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バレンタインに黒薔薇を

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3部分:第三章


第三章

「それでは」
「うん、そうらしいわ」
「韓国ではね」
「日本ではね」
 そしていよいよ日本についての話がはじまるのだった。
「本命には手作りチョコで」
「後は義理チョコをあげるのよ」
「女の子にとっては勝負の時なのよ」
「ついでに散財の時なのよ」
 散財のところでは顔を顰めさせるのであった。
「お返しも期待できるけれどね」
「ホワイトデーね」
「ホワイトデーといいますと?」
 これもまた冴子の知らない世界であった。とにかく彼女の知らないことだらけでそのことに対して戸惑い続けて頭が完全に混乱してしまっていた。
 そしてその混乱の中で。それでも皆に尋ねるのであった。
「それは一体」
「チョコレートを貰った男の子が女の子にお返しするのよ」
「告白のお返しをする日なのよ」
「そうですの」
「そうなのよ、本命にチョコレート贈ってそれでお返しね」
「それをしてもらう日なのよ」
 こう説明するのであった。
「義理は義理でお返しがあるから」
「いい日なのよ」
「何か日本には色々な宗教儀式がありますのね」
 冴子はここまで聞いてこう述べた。
「だとしますと」
「いや、これ宗教じゃないわよ」
「イベントだけれど」
「キリスト教とか全然ないし」
 それは違うというのである。しかしこれもまた冴子にはわからない話であった。何しろ彼女はずっとキリスト教圏にいたからである。それも当然だった。
「それはね」
「全然ないから」
「ですけれどバレンタインなのでして?」
 またこれを問いはした。
「バレンタインというからは」
「だからチョコを渡す日よね」
「そうじゃないの?」
「とにかく日本ではそうなのですわね」
 もうこれで納得した彼女であった。とにかく日本ではそうとだ。
「わかりましたわ」
「それでチョコレート」
「どうするの?」
「今気になる人とかいるのかしら」
「実は」
 冴子も何だかんだで女の子である。いるのであった。言いながらその白い頬をついつい真っ赤に染めてしまっていたのだった。
「います」
「いるんだ」
「それで」
「いますわ」
 また答えるのだった。
「あの。同じクラスの久遠晴彦君」
「ああ、あいつね」
「あいつはいいわよね」
 女の子達はそれを聞いて笑顔で頷いた。
「私も彼氏いなかったらね」
「私もね」
「私もよ」
 そして口々に言うのであった。
「あいつはね、彼氏にしたかったわ」
「顔もそこそこいいけれど」
「性格がよ」
「あれが最高にいいのよ」
「そうですわね。ああした素晴らしい性格の方はいませんわ」
 それをはっきり感じ取っていた冴子だった。彼女は決して愚かではない。むしろかなり鋭い。その鋭さで彼の本質をもう見抜いていたのである。
 
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