とある科学の傀儡師(エクスマキナ)
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第2話 出現
前書き
不定期更新になります。
小説やアニメなどのフィクションの世界では異世界転生の話はよくある。創作物でも人気のジャンルだ。こことは違う世界が存在して、互いの世界は影響し合っているのかもしれないし、欠くことができない世界かもしれない。
サソリがいた世界とは異なる世界。
学園都市
東京都西部を切り拓いて作られたこの都市では「超能力開発」がカリキュラムに組み込まれており、日々「頭の開発」に取り組んでいる。
超能力という特異な分野を科学で解明しつつ、実用化へと開発を進めていく。少しでも可能性がある学生を集めては、超能力開発という名目で様々な実験や研究が行われている中心都市である。パンフレット向き(表向き)では……
都市のとあるビルの隙間で突如として渦状に時空が歪みだし、サソリは組織の紋様が描かれた外套を身に纏った姿で路地裏に出現した。この時、サソリ自身に意識はなく、気を失った状態で重力に従うように前のめりに倒れた。外套からはみ出る腕には大きな傷痕が残るが人間の身体をしており、多量の血が付着していた。
サソリが出現したすぐ近くの表通りでは銀行強盗を働いた数名の男が風紀委員(ジャッジメント)と呼ばれる治安維持組織によって押さえ込まれていた。さすがは超能力の開発に取り組んでいる都市であるため、超能力を駆使してでの、ややSF的な攻防を繰り広げる。小説や漫画でお馴染みの瞬間移動(テレポート)や手から炎を出して威嚇するなどキャラクターごとに備えられた能力を使用して役割をこなす。そして一人の女子中学生が車で逃走を図った男に多量の電気で手の先のコインを電磁誘導させて超電磁砲(レールガン)と呼ばれる青白い光線を発射していた。
レールガンを発射していた少女の名は、御坂美琴(みさかみこと)と云った。学園都市の超能力者(レベル5)の第3位の実力を持つ少女である。
学園都市では能力の強さ、実用化の有無等複数のチェック項目からレベルを0~5の6段階で評価している。
簡単な名称とレベル別をまとめてみると
レベル0 無能力者
レベル1 低能力者
レベル2 異能力者
レベル3 強能力者
レベル4 大能力者
レベル5 超能力者
となる。一番多いのは、レベル1や2くらいで超能力の代名詞ともいえるスプーン曲げができるなど日常ではあまり役に立たない。レベル5となると学園都市の中でも7人しかおらず、もはや兵器に近い能力を持っている。
超能力開発と銘打っているが、あまりうまく教育というか、開発がいっていないのが現状であろう。
余談だが、理論上ではレベル5の上が存在しており、
レベル6 絶対能力者
があるが辿りついたものがいないため、手にした時に何が起こるかは科学者の中でも意見が分かれる。
車は、そんな兵器並のレールガンの光線を受けて無事なわけがなく錐揉み状態になりながら、ひっくり返り逃走を図っていた強盗の1人は衝撃で気絶してしまった。
銀行強盗事件は、無事に収束し風紀委員の活躍に称賛の声が上がったが。
風紀委員(ジャッジメント)が銀行強盗事件の負傷者を把握する為に近辺を調べている時に、路地裏で血だらけで倒れているサソリが発見された。
銀行強盗事件による傷かは不明だが、傷害者を放っておく訳にもいかず。近くの病院へと搬送された。
風紀委員(ジャッジメント)は、もちろんのこと、レールガンを放った御坂美琴も責任を感じてしまい、サソリが入院している病院へとお見舞いに行く(レールガンの衝撃の余波がサソリの近くまで及び瓦礫の下敷きになっていた為)。
「まさか、人がいたなんて••••••」
肩まで伸びた茶髪と整った顔をしたエリート中学校の「常盤台中学」の制服の身に着けて歩いている。常盤台中学校は学園都市の中でも屈指のエリート校として有名。四つ葉のクローバーにDをあしらったような校章が印字された制服着用が義務付けられているため、電車ですれ違ってもわかるほどだという。
御坂はがっくりと肩を落としながら夕日に照らされた病院を訪れる。一応、菓子折りを持っていく。
「まあまあ、お姉様の責ではありませんよ。あんな所で寝ている方が悪いのですわ」
