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真田十勇士

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巻ノ二十六 江戸その一

                 巻ノ二十六  江戸
 幸村主従は武蔵に来た、その武蔵はというと。
 遠くに村が見える、しかしだった。
「これはまた」
「うむ、聞いていた以上じゃ」 
 猿飛も根津も唸って言う。
「見渡す限り野原でな」
「何もないぞ」
「遠くに村が見えるが」
 由利も言う。
「しかしな」
「その村も少ないな」
 海野が由利に応えて言った。
「やはり」
「どうにもな」
「川が多いが」
「しかしその川もです」
 伊佐が望月に言う。
「堤も橋もなく」
「ただあるだけか」
「ここに来るまで城もあったが」
 清海はその大きな首を傾げさせている、そのうえでの言葉だ。
「そこの城下町と街の幾つかと村以外は」
「何もない、そんなところじゃな」 
 霧隠も言った。
「武蔵は」
「河越城とその周り以外は」
 筧が言うことはというと。
「何もない、そんなところじゃな」
「では江戸に行くが」
 幸村は武蔵の何もなさに呆然とさえしている家臣達に言った。
「そこもな」
「はい、この様な」
「何もない、ですな」
「そうしたところですな」
「おそらくは」
「そうであろう、一応江戸城はまだあるが」
 このことはわかっている、江戸城自体はあるのだ。
 だがその江戸城についてだ、幸村はこうも言った。
「しかしな」
「はい、武蔵の中心は河越です」
「河越城にあります」
「ですから江戸城は」
「あるにはあっても」
「ほぼ廃城らしいからな」
 北条家の城になっているがだ。
「見てもあまりどうとは思えぬであろうな」
「ですな、やはり」
「この武蔵自体がそうですし」
「何もない」
「そうした場所ですな」
「そうであろうな、しかしな」 
 幸村も武蔵の原を見回している、そしてこう言った。
「この武蔵はしっかりと政をすれば変わるな」
「この何もない国がですか」
「変わりますか」
「平野になっていて川が多い」
 幸村は言った。
「そして南に海、東にも川、西が開けていて北には山がある」
「関東全体を見てのことですな」
 筧は彼の学識からだ、幸村の今の言葉を察した。
「それで、ですな」
「そうじゃ、まさに四神相応の地」
「都と同じく」
「だからこの国はよく治めれば」
 そうすればというのだ。
「栄える」
「では、ですな」
「この国は栄える」
「そうなると」
「そう仰いますか」
「拙者はな、そう思う」
 こう言うのだった、そしてだった。
 幸村はあらためてだ、一同に言った。 
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