提督「まるで、ぼくがいないみたいに。」
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そう、僕がいない。
1945年7月20日
提督「ん・・・?」
朝日が差し込む。
騒がしい朝が始まるのだ。
戦いの一日が始まるのだ。
美しい一日が始まるのだ。
非常な一日が始まるのだ。
提督「あ・・・そうか。もう、終わったのか。」
提督「今日の一面は・・・。へぇ・・・。深海棲艦の姿全海洋から消滅。人類は再び、海上の覇権を握り進化の道を歩み始める・・・ねぇ・・・。それにしても、誰も来ないな。もう、八時だぞ。」
コンコン
提督「どうぞ。」
鈴谷「おはよう、提督。」
提督「おはよう。なんだ、そんな元気のない顔をして。」
鈴谷「・・・。」
提督「落ち込むなって。そりゃ、出撃しなくてよくなったしお前たちがどうなるか・・・すごく心配だけどさ。僕が必ず守ってみせるって。」
鈴谷「提督・・・。あぁ、これ渡してって言われてたんだ。」
提督「あぁ・・・。最終戦果報告か・・・。おお!ウチの鎮守府10位以内に入ってるじゃないか。」
鈴谷「提督・・・。ありがとう。鈴谷達はすごく感謝してるんだ。」
提督「なくなってば。な?」
鈴谷「ふひひ。なんて、泣いたら提督に怒られるね。じゃあ、行くね。」
提督「あ、鈴谷!」
バタン
提督「たく・・・今日の朝ごはんのメニュー聞こうと思ったのに・・・。まあ、いいか。腹も減ったし食堂に行きますか・・・。」
ーーー
提督「あ、今日は休みなのか?」
ガランとした食堂には立て看板が置いてあった。
『間宮は、本日休暇をもらっています。お食事の方は、冷蔵庫の食材をご自由にお使いください。』
提督「そうか・・・。もう、あんな忙しくしなくて済むんだもんな。」
提督「と、言ったもののどうしたものか・・・。特に、駆逐艦たちは大丈夫なのか?」
提督「・・・しかたない、僕が簡単なものを作っておくか。」
電気の消えた、厨房へと入っていく。
しかし、そこにはすでに先客がおり黙々と料理を続けていた。
匂いからしてカレーのようだ。
提督(そうか、金曜日か。)
先客は、味見をすると大きくうなずき皿を並べ始めた。
量からして、鎮守府内全員の分をひとりで作っていたようだ。
提督「すまんな、陽炎。まさかお前料理できるなんてな。」
陽炎「え・・・?」
提督「おいおい、そんな驚くなよ。おいしそうな匂いだな。早くたべよう。」
ガシャン
激しい音がする。
陽炎は手に持っていたすべての皿を落としたのだ。
手からは、わずからながら血が垂れている。
提督「おい!大丈夫かよ!待ってろ、今医務室へ行ってくるから!」
陽炎「あれ?」
不知火「どうしましたか?って・・・大丈夫ですかそのケガは。」
陽炎「あ・・・うん。」
不知火「・・・?なにかありましたか?まるで、狐につつまれたようですが。」
陽炎「ううん。なんでもないよ。」
不知火「そうですか。今医務室から包帯をとってきますね。」
陽炎「あ、不知火!」
不知火「はい?」
陽炎「いや・・・。もう、どれくらいだっけ?」
不知火「もう、2か月ですよ。あれだけ、激しい戦争が一瞬で終わるなんて思いもしませんでしたが。」
陽炎「そうね・・・。」
不知火「・・・。」
陽炎「ねえ。」
不知火「どうしましたか?」
陽炎「あとで、一緒にいこうよ。」
不知火「・・・わかりました。それでは、あとで一緒に行きましょうか。」
ーーー
熊野「提督・・・。」
バタバタ
ガラッ
提督「お、熊野!ちょうどいいところにいた!」
熊野「え・・?」
提督「おいおい、お前もか?まったくよ。」
熊野「そういうつもりじゃ・・・。」
提督「まあ、いいや。包帯と消毒液とってくれ。」
熊野「・・・。」
提督「怒ってるの??」
熊野「・・・。」
提督「あ・・・。ごめん・・・。あの戦闘で落としちゃった。」
熊野「大切にしていたのですよ。何か勘違いしていなくて?」
提督「本当、すまん!」
熊野「・・・。」
提督「・・・結婚指輪なくすとか・・・最低だよな。」
熊野「・・・。」
提督「なあ、散歩でもいこうぜ?すごく、いい天気だし!」
熊野「・・・。」
提督「そんなに怒ってるのか?」
熊野「提督は・・・本当に鈍くて仕方ない人ですわ。」。」
提督「ごめんな・・・。熊野。」
熊野「・・・!」
熊野「提督?置いていかないでください・・・。」
ーーー
提督「まったく、今日はなんて日なんだ。」
提督「誰も、まともに話してくれないもんな。」
提督「そりゃさ・・・この前のカレー大会で全部激辛にするっていうたずらしたけどさ・・・。そんなに、怒らなくてもいいのに・・・。」
ヒョコヒョコ
提督「あ、響!」
響「!!」
提督「なんだ、一人なのか?」
