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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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表裏

 
前書き
年が明けて初の投稿です。今年もよろしくお願いします。


対比の回 

 
【焔の潜入任務】
~~Side of マキナ~~

周波数140.15から通信。

とある筋(スカリエッティ)のリークで手に入った情報によると、その山岳地帯から異常な電力使用が見られるそうです。そこでその世界の協力者から送ってもらった衛星写真を確認すると、地図上や記録には存在していない研究所が発見されました。この隠蔽度合いから察するに、恐らく“裏”が関わる施設に間違いないでしょう。今回の任務はその研究所に潜入し、何をしているか調査して下さい。ただ、私達はPMC……事態の解決までは任務に入っていません。どうするかはマキナの判断に任せます』

「了解、夜が明ける前に終わらせる」

『……あ、すみません。どうしても違和感が拭えなくて』

「はぁ……気持ちは分かるけどさ、シュテル。もう慣れてもいい頃でしょ……」

『善処します。では、ご健闘を祈ります』

アウターヘブン所属次元航行艦“エルザ”にいるシュテルとの通信を切って、私は目の前の山岳地帯を見据える。石灰の成分が多く白い山肌の中、景色に溶け込むように白く塗装されたコンクリートの壁や金属性の屋根があった。あれが今から忍び込む研究所……。
なお、今の私はレックスのウィンドウを介さず自分で声を出している。自前の声を失った私が声を出せるのは、アウターヘブン社で声帯を機械に入れ替える手術を行ったからだ。もちろん、馴染むまで多大な苦痛に襲われたものの、一年も経てば完全に馴染み、痛みも無くなっている。この機械はどこぞの小学生名探偵のネクタイみたいな変声器の機能も備えているため、やろうと思えば知り合いの声帯模写も出来る。が、基本は復元した記憶にある昔の自分の声を使っている。誰かの声を模写するのは必要時だけだ。

さて、地面に腹ばいになった私は双眼鏡で、研究所の規模や警備員などの位置や装備を確認する。Marking……Marking……。武器は旧型デバイス……のみ? やれやれ、次元世界には相変わらず質量兵器嫌いの連中の多いこと多いこと……魔法の使えない状況はファーヴニルのせいで一度味わっているのに、全然学んでない。

おかげで対策が楽になるんだけどね。敵の位置をあらかた調べた私は腰を低くしながら山の斜面を降り、ピッキングで柵の扉を開けて研究所の敷地内へと足を踏み入れる。

「あ~畜生、寒い。こんな僻地にある研究所なんて、誰が襲うんだっての……」

「全くだ。いくら給料が良くても、退屈なのはどうしようもないよな」

「それにしてもあれだ。前にえらく高い階級章を付けた男がやって来たの、覚えてるか? ほら、あの顔の皮膚が全部火傷でただれた……そう、まるであの世から這い上がってきたような奴」

「覚えてる、悪夢にも出てきたよ。あんな人間じゃない顔、一度見たら忘れられるか……あれはまさに……髑髏だった」

「あの男の部下も、なんか様子が変だったよな。何て言うか……ゾンビみたいにおぼつかない足取りをしてた」

「復活した髑髏が率いる死者の部隊か……まるでホラーゲームだ。あ~やだやだ、思い出すだけでゾッとするぜ……」

「ところで、融何とか……ユニ何とか……のデータがどうのってあの時聞こえたけど、中で行われてる研究って、結局何なんだ?」

「それはわからんが、おまえ……変に首を突っ込まねぇ方が身のためだぞ。働いて報酬をもらって暮らす……それで十分だろう。悪を許さず身を粉にして他人のために戦う、なんて綺麗事は最近話題の管理局の白いエースみたいな連中だけが出来る話だ」

「まったく、小学生は最高だぜ!」

「おい……おい……」

「同期にロリコンがいたのはいいとしてだ……何の取り得も無い俺達を雇って、良い給料を払ってくれる場所なんてここぐらいしかないよな。さて、愚痴ってないでそろそろ警備を再開しようか」

