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世界中で俺が1番恋した色

作者:ヤット@7
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俺の名前は瀧柳 葵花(たきや あおい)。

高校一年の男だが、この「葵花(あおい)」という漢字と読み方のせいで、人生の中でとても損をしてきた。


初対面の人には必ず名前を間違えられる。学校だったらこの読み方をあだ名にされたりすることもある。これは、名前が独特な人あるあるでもある。

名前については、ここまでにしておこう。

さっき言ったように俺は高校一年生である。


東京にある私立 優虹(ゆこう)学院に通っている。自慢ではないが優虹学院は、東京都内でも進学実績が良い方である。

成績こそ微妙だが、俺はサッカーならできる。
自分で言うのは少し気が引けるが、俺は、優虹にサッカーの推薦で受かったくらいの実力者だ。しかも、1年生なが、Aチームのメンバーに入っている。

何?彼女?彼女なら、そのうちできるさ。多分ね。

このくらいで自己紹介はいいかな。

あー、今日も特に変わらない平凡な1日が始まるのか。と思って鞄を手に取り家を出た。

家を出て、愛用の青色の自転車に乗り鞄を前かごに無造作に入れて、重いペダルを踏んだ。

本来ならここで風が気持ちいいみたいなことを言いたいのだが、生憎今は冬で路面が凍結しかけている。

吐く息も白く、手袋をしていなかったら、手の感覚がなくなるんじゃないかと思うくらい寒い。足がよく冷える人には分かると思うが、足が凍っている?みたいな感じで、足が動かない状態である。

そんなことを思いながら自転車をこいでいると紅乃(あかの)と会った。

紅乃とは幼なじみで、紅乃も優虹に通っている。紅乃は、典型的な文系の女子で、カルタ部に所属している。カルタとは百人一首のことだ。小さく頃によく紅乃と一緒にやって、昔は俺も勝てたんだが最近では紅乃にさっぱり勝てない。たまに、紅乃が出てる大会などを見に行くが優虹でも紅乃は群を抜いて強いのだ。

そんな紅乃と一緒に学校によく一緒に行くのである。

恋愛感情?そんなものを、こいつに抱くわけがない。

紅乃がこっちに自転車を乗り進めてきた。
「あおい、何かあったん?目の下にくまができてるよ。転校生のこと考えて寝れなかったとか?(笑)」
このままだと誤解されそうなので急い否定した。


「いや、そんなんじゃないから。全然そんなことないから。」
自分でも失敗したと思った。焦り過ぎて逆に誤解を生むような否定の仕方をしてしまった。

ニヤニヤしながらこっちを見る紅乃に「わかったから、行くぞ」と言うと、紅乃に「顔赤くなってるじゃーん。」と言われた。その後は、なってる、なってないという会話を繰り返して学校に向かった。

学校に着く頃には、凍結しかけていた地面も少し濡れるくらいになっていた。

このタイミングで、紅乃が自慢げに「今日紅乃朝の占い1番だったよー。」と言ってきたので、自分の順位を思い出した。

あ、今日は最悪だった。朝のアナウンサーも12位と言っていた。それに、人間関係に難ありと言われていた。

さっきの紅乃のことだろうか。いやいや、あんなのは日常茶飯事だから、そんなことではないのだろう。

とあれこれ考えていると、紅乃が「何ボーっとしてるの先行くよ。」と言って、校舎に入って行った。俺も紅乃を追いかけるように校舎へ入っていった。

教室の中がザワついていた。よく見ると、1番後ろに机が1つ増えている。

すると、仲の良い碧(あきら)が話しかけてきた。

碧というのはクラスの中でも仲の良い友達である。

碧も名前をよくミドリと読まれてしまう。言わば"よく間違った読みをされる友"でもあるのだ。

そんな碧に「知ってた?転校生ってうちのクラスなんだって。スタイルがいい女子っていう噂だよ。声も綺麗なんだって。」といった、転校生の情報を聞かされた。

俺は、納得したように「だから、この男子がいつもの2倍以上にテンションが高いのか」と言った。


正直俺も楽しみといえば楽しみだったのである。

その調子で朝のホームルームがはじまった。


先生がいつもはダサいと評判の私服なのにも関わらず、おろしたてのようなパリッとしたスーツで登場した。

生徒から歓喜の声が巻き起こる。

先生は咳払いをして、こう続けた。「えー、みなさんおはようございます。今日は転校生が学校にやって来ました。みなさん、温かい拍手で迎えてあげてください。」

ドアの向こうに転校生がいると思うと、心が踊った。

先生がドアの方へ歩く。

ドアに手をかける。

ドアを少し開ける。

いいよ。と転校生に告げる。

ドアを少し開いたまま教卓に向かって歩く。

教卓で横に1人分のスペースを開けて立っている。

ドアがゆっくりと開く。

みんなが身を乗り出してドアの向こうを見る。

男子が発狂している。みんなの目線がドアのあたりに注がれる。

みんなの目線が教室の……中に…?

みんなの視線が教卓の横に………?

チョークで黒板に文字が…………?

え………………?

何も見えない。俺は一瞬で察した。さては、こいつら俺を騙すためにわざと来てるフリしてるな。

こう思うには理由があった。

前に俺が寝坊して、ホームルームに2分遅刻ぐらいで行くと、俺の席に知らない人が座って先生の話を聞いていた。

不安な面持ちで教室に入ると、みんながキャー不審者などと叫んで、先生の周りに集まった。

先生も焦ったように、「ふ、不審者だ。ひゃ、110番に電話するぞ。」と言ってきて、僕が教室から出て逃げようとすると、鍵が閉められていた。

鍵を開けようとしても、手が震えて開かなかった。

その時だった。

「ドッキリ大成功」とみんなが一斉に叫んだ。

俺が困惑して立ち尽くしていると、先生の電話の声が耳に入った。「はい、あおいは今来ました。問題ないです。」俺は少し時間がかかったがすべてを察した。

ちなみにその時俺の席に座っていたのは、1日留学生で、前日のホームルームで先生が言っていた子だった。

結局、その日は碧の後ろの席に臨時で俺の席が作られたのだった。

話を戻すと、黒板に文字が書かれた瞬間に俺は、またドッキリだと直感で思った。

そして、立ち上がって「またドッキリかよ」と言った。

すると、クラスの全員が俺の方を見て、は?という顔をした。だがそれも束の間、みんながまた前を向いて、その転校生の字を見ていた。

どんどん黒板に白いチョークで文字が書かれていく。綺麗な字だ。

黒板には西園寺 蒼空(さいおんじ そら)と書かれていた。

すると、先生が「では、蒼空さん、皆さんに自己紹介をお願いします」と言った。

蒼空さんの声は俺には聞き取れなかった。

隣の子に小声で「あの子、声小さくない?聞こえる?」と聞いたら、ムッとした顔で、「聞こえるよ、何?さっきのことといい、あおいはあの子嫌いなの?」と言われた。

行き場を失った俺は、咄嗟に「先生、少し頭が痛いんで今日はもう帰ります」と言って、教室を逃げるように去った。

なんだこれは。

どうなっているんだ。


何で…見えないんだ。

廊下を走って逃げた。

自転車に乗って、整理がつかない現実と学校から逃げた。

これからどうなるんだろう。

転校生への一抹の期待が膨大な不安となって俺にのしかかってきた。 
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