御坂の隣に居るのは、御坂を「お姉様」と呼び慕う「白井黒子(しらいくろこ)」だ。少女は空間移動能力者(テレポーター)としての能力を有して風紀委員(ジャッジメント)の職務を遂行する赤髪ツインテール少女だ。
病室に入ると、既に白井と同じ風紀委員(ジャッジメント)の「初春飾利(ういはるかざり)」)と初春の友人である「佐天涙子(さてんるいこ)」)が見舞いに来ていた。
初春飾利(ういはるかざり)は、頭に名の通り花を飾っている不思議な女子中学生で活発というよりは大人しめの印象を受ける。初春の友人の佐天涙子(さてんるいこ)は、黒髪のロングで初春よりは活発であるが自身に能力がないことをコンプレックスにしているレベル0の女子中学生だ。二人とも柵川中学校に所属している。
二人は、御坂達とは違う中学校に通っており、二つの中学校を比べればエリートなのは常盤台中学である。
御坂達が入ってきたことに初春と佐天は反応して、立ち上がって挨拶を交わす。
「容体はどうですの初春?」
「出血が激しいですけど、命に別状ないそうです」
発見された少年は出血こそあるものの、傷はほとんど治癒されており、鮮血の割には、掠り傷しかないことに医師は不思議がっていた。
御坂はひとまず見舞いの品を各ベッドに備えてある台の上へと置いた。
「うわあ、これって結構高級のチョコレート菓子ですよね」
佐天が口からヨダレを垂らして御坂が持ってきたチョコレート菓子を持ち上げて、重さを確認する。
「うんまあ、手ごろなものかなあ思ってね」
「この大きさと重さなら12個セットかな、1人頭3個になりそう」
変な計算をして自分の取り分を主張する。
そう思ったが。
「でもこの子が目を覚ましたら2個余りますわよ」
12÷4=3……余なし
12÷5=2……余2 取り分マイナス1かつ2個余る
「残りの2個は殴り合いで決着か……」
「な、なんでこっち見ているんですかぁ!?」
初春目掛けてシャドーボクシングをかます佐天。
冗談はさておき
4人は、意識の戻らぬ少年を見た。
燃えるような赤い髪に華奢な身体をした少年が静かに横たわっている。
「それにしても、あんまし見たことない子よね?髪は黒子に近いかな」
「まぁ!お姉様、私の方が艶やかで綺麗ですわよ」
左腕で片方のツインテールを掻き上げるように白井は言う。
「うーん、この服装も珍しいものですよ。どこかで売ってたのかな」
佐天は、珍しいものでも観察するかのように、少年の顔をプ二プ二と突いてみるが反応は得られない。佐天はさらに少年の腕を捲り上げて細い腕を露わにした。
「うわあ、この子すごく痩せてますよ。それに傷がたくさん」
外套から露出した腕を持ち上げて、4人の前に突き出す。
サソリには、人傀儡になるために自分の身体に改造を施した過去があった。その痕が鮮明に人間の身体になっても残り続けていた。
「お腹の方も激しい裂傷がありましたよ」
「お、初春も中々見ているじゃん」
「ち、違いますよ!お医者さんが見ている時にちょっとだけチラ見したというか……佐天さん何を言わせるんですか」
「虐待でも受けてたのかしら?」
4人が一様に黙った。唯の傷跡ではないことは少年の身体を見れば明確だった。虐待だったとしても激しい裂傷の物々しさはたじろぐ程だ。殴られてできる傷ではなく刃物による鋭利な傷跡。虐待だとすれば包丁かそれに近い刃先で切り付けられる稀にみる残虐さと云えよう。
「……」佐天が黙ったまま白く細い腕を握る。関節部分の丸く切り抜かれたような裂傷を静かになぞっていると。
赤髪の少年は,自分の身体から発せられる妙な感触に微睡ながら眼をパチパチと軽く開けたり、閉じたりを繰り返す。
「何してんだ、てめえら?」
少年は意識を回復させ、眠たそうな目で4人を視界に収めると、手を握っている佐天から強引に腕を離した。瞳は髪とは違い茶色だ。
「あ、意識が戻ったみたいね。名前は分かる?」
御坂は内心ホッとしながらも、少年に名前を訪ねてみる。名前が分かれば身元分かりそうだと踏んだのだ。
「…………」
あからさまに警戒心むき出しの少年は、仏頂面で腕を組んで寝転がったままだ。
そして「ここはどこの里だ?」と逆に聞き返してきた。
里?
よっぽどの田舎から来たのか。これは全員思ったこと。
サソリは辺りを見渡しこの場所と祖母との決戦場からの整合性を考えるが、腑に落ちない。
「ここは病院ですわよ。さらに言うと学園都市ですわよ。それであなたはどこの学校所属ですの?」
がくえんとし?