警備員の会話から彼らの事情がうかがえるが、私は私の任務を果たすだけだ。話に出てきた“髑髏の男”が気になるが、今は置いておこう。巡回路を歩き出した彼らの向こうに、研究所内部へ通じる扉が見える。ここで見つかったら後の潜入が困難になるに違いないから、絶対見つからずに行くべきだ。

ホフクで倉庫の下を潜り、警備員が通り過ぎるまで隠れてから再び移動……良い感じに扉までの道の警戒が薄くなった頃合いを見計らって、私は姿勢を低くして扉に接近、ピッキングで錠を開けて施設内部への侵入に成功する。

「次の実験までに、要望されたデータの送信をしておくか」

廊下の向こうから研究員が呟きながら歩いていた。何の当てもなく施設内部を歩くのは危険なので、彼を道しるべに隠れながら付いて行く。やがて通信室に入った彼は装置に記録端子を差し込み、どこかへデータを送信していた。

「やれやれ、接触した対象のリンカーコアの有無を識別するコードなんて、一体何に使うんだか……」

ブツブツ呟く彼のその隙だらけの背中へ、私は一気に迫る。

「ッ!?」

レックス・スタンナイフモードを手にした私の姿を見て、研究員は咄嗟にその腕を防ごうとする。しかし勢いや力の差を覆す事は出来ず、後ろに回り込んだ私は彼の首筋にナイフを突きつける。

「動くな……!」

「スパイか!? くそ……!」

「ここで何をしている? 言え」

「チッ……! 古代ベルカの……融合騎を使ったデータ収集……!」

「古代ベルカの融合騎? そいつに何を……ッ!?」

瞬間、施設内部で何か大きな機械が動くような振動が走り、警戒した私の腕から研究員が抜け出そうとする。そうなる前にCQCで彼を投げ飛ばして壁に叩き付け、スタンナイフの電撃を浴びせる。スタンガンと同じ電圧が身体に流れた彼は呻き声を上げ、気を失ってその場に崩れた。

ここに来る過程でわかったが、研究所内部は隠れる場所が少ない。この場合は変装した方がバレにくいと思って、ちょっとだけすまないけど……彼の服を脱がしてロッカーに詰め込んだ私は奪った研究員の服を着た……のだが、こりゃ駄目だとすぐに脱いだ。

サイズの差もそうだが、何より男には無くて女にはある胸部の膨らみが、白衣ではどうしても隠せなかった。仕方ない……今着ているリキッドの私兵部隊(カエル兵)と同じスニーキングスーツでこのまま行くしかないか。
言い忘れてたけど気持ち的に嫌なので、ヘルメットは取り外しているし、SOPナノマシンも注入していない。そのため支給品のサブマシンガンP90やハンドガンFive-seveNもシステムを使っていないので使えず、せいぜいマチェットが使える程度。といっても麻酔銃M9とレックス、スーツの筋力強化性能で十分なので実の所あまり必要ない。最新装備のオクトカムがあれば潜入も少し楽になるが、アレ結構値段が高いからなぁ……。そっちはGMPを稼ぐまで我慢するしかない。

「探索の前に地図か何かあれば……お、良い物発見」

通信装置には差さったままの記録端子と、その隣に内部のどこで実験が行われているか記された見取り図があった。端子は抜き取って確保し、見取り図は地図として使えると思って情報を端末にコピーする。

さて……記録端子が手に入ったから任務を終えて帰っても良いんだけど、ベルカの融合騎がどうしても気になる。だから融合騎が囚われているだろう実験室へ行く前に、私は研究所の電源の所へ向かった。実験中のためか研究員が廊下をうろついていないため、電源まで意外と簡単にたどり着けた。そこでゴウンゴウンと研究所内に電気を送っているブレーカーを、カチッと降ろして研究所の通電を止める。

