ソードアート・オンライン〜Another story〜
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キャリバー編
第214話 求めるは伝説の剣
前書き
~一言~
よーやく、キャリバー編までたどり着きました……。
本当に長かったです……。そして、早めに投稿も出来て良かったです! 物凄く変な時間に投稿となりましたが……w 苦笑
では! この二次小説を見てくださって ありがとうございます! これからも、頑張ります!!
じーくw
ここは万年雪に閉ざされた世界《ヨツンヘイム》。
太陽と月の恵み、その恩恵を受けなければ、宙へと羽ばたく事が出来ない妖精達は この万年雪で閉ざされた過酷な地においては、己の脚で、地に脚をつけなければならない。この世界に来たいのであれば、そうして進まらなければならない。……だが、努々油断する事なかれ、この世界は極寒の過酷な地故に、存在する魔物は地上とは比較にならない。
それは、蔓延る魔物たちは皆、《邪神》と恐れられている存在がいるからだ。
「……ALOは 北欧神話をベースに、しているとなれば、恐らくこいつらは、霜の巨人族、若しくは丘の巨人族か。ヨツンヘイム。……ヨトゥンヘイム、ヨートゥンヘイム。ふむ。北欧神話のままであられば……、確か《スリュム》が統べる世界、だったと記憶してるが、ここはどうなんだろうな……」
白銀の世界に降り立つ1人の妖精は、剣を片手に 世界を眺めていた。時折、肌を突き刺す様な冷気の風が吹き通り、この世界の色、とも言っていい白銀。それと同じ色の髪が、鮮やかに揺られていた。
確かに、この世界ヨツンへイムの魔物達は凶悪であり、遭遇率はアルヴヘイムと比べたら随分と低い設定になっているが、それでも 一戦一戦の戦いに掛かる時間があまりにも長い為、連戦になってしまう事もざらだ。邪神相手に連戦ともなれば、鬼だ。大仕事も良い所であり、種族を上げた大パーティを組み、それなりに装備やアイテムを整えて挑まなければならない。勿論、それだけではなく、極めて低確率だが、連続PoPする事もある為、運の要素も出てくるだろう。
邪神を倒す事で齎されるコルやアイテム、熟練値は 確かに比較にならない程、莫大なモノであるが、この場所が狩場として定着しない理由がそれなのだ。
そんな白い地獄に立つ妖精。……その周辺には、地獄に住まう鬼達が現れている。
「やれやれ。気分転換に邪神狩りに来た、とはいえ これだけの数は骨が折れる。……そろそろ、眼もつかれてきた所だし」
ため息を吐きながらそう言う、白銀の剣士。そして、その傍らには。
「アハハハ。まァ、リューだから、何してモ、今更驚かナイけど、流石にリューでもキツいカ?」
特徴的なその大きな三角耳はその種族の象徴であり、話す度にぴょこぴょこと動いている長い尻尾もそうだ。そして、その頬にはその者を更に、象徴しているペイント。……髭のペイントが付いている。
ここまで 紹介すると 最早言うまでもないが、リュウキとアルゴである。
「……キツいだろ。簡単には倒せないから、邪神、と言われてるんだ」
「涼しい顔シながラ、何匹も倒しといテ。説得力ないゾ リュー。ニャハハ、ソレにしても、その《眼》はチートダナぁ。SAO時代のリューが戻ってきた感覚ダヨ。でも無くてモ、十分ナんだが、それ以上ダ」
「はぁ……、《眼》を見せろ、と言ってきた時は何だ? と思ったが……、別に これには興味なかったんじゃないか?」
邪神達の攻撃を避け、回避しながらも 流暢な会話を続けていられる所を見ると、流石だろう。そして、それはアルゴにも言える事だ。彼女もSAO時代ではソロでのプレイが多く、情報屋をしている以上、その情報の真偽は 己の眼で確認する事も多かった。故に間合いの取り方に関して、《生き残る》と言うスキルがあるとすれば、それは決して元攻略組にも引けを取らない程の者だった。
「ンにゃ、興味は合ったンダヨ。でも、あの時は簡単に訊ける様ナ物でも無かったシ。訊いテ……得にナる事は無かったカラな。ふふん。リューに嫌われたくないからナ?」