響「ハ、ハラショー・・・。」
提督「ん?そういえば、1人なのか?」
暁「響ー。どうしたの?」
響「い、いや・・・。」
提督「お、暁!」
暁「ん?」
提督「いやさ、なんか今日・・・。」
電「なのでーす!」
雷「歩くの早すぎよ。」
暁「なに言ってるのよ。レディーは男を待たせちゃいけないのよ。」
提督「男!?おま、暁・・・。彼氏できたのか?」
電「男といっても提督なのです。」
暁「や、やめなさいよ!」
響「なにを赤くなっている。」
暁「なってないわよ!」
雷「なにはともあれ、歩きましょうよ。天龍に怒られるわ。」
響「確かに。」
暁「はぁ・・・。まあ、いいわ。早く行きましょ。」
暁「ところで、響。」
響「なんだ?」
暁「何を見ていたの?」
ーーー
提督「たくっ・・・。みんなしてどうしたっていうんだよ・・・。」
提督「・・・いい天気だな。いい散歩日和だ。」
提督「はぁ・・・。外に出るか・・・。誰かいるかもしれないしな・・・。」
加賀「・・・。」
提督「あ、加賀!」
加賀「・・・赤城さん。」
赤城「はい?」
加賀「いや・・・。その・・・。」
提督「あ、赤城まで!どうだ?調子は。」
赤城「提督じゃないですか。」
提督「おお!やっと反応してくれたよ!」
赤城「ずっと・・・待っていましたよ・・・。提督・・・。」
提督「おいおい、泣くなってば。」
加賀「・・・。」
提督「加賀も、怒るなって。」
赤城「あの時は、ごめんなさい・・・。私が・・・命令を守っていれば・・・。」
提督「まあまあ、人に間違いなんてつきものさ。なんともなかったんだから良いだろ?な?」
赤城「そうですよね!ここに、提督がいれば・・・私は幸せです。」
加賀「赤城さん。そろそろ行きましょう。」
赤城「何言ってるのよ!まだ、話したりないわ!」
加賀「そろそろ時間です。また天龍に怒られますよ。」
赤城「いいじゃない!」
加賀「あたまにキました。赤城さん、無理やりでも連れていきます。」
赤城「ちょ、加賀さん!加賀さんってば!」
提督「ハハハ・・・。相変わらず、仲がいいことだ。」
提督「それにしても、赤城の奴なんでこんな熱い日に黒い服でコーディネートしてるんだよ。おっちょこちょいも相変わらずだな。」
ーーー
雪風「・・・。」テクテク
提督「あ、雪風だ!隣は・・・天龍か。」
提督「おーい!」
雪風「え・・・?しれぇ?」
天龍「なにいってるんだ。」
雪風「あそこにしれぇが。」
提督「おうおう!なんか、久しぶりに見たな。」
天龍「うーん・・・。最近遠征ばかりで疲れていないか?雪風。」
雪風「雪風はいつでもいけます!」
提督「うんうん、頼もしい限りだ。」
天龍「・・・。」
雪風「しれぇー・・・。」
提督「どうした?」
天龍「おいおい、雪風。そろそろ行かないといけないぞ。」
提督「そういえば、お前たち。どこへ行くんだ?」
雪風「もう、行くの?」
天龍「当り前だ。そろそろ、長門たちもしびれを切らしているぞ。」
雪風「でも・・・。しれぇを置いていくわけには・・・。」
天龍「いいからいいから。行くぞ。」
雪風「あ!待って!」
提督「お、おい!俺も今行くぞ!」
ーーー
長門「遅いぞ。」
雪風「ごめんなさい。」
加賀「天龍が遅刻するとは、珍しいですね。」
天龍「いや・・・俺はせかしたんだがな。」
赤城「加賀さん。提督はどこにいるのでしょうか?」
加賀「・・・。」
陸奥「加賀・・・。」
雪風「雪風もしれぇを見ましたよ。」
陽炎「私も見たわ!」
不知火「陽炎、それは本当ですか?」
熊野「・・・。」
鈴谷「熊野・・・?」
熊野「みなさん、どうしたですか?今日は、珍しいですわね。」
雪風「そんなことないです!」
長門「お前たち・・・。」
陸奥「長門・・・。どうする?」
長門「ここで、合わせて待つともいえんしな・・・。」
不知火「不知火は、このまま進めたほうがいいと思います。」
加賀「・・・そうね。」
熊野「・・・。」
鈴谷「こんなところで、みんなで待ってても・・・しょうがないよ。」
赤城「加賀さん。さっきから何を話しているのですか?」
長門「お前たち・・・今日は何の日か忘れたのか?」
陽炎「何の日って・・・あれ、そういえばなんで今日集まったんだっけ?」
不知火「・・・陽炎。」
雪風「もったいぶらないで、知りたいです!」
陸奥「もう、はっきり言ったほうが良いんじゃないかしら?」
熊野「みなさん、本当に忘れていまして?」
鈴谷「そうだよ。みんな辛いけど・・・しっかりしてよ。」
長門「お前たち・・・今日は提督が死んでから49日目だぞ。」
赤城「な、なにを言ってるんですか?」
加賀「どこであったんですか?」
赤城「さっき玄関のほうで!」
加賀「私は会っていませんが。」
赤城「え・・・。」
