。

………。

……。

…。

「……何人、死んだ…?」

「……6人だ」

キリトの投げ遣り質問にクラインが答える。俺が周りを見渡しても疲労困憊(ひろうこんぱい)を体現したかの様な兵士達しか見えなかった。……そう、ヒースクリフを除いては。

(さて、キリトは──っ!?)

「キリト君っ!?」

虚空に浮かぶ[Congratulations!]の文字を眺めキリトへと視線を移す。……アスナの驚きの声が時には時既に遅く、キリトがヒースクリフにソードスキルを仕掛けていた。

……〝普通なら〟キリトのその蛮行は咎められるべきだが、〝今この場合〟にはそうはならなかった。〝紫色〟の障壁の様なエフェクト。……それはこのフロアに居る全員に見覚えがあるだろう──〝人〟にあり得てはならないものだった。

「……ヒースクリフ団長、〝それ〟はどういう事か説明してもらえますよね?」

不死属性(イモータル)オブジェクト。それがヒースクリフを護っている何かの正体で、それは本来なら〝建物〟などにしか付加されてないものだった。

アスナの問いにキリトが口を開く。

「……こいつはずっとプレイヤーに扮して、〝神〟を気取っていたんだ。……あまりいい趣味とは言えないぜ? 〝茅場 晶彦〟」

「「「っ!?」」」

キリトの宣言にこのフロアに居るプレイヤーの大多数──ユーノやヒースクリフ、俺以外の皆が絶句する。〝アインクラッドの中に茅場 晶彦が扮して居た〟と云うのはそれほどの事だった。

「……ふむ…。キリト君で〝二人目〟だよ。私の正体に気付いたのは」

「……〝二人目〟…?」

訝しむキリトから此方──俺に目線向けるヒースクリフ。〝一人目〟について暴露するらしい。

「……そうだ。26層の時点で私の正体を看破した者が居たのだよ。……そうだろう、ティーチ君?」

「……本当か?」

「ああ。公表しなかった理由は主に2つ。ヒースクリフが〝戦力〟になると思ったのと、当時ヒースクリフに〝全員の解放〟を持ち掛けてもヒースクリフが首を縦に振らなかったからだ。……どうせならヒースクリフには〝戦力〟として動いてもらう事にした」

そう答える。実際ヒースクリフは首を縦に振らなかったし、俺が公表して他の誰かがヒースクリフに〝全員の解放〟を持ち掛けてもヒースクリフが説得されるとは思わなかったと──云うのも俺の内心にはあった。

「うぉぉぉっ! 皆の仇──ぐっ!」

「「「っ!?」」」

(っ!? 麻痺か)

≪KoB≫の一人がヒースクリフに裂帛(れっぱく)の気合い──もしくは恨みやつらみを乗せて斬りかかるがヒースクリフの〝腕の一振り〟によってその反逆は失敗に終わる。……キリトを除く全員に〝麻痺〟を掛けると云うオマケまで付けて。

「……で、口封じでもするつもりなのか?」

「いや、上で待つつもりだったが〝ちょっとした催し〟を思い付いたのだよ。……さてキリト君にはグランドボス看破の報奨として、〝全プレイヤーの解放〟を懸けて〝決闘〟を申し込もう。……もちろん、その際にはこの〝不死属性〟も解除する」

そのヒースクリフの言葉にキリト軽く考え込み…

「……一つ条件がある。……もちろん俺はお前に勝つつもりだが──もしも俺が死んだ時は、アスナを自殺出来ない様にしてくれ」

「キリト君っ!」

「お兄ちゃんっ、ダメぇっ!」

「やめろぉっ、キリト!」

アスナやクライン、リーファといった、キリトと親しかったメンバーからキリトを思い留まらせるかの様な言葉飛んでいく。

「キリト君…。……勝てるんだよね」

アスナの言葉に力強く頷き、二振りの剣を抜きながらキリトはヒースクリフに剣を向ける。

(……〝麻痺〟は〝あれ〟で──集中力次第ではどうにか出来るとして、ヒースクリフには〝アシスト〟がある。……それがネックか…)

キリトが皆に礼を述べていくそんな状況下で、俺は〝この状況〟をどうにか出来ないか頭を回していた。……実を云うと、〝動けないはずがないと想像出来る〟俺にとっては〝このゲームでの麻痺〟は驚異足り得なかったりする。

(……っ! これならいけそうだ…っ)

「……“□□□□”」

思考の果てに思い付いた悪魔の策。……そこで俺は、〝その呪文〟を誰にも聞こえない様な小声で、〝このフロアに居る全員〟へと掛けた。

(……あとはキリト次第だな…。……それまでは集中だ…っ)

キリトはソードスキルを使わずに応戦していたが、(やが)て痺れを切らしたのかヒースクリフにソードスキルを放ってしまう。……俺の狙い通りに。

(来たか…っ!)

そこで俺は〝体を動かし、皆に見つからない様にヒースクリフの背後へと忍び寄る〟。

〝麻痺中〟に動けるのは〝STRENGTH(ストレングス)〟で無理矢理に動かしているだけで──遮蔽物の無い状況下でヒースクリフやキリトにすら見付からない様に動けているのは“マヌーサ”のおかげである。

……〝この世界の麻痺〟は、〝身体駆動に(いちじる)しい負荷と虚脱感を与えろ〟とナーヴギアから命令されているだけなので、〝STRENGTH(ストレングス)〟どその命令を無理矢理に無視してやれば良いだけだ。

「……しっ!」

「っ!?」

ヒースクリフの越しに見えるキリトの目を見開いて驚愕している顔を見ながら、ヒースクリフの盾を持っている左手を槍の穂先で思いっきり切断してやる。

「馬鹿な…っ!」

キリトが半ば自棄になってヒースクリフに放った“二刀流”の最上位ソードスキルである“ジ・イクリプス”の最後の一撃がヒースクリフの胸を貫く。……それは()しくも《ダーク・リパルサー》とはその名の通りに、〝闇を(はら)う剣〟となった瞬間でもあった。

……ヒースクリフは驚きの声を上げ、急に左腕が無くなった理由である俺を見る。

「ティーチ君だったか。……見事だ」

――パァァン…

驚きの声から一転、ヒースクリフは何やら納得した様な声音で賛辞を俺に送った後、それまでオブジェクトと同様に割れて──ポリゴン体となって、アインクラッド内へと溶けて逝った。

――『ゲームはクリアされました。ゲームはクリアされました』

(っ!? これは〝転移〟…っ!)

ヒースクリフが消えて数秒後、そんなアナウンスを耳にしながら〝STRENGTH(ストレングス)〟で動かない身体を無理矢理に動かした後遺症か──そこはかとない虚脱感に襲われつつ、〝転移〟の反応に身を任せるのだった。

SIDE END 
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