「好きか、嫌いか、か。 なるほど、アルゴ。……それ、正直に答えても良いのか?」
「フニゃっっ!?」
アルゴは、まるで尻尾を踏まれた猫の様に全身を震わせながら反応していた。先程のリュウキの言葉は、アルゴにとって、それ程までに高威力だった、と言う事なのだろう。そして、初めてでもない。
「う~~……苛めナイでくれよォ……、オレっちは レーちゃんとは違うんだからナ………」
「はぁ。苛め、と言われれば、アルゴにされた仕打ちも十分すぎる程、苛めになってるっての……。どんだけの目に合わされた事か……」
「うぐっ……、ま、まだ怒ってル……ノカ? も、もう時効に……、ソレに、あの時仲直リを……」
「馬鹿。よく思い出してみろ。オレは、あの時『……仲直りかと言えば微妙だがな』と言ったと思うが?」
「あぅ、ほんと、勘弁してクレないか……」
頭を人差し指で押さえながら唸るリュウキ。そしてアルゴも同じような仕草をするから、ちょっと滑稽に思える。
勿論、リュウキが考えているのは《白銀の勇者様》のお話である。
それは、アインクラッド第1層。
この世界、ALOにある新生アインクラッドではなく、今は無き、SAOの世界のアインクラッドの第1層だ。つまりゲーム序盤での話。もう2年以上前の話なのだが あまりにも インパクトの強いモノだった為、リュウキの中では、悪い意味で最早忘れられない出来事の1つになってしまっているのだろう。
そして、アルゴも勿論 その後リュウキにはぶられてしまった時の事だ。徹底的に避けられてしまった事で、アルゴにとっても嫌な思い出だ。避けられる事が、あそこまで辛いとは思わなかったのだろう。
特別な感情が芽生えだした時、なのかもしれない。
そして、リュウキは更にため息を吐いた。
「はぁ、もういい加減長いしな。殆ど腐れ縁だ。どうとでもなれ、って事か」
「ゥゥ……、なげやりナノも、複雑ダヨ……」
「それは兎も角、だ。アルゴ、敏捷力全開にしろ。ここから 離脱するぞ。そろそろ本気で疲れてきた」
「あ、ソレは、ワカッたヨ。も、この話は終ワリにシヨウッ! さぁ、脱出ダっ」
敏捷値に関しては、アルゴもリュウキに負けていない。アルゴが選択しているのは、先程でも紹介した通り、全9種族の中でも比較的に軽重級である猫妖精だ。リュウキが使用している水妖精もどちらかと言えば、軽量級に分類されているが、猫妖精は、軽量級の中でもトップクラスに位置されている設定。
印象的にも猫だ。故に 見た通り、すばしっこさには定着があるのだ。
だが、それは勿論 鍛えに鍛えた熟練値がモノを言う。
だから、どんな種族を選ぼうと、最終的に行き着く先はまだ不明確だ。風妖精を選択している某大魔法使い様……、《リタ》は 様々な属性の魔法を習得されている、と言う事もあるから。
そして、2人は 難なく 邪神に囲まれた状態、俗に言う《死亡フラグ》が立っている場面を回避した。自分達の倍以上はあろう拳を躱し、攻城兵器とも思える大きさの棍棒を掻い潜り、時には同仕打ちもさせて。 鮮やかな手際は、もしもこの世界に観客がいようものなら、拍手喝采、と言う所だが 生憎この世界にそんな能天気なプレイヤーはいなかった。
「ン? リュー、なんか光ったよ。ホラ」
「みたい、だな……。イベントフラグの光に見えたが……」
それは、偶然なのだろうか、或いは邪神と戦いつづけた事によって、条件が整ったのだろうか、この時の2人には、情報を取り扱う術に長けている。随一と言えるプレイヤー2人でも判らなかった。
だが、このクエスト、そして何よりもその報酬が後に……、多少なりともは波紋を呼ぶ事になるのだった。
~桐ヶ谷家~
何気無い朝の一時。朝食の準備を済ませ、今、食事を取ろう時だったが、少なからず表情が優れないのは和人だった。今年も後残す時間も少ない。……それは天気予報士のお姉さんも、テレビの中で言っており、残り少ないこの年をどう有意義に過ごしたら良いものだろうか。だが、今はあまり考えてられなかった。
その理由はおいおい説明する事になるだろうが、説明よりも今は直葉が声をかける方が早かった。
「あ、お兄ちゃん。これ見て」
という声と共に、直葉がさし出したのは薄型タブレット端末。