「なんだ? ブレーカーが落ちたのか?」

「おい、誰か確認に行ってこい。もしブレーカーが落ちてたら上げてくれ」

「はいはい、わかったよ。……ったく、人使いの荒い上司だ……」

当然、電源が落ちたら研究員も異常を察知して動き始める。しかし暗闇では彼らもあまり見えていないため、廊下の正面から向かって来ても隅で寝転がっていれば見つからずやり過ごせる。そうやって実験室へ向かい、研究員がたむろってるだろう観察室にスタングレネードを投げ込む。真っ暗な中に突然閃光を直視し、甲高い音を聞いてしまった彼らはたまらず気絶する。見張りがいなくなった事で実験室内に入った私は、☓の形の寝台に磔にされている赤い髪で露出過多な服装の小さな融合騎を発見した。

「う……? あ……あんたは……」

「シッ! 静かに……外に出るよ」

囚われの融合騎をスーツの中に隠し、外へと足早に進む。しかしその途中、ブレーカーを戻されて研究所内の通電が復活してしまう。安堵した様子の研究員が戻ってくるのを正面に捕らえた私は、咄嗟に“秘伝の装備”を取り出してそこに隠れる。

「ん?」

目の前から来た研究員が廊下に不自然に置かれた“それ”に気付き、首を傾げる。ここにあるはずがない物を見て訝しむ彼は、軽くそれを蹴って向きを変え、穴から中身を確かめようとしゃがむものの、暗闇で上手く見えなかった。そしてそれを両手で掴んだ彼はゆっくりと持ち上げ……、

「てぇっ!!」

中から飛び出てきた私にCQCで吹っ飛ばされて意識を失った。そのまま私はさっきまで隠れ蓑に使っていたそれ、“ダンボール”を回収して脱出を再開する。

「なんか……信じられねぇ光景を見た気がする……」

融合騎が何か言っているが、私は無視した。やがて意識を取り戻した彼らが研究所の異常に気付いた頃、私達は敷地内から既に脱出を果たしていた。






「……なんだ、このチリチリとした感覚……もしや?」

ある筋で購入した“トライアンフ”にアウターヘブン社製の魔導エンジンとワイヤーフック、月村製の次元移動システムを搭載した私用のバイク“ダークハウンド”で山道を越え、研究所から数キロ離れた位置まで走り、唐突に寒気が一瞬走った私はその辺にあった岩陰で一旦バイクを停めて降りる。荒野の風が肌を撫でる中、私はスーツに隠していた融合騎を水をすくうように外に出して、平らな岩の上にハンカチを敷いて寝かせる。

「先に言っておくと、質問や疑問、要望は後で受け付ける。私はマキナ・ソレノイド、君の名は?」

「……烈火の剣精、アギト」

「アギトね……覚えたよ。とりあえず今から君の身体を検査させてもらう」

「検査?」

「そ、なんか嫌な予感がしてるから、念のためにね」

そう言って検査魔法をかけると、アギトはされるがままと言った様子で大人しくしていた。それで数秒後、シャマル直筆の教科書にあった特殊な検査魔法を使った結果だが……やはり予感は当たっていた、それも嫌な意味で。

「落ち着いて聞いて、アギト。君の身体の中に、デバイス用の自爆魔法が埋め込まれてる」

「じ、自爆魔法!? そんな……どういうことだよ……!?」

「多分、奪われた時の機密保持のために仕掛けていたんだろう。恐らく次元間を移動するか、研究所から出て一定時間が経つと体内から爆発する仕組み。しっかし君みたいな可愛い子にこんな罠を埋め込むなんて、随分酷い事するなぁ」

「……やっと地獄から助かったと思ったら、アタシには結局こういう末路しか無かったんだな……。でも……せめて助けてくれた恩人だけは巻き込みたくないから、あんたはアタシを置いていってくれ。アタシはもういいから……」

「おっと、それは聞き入れられないな。さっき言ったでしょ? 質問や疑問、要望は後で受け付けるって」

「だ、だけどよ……体内にある自爆魔法なんてどうしようも無いじゃんか……!」

「どうしようもあるんだよ、残念ながら。ま、私に任せなさい」

ならもう好きにしてくれ、と言わんばかりに半ば諦めモードのアギトに、私はレックスの収納スペースに入れてある麻酔銃の弾丸から必要量の麻酔を取り出して注射する。融合騎に麻酔の効果があるのか知らないが、実はそこまで大事という訳ではないし、これからの手術ではあくまで無いよりマシ程度の扱いだ。

