普通だった少年の憑依&転移転生物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
【ソードアート・オンライン】編
118 少女迷子中…
SIDE 《Asuna》
「ふふっ…。……年下だったんだね」
時刻は午前8時00分。小鳥の囀ずりを耳に入れ──そんな事を呟きながらキリト君の頬を擦る様に撫でる。キリト君は、兄弟らしいティーチ君とはあまり似ていない──〝男性〟を感じさせない顔立ちだが、〝惚れた弱み〟──と云うべきだろうかそれもまた愛しく思う様になった。
……ちなみにキリト君とは、〝本当の意味で〟結ばれてから多少ではあるが、本名や年齢などの〝現実〟の情報を交換していたりする。……キリト君との関係は〝アインクラッド(ここ)〟だけで終わらせるつもりは無かったから。
閑話休題。
現在地は22層の郊外。湖畔にあるキリト君と折半して購入したこの家は日々の攻略で荒んでいた私達の心を癒す事に一躍を買っていた。……キリト君との結婚から数日。〝新婚ほやほや〟な私達に、無垢な少女が現れたのはそんな時だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「美味しいです、ママ!」
「良かったな、ユイ」
「はい、パパ!」
(……今朝はキリト君に唆されて最寄りの森でこの娘を見付けて──うん、やっぱりどうしてこうなったのかは判らないよ。……どうしてこうなったのかな…?)
テーブルを挟んで正面に居る──私が作ったサンドイッチを喜色満面で頬張る、自らを〝ユイ〟と名乗った少女を見て今朝に有った事を思い出しながら、頭を抱えたくなるのを我慢する。
「……これからどうしようか、キリト君…」
その少女の隣で〝良いパパ〟と化しているキリト君とこれから展望について話し合う。……いきなり〝お腹を痛めず子供を持ってしまった〟と云う──目を背けたくなる現実を突き付けられても困ってしまうだけだった。
……確かに私とキリト君の家は俗に云う〝お金持ち〟なので、もしも〝子供を育てる〟と云う──まずはあり得ないだろう展開になってしまったとしても、〝資金的には〟それほど難しくはない。……しかし問題も有り…
〝私達の勉強は?〟
〝お母さん達への説明は?〟
〝この娘の両親は?〟
ざっと思い付くだけでこれだけ問題点が浮上してくるし──更に話を詰めれば、更なる問題点も顕在化するだろう。……あくまでも、私とキリト君は20歳にも満たない──親の下を離れられない子供にしか過ぎないのだから…。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 《Teach》
キリトとアスナから〝結婚しました〟とな報告を受けて、俺とユーノも貰った──結婚祝いやら引っ越し祝いやらを渡してから早くも数日。俺とユーノは住居でお茶を啜っていた。
「……キリトとアスナ、今頃どうなってるのかな」
「さてね、〝ゆうべ は おたのしみ でしたね〟からの〝朝チュンと雀が鳴く〟──みたいな展開になってるんじゃないのか?」
久々に攻略を休み、ユーノと談話しているとユーノがいきなりそう切り出してきた。……軽く冷やかしを混ぜて返してはみるが、ユーノの反応はどうにも芳しくない。
「……〝現実世界〟に戻ったらどうなるんだろう?」
「……あー、もしかして〝キリトとアスナが付き合ってるのに〟──って事か? ユーノの気にしてる事は」
ユーノの云わんとしている事が何となく判ったので、ユーノの言葉尻を奪うように確認してみれば──俺の推測は正鵠を射ていたらしく、ユーノは暗い表情で首肯する。
ユーノは──もとい〝円〟は、数式とかの計算は得意だったが〝そう云った事〟──主に人間関係に関する〝面倒な事〟に気を回すのが得意ではなかったのを思い出す。……そして、アスナとキリトとの関係を考えて──俺とユーノの関係を考えれば、それは思うところもあるらしい。
軽くユーノから聞いた話では、〝結城家〟は俺の実家──升田家とは〝資産的観点〟〝歴史的観点〟で見ればそこまで離れている訳では無く〝釣り合い〟は取れていて、〝繋がり〟が出来る事によってそれなりに〝旨味〟もある。
……が、〝娘を二人もくれるのか〟と考えれば首を傾げてしまう。〝御家の為〟に、ユーノとアスナのどちらかは〝升田家以外〟に出される可能性が高く──もちろん、俺としてもそれは許せるところではない。
(……まぁ、難しく考えることでもないんだが…)
ユーノの抱えている問題についてなんて、いくらでも解決策が練れる。
「……王道案と外道案、折衷案──3つ有るがどちらから聞きたい?」
「……じゃあ外道案、王道案、折衷案の順で」
ユーノの──円の性格からして先に落とされてから上げられたいのか、先に外道案をご所望のようだ。
「ユーノに俺の子供を宿してもらい、その子供を〝複数の強姦魔に犯された末に出来た子供〟と云う設定で育てて、実父である俺がユーノを援助しながら事実婚状態までもっていく。……メリットは〝結城〟の実家からの縁談話の殆どをカット出来る。デメリットは〝実父〟が認知できないから、生まれてくる子供に多大な迷惑を掛ける」
「……うん、王道案は?」