まだ寝ぼけている事と、昨夜に知らされた、実際に見たある出来事もあって、不鮮明な脳細胞。明らかに覚醒していない頭だったのだが……、急速に回転した。ギアも文句なしのトップ。いや、オーバートップだ。
「な……なな、なにぃぃ!!!」
和人は、直葉が差し出したタブレット端末を食い入る様に見つめる。その先には、大きく、嫌でも目に入るほど大きいフォントで。
【最強クラスの伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》、ついに発見される!】
そう記されているのだ。完全に虚を突かれてしまった為、妙な心労を感じつつ、和人は長く唸った。
「うぅ―――――ん……、とうとう見つかっちまったかぁ……」
「まぁ、これでも時間がかかったほうだと思うけどねー」
和人の向かい側で、美味しそうに朝食の食パンを頬張っている直葉は、応じていた。
□ 聖剣エクスキャリバー
それは、ALO内部に於いて、サラマンダー将軍ユージーンの持つ《魔剣グラム》を超えるとも言われている武器である。そして、その武器《聖剣エクスキャリバー》にと並ぶとされている伝説級武器が《神剣レーヴァテイン》だとされている。
しかし、《エクスキャリバー》《レーヴァテイン》の2つに関しては、公式サイトでも 大手の攻略サイトにも明確な入手先や、方法は知られていなかったのだ。
いや、正確には《エクスキャリバー》に関しては、知っているプレイヤーはいる。
和人と直葉、そして 隼人、ユイの4人は実際に確認をして、他の明日奈や玲奈も知っている。……知っているからこそ、前回大目玉を食らってしまったのだ。あのリュウキとキリト、2人の《邪神狩りツアー》と称した、《エクスキャリバー下見ツアー》をした時に。
約1年程前だった。それまで秘密は守られていた、保たれていたと言うのに――。
「あぁーあ……、こんな事ならもっと早めに段取りしといた方が良かった……。火が突く様な、出来事があった、っていうのに……」
和人はボヤきながら、直葉から受け取った自家製ジャムを食パンに塗りたくる。それまで、食パンがまだ口の中に残っており、朝の味を楽しんでいた為言えなかったが、咀嚼し、ごくんっ と飲み込んだ後、直葉は和人の誤解を正した。
「よく読んでよ、お兄ちゃん。まだ見つかっただけだよ。入手にまでは行ってないみたいだよ」
「なにっ! ……ほんとだ。なんだよ、脅かすなよ……」
大口でかぶりつこうとしていた和人は、一時止めて、直葉の言っていた言葉を確認した。……間違いなく、取られていない事を確認した後に、今度こそ、ジャムたっぷりの食パンにかぶりついた。
考えてみれば、獲得したプレイヤーがいるのであれば、記事内部に、写真がある筈だ。あの黄金の剣を誇らしげに構えているソイツのSSが。
……が、それは一概には言えない。
確かにサーバーにまだ 1本ずつしか存在されていないとされる其々の武器。各種類にあるとされる伝説級武器の1本を得たとなれば、自慢をしたい、誇示したいと思うだろう。ネットゲーマーであれば、その傾向はより強い。
だが、先程でも言った通り、……一概には言えないのだ。
目立つ事を、あまり好まない者もいるから。そして、公表をしていない者もいたから。
それは兎も角、和人は視線を再びタブレットに向けながら疑問を口にした。
「でも、じゃあ どうやって見つけたんだ? ヨツンへイムは飛行不可だし、けど飛ばなきゃ見えない高さだろ、エクスキャリバーのあった場所は」
そう、そして 更に小人数では絶対的に不利、いや 或いは無理だ。と言う人もいるだろう。そんな巨大な邪神モンスターが闊歩するフィールドにあって、更に自分達は あの時、邪神同士が戦いをしていて、直葉曰く『いじめられているほう』の邪神を助けた為、見る事が出来たのだ。
「お兄ちゃんは、あっ、隼人くんもだけど、あの時 すっごい迷ってたでしょ。トンキーに乗ったまま地上に戻るか、ダンジョンに飛び移って、エクスキャリバーを取りに行くかで」
「そ……そりゃあまあ、迷ったさ……。でも、敢えて言わせてもらえば、あそこで迷わない奴を、オレはネットゲーマーとは認められない! 故に、隼人! リュウキは皆から認められているんだっ!」
