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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第6話 新たなる警鐘

 「待て、士郎」

 翌日。
 何時もの時間に家を出ようとする士郎に、スカサハが待ったを掛けた。

 「何です、師匠?今日は少し拠る所があるので、急いでいるんですが・・・」
 「そう時間は取らせん。昨夜、私が張った結界に微弱だが反応があった」

 スカサハは、1年ほど前に冬木と川神一帯を覆う感知式の結界を張った。
 あくまでも、魔術関連の存在を感知させるだけのものだが。

 「反応が!?まさかまたシャドウサーヴァントが!」
 「いずれはまた来るだろうが今回は違う。反応があまりに微弱過ぎて、どの3流英霊のシャドウサーヴァントにも劣るほどのモノだった」
 「それでも反応があったんですよね?何所ですか」
 「此処から東にある山中の中腹だ。とは言っても、日が昇ると同時に反応は消えてしまったがな」
 「分かりました。今日の夜は其処へ行ってきます」

 スカサハの言葉にいつになく真剣な顔つきをする。

 「気負いすぎるなよ。この町を守るのはお前の義務では無いのだぞ?」
 「自己犠牲に走り過ぎるなと言いたいんでしょう?解ってますよ、凛との約束でもありますから」

 もうこの話はこれで終わりと感じた士郎は、スカサハに挨拶してからその場を去った。
 士郎を見送ったスカサハは、1人呟く。

 「私から言わせれば、まだまだ突っ走ってるように思えるがな」

 そんな朝のひと時だった。


 -Interlude-


 士郎は今川神学園――――では無く、島津寮前に来ていた。

 「遅かったか。直江達はもう登校に行ったようだな・・・」

 士郎は片手に何時ものカバンを持ち、もう片方の手はドライアイス付き箱を幾つも段重ねで袋に入れてある荷物を持っていた。
 この事から、この荷物を大和達に渡す気だったんだろう。
 そんな途方に暮れてると言うのは言い過ぎだが、立ち止まっていると、寮から卵型の大きな機械が出て来た。

 「さてと、今日も何時もの様に寮の前のお掃除だ・・・・・・・・・って、何方かな?」

 玄関前の掃除を始めようとした卵型の機械――――クッキーは、士郎に気付いて声を掛けて来た。

 「え~と、確か京の話で出て来たクッキーだったかな」
 「ボクの事を知ってて京から話を聞いてると言う事は、君が衛宮士郎君かい?」
 「ああ、合ってるよ。あと、呼び捨てにしてくれていい。――――それにしても、聞いてたよりもクッキーはカッコイイな!」

 今ではしなくなったが、以前はガラクタいじりと言うニッチな趣味を持っていた士郎としては、目の前で動くロボットに感動するなと言っても仕方が無かった。

 「そうかな?けどそんな反応は久しぶりだからね、すごく嬉しいよ!それに士郎も話で聞いてたよりも、中々に男前じゃないか。見る目もあるし、これからはいい関係を築けそうだ!」
 「その様に面と向かって男前と言われるのは照れるものがあるな。・・・・・・って、用があったんだ。会って早々すまないんだが、直江か風間、或いは京が帰ってきたらこれ渡しておいてくれないか?」

 士郎の手からクッキーの手に荷物が渡される。

 「これは・・・・・・ケーキかい?」
 「流石は高性能ロボットだな!見ただけで判るとは!―――京たちは今日、金曜集会だろ?理由については中に手紙が入ってるから明ければわかると思うんだが、兎に角差し入れだ。学校で渡すと俺の事情的に不味かったんで来たんだが、預かって貰っておいていいか?」
 「責任もって、任かされたよ!それにしても聞いていた通り士郎は素直だな。マイスターとか大和は捻くれて来てるから、素直さが最近無くなって憤りを最近憶えてきてたんだけどさ。士郎と話してると気持ちがいいな」
 「そうか?だがクッキーこそ――――」

 この1人と1体は基本的には本心を口にするので、世間話に花を咲かせていた。
 しかし、余りに気が合いすぎたのか、これが原因で士郎は初めて遅刻しそうになった。


 -Interlude-


 ギリギリと言っても出席を取る時には落ち着いて席に座っていたので、周りにも何も詮索される事はなかった。
 士郎は今日ほどでは無いが、今迄も何時もより遅れた事は何度もあった。
 そのどれもが人助けであり、その内の十数回は不良に絡まれていた内の生徒だった。
 勿論、性別男女問わずにだ。
 そのおかげで百代ほどでは無いが、ファンも増えて衛宮士郎様愛好会なども出来たのだ。
 まぁ、それは兎も角、普段通り落ち着いたHR(ホームルーム)をしていると、外から蹄の音が鳴り響いてきたことに気付いた。