メリットはともかく──〝設定〟とデメリットがあまりにもキツイものだったのか、ユーノはビミョーな表情で続きを促す。
「俺が升田家からどこかに養子に出してもらい、その後ユーノと結婚する。……メリットは両手を振って堂々と交際出来る。デメリットは〝升田の両親と、その相手方の家族を説得しなければならない〟と云う手間が生まれる」
「そっか…」
先ほどよりは幾分か安心した表情で頷く。それを確認した俺は折衷案へと繋げる。
「折衷案は、俗に云ってしまえば〝お酒って怖いね〟てな作戦だよ。カバーストーリーは、〝異国の地で知り合いに偶然会って盛り上がり、酒にアテられて二日酔いに起きたら同衾してて、それが〝ホームラン〟してました〟──と云う感じか。……メリットは〝異国〟なので両家の邪魔が入りにくい。デメリットは間違いなく両家から顰蹙、を買うし──キリトとアスナの結婚まで待たなければならない、ってところだな」
「……色々言いたいけど──よくそんな頭が回るねぇ…」
感心した様な──呆れた様な表情で呟くユーノ。……こんなのは貴族として──もとい、〝王族〟としての生活を二十年弱も送っていれば割りと考え付くものであるし──それに、どれも一長一短には変わりはない。
……ちなみに、今回の件の様な〝お家間問題〟について頭を回すのは初めてでは無かったりする。……今となっては久しいが、嘗て完全に行き遅れになってしまった義姉──エレオノール義姉様をあの手この手で押し付けてくれようとする〝ヴァリエール〟の義父と義母を、あの手この手で躬した経験もあった。
閑話休題。
「ちなみに〝駆け落ち〟と云う──旧くから使われている手もあるが、これも両家から顰蹙を買うし、〝追っ手〟についても気を揉まなければなくなるからあまりオススメはしない」
「……駆け落ちかぁ…。それもいいかもね。でも──あ、アスナからメールだ」
幾らか安堵したのか、さっきまでの焦燥が嘘の様に消えた時、ユーノがいきなり指を振る。……ユーノの言葉を信じるならアスナからのメールとの事。
――ピコンッ
「……俺の方にもキリトからメールだ」
今度は俺の方にメールが来たらしく、確認してみればキリトだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
[ティーチに相談したい事がある。時間が出来たらメッセージをくれ]
[お姉ちゃんに相談したい事があるの。時間が出来たらメッセージを飛ばしてね]
奇しくも(?)同じ様なメッセージを飛ばしてきたキリトとアスナ。俺とユーノは大して暇時間に追われているわけでも無かったし、ユーノにはその──アスナとキリトの云う〝相談事〟に心当たりが有ったらしいので、承諾の意をメッセージで返した。
―……これから来るアスナとキリトの〝相談事〟には心当たりがあるから、ボクに任せてくれないかな?―
……と、言われたので会話を先導する様に頼んだ。
「……で、話ってその娘の事で良いんだよね?」
キリトとアスナは黒髪の少女(?)を連れて来た。
「うん。ユイちゃん、て云うんだけど、記憶を無くしちゃてるみたいなの。……ユイちゃん、お姉ちゃんに挨拶出来るかな?」
「はい、ユイです。……貴女はママのお姉さんなんですよね?」
そう少女(?)──ユイはユーノへと問う。……いろいろ突っ込みたいが──どうにも、ユイはキリトとアスナを父母と認識しているらしい。……その様を見ていると、疑問が深まってくる。
(……この娘は〝本当に生きている〟のか…?)
そうこの──〝ユイ〟と名乗った少女を見ていると、そんな疑問が浮かんでくる。……まるで〝生きている様に見える何か〟にしか見えないのだ。……それこそ──Mobを見ている様な気分になり…
そこまで考えていると、ふと、この少女へ懐いている疑問の正体が判った。
(……そうか、〝生きている様に見えて生きていない〟のか…)
この少女から〝生命音〟──みたいなものが聴こえない事に気付いた。……その〝音〟はキリトやユーノ、はてにはヒースクリフからも聴こえる音で──それはきっと〝現人神〟になってから視える様になったものである。
「……そっか、ユイちゃんって云うんだ。……そうだねボクは確かにアスナとは姉妹だよ」
つらつらと〝ユイの正体〟について思考していると、ユーノが徐に切り出した。……〝ユイの正体〟についてなら〝知識持ち〟なユーノに任せた方が悪い事にはならないと思った──と云う点が一番だったりするが。
「そうですか…。……だったら〝伯母さん〟ですね」
――ピシィッ
その時、ユーノの方から薄氷に皹が入った様な音が聞こえたのは気の所為では無かったが──気の所為と云うことにしておいた。……キリトとアスナを父母とするなら、俺やユーノはユイからしたら〝伯父さん〟や〝伯母さん〟なのは確かなのだから…。
………。
……。
…。
「……とりあえず、サーシャさんの所に行こうか」
ユイからの呼び方が、ユーノが〝ユーノお姉さん〟俺への呼び方が〝ティーチお兄さん〟に落ち着いたころ、ユーノが場の雰囲気をを取り繕う様に切り出した。
……それでも結局のところ、サーシャさん──13歳未満の子を預る孤児院(?)を切り盛りしている女性の元へ行っても、〝ユイの正体〟についての収穫は獲られなかったが。
SIDE END
ページ上へ戻る