「……あんまりかっこよくないよ? それに、絶対、隼人くんも喜ばないと思うしー」
にこやかに評価する直葉は、少し考え込む様に視線を落とした。
「でも、トンキーは 私かお兄ちゃん、隼人くんが呼ばないと来てくれないから、他にヨツンヘイムで飛ぶ方法とかも見つかったと聞いてないしねー。て事は 他のプレイヤーもトンキーを助けて、クエストフラグを立てるのに成功したのかな……」
「そういうことになるのか……、あんなキモい」
「む……っ」
と、和人がその禁止ワードを言った途端、琴線に触れ、じゃなく、逆鱗に触れかかった感覚がしたのは、間違いではない。
目の前にいる、愛すべき妹が じろりと睨みを効かせているのだから。
「い、いや、個性的な邪神を助けようなんて物好き……」
「むーーっ!」
「いや、博愛主義者がスグの他にもいたとはびっくりだなぁ……」
何とか言葉を選びに選んだ和人だったが、最早手遅れだろう。だが、和人の考えも勿論否定する事は出来ないだろう。……中々気に入るのには勇気がいるモンスターだから。……邪神とも呼ばれている事も拍車をかける。
「キモくないもん! 可愛いもん! お兄ちゃんも、隼人くんも、ぜんぜんわかってないよ!」
――あまり、わかりたくないよ。我が最愛の妹よ……。
と、心で合掌をしつつ苦笑いを返す和人。
そして、直葉は更につづけた。
「でも、それだと、誰かがあのダンジョンを突破して、あの剣の入手に成功するのは時間の問題かもだよ、お兄ちゃん。確かに、あの空中ダンジョンには、トンキーをいじめてた、あの邪神クラスがまだまだたくさんいそうだけど……ね? もう休みに入ってるし。ソードスキル導入のアップデートだってあったから、ダンジョンの難易度そのものは下がってる筈だし」
「そう……だな……」
下見に行った時の事だ。
確かに邪神は強い。正直何度『ないわーー!』と叫びたくなったか判らない。その感想は ソードスキルが実装されていない時の感想だった。
だが、ソードスキルより、正直 そこはもう、 眼を持つ勇者様の出番だと思える。
勿論、何処かの宇宙人宜しく、何十倍、何百倍も強くなって、金髪になって、《スーパー》がつく名前になったりする訳ではない。……が、その真骨頂は異常なまでの洞察力、や動体視力。眼の力の全てが激増するのだ。……的確に相手の情報を見抜く、相手の弱点。更には武器の弱点まで見抜いてしまい、ぽきり、とへし折ってしまうのだから。
その眼とユイが合わされば、鬼に金棒だ。
……因みに、そう表現したらアスナやレイナ、勿論ユイにも怒られたのは言うまでもない事だった。
だから、それなりに準備をする。少なくともリュウキに負担をかけ過ぎる事は有り得ないし、ゲーマーとしてのプライドも許せないから、もっと強くなって制覇、剣を引き抜くと誓っていたのだが。
「新生アインクラッドの攻略ばかりだったからな……」
そう、アインクラッド実装された当初に解放されたえのが10層までで、9月に20層まで開通されて、そちら側の攻略にかかりきりだったのだ。
邪神の強さも、あのヨツンへイムの難しさもよく知っているのだが、発見された以上は、今までのとは比べ物にならない程のプレイヤー達があの万年雪に閉ざされた世界に押しかけてくるだろう事は容易に想像がつく。
「………どーする? お兄ちゃん」
2枚目の食パンに手を付けた直葉は、両手で牛乳のグラスを持ち上げながら、そう聞いた。それに対して、和人は軽く咳払いをして答える。
「……スグ。レアアイテムを追い求めるのだけがVRMMOの愉しみじゃないさ」
「……うん、そうだよね。やっぱり プレイヤーが強くならないと、意味無いって思えるよ。武器のスペックで強くなったって……」
「でも、オレ達、あの剣を見せてくれたトンキーの気持ちに応えなきゃいけないとも思うんだ。アイツも内心じゃ、オレ達がダンジョンを突破する事を期待しているんじゃないかな。……だって、オレ達とトンキーはトモダチじゃないか」
「…………ふぅ~ん。さっき、キモいとか言ってたのに……??」