加賀「赤城さん。たしかにあなたは話していましたよ。鏡に向かって。」
赤城「嘘よ…。」
陽炎「嘘に決まってるわ!私は厨房であったわよ?」
不知火「不知火が行った時には誰もいませんでしたが。」
陽炎「当たり前よ!私が怪我したのをわかって医務室へ行ったのだから!」
不知火「それは、ありえません。」
陽炎「どうしてよ!」
不知火「不知火は、ずっと厨房の入口にいましたから。陽炎が言ったのですよ?ここで待っていてと。」
陽炎「そんな…。」
雪風「ゆ、雪風は…。」
天龍「…。」
雪風「な、なんとか言って欲しいのです!天龍姉ちゃん!」
天龍「雪風…。お前は誰と話してたんだ?」
雪風「ゆ、雪風は…。」
暁「またせたわね。」
電「どうしたのです?」
長門「…立ち直れないものがいるようでな。」
雷「…まだなおらないのね。」
響「しかたない。私たちにとってあれほどショックなことは無い。」
加賀「赤城さん。思い出してください。二か月前なにがあったのかを。」
赤城「二か月前…?」
提督「何を言ってるんだ…。死んでいるわけがないじゃないか。ほ、ほらこんな風に触れ…
られない…。
な、なんだよこれ!まるで僕がいないみたいじゃないか!」
提督「そうか・・・、あの時・・・。」
ーーーー
2か月前
赤城「さて、それでは帰りましょうか。」
加賀「いいのですか?まだ、西のほうは見ていませんが。」
赤城「あれだけ毎日見ていたのです。今日くらい大丈夫でしょう。」
加賀「ですが・・・。」
雪風「雪風も大丈夫だと思います!」
陽炎「そうよ。昨日も何もなかったし。」
不知火「そういう問題ではないと思うのですが。」
天龍「不知火の言う通りだ。」
赤城「ですが・・・今日は、提督と熊野の結婚式です。早めに行って準備をしなくてはいけませんし・・・。」
加賀「それもそうですが。」
不知火「・・・。」
陽炎「大丈夫だってば!ね?」
雪風「そうなのです!」
天龍「お前ら・・・。」
加賀「わかりました。それでは、私と不知火、天龍で行きます。赤城さんたちは先に戻っていてください。」
赤城「加賀さんいいんですか?」
加賀「とりあえず確認をしたいと思い。」
天龍「そうだな。俺たちがちゃちゃっと見てきてやるよ。」
不知火「つまみ食いをしては、いけませんよ。」
陽炎「するわけないじゃない!」
加賀「では行ってきます。」
それからわずか、数分後のことであった。
あの悲劇が起きたのは。
提督「状況を報告しろ!」
大淀「現在、鎮守府西の海域にて加賀、天龍、不知火が交戦中!敵機動部隊のようです!」
提督「くっ!どうしてだ!哨戒の時は問題なかったのだろう!」
大淀「わかりません!」
提督「こんな時に・・・。全艦に通達。勝手な出撃はするな!鎮守府防衛部隊を編成後ただちに出撃できるよう。ドックにて待機!」
赤城『提督!』
提督「どうした。」
赤城『加賀さんを助けなくては!』
提督「・・・。」
大淀「敵機鎮守府上空へ飛来!爆げきを始めました!全対空砲攻撃開始します!」
提督「だめだ。今は、鎮守府上空の敵機撃滅が最優先事項だ。」
赤城『加賀さんを見捨てろというのですか!」
提督「そういうわけではない!だが、足の速い不知火と天龍がお取りをしてなんとか持っている。」
赤城『そういう問題では、ありません!』
提督「なら、どういう問題だ?お前がいなくなれば鎮守府の対空防御能力は激減する。ここにいる数百人の人員を見捨てろというのか?」
赤城『そういうわけではありません!ですが!私は、数百人と加賀さんの命を選べと言われたら加賀さんを選びます!』
提督「だめだ!今は、防衛に専念しろ。暁たちが必死に対空攻撃をしている今ならお前も艦載機をとばせるはずだ!」
赤城『・・・できません!』
熊野『提督・・・そろそろもちませんわ!』
提督「くっ・・・!」
大淀「入渠施設が破壊されました!このままでは、司令塔まで爆撃されてしまいます!」
提督「赤城!頼む、わかってくれ!」
赤城『・・・そうよ。大丈夫ですよ提督。一航戦の誇りにかけて加賀さんを救出後すぐに対空迎撃を行います!』
提督「それでは、遅すぎる!」
赤城『私ならできます!』
提督「だめだ!まずは、鎮守府防衛だ!」
赤城『私は・・・加賀さんを見捨てることはできません!』
提督「赤城!」
赤城『一航戦赤城!出撃します!』
大淀「赤城さんが、出撃しました!」
提督「馬鹿野郎・・・。」
長門『おい!そろそろ限界だぞ!』
暁『そろそろまずいのよ!』
陸奥『くっ・・・だめじゃない・・・。』
響『これはいけない。』
鈴谷『て、提督!』
雷『きりがないわ!』
電『し、司令!間に合わないのです!』
熊野『きゃあ!』
提督「どうした!」
鈴谷『熊野が大破した!提督、もう無理だ!鎮守府を放棄しよう。』
