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変わるきっかけ

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4部分:第四章


第四章

「俺みたいなのか?」
「御前みたいに女の子の脚ばかり見るのがいるからだよ」
「いいだろ。どうせ見たって減るもんじゃないしよ」
 忠直にとっては女の子の脚が最大の楽しみなのだ。それで運動会も大好きだというわけだ。彼としては今の短パンよりも昔のブルマーの方が好きなのだが生憎忠直の先輩達の目のせいでそれはなくなってしまっているのである。
「とにかくだ。ジャージらしいな」
「面白くねえな。じゃあ余計にここは」
「打ち上げパーティーに専念するんだな」
「ああ、その為には手段を選ばないぜ」
 表情も言葉も本気であった。
「何が何でもな」
「あの先生だけれどいいんだな」
「だから最初からそのつもりなんだよ」
 そう健三にも語る。
「わかったらいいな」
「まあ協力させてもらうさ」
 健三もそれに頷くのだった。
「丁度巨人が優勝できなくて機嫌がいいしな」
「いいことだな、それは」
 これには忠直も笑う。彼も健三も巨人が大嫌いなのだ。
「あのまま惨めに凋落してくれれば言うことないんだがな」
「俺はあの爺が成仏してくれればいいさ」
 健三は巨人のトップが大嫌いなのだ。日本一の嫌われ者をだ。
「あいつ死ぬかね、そう簡単に」
「毎日死ぬように寝る前に祈ってるんだけれどな」
 そうした人間は日本に多い。この人物が死んだならば日本中で大祝賀会が開かれるだろうとまで言われている。およそ老害という言葉がここまで相応しい人間もいない。日本に及ぼした害毒という点では空前絶後の男であろう。戦後日本の腐敗の象徴と言ってもいい存在だ。
「どうかね」
「早いところ死んで欲しいんだがな」
 忠直もそれは同じ考えである。
「じゃああの爺の一刻も早い地獄行きを祈る為にもな」
「パーティーを実現させるんだな」
「ああ、それを考えると気合が入るぜ」
 完全にやる気になった。
「不景気不景気って言われていてあいつ等だけ金持っているしな」
「そういえばそうだよな」
 健三も忠直の言葉でふと気付いた。
「何であいつ等あんだけ金積み上げて他のチームの選手強奪しているんだ?そもそもその金も公表よりずっと多いそうだけれどな」
「金はあるところにはあるんだろ」
 忠直はシニカルに言った。
「それで金持ってる奴が不況不況って騒ぐんだろうな。うちの親父がそう言っていたぜ」
「そういえばあのミスタースポックを悪くしたような顔のキャスターは五億で」
「辛気臭いことしか言わない十一時の爺さんも二億だよな」
「マスコミって儲かるんかね」
「滅茶苦茶儲かるんだろうな」
 忠直はさらにシニカルになっていた。
「それに悪事もやりたい放題みたいだしな。あの爺見ていると」
「いい御身分だな、おい」
 健三も忠直につられてシニカルになった。二日酔いも何時の間にか消えていた。
「儲かってやりたい放題なんてな」
「あの爺の飯は一食数万円らしいぜ」
「ふざけるなってんだ」
 健三はこれには本気で怒った。
「政治家でもそんなの滅多に食ってねえぜ。普通の金持ちでもよ」
「そうなのか」
「皆案外質素なんだよ」
 実際のところはそうなのだ。何故か社会の木鐸である筈のマスコミだけが不景気の中でも贅の限りを尽くしてきている。戦後日本の七不思議の一つである。強いて言うならばそれこそ口裂け女や人面犬に匹敵する。おそらく錬金術を使っているのであろう。
「そんなもんだよ。何か余計に腹が立ってきたな」
「じゃあわかるな」
「ああ」
 忠直の言葉に頷く健三であった。
「体育祭の打ち上げとあの爺の一刻も早い地獄行きを祈る為に」
「パーティーを実現させるぜ」
「わかったぜ」
 二人は今誓い合う。そうしてその為に最大の障害今日子の攻略に取り掛かるのであった。ところがこれが予想以上に困難なのであった。
「駄目だ、手懸かりがねえ」
「俺もだ」
 三日後二人はその屋上にいた。そうしてそこで話をしていた。
「あの先生学校終わったらすぐに車でマンションだからな」
「買い物とかもしないしな」
 健三はそれも言う。
「プライベートの動きってないよな」
「移動は全部車だからな」
 だから何も掴めていないのであった。
「しかもな。車はダークミラーで中は見えない」
「駐車場もマンションの住人しか入られないしな。カード制で」
「参ったな」
 忠直はあらためて溜息をついた。溜息をつきながら昼食にパンと一緒に買った野菜ジュースを飲む。人参とトマトの味を味わいながら話をする。
「このままじゃよ」
「ここでパーティーなんてできねえぞ」
「そんなことになってたまるかよ」
 しかし忠直は全く諦めてはいなかった。
「何があってもここだ。絶対にな」
「俺もそのつもりだけれどよ」
 健三は鮭のお握りを食べながら忠直に言う。
「このままじゃやばいぜ」
「それもわかってるさ」
 二人は屋上で胡坐をかいて背中をフェンスにもたれかけさせている。そうして昼食を食べながら話をしているのだ。そこで忠直はふと思った。
 
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