ヴァンパイア騎士【黎明の光】
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風紀委員の職務
13
「ハッ、新生守護役の力ってこの程度かよ。それじゃ、いただきま――す」
至近距離で開く、大きな口。
あれはいつだったか、遠い昔誰かに読んでもらった童話――そう、赤ずきんちゃんに登場する狼のようだ。
唾液の糸を引く唇。赤く充血した舌。そして、月明かりを受けて覗く二本の鋭い凶悪な牙。
まるで澪の武器のように鋭いその刃は姫羅の首筋に押し当てられ、鮮やかな血が滲み始めたのを視界に認めた瞬間――
「いやぁ―――――ッ!」
「うぐッ!」
姫羅の悲鳴と、男が呻いたのは同時だった。
あれ以上鋭い痛みが襲ってくる事もなく首筋に穿たれた歯牙は外れ、そのまま男は地面に崩れ落ちた。
見ると、胴体と首が無惨に切り離されていた。
崩れ落ちたのは首で、胴体はゆっくりと、後ろのめりに揺らぎ――背中から地面に叩き付けられた。
切断面から噴き出した血が地面を汚していく。男の拘束から解放され、自然と姫羅はその場に座り込んでいた。
……恐怖のあまり、涙が出ない。
牙を打たれた首筋が風に晒され、今さら痛み出した。
震える手をそこに添えると、ぬるりと何か生温かい感触が伝わった。掌を目の前に持ってくると、血が付いている。
抑えを無くした事で流れ出した自身の血が、鎖骨を伝って流れ落ち制服のシャツを濡らした。
感覚でそれを感じ取りつつも、姫羅は足元で朽ちている男から目を離せない。
また動き出して、襲われたら困るから?――違う。この男が起き上がる事は二度と無い。
姫羅の予感を証明するように、死体は朧気な光に包まれ、そのまま塵と化した。
「姫羅」
そこまで見届けてから、名前を呼ばれた。
ゆっくりと振り返ると、先程まで姿が見えなかった澪が立っている。
手には短刀。諸刃には赤い何かが付着していて――足元の水溜まりに、一滴零れ落ちる音が響いた。
澪の姿を認識してわかった。
自分があの男から目を離す事が出来なかった理由が。
それを理解した瞬間、視界がぐらぐらと揺れた。吐き気がする。
「……白い、制服……」
それを言い残し、姫羅は意識を手放した。
その身体が完全に倒れてしまう前に澪が駆け寄り、その柔らかい肢体を受け止める。
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