「ちょっとくすぐったいけど……何、痛みは一瞬だ」

そして私は意を決して、アギトの体内に魔力だけで構築した手を突っ込む。サバタ様の暗黒転移とシャマルの旅の扉、ユーリのスピリットフレアを参考にしたこれなら開腹手術を行う必要が無いため、患者の負担を限りなく減らす事が出来る。流石に実物の爆弾を埋め込まれていたらもっと慎重になる必要があるが、デバイス用の自爆魔法ならこれで十分処理が可能だ。

「ふ……ぐ……!? あ……!」

「よし……取り出すよ? せーのっ!」

自爆魔法の術式をまるで豆腐を崩さずに水揚げするみたいに魔力の腕で掴んだら、爆発する前にすかさず抜き取って彼方へと放り投げる。刹那、投げた方からグレネード5発分に匹敵する爆発が発生した。爆風に襲われない様にプロテクションを張っておいたおかげで、手術を終えた私と自爆魔法を抜き取られたアギトには何の影響もでなかった。

「ふぅ……終わったよ。アギト、君はこれで自由の身だ」

「そっか……案外早かったな。でも………は……はは……! ぐすっ……! アタシ、自由に……なれたんだ……!」

本当の意味で自由を手にしたアギトは、あまりの嬉しさで涙をこぼした。かつてSEEDを宿していた私をサバタ様達が救ってくれたように、似た境遇の彼女を今度は私が救えた……。シャマルがこれを見ていたら、救われた者が今度は誰かを救うってとても素敵な事だと言ってきそうだ。……別に悪くない気持ちだけどさ。

「ありがとう……! マキナの姉御、本当にありがとう!」

「はいはい、手術代は特別にサービスしとくよ。それじゃあちょっと待ってて、仲間と通信したいから」

アギトが頷いて承諾した事で、私は周波数140.15へ通信を開始する。

『こちらアウターヘブン所属次元航行艦エルザ、シュテルです』

「こちらマキナ、ミッションクリア。手に入れたデータは後でそっちに送信する」

『了解です。……データだけでなく融合騎も回収するとは、どうやら期待以上の成果を為したようですね』

「別にいいじゃん。私自身、アギトの境遇は他人事に思えなかったし……」

『同感です。ところで一度マザーベースに戻ってきませんか? シャロンを探して色んな世界に行っているのは知ってますが、あまり帰ってこないものですから皆も心配しています。もちろん、私もですよ』

「そっか……そうだね。データを送る手間も省けるし、たまには顔を見せに帰るのも良いか」

『ではヘリを送りますので、合流ポイントを端末に表示します。エルザでの再会を楽しみにしています』

通信切断。私は端末で合流ポイントの座標を確認してから改めて“ダークハウンド”のエンジンをかけると、アギトがハンドルの上に降り立ってきた。

「姉御……アタシ、姉御の力になりたい。助けてもらった恩を返したい。だから……こんなアタシでも一緒に居ていいか……?」

アギトは不安そうな表情を浮かべるが、私は軽く笑みを浮かべて彼女の頭を軽く撫でる。

「わ、っと!?」

「全くもう……そう怖がらなくても独りにはしないっての。アギトはもう私の仲間なんだしさ」

「仲間……?」

「ようこそ、アウターヘブンへ。私は君を歓迎しよう」

「ッ……! ああ! よろしく頼むぜ、姉御!!」

初めて心からの笑顔を見せたアギトがたまらず抱き着いて来て、私はそのままの姿勢で彼女を受け止める。日の出が彼女の門出に祝福を与えてくれるような光景の中、新しい仲間を迎えた私は回収ポイントへ向かってバイクを走らせ、そのまま仲間のヘリの中に乗り込んだのであった……。


