ヴァンパイア騎士【黎明の光】
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風紀委員の職務
7
「今日は抱っこして運んでくれないのね」
「散々寝たんだから歩けるだろ……」
甘えるようにじゃれつく姉と、呆れたように返す弟。
つくづく美しい姉弟だと思う。
結局姉の駄々に澪が応じなかったため、今度は三人で廊下を歩く。
澪と姫羅、二人で歩いてきた時よりも更に夕暮れは深まり、今や通路に設置されている照明の方が進行の力添えになっている。
「【月の寮】へは確か…裏庭から向かえたはず……」
黒主学園の敷地は広い。
澪が窓の外に目を向けつつ呟くと、すかさず姫羅が反応を示した。
「詳しいね、澪くん」
「……朝姉さんを救護室に送るために散々歩き回った」
はあ、と深いため息と一緒に返ってきた答えを聞いて、姫羅は苦笑する。樹里愛が同行している手前、どうコメントしたら良いのかわからない。
当の樹里愛は気分上々といった様子で微笑んだ。
「良いじゃない。校内を案内される手間も省けたでしょう?」
「今さら案内なんてされなくても、ここの構造はだいたいわかってるけど……」
その会話を聞きながら、姫羅の頭にとある事が浮かぶ。
この二人は以前ここを訪れた事でもあるのだろうか。何だかそんな口振りだ。
だが、野暮な質問をする訳にはいかない。
引っ掛かるものはあったけれど、それを無視して姫羅は裏庭に繋がる両開きのドアを開いた。
途端、ビュウ、と強い風が三人の鼻先を舞い上がり、思わず目を瞑る。
反射的に後ろに身を引いてしまい――誰かの温もりが背に伝わった。
旋風の退散を待ってから瞼を開き、温もりの主を振り返ると無表情で姫羅を見下ろす澪の姿が目に入った。
風によって突き動かされた姫羅の肩に澪が腕を回す形で身体を支えてくれていたのだ。
「ご、ごめんね!大丈夫?」
慣れない状況に頬を赤らめ、澪と距離を置くように飛び退いてしまう。
その反動で裏庭に尻餅を付いてしまった――けれど、この際お構い無しだ。
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