リアルアカウント ~another story~
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account 4 そ、その力は不味い気が……
明らかに異常事態なのは皆が判っている事だ。
何故なら、人がおかしな空間の中に囚われてしまうと言う異常。
そして、簡単に人が死んでいく、それは現実でも同じだ。簡単に無数の人達が死んでいくという異常。
そして、薄っぺらな関係だと嫌でも認識される人と人との繋がり、間接的にとは言え 信頼していた、と思っていた相手に殺されると言う異常。
そして、今場を支配しているのはまるで別物だった。
「ははははっ! どうだ? お前、熱くなってたようだからよぉ ……冷ましてやったぜ?」
陽気な笑い声だけがこの場に木霊していた。
周囲には、人間の死体が無数に転がり、夥しいまでの鮮血。それらが飛び散っていたと言うのに、誰もが気にならなくなっていた。
マーブルは、信じられないような表情。マスクをかぶっていると言うのにはっきりと判った。
「………だよ」
凍った長い手を見つめながら、小さく呟いていた。
――……何が起こっているのかが判らない。
それは、恐らく、この場に無理矢理に連れてこられた人間達全員が思っていた事だろう。
この時、主催者側が初めて、同じ様な事を思っていたのだ。
「なんなんだよ! お前はぁぁぁぁ!!!!」
伸びきった腕は、凍結をしている為に、己の手元に戻す事が出来ない。
無理矢理に、その右腕を切り落とすと、反対側の手、左手を伸ばし、ヤツの首を切り掛ろうと再び伸ばし、しならせた。
「懲りねぇヤツだな。まだ必要か?」
伸びる手は確実にあの男の首を狙っているが……、致死的な攻撃をしているというのにも関わらず、明らかに余裕の笑み。
そして、狩りを楽しむ様に、絶対的な上の立場である事を自覚し、見下していた人間に、心底恐怖した。
「えっとぉ、こう、かぁ?」
右掌を上に向けて、呟く。
「えー……っと、《部屋》」
そう呟いたと同時に、突然 その掌から、円が現れた。それは、マーブルが立っている場所をも包み込んでいく。彼の領域を作り出した。
(それって……)
(は? はっっ??)
(い、いやいや、此処でって、なんかまずい気が……)
(それに じゃ、若干、構えが違う……)
周囲で唖然として見つめていた男達は、彼が何をしようとしているのか、大体把握した様だ。いや、把握 というよりは、連想させた。それは 某国民的漫画として名高いモノであり、……正直な所、この世界には ちょっと まずいかなぁ? と思ってしまうもの。
そんな事を考えているプレイヤー諸君。今置かれている立場を忘れてしまった、というのだろうか? とりあえず、それは置いといて、彼はそんな事は全くおかまいなしに、続けた。
「ほら。切断っ!」
「ファぁっっ!!!!」
左手で手刀を作ると、無造作にマーブルのいる方へ向かって斬る仕草をした。
その瞬間に、まるで 空間そのものが切り離された? と錯覚してしまうかの様な感覚に見舞われた。そして……その裂かれた空間の中心にいた《マーブル》に現れた現象は……。
「な、お、オレが……まっぷたつ!??? な、なんで生きて……って、それはぁぁ!! その能力は!!!」
1人ノリツッコミでもしている、というのだろうか? 怒ったり、騒いだり と随分と忙しい様子だ。
「うっさいなぁ……、ちっとは冷静になれって。おめぇが突っかかってこなきゃ、本来ヤルつもりは無かったンだぜ?」
「お前が言うな!! そもそも、冷静さがなくなったのは、お前が来たせいだろうが!! いったい何なんだよ! お前は!!」
「だから、オレは楽しむ為に来ただけの存在、だ。ははっ! 支配者をからかってやるのが一番おもしれーだろぉ? こーいう《ゲーム》ってヤツぁ!」
左手、そして右手を巧みに振り回すと、マーブルの身体がまるで木ノ葉の様に宙に舞った。そして……、最終的にはこの世界に来た時にまっさきに目に入る、中央の上空に備え付けられている地球儀の様な円体に貼り付けられた。
