真・恋姫無双〜中華に響く熱き歌
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第21話 友との再会
関羽と張飛と別れて早くも一ヶ月が経とうとしていた。
バサラは北平を目指して旅していたが、もうそろそろ街が見えてもおかしくは無い。
そして、
「お、見えてきた」
そう呟いた。
バサラの視線の先には城壁に囲まれた街が見える。
その街は晋陽よりかは小さい。
だが、どんな街かは行ってみないと分からない。
そう思ったバサラは
「よし、行くぜ赤兎!」
と赤兎に言う。
「ブルウ」
鼻息で返事をする赤兎。
2人は北平へと足を動かす。
北平に着いたバサラと赤兎は入る際に赤兎のことで門番には多少驚かれたが、他には武器らしきものも持たないバサラに対し、特に言うこともなくすんなりと中に入る。
バサラは街中をしばらく歩き、
「へえ、小さいけど活気があるじゃねえか」
そう呟く。
そうしてしばらく歩いていると、1つの店と店員に目が止まる。
「あいつは・・・」
そう呟いたバサラは
「へへ」
そう言いながら笑顔でその店に入る。
「よお、久しぶりだな」
バサラは店員であろう男に声をかけ、店員が振り向く。
「おお、バサラ殿!お久しぶりでございます!」
そう店員がバサラに返事をする。
「元気そうだな、誠和」
バサラが誠和と呼んだこの店員は、陳留から并州へと行く際に共に旅をした行商人である。
名は張成平という。
誠和とはこの男の真名であり、バサラに対して呼ぶことを許している。
「ええ、お陰様でございます。ところで、バサラ殿、外の馬は一体?」
「ああ、あいつは赤兎って言ってよ、并州から一緒に旅してるんだ。」
「赤兎とは、あの赤兎ですか?!」
「知ってんのか?」
「え、ええまあ」
知らないはずが無いでしょう!
そう心の中で叫ぶ誠和。
無理もない。
一般の人間ならいざ知らず行商人の彼は漢の各地の情報を知っている。
その中でも并州の赤兎と言えば并州中で暴れており、誰も手をつけられない程で、いつしか『馬中の赤兎』などと呼ばれるようになってしまった。
そんなのと旅をしていた、などと普通に言うバサラに驚くなと言うのが難しいだろう。
「はは、やはりあなたは面白い方ですね。そう言えば、なぜこの北平に来られたので?」
「ああ、五胡って奴らにおれの歌を聴かせに来たんだ。」
「五胡、ですと?」
五胡に歌を聴かせる?
この男は何を言っているのか。
「・・・申し訳ありません、バサラ殿。よく聞こえませんでしたので、もう一度仰っていただいてもよろしいですか?」
今のは聞き間違いだろう。いくらこの男が歌うことが、歌を聴かせることが好きでもそれは無いだろう。
そう思い、もう一度聞いてみよう。
そして帰ってきた答えは
「だから、五胡って奴らにおれの歌を聴かせに来たんだよ」
・・・ああ、聞き間違いではなかったか。
「バサラ殿、それは本気で言ってるのですか?」
「はあ?何言ってんだあ?本気に決まってるじゃねえか」
そう答えるバサラに誠和は
(ああ、聞き間違いでいてほしかった・・・)
そう思うしかなかった。
誠和はバサラと1月とはいえ共に旅をした仲だ。
バサラの歌に対しての想いや情熱は分かっているつもりだ。
だが、今回の五胡に歌を聴かせる、これは理解できない。
五胡と言えばこの漢帝国を脅かす異民族の呼称であるが、彼らの残虐性や強さを聞いただけとはいえ恐ろしいものと理解している誠和、いや漢民族にとってはバサラの言っていることが理解できない。
いや、理解できるはずが無い。
しかし、そのように考えている誠和だからこそバサラのことを止めなくては、そう考えていく。
「バサラ殿、五胡といえば、彼らはその残虐性と強さでこの漢帝国をも脅かすものでございます。そして彼らと我が漢民族とで理解し合うことなど不可能です。そのような輩にいくらバサラ殿の歌とはいえそれだけで理解し合うなど、不可能です。だからどうかお考え直しください。」
「なんでできねえって決めつけるんだ。もしかしたら、分かり合えるかもしれねえじゃねえか!」
「ですが、これは400年、いやそれ以前から続いている争いなのです。それを歌で分かり合うなどと、できるはずがありません。」
「そんなもんやってみなきゃ分かんねえだろ!やってみりゃあ、分かり合えるかもしれねえじゃねえか!」
誠和はバサラを止めることはできないと悟る。
「・・・失礼いたしました。私はバサラ殿を否定したいのではなく、あなたを止めるために申し上げました。ですが、あなたを止めることはできない、同時にあなたならできるのではないか、そう思いました。バサラ殿、どうかお気をつけてくだされ。」
そう、言葉をかける。
「ああ、やってやるぜ!」
笑顔でそう答えるバサラ。
(ああ、思えばこの方は出会った時からまるで変わらない。どんなものであろうと自分の歌を聴かせる。それだけの想いで400年以上も争いを続けてきた五胡に歌を聴かせ分かり合うなどと、この長い中華の歴史でまだ成し遂げていないことをこの方は本気でやろうとしている)
誠和はそう思いながらも自然と体が震えながらも顔には興奮が隠せないようだった。
これがバサラ以外の人間が言っても笑いながら侮蔑の目を向けていただろう。
だが、バサラと旅をしたことのある誠和は旅の中でバサラの歌にかける想いや情熱、そして歌の良さを知っている。
さらには外には并州を暴れまわっていたあの馬中の赤兎もいることから、あの赤兎とすら心を通わせたということだろう。
なら、できるかもしれない。
五胡との争いに終止符を打つことなどはできないかもしれないが、心を通わせることはできるかもしれない。
そう思ったからこその興奮だ。
ーこの人は、どこまでいけるだろうか?ー
そう思うと同時に見たくなってしまった。
それと同時に言葉を紡ぐ。
「分かりました。ならば、バサラ殿。私にもあなたの歌を五胡に聴かせるために、そしてこの中華に広めるために、あなたの手伝いをさせてはいただけないでしょうか?
どうかお願いします。」
と頭を深々と下げながらバサラに言う。
バサラは驚いたような顔で誠和を見て、はあ、と溜息をつき、後頭部を掻きながら
「いいぜ。おれはおれの歌を歌えればいいからな。勝手にしな。」
と言う。
誠和は歓喜と興奮を必死に抑えながらもバサラの手を握るのであった。
バサラも手を握り返した。
その矢先に外から警鐘が鳴る。
そして、兵士らしき人物が馬に乗りながらも街の中心にある役所へと向かうのであった。
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