衛宮士郎の新たなる道
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第5話 男のロマン
翌日。
衛宮家の朝は早い。
士郎は、毎朝4時に起きてから川神院で行われている朝練レベル以上の鍛錬を1時間丸々使い、その後は洗濯と並行して掃除を行う。それも、衛宮家の屋敷全体(誰かの荷物が置いてある部屋を除く)を1時間以内に完璧に終わらせている。
そこから朝食づくりに入り、6時半には食卓に何時も通りに士郎手製の朝食が立ち並ぶ。
全国の情報を取り入れる為に、衛宮家では食事中にテレビを付けても良い事になっている。
そして今日もテレビを付けながら食事をしていると、日本のこれまでの常識を覆す新たな政令が立法されたと言うニュースが流れて来た。
『驚愕の成立、一夫多妻制が遂に合法!?』
こんなサブタイトルで流れ始めた。
少子化問題への対策として、子供を産む意思があるのなら少数派に任せようと言うモノだ。
勿論、倫理感の一部を根本から破壊する立法故、女性は全員最低1人は子供を産む事や、国側がこれから設立する専門機関の役人が定期的に訪問しに行くなど細かい条件も多数盛り込まれる様相だ。
いくら少子化問題が深刻化しているからと言って、こんな非常識な政令を成立させるなどと野党の議員が総理に激しい質疑をしている映像が流れた。
「つまりはハーレムか。良かったな、士郎。男にとっては夢のような話なのだろう?」
「げほっ、ごほっ、な、なんでさ!?」
スカサハの爆弾発言にテーブルを挿んだ目の前にいる士郎は、思わずむせながら驚いた。
「なんでも何も、お前天然の女誑しじゃないか。お前が本気を出せば実現できるだろう?」
「そうよね~、確かに士郎はモテモテ過ぎて私の同級生や後輩に一度でいいから紹介してって、頼まれた事あったわね」
「ほう?ついに士郎は、会った事も無い女を垂らす技術を身に着けたのか。やるな」
「確か、去年の一般の部での弓道大会に出場した時、応援のほぼすべて女の子だったんじゃなかったかしら?」
「なんと、既に手を付けていたのか。流石は士郎だな」
「・・・・・・・・・・・・」
士郎は、スカサハと大河による連携(本人たちにその意図はない)で気まずくなる。
士郎にはハーレムなど作る気はこれぽっちも無い以前に付き合っている女性も居ないのだが、この手の話で士郎は女性陣に勝てた事が無いので無言を突き通した。今日も何時もの様に腕によりをかけた料理は、すごく美味しいく作ったはずなのに、いつもとは違い酷く不味く感じられた。
-Interlude-
日本中そうなのだろうが、ある者は殺気立ち、ある者は困惑し、ある者は歓喜していた。
そしてそれはこの川神でも同様で、登校中の風間ファミリーメンバーたちも言わずもがなだった。
「おい、今朝のニュース見たかよ!?遂に俺様の、俺様による、俺様のためのハーレムへの道を築いていいって、神様が祝福してくれてるようなもんだぜ!」
その中でもとりわけ騒いでいたのはガクトだった。
目を輝かせる姿だけを見れば、それはおもちゃを親から買って貰えた純心の無垢な子供の様だった。
しかし、何時もの様にモロが突っ込みつつ現実を口にする。
「いやいや僕もそうだけど、ハーレムどころかナンパを1回も成功した事ないじゃん」
「それに川神学園の女子生徒の大半は、川神百代か衛宮先輩かイケメン四天王に集中してるから無理だろ」
モロに続いた大和の言葉を体現する様に。百代は自分で築いたハーレムの中で楽しそうにしていた。
その様子をガクトは、血涙を流さんばかりに見ている。
「チックショウ!ハーレム合法の時代が来ても、俺にはその恩恵にあずかる資格すらも無いってのかよぉオオオオォオオオオオオ!!?」
「しょーもない」
ガクトの反応に京は何時もの様に呆れ顔をする。
こうして今日も始まった。
-Interlude-
川神学園は今日、人間力測定がある。
言ってしまえば身体検査とスポーツテストだ。
全員が全員では無いが、S組と言えば文武両道の者が多い。
しかし――――いや、当然ではあるが士郎は頭一つ飛びぬけていた。
一応例外もいるが、それでも士郎は1年の時も2年の時も常に1位だった。
そしてそれは今年も――――。
「相変わらず衛宮はすごいな」
「そうか?これでも普通にやってるだけなんだが」
褒める京極に士郎は素で応じる。
「ハイ、ハーーイ!次の人、テンポよく測定してネ」
士郎達の後ろでは、川神院師範代兼川神学園体育教師であるルー先生ことルー・イー。
百代は昨日確信を持ち始めたばかりだが、ルーというより川神学園で武において、ある程度実力を持つ教師陣の大半が士郎が壁越えである事は知っている。
ルーは3-Sの担任でもなんでもないが、士郎や百代の様な壁越えのスポーツテストの計測係を担当する事に成っている。
とはいえ、2人だけしか計測しなくていいと言うわけでもないので、教師の仕事として今も他の生徒を計測している。
「そういえば、今朝のニュースは見たか?一夫多妻制など日本において合法になるとは、とんでもない時代が来たものだな」
「そ、そう、だな・・・」
「如何した、衛宮。歯切れが悪いが、何時ものお前らしくないな」
士郎の対応に、京極は探る様に目を細めた。
「い、いや、何でもないん――――」
「家の人たちに揶揄われたか?」
「何で判るんだ!?」