ちなみにヘリ内では……。

「あ、姉御……その真っ赤を通り過ぎておぞましい見た目の食べ物は何なんだ?」

「赤レーションの麻婆豆腐だけど……食うか?」

「食うか! なんか怖いもん!」

「じゃあこれにする? オットンガエル」

ゲコッ。

「カエル!? 姉御、カエル食ってんのか!?」

「うん、生でも結構美味いよ。それに地球のニッポンだと皆、カエルをスシや天ぷらにして食べる習慣があるんだってさ」

「ま、マジかよ……!? いや待て、姉御がニッポンの文化を勘違いしている可能性もある。お~い、ヘリパイロットさん! カエルを食べる習慣って本当にあるのか?」

アギトが尋ねた事で、ヘリパイロットは操縦しているので顔を動かさないまま返事をしてきた。

「ウキッ、ウキキ(心配するな、俺も食べてる)」

「なんでサルがヘリを操縦してるんだぁあああああ!!!!!! しかも渋い見た目に反して声が可愛いッ!!」

白いヘルメットを被って白い髭を生やしたパイロットの姿を見た事で、アギトが頭を抱えて叫んでいた。本来の元気な性格を見せてくれる辺り、もう馴染んできてるようで何よりだ。

【二代目祝福の風】
~~Side of はやて~~

今日は新暦66年の冬……ファーヴニル事変から、いつの間にかもう一年経っていた。どうも年が過ぎるのが早く感じる……なのはちゃんとテスタロッサ姉妹の“テストとか出席日数やべぇ事件”とか、そこから派生した“平均点以下は椅子ロケット事件”とか、足が完治した事で石田先生に向けて“お世話になりました会”とか、管理局所属の人間全員に“SOPナノマシン注入”とか、色々忙しかった事で今年は時間をあまり考えてこなかったからかもしれない。

それはともかく、かねてより私は聖王教会にユニゾンデバイスの製作を依頼していて、そしてこの日……とうとう八神リインフォース・ネロ・アインスの後継機である八神リインフォース・ツヴァイが完成したとの連絡が入った。ちなみにリインフォースに付け足されたアインスという名前はツヴァイと区別を付けるためで、ネロの部分はミドルネーム扱いという事になるらしい。そのため皆はこれから姉の方をリインフォースかアインス、妹の方をリインかツヴァイと呼ぶように決めている。

よってアインスをネロと呼べるのは……っと、到着したみたいやな。

「はやて、お待ちかねの末っ子との初対面だよ」

カリムの義弟であるヴェロッサ・アコースに案内され、私とアインスはカリムの執務室へ入った。そこで私達は初めて末っ子のツヴァイとの対面を果たしたのだが……、

「あむ、あむ♪ このカステラ、美味しいですぅ~♪」

「ふふっ、まだたくさんあるから好きなだけ食べてね」

「わぁーい! ありがとです~!」

末っ子がカリムに餌付けされてた。ぱくぱく食べるツヴァイを微笑ましく見ているカリムやけど、ちょっと物申したい気持ちが湧き上がってきた。

「こらこらこら!? 会うのを楽しみにしていた家族へ見せる態度がそれかいな!?」

「だ、駄目だよツヴァイ……ちゃんと挨拶してくれないと、姉として寂しいよ……」

「はわっ!? アインスお姉ちゃんを泣かす奴は許さないです! さあ、誰がやったか早く白状するです!」

「あんたや、あんた」

「はうっ、そうでした!? ご、ごめんなさいです……」

「よし、許したる」

ちゃんと謝る姿勢を取ったツヴァイを、私はすぐ許した。まあ、これから家族として一緒に暮らす相手と不仲になりとうないし、歩み寄る姿勢は大事やからね。

「改めまして、リインフォース・ツヴァイです! これからよろしくお願いします!」

「よろしく。これから仲良くやっていこうな、ツヴァイ」

「大丈夫、皆優しいから困った事があったらすぐに言ってね」

「はいです!」

こんな感じで末っ子を八神家に正式に迎え入れたのは良いんやけど、正直な所、少し疑問があったりする。簡単に言えば……完成が想定より一年早く終わってる点とか、ユニゾンデバイスの機能をアインスの知識頼りで復活させるにしては流石に早過ぎる点とか……。