提督「だめだ!ここは国土絶対防衛圏最後の砦だ・・・!くっ!」
大淀「提督どちらへ!」
提督「僕も対空迎撃に加わる!大丈夫だこれでも、対空砲の扱いには長けているという自負がある!」
熊野『・・・!だめよ!行ってはいけませんわ!』
提督「大丈夫だ。」
熊野『提督!行かないで・・・。』
提督「・・・。」
提督「状況報告しろ。」
対空兵「て、提督っ?!」
提督「状況報告を。」
対空兵「はっ!現在1番から7番までの12.7mm対空砲は稼働しています。ですが・・・弾薬の残りも心細いです・・・。」
提督「よし、8番砲を僕が使う。」
対空兵「正気ですか?!8番砲は一番沿岸にあるんですよ?!」
提督「そうだ。そこのほうが、より敵機を鎮守府に近づけないで済むだろ?」
対空兵「で、ですが!」
提督「大丈夫だ。危なくなったらすぐ逃げる。」
対空兵「・・・わかりました。ご武運を。」
深海棲艦との戦いが終わる2か月前のことであった。
突如現れた深海棲艦機動部隊による強襲により、鎮守府は絶体絶命の危機に陥っていた。
対空戦力の要である空母は鎮守府内にはおらず、なけなしの対空装備をつけた艦娘たちがなんとか戦線維持している状態だった。
そんな戦況を見かねた提督は、自ら対空砲を操り敵撃滅を図った。
はからずも、敵は怒涛の如く撃たれる対空砲に対処することが出来ず当初の目的であった鎮守府焦土作戦中止せざるおえなくなり撤退していった。
まさに、人類の逆転勝利である。
しかし、戦いの後艦娘たちが提督を迎えに行こうと8番砲へ向かったがすでに8番砲はがれきの山となっていた。
この勝利は、1人の提督の命と引き換えに得たものであったのだ。
後にこの勝利が人類側を勢いづかせ、深海棲艦を全海洋から撃滅させる発火剤となったことは衆知の事実である。
提督「そうか・・・。僕は・・・あの時・・・。」
提督「ははは・・・。妙なものだな。自分自身の法要をみるとは。いったい、今日に限って目が覚めたんだ。こんなことなら・・・ずっと冷めないままでいいじゃないか・・・。」
提督「なあ・・・。僕はお前たちになにをしてあげられたんだ?英雄を気取って寂しい思いをさせて・・・トラウマを作って・・・。いったいなにをしてあげられたんだ?長門、陸奥、加賀、赤城、鈴谷、天龍、陽炎、不知火、雪風、暁、雷、電、響・・・なにをしてあげられた・・・?熊野・・・最後の最後まで・・・僕たちは喧嘩ばっかりだったね・・・。なんでだろう・・・素直に全部言えればよかったのに・・・。」
提督「もう・・・日も沈む・・・。そうか・・・これは罰か。僕が誰を寂しくさせているのか、誰をやませているのか。全部知るという罰か・・・。そうか・・・贖罪の機会も与えてもらえないまま・・・。なあ・・・みんな・・・僕の分まで泣かなくていいよ・・・だから・・・無理して僕の分まで・・・笑わないで・・・。」
提督「もう・・・法要も終わりか・・・。結局、僕はいないままか・・・。じゃあな、いつか・・・またいつか会えるといいな・・・。」
鈴谷「おい!提督!」
提督「・・・?!」
鈴谷「もしいるならなよ、一言言わせろよ!このままでいいのかよ!提督が死んじまって皆悲しいよ!だけどさ・・・そんな中でも・・・秘書艦だからって熊野は気丈にふるまってたよ・・・。どんな時も皆の前で泣かなかった、弱音を吐かなかった・・・。けどさ・・・わかるんだよ・・・姉妹艦だからかな・・・本当は一番悲しいくせに・・・誰かにいって不安にさせたくないとか心配かけたくないとかゴチャゴチャ考えて一人でため込んでるって・・・。」
提督「・・・。」
鈴谷「なあ・・・提督。ちゃんと言ったか?好きだって、愛してるって。恥ずかしがらずに言ったか?結婚した時も、ずっとそばにいてくれなきゃイヤダって・・・まるで小さい子が駄々こねるみたいに・・・だけど・・・それでも良いって言ったのは熊野も同じく持ちだったからだろ?なあ・・・消える前にさ・・・一言言ってきてよ・・・。頼むよ・・・。わかってる、死んでる人にお願いなんて馬鹿なことにしてるよ。けどさ・・・だけどさ!これくらい言わせてよ・・・。お願い・・・自分の気持ちちゃんと伝えてきてよ。」
提督「・・・そうか。」
提督「僕は・・・何も言ってない。それなのに、それを無視して後回しにして知らん顔して・・・。熊野・・・。今行く。」
提督「なあ、熊野。どこにいるんだ?なあ、熊野。なにを考えているんだ?なあ、熊野。怒ってないか?なあ、熊野。お前のことが大好きだ、愛してるよ。なあ、熊野・・・俺を許してくれるか・・・?」
提督「熊野っ!」
息が切れる。
幽霊になってまで息を切らして走ることがあるなんてな。
本当は、ドッキリで僕は生きてるんじゃないか?