やはり、どう言い繕っても、格好よくはないな、と直葉は思いつつ、ニヤリと笑った。その笑顔を返す様に和人も、最大級の笑顔とともに訪ねた。
「つうワケで、スグ。……お前今日は暇?」
「………………まぁ 部活はもう休みだけど」
それを訊いて、和人はよし! とばかりに、左掌に、右拳を打ち付けると、思考のギアを再び入れ替えた。攻略の方針をまくし立てる為だ。
「確か、トンキーに乗れる上限は9人だったな。てことはオレとスグ、リュウキ、アスナ、レイナ、クライン、リズとシリカ……っと、後1人だな。今回はタイムアタックにもなりそうだし、上限で行きたいから……。ん~、エギルは店あるしなぁ……、クリスハイトは正直頼りないし、レコンはシルフ領だろうし……」
最後の1人を誰にするモノか、と考えていた時だ。直葉が早くに口を開いた。
「あ、シノンさんを誘ってみようよ、お兄ちゃん」
「おおっ、それだ!」
指をぱちん、と鳴らせた。
これでメンバーは揃った。後は各人に連絡を入れるだけだ。
まず、連絡をするのは、隼人だ。
「………」
『………』
数秒のコールの後、電話越しに通話ボタンを押したであろう音が響き、心の中でガッツポーズをする。家で仕事をしている隼人は、大きな仕事をしている時は、基本的に留守電にしている時が多いのだ。それでも、蔑ろにしたくない、と言う事から、成るべくは出る様にしてくれているが……、仕事をしている人に邪魔をする訳にはいかないと、逆に気を使ったりもしていたりする。
『ん。キリ……和人か。おはよう。どうしたんだ? 今日は。何かあったのか?』
間違いなく、隼人であることを確認した和人は、少し早口で答えた。
「おはよう、隼人。今日、皆で クエストに行こうと思うんだけど、時間空いてないか?」
『今日か。……ん、特に問題ないよ。一日空いている』
「おっし、良かった。今年ラストの大型クエストだ。やっぱし、お前がいないと締まらないからな。ってな訳で、しっかりとまとめて貰いたくてな!」
隼人の指示を期待していた時、ため息交じりに返答が帰ってきた。
『………馬鹿言うな。リーダー職は和人、だ』
「えー」
速攻で拒否されてしまったから駄々を捏ねてやろう、と思った和人。あの夏の日、鯨に会いに行くクエストの時も、リーダー職をやったのに、と材料にしようと思ったのだが、それらは即座にそれは息を潜めた。
『……成る程、聖剣エクスキャリバー、か』
「っっ!!?」
ぼそり、と隼人の口からあの武器の名前が出たからだ。故に、今から何に行くのか判った様だ。
『……見つけられたみたいだな。NEWSに載ってた。つまり、あの場所に攻める、と言う事は邪神の群れの中に飛び込む様なものだ。フィールドに比べたら狭い上に、エンカウント率も向上。集中もしなきゃならないし……、負担を軽減してくれると助かるんだがなぁ』
「ま、まぁ……それもそうだな」
『ああ、後、和人がリーダー職するんなら、オレは妙な横取りしたりはしない』
「よし! 任せておけ!!」
隼人との協定をくんだ和人にはもう怖いものなしだ。嘘を言う男でもない。それは勿論こちら側も違えなければ、だ。
「あ~あ、や~~っぱ、隼人くんの方が格好いいねー。お兄ちゃん、情けない感がバリバリだよ?」
「う、うるさいな……っと、と 何でもない、こっちの話だ。ああ、後上限9人全員で攻めるから。ああ、明日奈にはオレが言うから……、明日奈に言えば玲奈にも伝わると思うけど、隼人から一応連絡をしていてもらえないか? その方がスムーズだと思うし。……ああ。それで頼む。 じゃあ、今日は頼んだぜ? 相棒っ!」
妙に饒舌、そして上機嫌になった和人は、そのまま通話を終わらせた。
「はぁ~、そんなに悔しかったの? 別に良いじゃん。アレは偶然だった、って言ってたんだし」
「ぐ、偶然も実力の内、とかなんとかって 煽ってたのはスグもだろ?」
「あはははっ、だって、面白かったんだもん」
「ったく……。まぁ、これで懸念はなくなったな! 争奪戦になったら、勝率悪いし……」
安堵のため息を吐きつつ、そう言う和人。それを見た直葉は再び笑った。