「あ、疑問に思っちゃった? 実は古代ベルカのユニゾンデバイスを製作しているから資料が欲しいと本局に要請した所、なぜかユニゾンデバイスに関するデータが豊富にあったの。私も流石に変だと思って、どうしてこんなにあるのか尋ねたら、無限書庫の開拓が進んだ事で本局はユニゾンデバイス製作技術の復活を考えて資料とかデータとかを既に集めていたらしいわ」

「あ、そうだったんか……。てっきりどっかの違法研究所でデータ収集したものかと思ったけど、どうやら違うみたいやな」

「それについては少々断言しかねますね。ただ、本局側でも一応検閲は行っているはずなので、出所不明ではありますが大丈夫でしょう」

「あの……シスター・シャッハ? 不安になる事を仰らないで下さい……」

「ふぇ? 私は不安になる資料を使って作られたのですか、マイスター?」

「ちゃうちゃう。それにもしそうだったとしても、ツヴァイが私の大事な家族の一員やって事に変わりはあらへんよ。とりあえず末っ子が不安に思いそうやから、この話はお終い!」

せっかくツヴァイが誕生してめでたい話を、わざわざ暗くする意味も無いもんな。それがわかってくれた事で、カリム達もこの話を変に蒸し返さない様にしてくれた。

「ところで話は変わるけど……地上本部に地球産の質量兵器と局員ではない兵士や魔導師が多数配属されているのは、もうご存知かしら?」

「本局でもそれなりに話題になっとるから、一応知ってるで。あれって、マキナちゃんや王様達が所属しているPMCのやろ? ファーヴニルの件をきっかけに繋がりを持った地上本部と帝政特設外務省が活動の許可を与えてるから、本局上層部としては違法と言いきれなくて頭を抱えとるようや」

「ええ。皆さんが知っているように管理局法では質量兵器を禁止しているけど、質量兵器を使って収入を得ている管理外世界の企業が、こうして次元世界に進出して来た前例がまず無いの。本局は強力な魔導師を抱えてるならせめて質量兵器だけでも規制して欲しいと要請したけど……彼らが回収した“裏”が関わる情報を暴露されるのを恐れて、逆に何も言えなくなってるみたい」

それは自業自得としか言えへんなぁ。ま、PMCは付き合い方次第で敵にも味方にもなるんやから、変にいちゃもん付けるより上手く接した方が余計ないさかいを生まなくて済むと思う。

大体あの組織には……あまり本拠地に居ない噂を聞くけどマキナちゃん、常に冷静沈着なシュテル、少々頭が残念だけど純粋に強いレヴィ、まだ私では勝てないだろう王様ことディアーチェ、私達が束になって挑んでも返り討ちにする最強存在ユーリがいる。他にも管理局のやり方に疑問を持つ人や、怪我などで引退した元局員か元騎士、巷で有名な傭兵、冤罪を証明された魔導師、違法研究所で救出された被検体といった、一癖二癖もあるけど腕は確かな人達もいる上、あのファーヴニルとタメ張れるメタルギアRAY試作改修型というとんでもない巨大質量兵器まである。正直、ここまで戦力が揃ったPMCと敵対するなんてもってのほかだろう。

「まぁ今の所、本局上層部はPMCを使わないようにしているけど、任務の内容に対して明らかに戦力不足だと賢明な判断をした局員は個人的に依頼を申し込んでいるのが現状ね」

「普通にお客さんになってるやん。確かに管理局が慢性的な人手不足である以上、戦力的にどうしても必要になる場合も多いからなぁ。……そうそう、フェイトちゃんが執務官試験を受けるって聞いたけど、あの試験ってかなり難しいんやなかった?」