・・・違う。
僕は死んでる。
そう、死んでしまってる。
もう、遅い。
遅すぎる。
それでも・・・熊野。
今からでも・・・聞こえないかもしれないけど・・・
僕の気持ちを聞いててくれ。
提督「なあ、熊野。僕の声は聞こえているか?」
熊野「・・・。」
提督「まったく・・・だめじゃないか、勝手に執務室に入っちゃ・・。ここは、僕の部屋だよ。」
熊野「・・・。」
提督「何も変わってないね・・・。掃除もされているみたいだ。熊野、君がやってくれたのかな?」
熊野「・・・。」
提督「なあ、熊野。ごめんな。今まで、逃げつづけて熊野にちゃんと向き合うことがなかったよ。僕はバカだからさ・・・さっき鈴谷に言われて初めて気が付いたよ。」
熊野「・・・。」
提督「辛くても、悲しくても、苦しくても・・・みんなをまとめてくれたんだろ?ありがとう。ありがとう、熊野。」
熊野「・・・。」
提督「熊野のみんなの前では気丈にふるまう強さも、独りになると泣きだしそうになる弱さも、僕にくれた愛も、僕に向けた憎悪も全部含めて・・・僕は君を愛しているんだ!」
熊野「・・・。」
提督「遅いな、遅すぎるよ。だけど・・・感じれなくても・・・僕は今・・・君を抱きしめ・・・。」
抱きしめようとしな刹那、それは目に入った。
熊野はたしかに、窓に顔を向け入口に背をむけるように提督の椅子に座っている。
否、熊野は確かにいた。窓に顔を向け入口I背を向けるように提督の椅子に座っていた。
古びた床に広がるおびただしい量の血・血・血。
転がる出刃包丁。
切り裂かれた首元。
泣き後を顔に残した、熊野だったもの。
提督「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
扶桑『おかえりなさい。』
提督『え?!』
扶桑『あら・・・。覚えていないかしら?』
提督『ここは・・・?』
提督(あれは夢だったのか・・・?なら、ここは・・・)
扶桑『あれは、夢ではありませんわ。提督自身がお望みになってやったことです。』
提督『僕が・・・望んでやったこと?』
扶桑『はい。提督はすでに10回チャレンジしましたよ。』
提督『10回・・・?そんなにやって・・・あの結果・・・?そもそもなんだよ・・・10回って・・・。僕はそんなにここにきているのか?』
扶桑『・・・!』
扶桑『今回はしてきたことの結果を覚えていらっしゃるのですね。おめでとうございます。』
提督『なにがだよ!』
扶桑『提督は、第一段階を超えられたのです。これからは、これからおこることをズッと記憶したままやり直せますよ。』
提督『わけのわからないことを・・・!それに、ここはどこなんだよ!』
扶桑『ここは、幸せになるための場所です。』
提督『何を言って。』
扶桑『死んでもなお、やりなおしたいという強い思い・・・想い・・・。そんな気持ちに引かれ私たちは現れるのです。提督、あなたは選ばれたのです。』
提督『選ばれた・・・?』
扶桑『はい。ここは自分が後悔したと強く思っている日まで戻ることが出来ます。提督なら・・・2か月前のあの日ですね。』
提督『・・・。』
扶桑『長い説明はここまでにしましょう。さあ、始めますよ!』
提督『ちょっ!』
扶桑『時間も幸せも、待ってはくれませんよ!』
ーーーー
1945年7月20日
熊野「提督、まだ寝ていらっしゃって?」
提督「・・・。」
熊野「まったく、鎮守府の長が寝坊とは・・・困りますわ。」
提督「・・・!」
熊野「な、なんですの!」
提督「熊野・・・か?」
熊野「は、はぁ・・・。」
提督「ど、どこか痛いところはないか?首とか!」
熊野「そうですわね・・・。しいて言うのでしたら、提督。私の手を強く握りすぎですわ。」
提督「あ、ああ!す、すまない・・・。」
熊野「別に、怒っていなくってよ。」
熊野「抱きしめてくれてもよくてよ・・・。」
提督「ん?何か言ったか?」
熊野「なんでもありませんわ。」
提督「そういえば・・・。今日は何月何日だ?」
熊野「6月15日ですわ。」
提督「・・・!」
熊野「・・・?」
提督「あ、赤城はどこへ?」
熊野「この時間ですと・・・おそらく哨戒中ではなくて?」
提督「・・・!す、すぐに大淀に伝えてくれ。いいか、西側海域を重点的に哨戒するんだ。」
熊野「西側ですの?どうして・・・。」
提督「いいから!頼む・・・熊野・・・。」