 「ん?如何した、士郎・・・」

 昨日もそうだが心の淵は兎も角、表面上の士郎の感情を容易く読み取る事の出来るようになった京極は、士郎に聞く。

 「馬が駆けてくる特有の音が、この学園に近づいて来てるな」
 「馬?・・・・・・なるほど、確かに聞こえて来たな」

 士郎の答えを聞いてる途中に常人の聴覚でも捉える事の出来る範囲に入ったようで、京極を含めた他の生徒も騒ぎ出した。
 それはクラス問わずにだ。

 「おわっ!?何だありゃ?」

 その時、窓際に居た生徒がグラウンドを視界に入れた途端に喚いた。
 それに釣られるように、次々に生徒は窓際に行き、自分達も見に行こうとする。
 その行動に対して3-S担任教師は何も言わない。
 この担任は昼行燈であり、教師の仕事に何も情熱など無いので、問題が起こらない限り見て見ぬふりをするのが何時もの事だ。
 3-S生徒も基本的に問題を起こす生徒など居ないので、自分に干渉し過ぎない担任の行動に嬉しく思っているのが3-S生徒の大半の同一意見だった。
 それは兎も角、窓から見てみると、金髪の美少女が白馬に跨ってグラウンドに登校して来た。
 これに対して「おー」とか「わー」と言う感想で済ませるのは、彼らも川神地域の何でもありの特性にマヒして来たとか慣れてきた証拠だった。
 その後に人力車通学の九鬼主従コンビが来て、ますますカオスになって行った。


 -Interlude-


 それから朝のHRが終わりそうなところでスピーカーから、2-Fで先ほどの転校生と川神一子が決闘をすると言う事で校内が騒ぎ出す。
 この決闘はグラウンドでやると言う事だが、見たいものは見に行っていいと言う許可がクラス学年問わずにある。
 しかし、授業は時刻の変更なく進むので授業の遅刻或いは欠席扱いにはならないが、見に行けば当然授業の内容を途中から聞く事に成るので、そこら辺は自己責任である。
 そして当然3-S及び2-Sの生徒の大半は来ないで授業を受けるのが基本だ。
 士郎も当然ながら決闘には興味もないので、グラウンドには行かなかった。
 その事に不満を持った生徒――――百代は大和にべたべたくっつきながら、頼まれたので解説中だった。

 「――――なるほどね。それにしても義姉さんも戦いたいんじゃないの?」
 「んーー、確かにそそられるモノもあるが、私が今闘いたいと思っている相手はあそこだからな!」

 不機嫌そうな顔で3-Sの教室に視線を送る。

 「衛宮先輩の事?でも、衛宮先輩に借りてる借金全額返さないと、戦ってくれるかどうかの思案もしてくれるか怪しいんじゃないの?」
 「そうなんだよな~。・・・・・・クソッ、衛宮め~~!借金などと言うバリアを作って、私との戦闘を避けるなんて男らしくないぞ、アイツは!」
 「いや、自業自得でしょ?」

 百代は大和の突っ込みを聞かないふりして流した。
 その後、色々あって決闘は無事に終わった。


 -Interlude-


 放課後。
 士郎は朝、スカサハに聞いた地点へ調査しに行くために、急用と言う事で弓道部を休んだ。

 「此処か」

 スカサハが感知したと言う地点に着いた士郎だったが、特に目が付く形跡は何所にもなかった。
 因みに、士郎はある程度周囲に殺気を放ちながら調査していた。
 山中に生息している動物たちを、無駄に怪我をさせたくないと言う配慮によるものだった。
 それでも一応周りを見渡しながら散策していると、スカサハの感知した通り、魔力の残り香を士郎は感じる。

 「・・・・まさか、魔術師か。それなら3流英霊のシャドウサーヴァント以下と言うのも説明できるが・・・・・朝になると存在が掻き消えたと言うし、それだと魔術師と言う答えでは説明できないな」