「難しいどころじゃ済まないレベルね。エリート候補生が50人受けて1人受かるかどうかってぐらいの難問ばかりだから」

「そう聞くと改めてクロノやサルタナ、エレンが凄い人物なんだと実感出来ますね……」

「参考書ならありますけど……見てみます?」

シャッハに勧められた事で、何の気なしに私は承諾した。それで私、アインス、ツヴァイが持って来てもらった参考書をパラっとめくり……目が点になった。

「な、なんやコレ……学会の論文?」

「いえ……れっきとした問題みたいです。法律、倫理、行動、知識、思考、速度……様々な要素を調べるため、こうしてわざと難解にしているようです……」

「ふぇ~、目がグルグルですぅ~……」

これ以上読む……というか読んでも解ける気が全くしないので、参考書をシャッハにすぐ返した。彼女だけでなくカリムとヴェロッサも苦笑してるけど、はっきり言わせてもらう。こんなの絶対小学生が挑む問題じゃない。フェイトちゃん……ちょっと無謀やったんちゃうかな?

「執務官になるのがどれだけ難しいかわかってもらえた所で、少し真面目な話を訊いていい? 最近のアンデッドの出現傾向はどうなってるのかしら?」

「とりあえず管理世界はなのはちゃん達が頑張ってくれたおかげで、あんまり出現しなくなっとる。ただなぁ……管理外世界に出現した場合、管理局法が原因で彼女達を送るまで渡航許可や手続き云々の時間がかかってしまうんや。その結果、被害がよく拡大してたんやけど……」

「けど?」

「管理局が手をこまねいている内に、王様達が管理外世界のアンデッドを倒してるんよ。管理局法に縛られずに動けるPMCだからこそ出来る行動やな。そんな訳で管理世界はなのはちゃん達、管理外世界は王様達が対処するって区分けが自然とできたんや」

「あらあら……規則を守っていると色々動きにくくなる、という事の良い例になってしまってるわね。あ、だからフェイトさんは執務官の資格を取って、少しでも動きやすくなろうとしてるのかしら」

「他にも理由はあるんやけどね。で、そんな風に活動をしてきたから、管理外世界では王様達の顔が広く知られとるらしいわ。PMCとしてもコネが出来る訳やからある意味、管理局よりも認知度が高くなってるで」

それに以前のファーヴニルの件もあって、今では地球のように次元世界の存在を知っている管理外世界の数が非常に多くなってきている。そしてそういった世界の国や組織は“管理世界に入ると管理局の庇護を受ける代わりにその世界の武器や兵器、国や組織などが全て解体されて、技術や文化も管理局の下で統一される”というやり方に強い反感を持っている事が多く、管理局員が訪れたら露骨に煙たがられる風潮が広まってしまってる。でも王様達PMCの人間が来たら、一転して歓迎されるらしい。羨ましいこっちゃ。

まぁ……彼らがそうやって態度を変えてくるのも一応理解できるんやけどね。例えば技術の発展によって次元世界という新しいフロンティアに行けるようになったと思った時、次元世界に君臨している管理局から頭ごなしにいきなり武装解除や技術提供とか色々命令してきたら、そりゃあ怒るのも当然や。しかも王様達経由でニダヴェリールの真実も全て知られてるから、彼らの管理局に対する不信感はますます募っている。膨らみ過ぎて爆弾のようになったそれがいつか爆発するんじゃないかと思って、皆も不安に感じてるらしい。

だって、下手したら地球が管理局の敵に回る事だってあり得るんやから。そうなったら私達は故郷と敵対するか、管理局を脱退して敵対するか、立場上そのどちらかを選ばなくてはならなくなる。そんなの、すぐに決められる訳がない……。だから私達はどちらに味方するかわからないけど、王様達はどうするんやろう? いくらPMCでも味方する陣営の選択権は個人にあるはずやし……できれば味方になってほしいけど、やっぱその時にならないとわからへんな。