言い当てられた士郎は、酷く驚く。
「矢張りか」
「引っ掛けたのか?」
「引っ掛けたのではなく、確認だ。衛宮は普段は判りづらいのに、恋愛方面になると露骨に解りやすくなるからな」
「・・・・・・日々の人間観察の成果か」
「まぁ、そう言う事だな」
知的好奇心を満たすために、日々人間観察をしている京極からすれば、士郎はある意味では最も面白い存在だった。
その為、学校内では普段から士郎と行動を共にしているのだ。
そんな2人を見下ろす視線が有った。
そこは3-Fの教室。
今の彼らは別の授業をしているのだが、担当の教師が体調を崩しているので課題を出した自習となっている。
そしてその自習のクラスで士郎と京極を見下ろしているのは、窓際に席のある百代だった。
「百代、何をボーっとしてるで候」
そこに、自習中の課題を終わらせた真横の席に座っている矢場弓子が、百代に声を掛けて来た。
「ん?いや、3-Sのスポーツテストを眺めてただけだ」
「百代の射程範囲を逃れた女子生徒が、3-Sにまだいたで候?」
「いんや、脈ありは全部落としたさ。――――私が見てたのは衛宮の奴だ」
百代の答えに弓子は怪訝さを露わにする。
百代と士郎では強さへの執着は正反対だ。
その理由から、それなりにイケメンかつかなりの高スペックでも、士郎を男としては見れないと以前に語っていたのを覚えているからだ。
「遂に衛宮を男として見るようになったで候?」
「飛躍し過ぎだぞ?ユミ・・・」
「ならどうして今になって衛宮に注目するで候?期末テストでの赤点回避や借金の肩代わり位しか関わろうとしなかった百代が・・・」
「それがな――――」
百代は昨日の夕方の話をする。
「そんな事があったで候」
「ああ・・・・・・って言うかあんまり驚かない所を見ると、ユミは衛宮の強さを把握してたのか」
「全て知ってるわけではなかったで候。私が知ってるのは弓道部部長として見て来たものと、衛宮が10歳の頃に天下五弓に選ばれたが即座に話を蹴ったと言う事ぐらいで候」
「何!?衛宮が天下五弓?それも蹴った!?」
弓子の話に驚く百代。
そんな話は今まで聞いた事も無く、寝耳に水だったからだ。
「百代が驚いていることに私は今、驚いているで候。川神院の一族なのだから知っているモノかと思ったで候」
「聞いてないぞ、爺ぃぃ・・・・!!」
百代は理不尽と捉えたのか、無意識に殺気をばら撒いて行く。
一番近くに居た弓子は既に2年もの間同じクラスだったので、この程度のさっきには慣れていた。
慣れていない者は恐怖に震えあがっているが。
「衛宮は百代とは考え方が逆だから、黙っていたのではないで候?」
「むぅ・・・」
弓子の言葉に自覚しかないので、百代は唸るしかない。
「まぁ、興味が出たのなら、これからもっとエンカウントして行けばいいで候」
そう、少なくとも高校卒業まではあと1年間あるのだから。
-Interlude-
放課後。
士郎は今、料理部が部室として使っている家庭科室に来ていた。
士郎は料理部の部員でもないのだが、一週間の内の何処か一日だけ放課後の家庭科室で料理を教えている。
しかし今此処には、士郎以外にも料理部部員以外の生徒もいた。
今日もこの時間帯に集まれる、川神学園の中で普段からよく料理をする生徒達だ。
その中には準と、2-Fの委員長である甘粕真与の姿もあった。
甘粕真与の学生服の上に、ピンク色の花柄がふんだんに散りばめられたエプロンだ。
甘粕真与は、慣れた手つきで調理していく。
それを少々離れた地点から見ていた準と言えば――――。
「ホントいいよなぁ~~~。ハァ、ハァ」
あまりの可愛さと、目を細めながら呼吸も荒く周りはドン引き状態だ。
しかし、そんな自分を止める存在が真後ろに来てる事など、準は気づかずにいた。
「痛ぇっ!誰だ人の頭を叩い――――し、士郎さん・・・」
頭をはたかれた準が反射的に後ろをを向くと、むすっとした士郎が立っていた。
「準。今此処に来てる皆は、自分の調理技術を向上させようと真剣に取り組んでいるんだ。真面目にやる気がないなら、今日はもう帰れ」
「す、すんませんす!」
準は、士郎の説教に謝罪をして調理に戻る。
ロリコン部分以外は基本的に常識人なので、士郎の正論に素直に頭を下げた。
士郎は、此処に居る生徒の皆が調理技術の向上のために参加していると思っている様だが、一部の生徒はそうでは無い。
「衛宮先輩、此方は如何したらいいでしょうか!」
「衛宮先輩、これの焼き加減を見て欲しいのですが!」
「衛宮先輩――――」
「衛宮先輩―――」
「衛宮先輩――」
「衛宮先輩―」
士郎に構ってもらうには、それ相応の理由がいる。
理由がないなら作ればいい。
士郎に構って欲しい、またはお近づきになりたい生徒は、今迄料理などしたことも無かったが、理由を作るために始めたのだ。
そんなこんなで調理技術への向上心が純粋であるか否かは置いといて、士郎はこの教室を開くたびに引っ張りだこだった。
こうして一見すれば、士郎は既にハーレムを形成している様に見えなくも無かった。
だが客観的に言わせてもらえば、今日も何時も通りだった。
後書き
どの原作メンバーであろうとも、マジ恋Sが始まるまでに出そうと思って、この様にちょくちょく使っています。
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