熊野「・・・わかりましたわ。ところで・・・提督。今日のこと・・・わかっていらして?」
提督「後にしてくれ。」
熊野「・・・!」
提督「なんだ、僕は忙しいんだ。」
熊野「そ、そうですわね。そうですわ・・・。覚えていることに期待などしていませんわ。もう、知りませんわ!」
提督「・・・!」
提督「あ、いや!そういうつもりじゃ!!熊野待って!」
提督「・・・何をしているだ僕は。」
提督「何がどうなっているかはわからない。だけど、今日はあの日に間違いはない様だ。たしか、西側海域の哨戒が薄くなりその隙をついかれて深海棲艦に攻められた・・・。だったら、そもそも侵入させない。哨戒中機動部隊で一気にたたけば・・・!」
ーーー
大淀「・・・!提督おはようございます。」
提督「おはよう。」
大淀「さっきはどうされましたか?」
提督「あ、そ、そうだな。嫌な予感がしてな・・・。」
大淀「そうですか・・・。突然の指示だったので驚きましたが、赤城さんたち第一哨戒部隊は現在鎮守府西海域を哨戒中です。」
提督「そうか・・・。それはよかった。」
大淀「・・・!」
提督「どうした。」
大淀「1番チャンネルです。」
提督「どうした。」
赤城『こ・・ら・・・哨・・・隊。』
提督「赤城か?どうした。」
赤城『提督!?こちら、第一哨戒部隊。すごいですね。」
提督「どういうことだ?」
赤城『西海域にて敵機動部隊を発見。これより、攻撃を開始します。』
提督「よし・・・。わかった、増援部隊を送るまでなんとか耐えてくれ。」
赤城『わかりました。』
提督「陸奥、長門、熊野、鈴谷、不知火、陽炎に至急艦装をつけ集合せよと伝達。」
大淀「わかりました。陸奥、長門、熊野、鈴谷、不知火、陽炎の6名は艦装を装着後速やかに、発艦ドックへ集合してください。繰り返します、陸奥、長門、熊野、鈴谷、不知火、陽炎の6名は艦装を装着後速やかに、発艦ドックへ集合してください。」
提督「これで・・・。これで・・・繰り返さないで済む。」
??『それは、どうですかね?』
提督「・・・!」
提督「誰だ・・・?」
大淀「はい、なんでしょうか。」
提督「い、いや・・・。なんでもない。」
提督(なんだ、なんなんだ。この悪寒は。震えは・・・。これは正しい選択なのか?幸せになれるのか?)
大淀「・・・!」
大淀「レーダーに敵機反応あり!!急速でこちらへ向かっています!」
提督「馬鹿な!もう突破されたのか!」
大淀「いえ、東の方角からです・・・。速度から予測するに急降下爆撃機です!直接こちらへ向かっています!」
提督「対空迎撃はじめろ!!」
大淀「間に合いません!きます!」
提督「くそっ!」
何かが急速に落ちてくる音が聞こえる。
キーと空気が揺れながら何かを運んできている。
突如、体のバランスが取れなくなる。
顔が熱い、腕が熱い、足が熱い、全身が熱い。
胸が苦しい、腰が苦しい、体がつぶれているようだ。
大淀「提督っ!提督っ!!」
提督「あ・・あ・・・。」
大淀「しっかりしてください!!!」
提督「う・・・あ・・・。」
熊野「提督!!」
提督「く・・・・の・・・。」
熊野「提督!!行かないでください!!今助けますわ!!」
提督「にげ・・・ろ・・・。」
熊野「提督!!!」
提督「あ・・・がはっ!」
口が鉄臭い。
何かが腹部から湧き上がっている。
提督(あぁ・・・そうか・・・。また、何も変えられない・・・。)
熊野「提督っ!!」
ーーーー
扶桑『おかえりなさいませ、提督。』
提督『な・・・?!』
扶桑『どうされましたか?』
提督『・・・。』
扶桑『・・・?』
提督『何だあれっ!』
扶桑『やはり、記憶が残っているのですね。』
提督『むしろひどくなってるじゃないか!あの場で・・・僕が死んでしまっている・・・!』
扶桑『あぁ・・・そうでしたわね・・・。』
提督『わかってやったのか!』
扶桑『いえ、そんなことはありませんよ。』
提督『ならっ!』
扶桑『ですが、提督1つお教えすることを忘れていました。』
提督『・・・?』
扶桑『提督。前にも申しましたがここは幸せになるため場所です。対象者が一番後悔している時へと戻ることが出来ます。ですが、後悔を伴うということは、それは本人にも周りの関係者にも大きな出来事であったという事実が必要です。』
提督『大きな出来事・・・?』