そうやって情報交換をし終わった事で本局に戻ろうと席を立った時、ふと何かを思い出した様子でカリムが訊いてきた。

「そうそう、訊き忘れるところだったわ。はやて、ニッポンの人達はカエルをスシや天ぷらにして食べるそうだけど、本当なの?」

「はぁ!? 一体誰から聞いたんや、その話!?」

「マキナさんが早めに送ってきた年賀状から」

「あの子日本を勘違いしてるんちゃうの!? そりゃあ確かに食べる所もあるかもしれないけど、皆が皆食べる訳やあらへんわ!」

「でもサバタさんからそう聞いたって書いてあったわよ?」

「勘違いの根源はサバタ兄ちゃんやったんかい! ……って、あれ? ちょ、ちょい待ちぃ……確か兄ちゃんは時々料理を作ってくれた事があったけど……ま、まさか……?」

もしかしたら知らず知らずの内にカエルを食べてたかもしれないと、お腹をさすり……考える事をやめた。うん、知らぬが仏や。

余談だが、サバタにカエルの食べ方を教えたのは高町士郎である。彼にとっては礼の意味も兼ねているので、つまりそういうこと。

「ふむ、カエルですか……で、味は?」

「ヴェロッサによると、結構美味しいらしいですよ」

「実はつい先日、僕が試しにカエルを使って料理をしてみたらなかなか美味しくて、今度聖王教会でカエル料理の展覧会でもやってみないかと二人に話を持ちかけてるんだ。それでシャッハは珍しく乗り気なんだよね」

「私は真偽のほどを確かめてから決める、という事ではやてに尋ねたの。どうやら事実は少し異なるみたいだけど、異世界の食文化を体験するという意味でやってみる価値はあるかもしれないわね」

「マイスターはやての世界の食文化ですかぁ。私も楽しみです~!」

呆けてるうちにいつの間にか聖王教会でカエル料理の展覧会が開催される運びになってしまっていた。なんかアインスもツヴァイもカエルに抵抗感が無いし、カリム達も既に段取りなどの話し合いを始めていた。変に私が口を挟んだら場が白けそうなので、そぉ~っと部屋を抜け出し、ポツッと呟く。

「外国人が日本の文化を勘違いする瞬間って、あんな感じなんやな……」

ちなみに後日、展覧会には管理局の誇るエースの出身世界の料理という事で興味を持った人が多数訪れたものの、カエルを食べることに抵抗がある者は少なくなかった。しかし大抵の人はそのまま受け入れたため、展覧会は一応成功を収めた。

これだけなら私も特に思う所は無かったんやけど、問題はカエル料理をひどく気に入ったアースラクルーがいた事や。いつの間に手を回したのか、アースラの食堂のメニューにカエル料理がしれっと加わっていて、私となのはちゃんは食堂でそれを頼む局員を見ては、何とも言えない複雑な気持ちになっていた……。
 
 

 
後書き
エルザ:ゼノサーガより。主人公たちと出会ってから色々大変な目に遭う船。この作品ではマザーベースで開発された小型戦艦という事にしています。
カエル兵:MGS4で登場。性欲を持て余す、魅惑の女性達です。倒された時の自燃効果はナノマシンによるものだそうです。装備はマチェット、P90、FNH、Five-seveN、ロープを使うCQCなど。スーツを着ている間はマキナも壁に貼り付けます。
髑髏の男:察しの良い読者はお気づきでしょう。
トライアンフ:MGS4のAct3で乗るバイク。3やVにも出ています。
ダークハウンド:闇に潜む狼。ウルフとサバタに強い影響を受けたマキナに丁度いいと思いました。ただ名前が出た時にガンダムAGE2を思い出した事で、ノリでワイヤーフックまで付けちゃいました。変形は……いります?
自爆魔法:MGSVGZより……。
白い髭のサル:メサルギアソリッドよりピポオセロット。一発ネタのつもりなので、これ以上出すかは未定です。
テストとか出席日数やべぇ事件:ファーヴニルとの戦いが終わった後に、なのは達を襲った現実。あまりに学校に来なかったため、補習が行われたそうな。
平均点以下は椅子ロケット事件:やっちまった時にed曲が流れます。
カエル料理:次元世界の人間はそういうのには結構寛容なイメージがあります。で、味は?


アギトに関して、これははやてのリインとの対比を意味しています。ゼスト隊はちょっと色々ありますので、しばらくお待ち下さい。 
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