「はぁー、隼人くんはお兄ちゃんをすっごく評価して、お兄ちゃんは隼人くんをすっごく評価して……、ほんとに仲良しさんだね。明日奈さんや玲奈さんを悲しませちゃ、ダメだよ?」
「ぶっっ!!」
直葉の言葉は、会心の一言だったらしく、飲んでいた牛乳が変な所に入ってしまった為、盛大にむせてしまうのだった。
~結城家~
正月は、いつも京都の結城家の本家へと赴くのが家族の決まりとなっている。だからそろそろ準備をしなければならない。色々と大変だ。挨拶も考えておかないといけないから。
だけど、やはり 思う所はある。
「京都に行く前に……、もう一度、キリトくんに会いたいな……」
明日奈は、朝風呂の最中である。
とぷん、と口元にまで湯に浸かって、考えるのは 和人、キリトの事だった。京都まで言ってしまうと、長く和人には会えないだろう。アミュスフィアを持っていけば、ひょっとしたら 合えるかもしれないが、件の事件があったから、あまり風当たりが良くないVR世界だ。だから、安易にゲームをする事も出来ないだろう。
「お姉ちゃん、私も入っていいー?」
「……あ、レイ? うん。いいよー」
そんな時だ。浴室の扉越しに シルエットが見えたかと思うと、玲奈の声が聞こえて来た。
脱衣した後、ゆっくりと滑らない様に 浴室内へと入ってくる玲奈。軽く朝の挨拶をまた交わして、シャワーを浴びる。
朝の冷気で冷えた身体にゆっくりとシャワーのお湯を頭の上からゆっくりとかぶり、気持ち良さそうに玲奈は目を瞑っていた時。明日奈は声を掛けた。
「ふふ。もう1人で大丈夫だった? 夜眠るの」
「っ! あ、あうっ………。う、うん、大丈夫ー……、まだ やっぱり ちょっと怖いけど」
苦笑いをしながら玲奈はそういった。
姉妹の間では 互いにオカルトもの、ホラーものが苦手だと言う事は互いに承知である為、繕ったりはしてないのだ。そして、その話題が何のことなのかも周知の事実。
「でもさ? 無茶するからだよ? レイ。私と一緒で、苦手なんだから」
「う、うん……でも、やっぱり……気になっちゃったから……ね。ちょっとだけ、だけど」
「しののんとリュウキくんを、だよね。……気持ちは、判るなぁ。私がレイの立場だったら、行っていたかもだし」
「で、でも、詩乃さんは もう大切なお友達だしっ! ぜーんぜん、そんなの無いよ! ……多分」
「……ふふ」
明日奈は玲奈の言葉を訊いて笑った。
詩乃の事は2人は当然ながらよく知っている。……隼人との出会いの事やGGOの、BoB大会中の事も色々と訊いて、理解も出来た。初めて背負ってくれた。手を握ってくれた人が隼人だったから、仕方ないだろう。
「リュウキくんはレイが一番だもんねー」
「おっ、お姉ちゃんっ///」
「大丈夫だって、リュウキくんは、とっても鈍感さんなんだけど、……リュウキくんは 誰も泣かせたりしないよ、きっと。あ、でも あまりリュウキくんを 悩ませないであげてね? 見てる方がちょっと辛くなりそうだから」
「し、しないってばっ! そんな事っ! もうっお姉ちゃんっ」
玲奈はそう言い、軽く身体を洗い流した後、湯舟へと飛び込むように入り込んだ。
広い浴槽は明日奈と玲奈の2人が入っても十分すぎるスペースだ。軽くお湯を掛け合ってバトルを楽しむ姉妹だった。
暫くお風呂を楽しんでいる時。
「そろそろ、京都行きの準備、だよね」
「うん。………」
「あ、お姉ちゃんが 今、何考えてるか、当てようか?」
「それ、レイも同じじゃない?」
「えへへ……」
次に互いが口にしたのは、先程明日奈1人で お風呂に入っていた時に、呟いた事だ。
――京都に行く前に、もう一度、互いの想い人達に会いたい。
見事、互いに的中させた姉妹は本当によく似ている。
そして、お互いの想い人達も、本当によく似ているのだ。その数秒後に、互いの携帯端末にメロディが流れたのだ。
そして そのメロディは 設定しているモノだ。掛かってきたら、直に判る様に……。
「「あっ……!!」」
2人は笑顔で、傍に置いてあった携帯端末を手に取った。
こうして、今日思った願いは 2人同時に叶うのだった。
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