「べふっっ! って、なんで、そんなマネができ……! っつーか、この原作で、別社の能力使ってんじゃねぇーーーっっ!!」
「ん? そーなのか?? 電子媒体で色々かっちょよさそうなの、てきとーに見繕って再現してやっただけだが、ま、いっか。それに、大分口調が変わってンな? いい感じだ」
指をぱちん、と鳴らすと、接合されたマーブルの体が、落ちてきた。どしゃっ! っと言う衝撃音。
「さて、どーする?」
「……ぐぐ、く、クソが! 出てこいマーブル兄弟!! この非常識野郎を退場させろ!!」
上半身のみとなったマーブルが、手を上げたと同時に、これまた何処からやってきたのか……、無数のマーブル。同じ仮面をかぶった連中が飛びかかってきた。違うのは体型が其々違う事だけだ。
「最初はそう言う趣向で来るンだろうな……、まぁ イイや。飽きるまで相手してもらおうじゃん」
喜々としながら、構えるこの男。
そこから先は、まさに怒濤だった。
気になるのは……あの男が使ってる力? である。それは、所謂似ているのだ。……というより、殆ど同じ能力を繰り出し続けている。
己の身体から、氷を出して、いや、身体そのものを氷に変えたかと思えば、今度は、拳から炎を出して、いや 炎の拳、火の拳を繰り出したり、……身体そのものを炎にしてみたり、マーブルの攻撃がたまたま当たったかと思えば、その身体は実体がなく、すり抜けたり。流動する身体を捕える事ができなかったり。
あまりに、著作権が……ではなく、ちょっとそぐわない様な気がする。コテンパンにされるマーブル達もそれは思っていた様であり、次第に能力? を変えてきている。
《火を口から吹いて》みたり、《氷を作り出して造形をして》みたり、と。まるで、何処かの魔道士の様に。
ちゃんと、世界に合わせて?きていた様だった。
「んー、まぁ こんなもんだな。……とりあえず、それなりに楽しめた様だ」
腕を軽く振って、そう言う男の周囲には、現れたマーブル達の残骸が広がる。
言っておくが、全員死んだ訳ではなさそうだ。痙攣しているものの、この倒れているマーブル達が、プレイヤー達に攻撃した様な致死性は彼が繰り出した攻撃には無かったから。
突如、始まったゲーム。……沢山の人を死に追いやった理不尽なゲーム。
そのゲームは、その始まった衝撃を残したまま、同じ位の衝撃を起こし……。
――お、終わった? これで 帰れるのか……?
それは1人の男が呟いた。
いきなり、ゲームをする。
それは、伝染するかの様に周囲に渦巻く。当然だとも思える。元凶が倒れているのだ。この有り得ない世界でゲームをするというのであれば、その元凶のマーブルが死に絶えた、というのであれば、物語は終了だから。
「お、終われるんだぁぁ!!!!」
「あ、ありがとうっっ、ありがとうぅっっっ!!!」
「アンタのおかげだっっ!! ほんとにありがとうっっ!!!!!」
最初は小さかった伝染したそれは、大きく、まるで津波の様に場を飲み込んだ。
それを、眺めた男は、何やらつまらなそうな顔をした。
「――……なんかお前ら、勘違いしてね?」
解放されると、信じて疑わなかった面々は、その言葉が意味するものが全く判ってなかった。ただただ、終わりを告げた、と思っていたのだから。それだけは疑い様が無かった。
「オレを、マーブルが殺す様なこたァ出来ねェが、お前らは別だぜ? オレは、ただ楽しんでるだけ。ゲームを進行させンのは、あくまで向こう、だ。だから、今その……フォロアー? ってヤツが0になりゃ、死ぬのはそのまんまだ」
冷静に、あっけらかん、と返す。
男は、自身のポケットの中に入ってるケータイを取り出すと、これ見よがしにみせつけながら。
「死なねェのは、あくまでオレだけ。せいぜい気を付けろ」
悪夢の宣告だった。
助かると思ってたのにも関わらず、だ。まだ、助からない。いや 始まったばかりだと言う事を再認識させられたのだ。
