冬虫夏花
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8部分:第八章
第八章
「とてもね」
「そうなんだ」
「私にとっては寒いのよ」
そしてまたこう言ったのだ。
「滅茶苦茶ね」
「なあ、そんなに寒いか?」
彼はそのことを問わずにはいられなかった。
「今本当に。そんなに寒いか?」
「寒いけれど」
やはり返答は変わらない。
「今だってマフラー外してもね」
「そうか。ヒーターもかなり効かせてそれで随分食べて相当飲んでるのにか」
「それでも寒いのよ」
「どうなってんだ?一体」
流石に彼もここまで寒がっているのを見ては首を傾げるしかなかった。彼が感じている感触では今は元々それ程寒くはなかったしそれにヒーターと食べ物と酒のせいで暑かった。セーターを脱ごうとさえした位だ。しかし彼女は全く違うというのである。相変わらず。
「確かに沖縄って暑いけれどさ」
「だから沖縄とここは違うから」
こう言うのも同じだった。
「全然ね」
「何かどうしようもないのかな」
「寒くて仕方ないのよ」
言いながら泡盛をまた飲むのだった。
「今は」
「なあ、あのさ」
それがあまりにも信じられないので遂にこう言ったのだった。
「マフラー取ってみて」
「何でなの?」
「いいから取ってみてよ」
こう言うのである。
「マフラーね。取っみてよ」
「寒いじゃない」
「いや、それでもさ。取ってみてよ」
「寒いのに?」
「いいからさ、取ってみて」
とにかくそうしてくれというのである。
「いいわね」
「どうしても?」
「少しだけならいいから」
それでもだという。彼にしてもかなりの譲歩だった。
「できるかしら」
「わかったわ。それじゃあ」
それに頷いてだった。彼女はそのマフラーを取ってみた。するとであった。
「あっ・・・・・・」
「寒いかな」
「あまり、っていうか全然」
マフラーを取ってみての感想である。実際は全く寒くなかった。マフラーがなくてもだ。そこからは夏の時と同じ奇麗な顔があった。
「寒くないわ」
「そうだろ?幾ら何でも寒くないんだよ」
篤はここでまた言うのだった。
「これだけヒーターかけて飲み食いしてるからね」
「それでなの」
「寒いって思うから寒いんだよ」
「そうだったの?」
「そうだよ。ほら、見てよ」
篤はここで部屋の温度計を指し示した。ヒーターのスイッチのところにあるものをだ。それを指し示してそのうえで教えたのである。
「今二十度超えてるよ」
「二十三度ね」
「それで寒い筈ないじゃない」
実際に示されている温度を見せての話だった。
「そうだろ?どうかな」
「確かに寒くないし」
実感できた。脱いでみると確かにであった。
「そうだったの」
「意外だったかな」
「意外も意外っていうか」
真紀は驚きを隠せない顔で話していく。
「寒くなかったの」
「そうだよ、寒くなかったんだよ」
このことをまた彼女に話した。
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