 士郎は、手掛かりが少ない故に思案する。

 「兎に角、今夜から暫くの間は魔術師としての夜の警備に出た方がよさそうだな」

 そう判断をした士郎は、さっさとその場を離れた。
 今夜から日曜の夜まで、毎週の通りの客が来るからその用意のために買い出しに行くのだった。


 -Interlude-


 日が暮れた夜の事、ある廃ビルにて毎週の通りに金曜集会が行われていた。
 バイトを終えたキャップも合流してから晩ご飯を食べつつ、百代が自分以外にファミリーメンバーに借りた金を返し終えてからクリスの件での議題を話してそれも今終えた。

 「皆、お疲れ様。飲み物でも如何だい?」

 そこへ、クッキーが皆に飲み物を進める。
 自己主張の強いメンバー全員は、断ることなく自分の好みを要求して、これを受け取る。

 「後、皆。士郎からの差し入れがあるんだけど食べる?」
 「士郎さんか?」
 「それ以前にクッキー、衛宮先輩と何時の間に知り合ってたんだよ?」

 大和の疑問にクッキーは、朝のことを話した。

 「――――と言う事なのさ」
 「なるほど」
 「いや、そんな出会いは如何でもいい。それよりもそのケーキってのを早く開けてくれ!まさか、私のは」
 「うん、百代のはこれだってさ。他の皆は好きなものを選んでと言う事らしいよ」

 百代に急かされたクッキーは、文句ひとつなくケーキ箱を彼女に指しだし、残りの箱を他の6人に見えるようにテーブルに置いた。

 「ヤターーーーーー!!ミルクチョコケーキだーー!しかもワンホール!半分は今日食べて、残りは明日食ぉう」

 封入されていた市販のフォークを片手に、百代は目の前の大好物に歓喜する。
 一昨日お預けにされたので、嬉しさもひとしおの様だ。
 そしてそれは他のメンバーも同じだった。

 「おー、開けた瞬間に濃厚なチョコの香りが俺を誘って来るぞ!俺、これにする!」
 「あたしはこのチーズケーキにするわ!月曜日にお礼を言いに行かないとイケないわね!」

 好みに煩い2人は、何の話し合いもせずに勝手に決める。
 まぁ、それ以前に7人それぞれの好みを押さえられていたのか、完全に種類が解れていた。

 「選ぶ以前に好みを押さえられてるね。と言う事で僕のはこのコーヒーケーキかな?甘さ控えめって書いてあるし」
 「そうだね。それに他のケーキに匂いが付かないように配慮されてるのもすごいね。私のはこの赤いケーキだ。流石は士郎さん、よく解ってる」
 「そんな真っ赤なケーキは初めて見たな。けど俺は普通にイチゴケーキだな」
 「俺様はケーキなんて苦手だぜ?」

 皆が喜んでいる中、ガクトだけは敬遠気味だ。

 「でもガクト、これって確か、生姜で整えられた豚肉×ケーキのコラボレーションだよ?」
 「うげ!?それって食えんのか?」
 「ガクトが知らないだけで、こういうのも最近じゃ出始めてるよ?それでもって言うなら僕が持ち帰って食べるけど?興味あるし」

 ガクトの拒んだ様子にかこつけて、モロは自分の方で確保しようと動く。
 しかし、人様が好意で作ってくれたものを拒まないことを基本としているガクトとしては、それも出来る筈も無かった。

 「いや、いい。俺様も男だ。覚悟を決めるぜ!あむっ!・・・・・・・・・・・・って、超うめぇえええ!!」
 「ホントに!?あたしにも食べさせなさいよ!」
 「お前は自分のがあるだろうが!これは全部俺様が食う!」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ始める馬鹿2人。
 そんな2人に構わず食べ進めていた百代が、蓋の裏についていた手紙に気付く。

 「ん?何だ、これは?」
 「あー、それは確か、士郎が百代に向けてのあるメッセージが書いてあるって」

 百代が手紙に気付いた処で、クッキーが説明する。
 百代としては直感的に嫌な気がするのだが、今こうして好物を食べているので、読まないわけにはいかないだろうな~と考えながら手紙を開いて読む。