「そ、そんな! お前が、あいつらボコボコにして、強制的に終わらせりゃいいじゃんっ!!」
「そ、そうよ! おねがい!! お家に帰りたいのっっ!!!」
懇願をしてくるが……、あいにく、出来る事と出来ない事がある。というより、彼はするつもりが無い、のかもしれない。
「無理。ゲームそのものをぶっ壊すのは、お前らプレイヤーと運営側の勝負って訳だ。オレは、あいつらからかう程度しか出来ねぇ。つか、できたとしても、やらねぇ」
「えええ!!」
「とーぜんだろ? ……オレぁ 《楽しみに》此処に来たんだ。始まって数分やそこらで終わらすなんて、もったいねぇ真似はしねぇって事」
完全に遊んでいる。
自分たちの生死さえも、遊びの範疇でしか考えていない、という事が判った。
「ふ、ふふ、ふざけるなよぉぉぉぉ!! お、お前のそんなむちゃくちゃなちからがありゃ……」
「そ、そうだぁぁぁ!!! なんとか、なんとかしやがれよぉぉぉ!!!!」
「帰して、帰してよおぉぉぉ!!! し、死にたくないぃぃぃぃ!!!」
他力本願も良い所だと思うが、これは仕方ない。どんな人間であろうと、生死の関わる事態に放り出されて、希望の糸を目の前に垂らされたら……掴むだろう。それも必死に、死に物狂いで。それが、他人を押しのけなければならないのであれば、己の命を優先させる。どんな聖人君子であろうと、それは変わらない。
――どんな世界でも。
「ぁーぁー、うっるせぇなぁ……」
男は、耳の穴に指を突っ込んで、ボリボリと掻いていた。
若干、いらっときていた様だから、これ以上何かを言おうものなら、黙らせ(強制的に)様と思っていた矢先だ。
「ちょ、ちょっと待ってって。皆。落ち着いて」
1人の男が、この場に割って入ってきた。
「今は、この状況の事を考えよう。この人、『やる気無い』って言う前にはっきりと『できない』って言ったんだから。それ以上 何を頼んだって無理だ。……それに、結果的には助けてくれたんだから。この映像、リアルタイムで見られている。……あの異常なマーブルを圧倒したこの人がいてくれたら、少なくとも、命懸けで残ってくれた人達の安心にもつながると思うんだ」
この修羅場に置いて、冷静に考える事ができ、且つそう提案をする。中々出来る様な事ではない。何より、提案した彼はヒシヒシと感じていた。
殺気、というものを、彼から。
「ひゅ~……♪ なんだ。話の判るヤツ、居るんじゃん。 ま、こんだけ人間が集まりゃ、1人くれーはな……」
ぐるり、と見渡した後、倒れているマーブルたちの方を見た。
「んで、お前らはいつまで寝てんの?」
そう言ったと同時に、焼かれた筈のマーブルが、凍らされて、片腕を失ったマーブルが、立ち上がったのだ。
「う、ググググググ!!!」
誰もが怒りを感じていた様だが、これ以上は不毛なのだろう事は理解していた。
そして、何よりこの男の言葉に着目したのだ。
そう、『ゲームを楽しむ』という部分だ。
『ゲームを邪魔する』じゃない。『楽しむ』
「一先ず、アンタ、無視する。はい さんーーにぃーーいちーーっ ぜろっ!」
無理矢理感はあるが、マーブルの内の1人。比較的五体満足なマーブルが立ち上がると。
「妙なバグが起こりましたが、さっさとゲーム本戦へと参りますよーーー! キミタチも、そこの人は ギミック、と思って無視してくださいね~~~~。これ、注意事項ですよーーー!! やぶったら、ざくっ! っとイっちゃうかもですよーーーーっ そこの人は 不死身かなんか知りませんが、他のプレイヤーさん達はあっさりと殺れちゃうんですから、忘れない様に~~~」
なんとも気の抜ける様なセリフだが、そう聞こえるのは『彼』だけだ。他のプレイヤー達は笑えない。
終わらないから。……これから、始まるのだから。
「へっへへ…… さぁて、どーんなゲームがあんのかなぁ……?」
ただただ、その男だけが、ワクワクと期待に胸を躍らせるだけだった。
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