真田十勇士
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巻ノ二十五 小田原城その四
「名物はその土地を表しているからな」
「だからですか」
「そうしたものを食って回るのもいい」
「それもですな」
「それもいいかもな」
幸村は考える声で言った。
「名物を食っていくのも」
「そうかと、それに名物はです」
「旅をしてその場所に行かねばありませぬし」
「これもまた旅」
「旅ですから」
「だからよいか」
また言った幸村だった。
「それもまた」
「そうかと、ではです」
「小田原の名物も食べていきましょう」
「そして楽しみましょう」
「酒も飲んで」
「そうするか、酒も国によって違うな」
その産地によってというのだ。
「味も香りも」
「ですな、摂津と尾張でも違いましたし」
「駿河の酒もその味がありました」
「無論相模の酒もそうで」
「他の国もです」
「その国ごとに味と香りが違う」
それぞれの味があるというのだ。
「何かとな」
「はい、それぞれ」
「見た目は似ていても」
「それでも味と香りはです」
「それぞれですな」
「そうじゃな、それも面白い」
こう家臣達に言うのだった。
「酒にしてもな」
「同じ本朝でも国によってですな」
「何かと違う」
「食いものも酒も」
「そうしたものが」
「海があったり山が多かったりとな」
幸村は地形のことも述べた。
「それぞれじゃな」
「そしてそのことを知ることもですな」
「大事ですな」
「それが見聞を広め」
「戦や政にも役立ちますか」
「そうじゃ、地を知ることは」
まさにというのだ。
「戦や政の最初じゃ」
「その第一歩」
「そうなりますな」
「うむ」
その通りという返事だった。
「そう思うと関東まで来たのはな」
「よかったですな」
「まことに」
「そうなるな、長旅になったが」
それでもというのだ。
「御主達と出会え様々なものを見られた」
「そのことがですな」
「実によかった」
「この小田原に来たことも」
「非常にですな」
「うむ、ではさらに見て回ろう」
この小田原を、というのだ。そうしたことを話しながらだった。
幸村達は小田原も見て回っていた、だが。
その幸村を物陰から見つつだ、風魔は周りに身を潜めている己が率いる忍達に言った。
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