 『川神へ 俺は一昨日のお前の態度で決めた事がある。お前の我儘っぷりをこれ以上許容する事はマイナスと捉え得た。そこで来週の月曜から早朝に来い(・・)。毎日俺1人で熟しているが、川神には玄関口及び庭の掃き掃除をしろ。それで毎日ちょっとずつ、俺が肩代わりして来た借金を減らしてやる。あー、いい訳なら悪いがさせないぞ?鉄心さんにもすでに許可は取ってあるから、お前自身の朝の鍛錬もうちの庭でやればいい。もし来ないのであれば今日明日と言う気は無いが、1週間後までに借金を全額返してもらう。そして最後に、戦いはしない。一切にだ』

 これを読み終えた百代は、プルプルを震えだした。

 「義姉さん?」
 「お姉様、如何かしたんですか?」

 周りが百代を心配する中、当人は気にせずに咆哮する。

 「えぇええみぃやぁああああああぁああああああ~~~~!!」

 今では武神と呼ばれる彼女が、負け犬の様に明後日に向かって負け犬の遠吠えをする。
 しかし、主観的な不条理にあっても、今の武神には為す術がなかった。


 -Interlude-


 武神・川神百代が吠えた相手は今、自宅の厨房で次々と夕食の調理を終えている所だった。

 「準、これも出来たから運んでくれ」
 「うっす」
 「シロ兄ぃ、ボクは~~?」
 「なら、取皿とコップを運んでくれ」
 「わっほほ~い!」

 士郎の指示により、準と小雪が夕食の準備を手伝う。
 何故2人が夕食時に居るかと言うと、昔に士郎と藤村組に助けられた日から衛宮邸は3人にとっての避難先だった。
 それから月日を重ねて3人とも落ち着いた生活に戻った後も、週末には定期的に衛宮邸にお邪魔しては寝泊まりをするようになったのだ。
 風間ファミリーで言う金曜集会の様なモノだ。
 そんな3人の内の2人と入れ替わる様に、暖簾から大河が顔を出す。

 「士郎、私お腹減ったから食べてイイ?食べたい、食べるわよー!」
 「全部揃うまで我慢しろよ、藤姉ぇ。早く食べたかったら手伝ってくれ」

 士郎の正論に、ぶつくさ呟きながらも完成した料理を運んでいく。
 因みに3人の内の最後の1人である冬馬は、運ばれてきた料理を置く場所を考えながら整理している。
 そうして完成した品を全て運び終えたところで、最後の1人が今に到着した。

 「アルバさん!」
 「今夜もお邪魔してます」
 「ああ、よく来たな。今更だが好きに寛げ」

 アルバと呼ばれた女性はスカサハだった。
 彼女はサーヴァントでは無いが、真名を隠さずにそのまま呼ぶと、その手の知識を持った魔術関連の者達にどの様な手を使われて周囲の一般人たちを騒動に巻き込まれるか知れたモノでは無かったため、偽名のアルバで通している。
 彼女がスカサハ本人である事は、士郎と藤村組の魔術関連を知るごく一部の人間のみだ。
 そんな彼女と言えば、まるで自分の自宅の様な物言いの上に、振る舞う。
 しかし、本来の家主である士郎はその辺の事を余程の事が無い限り気にしなかった。

 「よし、みんな揃ったし、食べよう」
 『いただきまーす!』

 士郎が了承した途端、我先にと大河と小雪が狙っていたおかずをつまみながら爆食いしていく。

 「おいおい、ユキ。そんなに慌てて食べると、喉を詰まらせるぞ?」
 「大河さんも少しは落ち着いた方が良いと思いますよ?先週それで、喉に詰まらせたんじゃないですか?」

 準と冬馬は早食いを辞めない2人を窘め乍ら、自分達も料理に箸を付けていく。
 そんな4人には我関せずと言わんばかりに、スカサハはいつの間にかに取皿に取っといた料理の数々をマイペースに口に運んでいった。
 この5人の相変わらずぶりに今更ながら苦笑する士郎も、箸を進めていく。
 この団欒が、この穏やかな日々こそが、凛が士郎に埋没して欲しい光景なのだろう。 
 

 
後書き
 私はクッキー1とクッキー2が好きですが、女性化とかいらんでしょ?と、個人的には思ってます。
 肉ケーキですが、肉をケーキの様にデコレーションした奴では無く、ケーキの中に肉が入ってるのです。私も知り合いが作ったそれを見た時、罰ゲームか何かの食い物だと思ったのですが、食べてみたら意外とイケました。
 但し、作者は作れません。作者の調理技術は、日本の庶民の基本料理位しか作れません。アレンジ?何ですか?それ。知らん子ですね。 
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