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戦国異伝

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第二百三十八話 幕府その三

「あの者のことは頼むでおじゃる」
「では近衛殿は」
「御所のことは任せるでおじゃる」
 即ちこの場のことはというのだ。
「帝、皇室は麿達が命にかえてもお護りするでおじゃる」
「お願い致します」
「織田殿は天下を泰平にされるでおじゃる」
 魔界衆を倒し、というのだ。
「それをお願いするでおじゃる」
「お任せ下さい」
 信長は近衛に確かな声で応えた、そしてだった。
 信長は帝の御前に案内された、帝は部屋の御簾の向こうにお影だけが見える。その御簾の左右に公家達が控えている。
 近衛は部屋の入口に入ってそこに座した、信長もまた。
 そのうえでだ、二人で深々と帝に頭を垂れてから言った。
「前右大臣源三郎信長殿をお連れ致しました」
「有り難うございます」
 帝からお言葉が返って来た。
「さすれば」
「はい、これより」
「前右大臣を朕の前に」
「畏まりました、では」
 近衛は頭をやや起こして信長に顔を向けて言った。
「前右府殿」
「はい、それでは」
 信長も頷いてだ、そのうえで。
 自ら帝の御前に来て頭を垂れた、そのうえで。
 名乗った、帝はその名乗りを受けられてからだった。
 信長にだ、御簾の向こうから言われた。
「この度無事で何よりです」
「有り難きお言葉」
「そして」
 帝はさらに言われた。
「朕と皇室、公卿達の命を救ってくれたこと」
「そのことも」
「功です」
 まさにというのだ。
「天下一統とこの功多大です、そして」
「私にですか」
「授けるものが二つあります」
 その二つはというと。
「まずは太政大臣の官位をです」
「下さいますか」
「そうです、そして」
 さらに言われる帝だった。
「征夷大将軍に任じます」
「有り難きお言葉」
「天下の泰平を守ることが」
「私の役目であると」
「そうです、だからこそ」
 将軍になることを許してというのだ。
「この天下のことを任せます」
「さすればその様に」
「働いてくれますね」
「はい」
 信長は帝に約した。
「そのことを誓います」
「では魔界衆を倒し」
 そしてというのだ。
「天下を泰平に」
「それでは」
 信長は帝に誓った、そしてだった。  
 御所において太政大臣の官位だけでなく征夷大将軍の任も受けた、こうして信長は正真正銘の天下人となった。
 このことはすぐに都に知れ渡った、それで都の者は信長が馬で行くのを見て言った。
「これからはお籠じゃな」
「うむ、お籠で進まれるな」
「公方様となられたのじゃ」
「太政官様にもな」
「それならばじゃ」
 まさに天下人となったからというのだ。
「最早馬に乗られる織田様を観るのも最後か」
「名残惜しいのう、そう思うと」
「織田様が馬に乗られているお姿はよかったからのう」
「だからな」
「もう観られぬのはな」
「残念じゃ」
 このことは寂しく思う、しかしだった。
 信長が将軍、そして太政大臣になったことは心から喜ばれた。それでだった。 
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