レディース先生
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5部分:第五章
第五章
「ただ。今はね」
「バイクですか」
「それに凝ってるんですか」
「そうよ。今はバイクよ」
楽しげな笑みを浮かべて言った。
「今日もかっとばすわよ」
「今日もか」
「そうするんですね」
「相手もいるし」
そしてだ。このことも言うのだった。
「相手もね」
「相手って?」
「誰ですか、それ」
「ライバル登場ですか?」
「そういうところね」
笑みはそのままである。楽しげなもののままだ。
「だから今はバイクよ」
「先生らしいですね」
「全く」
「その辺りは」
皆それを聞いてだ。納得した顔で頷く。
「とてもよく」
「何ていいますか」
「何てって?」
先生はそれを聞いてだ。その眼光を鋭くさせていた。
「何が言いたいのかしら」
「いえ、何もありません」
「何もないですから」
「気にしないで下さい」
生徒達は皆その眼光に負けてしまった。やはり強い。
「けれど。張り合いが出てるんですよね」
「それってかなり」
「いいことなんじゃ」
「そうよ。今毎日が充実してるわ」
笑顔にだ。それが実際に出ていた。
「バイクで風を切るのも。楽しいものよ」
「まあ頑張って下さい」
「そういうことで」
「さて、と」
先生は生徒達の言葉を受けながらだ。そのうえで言う。
「行くわよ、またね」
こうしてまたバイクに乗って津上とかっ飛ばすのだった。それはもう若かった時と同じであった。完全にヤンキーだのレディースだのの時だった。
そしてその中でだ。先生の顔はさらに生き生きとしてきてだ。
そのうえで津上と一緒にいた。この日も二人で夜の道を走っていた。
それが終わった夜のファミリーレストランでコーヒーを飲みながら。津上は言ってきた。
「実はさ」
「どうしたの?」
「俺昔は街道レーサーだったんだ」
このことを話すのだった。
「実はね」
「そうでしょうね」
それをわかっていたかの様に返す。
「そんな感じね」
「あっ、わかるんだ」
「わかるわよ。その走り方でね」
そこから指摘した先生だった。
「大体のことは」
「それでそっちはあれか」
「わかるのね」
「わかるさ、レディースだよな」
津上からの言葉だ。向かい合って座る窓際の席で話をしている。
「そっちだろ」
「やっぱりわかるの」
「何となくだけれどな」
それでもわかるというのである。
「その走り方でね」
「成程、それでなのね」
「わかるさ。しかしそれでもな」
「それでも?」
「いいものだよな」
津上はコーヒーを右手に笑顔で述べた。
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