サソリ自身にはそんな里があることは知らない。暁時代から各地を転々としていたからわりと地理と地形には詳しく把握している方であるが、それでも見たこともなければ聞いたこともない。
それよりも忍として認可された額当てをこの少女たちがしていないことにもどう取っ掛かりを付けて良いのか迷う。
さらにサソリは、不機嫌そうな目つきになると天井を仰いだ。ワケが分からない。サソリは確かに核となる部分を刺されて機能を停止したはず。傀儡使いとして自分の身体、人傀儡としての機能働きから考慮しても核を貫かれれば動かないはず、それなのに……。要領を得ないまま黙っていると白井が少年の頭をぐりぐりと力を込めてねじ込み始めた。
「いだだだだだだだだだだだだ」
「名前と所属はなんですの?」
サソリは痩せた腕で白井の腕を引きはがそうとするが、思ったよりも筋力が足らないらしく白井の腕を引きはがせないままにぐりぐり攻撃を受け続けて、悶絶をするだけだ。
「あだだだだだだ、てめえ!やめろぉぉぉ!」
久々の痛みの感覚に反射的に涙が出たところで御坂がポカンと白井の頭を引っぱ叩いた。
「かわいそうでしょ!こんな年下の子供に」
「そんなお姉様」
「―っ!!!痛えー!!」
頭を抑えて悶える赤髪の少年に対して御坂が優しく声をかける。
「お姉さんに名前を教えてくれるとうれしいなあって思うんだ」
サソリは涙眼で御坂を睨み付けて、
「……ちっ(舌打ち)」
上手く状況が飲み込めないサソリは舌打ちをあからさまに行い、拒絶の姿勢を見せる。なんだか他の里に捕まり、尋問を受けているような感じだ。
ビキ!!御坂さんの笑顔のコメカミに十字の亀裂が浮かぶ。
「こんのぉぉぉぉぉぉ」
御坂はバチバチと電撃を出しながら、病院に備え付けてある畳まれたパイプイスを手に持ってサソリに殴りかからんばかりに力を込める。
「御坂さん落ち着いてください」
「相手は子供ですよ。こんなところで能力出したら、部屋がぶっ飛んじゃいますよ」
と初春と佐天が野獣のようになった御坂を全身で止めに入った。
「人が心配してんのに、その反応は何よ!!」
うんうんと頷く白井。
「ひとまず、落ち着いてください。ねえ、身体の中で痛むところはない?」
サソリは、佐天の一言で初めての自分の身体に起きている真実を確認していく。
「……どういうことだ?」
かつて施した仕掛けどころか、傀儡のような特有の凹凸がない自分の身体に戸惑いを覚える。
「オレは、人間になったのか?」
不可解な反応を見せるサソリに白井が白けた眼を見せる。
「人間になったって、最近のB級映画でも見ない設定ですわよ」
腕を組んで、哀れみの視線を交じ合わせる。
「あぁ!?」
「今度は妙に痛い暗黒眼というんじゃないかと心配しますわよ。頭を打ったのかと……」
「バカにしてんのか」
サソリは語気を強めて、起き上がると白井の襟首をつかもうとするが、ヒョイと躱されて力が入らない身体がいやに重く感じた。
「ダメだよ。ちゃんと大人しくしてないと」
佐天が軽々とサソリの肩を掴んで、定位置に戻す。
「……」
これには、サソリは少なからずショックを受けてしまい、シュンと拗ねるように横を向いた。
女に力で負けた。
女に力で負けた。
そして脳裏に浮かぶのは、前に戦った桜色の髪をした娘。怪力で岩を砕いている描写だ。
サソリの小さな自尊心を著しく傷つき、サソリはふて寝を決め込む。
更に「そういえば、見つけた時に初春がおぶって来たのよね」
「あ、はい!軽かったんで大丈夫でした」
何……?サソリは、発言した女性に注意を向けると明らかに運動が得意そうでない花を頭に置いたおっとりとした印象の女が視界に入る。
あっちでも女に負けて、今度はこっちでも負けるのかよ……
かつての暁組織でコンビを組んでいたデイダラが居たら、絶対バカにされているところだろう。
「サソリだ」
ムスッとしたように答える。敗者の掟だ。ひとまず、言う通りにしておくか。
サソリ……?
いまいちその単語にピンと来ない四人は互いに顔を見合わせる。
「オレの名だ、サソリ」
4人の脳裏に毒を持つ凶悪生物の代名詞であるサソリが「シャー!!」と奇声を上げて威嚇しているイメージが流れた(注 生き物のサソリはシャーと鳴きません)。
目の前の華奢な少年からは想像できない凶悪生物の名前に驚きを隠せない。
「嘘っぽい名前ですわね」
「勝手にしろ」
こうして、学園都市の常盤台中学のエースでレベル5(超能力者)「超電磁砲(レールガン)」の御坂美琴、常盤台中学のレベル4(大能力者)「空間移動能力者(テレポーター)」で風紀委員(ジャッジメント)のメンバー白井黒子、柵川中学のレベル1(低能力者)「定温保温(サーマルハンド)」で風紀委員(ジャッジメント)のメンバー初春飾利、柵川中学のレベル0(無能力者)である佐天涙子と元暁のメンバーで天才傀儡造形師の赤砂のサソリは出会ったのだった。
互いが違う世界の住民だとは夢にも思わずに、日々学園都市で巻き起こる事件や事故に巻き込まれていく五人のドタバタとした日常が開幕するのだった。
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