ロックマンゼロ~救世主達~
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第14話 ノトスの森
前書き
ノトスの森に向かったルイン。
行方不明となったエルピスを追い掛けてノトスの森を訪れたルインは目的の人物が目の前にいたことに目を見開いたのと同時に安堵したが、エルピスの周りを浮遊している存在に体を硬直させた。
あれはシエルが厳重に保管していたベビーエルフだ。
「エルピス司令官。あなた…こんなとこで何をしているの?ベビーエルフまで連れて…」
「ハハハッ、ルインさんじゃないですか。もしかして……私をお探し…なんですか?」
どれだけ皆が心配しているかなど、全く気にもかけていないエルピスの態度にルインは顔を顰めた。
「どうしてシエルの研究室で厳重に保管していたはずのベビーエルフをあなたが連れているのか色々聞きたいところだけど、今すぐレジスタンスベースに戻って。あなた一人で何が出来るの?」
「それが出来るんですよ。ある物さえ手に入ればね…。二百年間眠っていたあなたには分からないかもしれませんが、この世界には手に入れるだけで、誰でも強大な力を使える物が存在する。教えてくれたんですよこのベビーエルフ達が……」
エルピスの豹変ぶりにルインは少し戸惑いを覚えるが、恐らくエルピスはベビーエルフに利用されているのだろう。
そしてベビーエルフがエルピスを利用してまで会いたいと思う存在は…ふと、ルインの脳裏にデュシスの遺跡でのエックスとの会話で聞いた言葉が脳裏を過ぎた。
“ベビーエルフ達は母に会うためなら、何でもする。人の心を揺さぶり、運命を狂わせる…母である、ダークエルフに…僕が封印しているダークエルフに会いたいがために…ね”
恐らくベビーエルフはエックスが封印しているダークエルフに会いたいがためにエルピスを利用しているのだろう。
ベビーエルフからすれば、失意のどん底にいたエルピスを誑かすのは簡単だったに違いない。
「もしかして…エックスが封印しているダークエルフのこと?」
「そうです…クックック…私も、最初は御伽噺話だと思っていました…。でも今は確信しています…“これは、本当の話だ!!”…とね。この場所には、ダークエルフの封印を解く鍵が置いてあります。どちらが先に鍵を手に入れるか…競争ですね…」
「あっ!ちょっと!?」
正義の一撃作戦の失敗で落ち込んでいたあの様子から一転して楽しそうなエルピス。
ルインの言葉を聞こうとせず、楽しげに言うと、エルピスはベビーエルフと共にさっさと先に行ってしまう。
ダークエルフの力を得ることがどれほど危険かを知らず、まるで無邪気な子供のようにゲームを楽しんでいるかのようである。
「あの馬鹿…」
『…エルピスがいたのね…。ルイン…彼のこと…お願い…』
「了解。尤も、今のエルピス司令官が話を聞いてくれるのか正直微妙なところだけどね」
エルピスを追い掛けるには、まずは目の前に立ちはだかるメカニロイド達を片付けねばならないのだが、どういうわけかエルピスには攻撃を仕掛けない。
もしかしたらベビーエルフにプログラムを書き換えられたのかもしれない。
「エルピス司令官を連れ帰るにはベビーエルフを破壊しなきゃいけないかもね。どう見てもベビーエルフに頭乗っ取られてるし」
ZXセイバーでメカニロイドを斬り捨てながら、先に進む。
途中で崖があったため、HXアーマーに換装してエアダッシュで一気に突破する。
陸を走るエルピスと空を翔るルインとでは速度に差があるので、エルピスを発見し、エルピス…正確にはエルピスの周りを浮遊しているベビーエルフに狙いを定めた。
「ごめんねアルエットちゃん、プラズマビット!!」
ベビーエルフのことを気にかけていたアルエットに謝罪しながら放った電撃弾がベビーエルフに迫るが、エルピスはサーベルでそれを弾いた。
「え!?」
自身の攻撃が容易く弾かれたことにルインは動揺する。
以前のエルピスでは絶対に出来なかったことだ。
「………」
上空にいるルインを見つめるエルピスの表情が憤怒に染まる。
HXアーマーを纏ったルインが憎きハルピュイアと重なったのかもしれない。
「……ろ…な…」
「え?」
「私を見下すなハルピュイアーーーッッッ!!」
エルピスが咆哮するのと同時にルインに凄まじい重力が掛かり、ルインは地面に落下した。
「あぐっ!?」
地面に激突し、うつ伏せに倒れたルインをエルピスは嘲笑いながらルインの頭を踏みつける。
「ふふ…どうしたハルピュイア?こんな所でお昼寝か?四天王のリーダーとは思えん姿だな…」
