戦国異伝
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第二百三十八話 幕府その五
「本家が将軍の位を継ぐがな」
「そのご嫡子が」
「奇妙と奇妙の血筋がな。しかしじゃ」
「奇妙様の血筋がですな」
「絶えた時じゃ、その時のことはもう決めてある」
「といいますと」
「三つ家を置いてな」
そしてというのだ。
「その三つの家のどれかから将軍を選ぶ様にしておく」
「その三つの家からですか」
「一人な」
「そこまでお考えですか」
「血は時として絶える」
信長はこのこともわかっていた、そのうえでの言葉である。
「源氏の様に極端な場合もあるがな」
「源氏ですか」
「あの家はお互いに殺し合い過ぎた」
その源氏の中でだ、源為義の血筋即ち源氏の嫡流のことである。
「そして誰もいなくなった」
「それこそ」
「だから鎌倉幕府もじゃ」
「源氏の血が完全に絶えて」
「後は宮将軍となったな」
「北条家が執権となり」
「そうならない為にじゃ」
だからこそというのだ。
「室町幕府も六代将軍の時に揉めたな」
「義教公の時に」
「そうなりましたね」
「あの時はくじ引きで決めました」
出家していた三代将軍義満の子達からだ。
「その結果決まりましたが」
「義教公はです」
「どうにも」
「あの方は」
「大悪将軍であられた」
信長も言うのだった。
「わしもあそこまではじゃ」
「出来ませぬな」
「あの方はあくまで苛烈でした」
「苛烈に過ぎました」
彼なりに揺らいでいた幕府の権威を立て直し権勢を取り戻すことにより天下を安らかにしようと思ったのだ。だが。
信長もだ、彼についてはこう言った。
「あの方のやり方はよくなかった」
「実に、ですね」
「恐れられ血を流させるだけで」
「天下万民が怯え」
「幕府は人心を失いました」
かえってそうなったとだ、蘭丸達も言う。
「守護大名達にも血で挑み」
「鎌倉公方様のご子息まで殺され」
幕府に叛意を見せていた彼のだ。
「そして赤松家にですね」
「招かれ殺されました」
「あれではああなる」
信長も言うことだった。
「苛烈、血によってのみ挑めばな」
「返って来るのは血」
「まさに因果応報」
「義教公にしても」
「政は確かに厳しいことも必要じゃ」
信長もわかっている、このことは。
「だからわしも罪人は何処までも追い処断しておる」
「悪者を逃しのさばらぬ様にする為」
「そして悪者はこうなるという見せしめの為」
「そうされていますな」
「その通りじゃ、しかしな」
それでもとも言うのだった。
「あの方は厳しいというより苛烈でじゃ」
「苛烈ばかりであられ」
「仁のお心がなかった」
「そうした方でしたが故に」
「ああなられたのじゃ。あれはよくないわ」
とても、というのだ。
「首と胴が離れるのも当然じゃ」
「ああなってもなりませぬな」
「決して」
「そしてその為にも」
「後のことは定めておく」
嫡流がいなくなった時にも備えてというのだ。
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