扶桑『今回の場合は、敵の奇襲があったということが当たります。大きな出来事がなくては後悔することもなく、時を戻ることもできません。しかし時を戻っているという事実がある以上、奇襲があった事実をなくすことはできません。つまり、必ず鎮守府は爆撃をされるのです。』
提督『なら、どうしろって・・・!』
扶桑『ふふふ・・・。それは提督ご自身がお考えすることですわ。』
提督『そんなことを言っても!!な、これは!』
提督『やめ・・・!まだ、肝心なことはなにも聞いていないぞ。』
扶桑『それでは、いってらっしゃいませ。』
ーーー
提督「・・・!」
コンコン
熊野「はいりますわ・・・あら、起きていらしたの?」
提督「ああ・・・。」
熊野「おはようございますですわ。」
提督「おはよう。」
熊野「・・・。」
提督「・・・。」
熊野「慣れませんわね。いつも起こしているのは私ですのに。」
提督「え・・・?」
熊野「少し寂しいですわ。」
提督「・・・珍しいな。」
熊野「なにがですの?」
提督「いや・・・熊野が僕に甘えてくるなんて・・・。」
熊野「・・・///」
提督「ん?」
熊野「あ、甘えてなんていませんわ!は、早く食堂に行ってください!!」
提督「あ、あぁ・・・。じゃあ、後でな。」
バタン
熊野「・・・もう、緊張させないでください・・・。私も昨日から眠れなかったのですから・・・。」
鈴谷「へえー。かわいいね。」
熊野「すーずーやー?!いつからそこにいらして?」
鈴谷「あ、いや・・・そのー。ね?」
熊野「ちょっと、こちらへきてくださる?」
鈴谷「あ、だめ!やめてよ!ダレカタスケテー!」
ーーー
提督(あと10分・・・。そう、あと10分後には敵機動部隊の攻撃が始まる)
大淀「提督。まもなく、加賀さんたちも帰投するそうです。」
提督「わかった。」
提督(赤城たちはすでに帰投して工廠で艦装の点検中・・・。おそらく、カギになるのは赤城の行動・・・!)
提督(どうやって赤城を出撃させる・・・。考えろ・・・あいつは、加賀のことが心配で出撃を拒んだ。おそらく無理強いさせれば同じ結果しか待っていない・・・。)
提督(それならば・・・!おそらく、鎮守を奇襲されるという事実は変わらない。なら・・・事前下準備をさせることはかまわないはずだ。)
提督「大淀、なにがあるかわからない。とりあえず、対空砲に兵を配置してくれ。」
大淀「今ですか?今のところ優勢にかわりありませんよ。」
提督「念のためだ。加賀達だけでは止めきれない艦載機が来るかもしれない。」
大淀「わかりました。」
提督「それと、水上打撃部隊にも召集をかけれくれ。いざとなったら出撃してもらう。」
大淀「わかりました、すぐに放送をかけます。」
提督(これで準備は整った。非情な決断だろう。最低なしていかんだろう、己の身を守るため。熊野の身を守るためとはいえ・・・)
大淀「提督っ!加賀さんから入電!敵に増援部隊です!!」
提督「・・・そうか。」
大淀「このままでは、加賀さんが!!」
提督「・・・。」
大淀「さらに入電!!!こちらに抜けてきた敵機がいるようです!」
提督「対空砲攻撃はじめ!」
大淀「わかりましたっ!」
赤城『・・・提督!加賀さんを助けなくては!』
提督「・・・。」
赤城『提督!早く出撃の許可を!!』
提督「だめだ。すでに鎮守府近海に敵機が来ている。赤城たち機動部隊はこれより対空攻撃に加われ。」
赤城『提督・・・?なにをいってるのですか?!』
提督「もう一度言う、赤城。鎮守府防衛に当たれ。」
赤城『あなたは・・・!あなたは、それで恥ずかしくないのですか!私は、加賀さん救出任務を行います!』
提督「・・・。」
赤城『一航戦赤城!出撃し・・・』
提督「落ち着け赤城。加賀から危険海域から離脱したと連絡がすでにあった。」
大淀「・・・!」
赤城『・・・本当ですか?』
提督「あぁ。まだ、通信状況が悪いらしくすぐに切れてしまったが。」
赤城 『・・・。』
提督「もう、加賀は大丈夫だ。」
赤城『ですが・・・。』
提督「赤城。貴様は、兵器ではない。だがな、個人の感情だけで鎮守府数百の命を殺すつもりか?」
赤城『・・・!』
提督「もう一度言う。加賀は無事だ。」
赤城『はい…。』
提督「これより、対空攻撃に加わり敵機を殲滅せよ。」
赤城『了解しました。一航戦赤城。出撃します。』
提督(これでいい・・・。これでこの鎮守府は救われる)
