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硝子の心

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1部分:第一章


第一章

                        硝子の心
 高梨清香は高校生だ。背が高く髪は黒のロングヘアである。顔は細長く垂れ目である。その垂れ目がとにかく目立っている女の子だ。
 学校の中では明るい女の子と言われている。しかし友人達の間では今一つ困ったところがあるとされていた。そしてそれには理由があった。
「あの娘またなの?」
「そう、またなの」
 女の子達が困った顔で廊下で話をしていた。
「休むって。学校」
「今度は何が原因なのよ」
「何でもね」
 その原因について話されるのであった。
「あれらしいわ。昨日江里子と言い合ってたじゃない」
「ああ。あれ?」
「あれって清香が悪かったんじゃないの?」
 皆はそれを聞いて言うのであった。
「あの娘が江里子に言ったんじゃない。イヤリングがどうとかって」
「それだけれどね。ほら、江里子って」
 その江里子という女の子についても話される。
「気が強いじゃない。それもかなり」
「まあ確かにね」
「あの娘はね」
「それでね。ついつい言い過ぎて」
 こうしたことは非常によくあることではある。女の子の世界だけに限ったことではない。
「それで。清香言われてすぐに泣き出して」
「それで、なのね」
「そうなの。それでなのよ」
 こう話されるのだった。
「大泣きしてその場から逃げて」
「学校休んでるのね」
「いつもみたいにね」
 これがいつもだとも話された。
「今頃また自分の部屋で落ち込んでるわよ」
「やれやれね」
 皆それを聞いて溜息をつくのだった。本当はつきたくはなかったがそれでもつかざるを得なかった。そんな清香のことを考えるとであった。
「いつものこととはいえね」
「あんなので大丈夫なのかしら」
「さあ」
 そのことについて誰も確かに言うことはできなかった。
「何か言われたらすぐに落ち込んでばかりだし」
「普段は鬱陶しい位にお喋りなのにね」
 これが清香だった。普段はとにかく口やかましい普通の女の子なのだ。しかし一旦落ち込むとそのまま何処までも落ち込んでいく。この辺りが実に厄介なのだ。
「自分が悪いことでも何か言われたら落ち込んで」
「しかも何処までも沈んでいくし」
 所謂波が激しいのである。
「あれじゃあ。ちょっとねえ」
「せめてある程度で止まってくれないと」
 皆そんな彼女のことに呆れていてそれでいて心配だったのだ。実際にこの日彼女は自分の部屋の中に引き篭もっていた。ベッドの中に寝たまま起き上がろうとはしない。
「ねえ清香」
 部屋の扉の向こうから呼び掛ける声がした。
「大丈夫なの?」
 母の声だ。だが清香は返事をしない。
「御飯。ここに置いておくからね」
 やはり返事をしない。御飯はそのまま扉の前に置かれた。清香はそれはわかったがやはりベッドの中から起き上がろうとはしなかった。その日はそのまま一日を過ごしてしまったのだった。
 その日の夜もベッドから出ようとはしない。母は結局御飯に一切手をつかなかった娘を心配した。しかしそんな母に夫である清香の父が言うのだった。
「放っておくしかないな、それは」
「またそっとしておくしかないっていうの?」
「言ってもな」
 こう言って首を振る父だった。
「どうしようもないからな、清香にはな」
「そうなのよねあ」
 母も溜息と一緒に言うのだった。
「昔から。何かあったらすぐに落ち込んで」
「暫く起き上がるまではな。そっとしておこう」
「わかったわ。けれど」
 母はここでまた溜息を吐き出した。
「大丈夫なのかしら、これで」
「生きていけるかどうかか」
「そうよ。あんなに気が弱くて」
 清香の友人達と同じことを心配しているのだった。これは母親だけあって彼女達のそれと比べてもかなりのものであった。実の娘のことだからだ。
「これから。本当に」
「どうにかなってもらうしかないな」
 父も心配する顔であった。
「あいつにはな。けれどな」
「昔からなのよね」
 また困った顔を見せる母だった。
「本当にね」
「そうだな。どうしたものかな」
「せめて。ある程度で落ち込むのを止まってしまって」
 母の言葉はここでも清香の友人達と同じことを言っていた。
 
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