今のエルピスはルインを見てはいない。
ルインを通してこの場にいないハルピュイアを見ているのだ。
完全に狂っているとルインは感じたが、何とかHXアーマーから他のアーマーに換装しようにも、今のエルピスにはその隙が全くない。
エルピスがルインの腹部に強烈な蹴りを入れる。
「ごふっ!?」
「散々私を見下し、蔑んでくれたが…ベビーエルフの力を得た今の私からすれば、お前など赤子同然だ。」
「あぐっ!がはっ!ぐっ!!」
動けないルインに蹴りを入れ、徹底的に痛めつけるエルピスはルインの苦しむ表情に満足そうな笑みを浮かべている。
そして側頭部を強く蹴り、ルインの体を岩に叩きつけるとエルピスは邪悪な笑みを深めた。
「クックック…今はこれくらいにしておいてやる。ベビーエルフでさえ、これほどの力を得られるなら、ダークエルフを手に入れればどれほど強大な力を手に入れられるか…思い知らせてやるぞハルピュイア。私はお前を絶対に許さない。徹底的に苦しめてやる。お前から大事な物を根こそぎ奪ってやる…フフフ…ハーッハッハッハッハ!!」
大笑しながら去るエルピスの姿を悔しげに見つめながらもルインは何とか立ち上がる。
「くっ…小さいエルフの癖に何てパワーなの…これがベビーエルフの…力。これならさっさと破壊しとくんだった…」
今更後悔してももう遅いが、何とかしてエルピスを止めようとルインは酷く傷付いた体を引きずりながらエルピスを追い掛けた。
ルインを蹴散らしたエルピスはベビーエルフの力を試すかのようにサーベルを振るい、メカニロイド達を蹴散らしていく。
途中でデュシスの遺跡にもあった防衛システムがあったが、それすら容易く一蹴した。
今のベビーエルフの力を得たエルピスの前ではこの程度の防衛システムなど形骸も同然だ。
エルピスが暴れながら先に進んだことで、当然ここを守護していたネオ・アルカディアのミュートスレプリロイドが現れるのは必然であった。
「まっ、待ったー!ここから先はー誰も通さないケロー!!」
シャッターを潜り抜けた先の部屋の天井の茂みから現れたのは蛙を思わせるミュートスレプリロイドであった。
「おや?あなたは元斬影軍団所属のパープル・ヘケロットですか。次期四天王候補と噂されるほどの戦闘能力を持つあなたがこんな所にいるとは」
「お前はレジスタンスのリーダーケロよな!?ハルピュイア様の命令だケロ!!ここから先は通さないケロー!!」
ヘケロットがハルピュイアの名を言った途端にエルピスの表情が消え、エルピスとハルピュイアのことを知らないヘケロットは自分の発言が自分の寿命を更に縮めたことを知る由もなかった。
「覚悟するケロー!!」
異変に気付かず、エルピスに向けてヘケロットが飛び掛かる。
「…………」
エルピスが無言で掌を前に翳すとヘケロットが金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
「ゲロッ!?か、体が動かないケロ!どういうことだケロ!?」
「そういえば……あなたは次期四天王候補としてハルピュイアに一目置かれていた存在でしたねえ…フフフ……そんなあなたが為す術なく倒されたと聞けばハルピュイアはどんな顔をするんでしょうねえ…今ここで見れないのが残念で仕方がありませんよ…」
「ひ、ひいい…」
エルピスの狂気を受け、蛇に睨まれた蛙のような状態のヘケロットは胸中でこの場にいないハルピュイアに向けて叫んだ。
「(ハルピュイア様…何でワスなんかをこんな重要な所にいいいいい!!!)」
「フフフ…ハーッハッハッハッハ!!!」
大笑しながら、ヘケロットにサーベルを振り下ろすエルピス。
少しでも負担を減らすためにZXアーマーに換装したルインが傷付いた体を引きずりながら、通路を歩いていると、爆発音が響いた。
「い、今のは…!?」
今の爆発はただ事ではないと感じたルインは必死に前に進み、奥のシャッターを潜ると、そこには大笑するエルピスと無惨に斬り殺されたヘケロットの残骸が転がっていた。
「っ…エルピス!!」
ZXバスターを構えてショットを放つが、ベビーエルフの力で止められ、それどころか跳ね返されてしまう。
「っ!!」
跳ね返されたショットをまともに喰らったルインは膝をついた。
「クックックック…ついに…ついに鍵が目の前に!!では、ルインさん…お・さ・き・に」
「ま、待て…この、馬鹿……。く、くそ…っ!!」
体に走る激痛を無視して、必死に前に進んで奥のシャッターを開くとそこにいたのはエルピスだけではなかった。
「ぐっ…」
「エックス!?」
