ファーストキスは突然に
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4部分:第四章
第四章
そしてその結果。彼は決めた。
「よし、まずはだ」
その恵美に声をかけることにした。縮れた長い黒髪を後ろでポニーテールにして二重の丸い瞳にふっくらとした頬、それに八重歯が可愛い女の子である。小柄な身体にその白とグレーのタートンチェックのミニスカートと紺のブレザー、赤いネクタイがよく似合っている。
「ねえ恵美ちゃん」
「どうしたの?崇君」
たまたま休み時間に廊下で彼女を認めて後ろから声をかけた。すると彼女はすぐに彼の言葉に応えて振り向いてくれたのである。
その笑顔にまず見惚れて。それから話すのだった。
「今日だけれどね」
「今日?」
「あのさ、授業終わったらね」
さりげなくを装っている。必死に。
「本屋さん行かない?」
「本屋さん?」
「うん、駅前の本屋さん」
二人が通っている学校の最寄の駅の前にある本屋である。
「そこに行かない?」
「いいわね、じゃあそこにね」
「うん、行こう。それでね」
「それで?」
「その後でね」
ここからが本題であった。さらに慎重になって話すのだった。
「ちょっと」
「ちょっと?」
「あのさ、その」
無意識のうちに顔が赤くなってもじもじしてしまう。しかしそれでもだった。
彼は必死に努力して。言うのだった。
「そこから河に行かない?」
「河?」
「ほら、河川敷にね」
そこに決めたのである。実は本屋は時間潰しである。そしてそれでその後で丁度夕暮れになってからだ。河川敷に行こうというのである。
「どうかな、それって」
「いいわよ」
恵美は何でもないといった調子で返してきた。
「それじゃあ本屋さんの後で河川敷ね」
「うん、そうなんだ。どうかな」
「わかったわ。それじゃあ」
にこりと笑って彼に返して。こう言ってきたのである。
「これがファーストデートになるわね」
「あれっ、そうだったの!?」
「だってそうじゃない」
その笑みのまま彼にさらに言ってきた。
「ほら、いつも登下校が一緒なだけじゃない」
「そういえばそうだったかな」
「まあそれもデートだけれどね」
それでもだというのだ。恵美は言葉を続けていく。
「こういうのがやっぱりね」
「本当のデートだっていうのかな」
「そうだと思うから。だからね」
「それでファーストデートなんだ」
「そう思うけれど、私は」
「そういえばそうかな」
崇は恵美のその言葉を聞いて考える顔になって述べた。
「言われてみれば」
「そう思うけれど」
「そうか。じゃあ恵美ちゃん」
「ええ」
「そのファーストデートね」
ノリよく彼女に返すのだった。
「しよう。それでいいよね」
「ええ、それじゃあね」
「それでさ。俺も」
「崇君も?」
「いや、何でもないよ」
彼はそこからは言おうとしなかった。
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