部屋にはエルピスだけではなく、ベビーエルフに押さえ付けられているサイバーエルフ状態のエックスがいた。
「フフハハ…これで…これで後は、封印さえ解けば、私も…ゼロ君とルインさんと同じ…いや、ゼロ君達以上の力を得ることが…出来るんだ!!」
「ぐっ…あなたはダークエルフの力で何をするつもりなの!?世界を滅茶苦茶にしたいわけ!?」
「世界を?フフフ…誤解しないでくれたまえ。私はこの力を何も悪いことに使うわけではないのだよ。全ては、世界の平和のため…シエルさんのためなんだ!!」
「何が世界の平和のため…?シエルのため…?ふざけないでよ…。勝手にいなくなって、みんなに心配かけといて…ゼロ達の言葉やシエルの気持ちを無視して…司令官のくせに私情でネオ・アルカディアに総攻撃した挙げ句、失敗して仲間を死なせたあなたにそんなことを言う資格なんかない!!」
彼を知り己を知れば百戦危うからずという諺があるが、エルピスの場合も味方のことは知っていてもネオ・アルカディアの主力部隊や四天王の力を知らなかったために負けたのだ。
「黙れ!!」
その言葉にエルピスは憤怒の表情を浮かべると、ベビーエルフの力をルインに喰らわせた。
「あぐっ!!」
エックス「ルイン!!」
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたルインの元にエックスが急いで傍に寄る。
「私は…私はもう、あの時のような無力な存在じゃない…私は…更なる力を手に入れ、英雄になるんだ!!」
ルインとエックスを放置し、エルピスとベビーエルフは転送の光に包まれて遺跡から消えた。
「痛…っ…」
「動かないで、今…治してあげるから」
球体から人型の姿になったエックスがルインに触れると、ルインの体を淡い光が包み込んでエルピスから受けた体の傷を癒してくれた。
「暖かい…」
「大丈夫かい?」
「大丈夫…と言いたいところだけど、ちょっとヤバかったかも…」
ベビーエルフの力が想像以上の物だったので、受けたダメージも相当な物であった。
「全く、君は無茶をするんだから…君はある意味、僕やゼロよりも特殊なレプリロイドなんだ。取り返しのつかないダメージを受けたら助からないかもしれないんだよ」
実際にルインがVAVAとの戦いで自爆特攻をしてから復活まで二百年も掛かっているのだ。
ルインのことを誰よりも知っていたケイン博士が存在しない現在ではもし大破した場合、彼女の復活は不可能になる。
「ごめん…でも、私…今のエルピスが許せなかったんだ。みんな…あんなに心配していたのに…」
「………」
「だから、いつの間にか口から出ちゃってた。」
「ルイン…お願いだから、もう無茶はしないでくれ…僕は二度も君を失いたくないんだ…」
VAVAとの戦いでルインを失ってからの二百年間、エックスは彼女の死顔を忘れたことはなかった。
「ご、ごめん…心配かけて…治療までして…くれ、て…?」
「ルイン?」
言葉が途中で途切れてしまったルインをエックスは不思議そうに見つめる。
ルインは自分を包み込む淡い光を見つめ、エックスを見遣る。
「エックス…この力…もしかして、サイバーエルフの力…?」
「そうだよ、僕は元々戦闘用レプリロイドだから治癒能力なんかないからね」
それを聞いたルインの顔色が真っ青になる。
「そ、それ…本当に大丈夫なの!?シエル達から聞いたんだけど、サイバーエルフは力を使うと…き、消えちゃうって…エックス…だ、大丈夫なの…?」
通常のサイバーエルフは力を使うと、その命を散らしてしまうことをシエル達から聞いていたルインはエックスに縋りつく。
「エックス、消えたりしないよね?いなくなったりなんか…しないよね…?」
目の前にいるエックスがいなくなることを想像して、今まで感じたことがない程の恐怖を覚えた。
エックスはルインを安心させるように抱き締めた。
「大丈夫…僕は消えないよ…やるべきことがあるから、絶対に…約束するよ。」
「うん…うん………エックス、ごめんね…」
「ん?」
「エックスがいなくなるんじゃないかって思ったら…凄く怖くて悲しくなった………自分は良くても残される方の気持ち…考えてなかった。私は昔、エックスとゼロにそんな気持ちにさせてしまったんだって……ごめん…ごめんね……」
「いいんだ。ルイン…もう、君が帰ってきて、ゼロもいる。それだけで僕は幸せだから。」
子供をあやすように、ルインの頭を撫でるエックス。
ルインはエックスの胸に顔を埋めながら静かに泣いた。
後書き
結構オリジナル。
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