大淀「提督!!そのような通信は・・・!」
提督「・・・。」
大淀「ど、どういうおつもりですか・・・。」
提督「大淀。僕は指揮官失格だ。」
大淀「・・・。」
提督「だがな、資質としては失格だとしても責任は果たさなくてはならないと考えている。加賀一人と、鎮守府何百人の命・・・。僕は、迷うことなく後者を選ぶ。」
大淀「・・・あなたは、本当に私たちの提督ですか?」
提督「・・・!」
大淀「私たちの知っている提督は、そのような非情な決断をしません!たとえご自分の命が付きようとも、赤城さんを加賀さん救出へ向かわせ自ら鎮守府防衛を行う方です。」
提督「・・・。」
大淀「あなたは・・・いったい・・・。」
提督「話は後だ。水上打撃艦隊にも鎮守府防衛に出撃と連絡。」
大淀「で、できません!!そんなことをすれば・・・加賀さんたちは!!」
提督「いいからやるんだ!」
大淀「ひっ!」
大淀「き、緊急連絡!これより水上打撃艦隊は鎮守府防衛に出撃せよ!繰り返す、水上打撃艦隊は鎮守府防衛に出撃せよ!」
提督「・・・それでいい。」
この事件は、深海棲艦による初の知的戦略事件として大々的に報道された。
最終防衛圏にある鎮守府を見事救った提督は英雄として祭り上げられ、加賀・不知火・天龍の三名は名誉の戦士を遂げたとされ代々語り継がれる伝説的艦娘となった。
2か月後。
人類は、この三名の無念を晴らすべく大反抗作戦を展開。
圧倒的物量で迫る深海棲艦に対し、人類は他国と共同戦線を結ぶことによりその戦力差を埋め見事勝利をおさめた。
そうして平和を再び人類は、その手につかむことに成功したのであった。
ーーー
人類の勝利から数か月後
提督「・・・。」
重い体を無理やり起こす。
ソファでそのまま寝てしまったこともあり節々が軋むように痛い。
季節はとっくに冬になっていた。
だが、これほど寒い理由が冬であることだけではないことを提督は知っていた。
洗面所へ行き冷たい水で顔を洗う。
ふと鏡に目が行く。
そこには、かつて提督や司令と言われ慕われていた男の顔をなかった。
提督「・・・。」
いつまでもハンコを押すことのできない書類を取り出す。
否、もう押す必要もない書類を取り出す。
提督「なぜ僕は生きている。」
加賀・不知火・天龍を見捨てたあの日から男の人生は大きく変わった。
嘘をついてまで仲間を見捨てる男に命をかけついていくものなど誰もいやしなかった。
男の判断は間違ってはいなかった。
だが、その判断をいつも受け取めることのできる仲間がいるとは限らなかった。
赤城がその日のうちに鎮守府を後にした。
次の日に、陽炎と雪風が鎮守府を後にした。
後は・・・もう男は覚えていなかった。
だが今ある事実として言えることは一つだけであった。
男は彼女たちから見捨てられたのだ。
提督「はは・・・。これで僕の望んだ未来・・・・?くだらない・・・くだらなすぎて笑うしかないよ。」
男の頬に涙が伝う。
思い浮かぶ顔は、なぜかみな泣いている顔であった。
誰の笑顔も思い出すこともできなかった。
男の首筋にひやりと何かが触れる。
提督「何処で間違えたんだ・・・。何を間違えたんだ・・・。僕はなにをしたいんだ・・・。」
男の首筋から飛沫が吹き上がる。
最後の最後に思い出した言葉は、かつて結婚を約束した彼女からの最後の言葉であった。
熊野「さようなら、愛していた人。私、人外を愛せるほどの度量はなくてよ。」
ーーーー
提督『・・・・!』
扶桑『あら、また来たですか?』
提督『そ、そんな!僕は首を切ったはず・・・!』
扶桑『そうなのですか?』
提督『切れて・・・ない。』
扶桑『ふふふ・・・。当り前ですよ。あの未来は提督にとってお幸せですか?』
提督『そ、そんなことはないが・・・。』
扶桑『なら、まだ続けなくてはいけませんね。』
提督『・・・。』
扶桑『どうかなさいましたか?』
提督『本当に意味があるのか・・・。こんなことに。』
扶桑『提督。この連鎖を止める方法は、提督が心から満足するしかないです。私たちが勝手に決められるものではないのですよ。』
提督『・・・。』
扶桑『さあ、いってらっしゃいませ。』
ーーー
1945年7月20日
提督「・・・。」
熊野「提督、おはよう・・・あら起きていらして?」
提督「・・・。」
熊野「今日は、いつもより早いですわね。」
提督「そうだな。」
熊野「・・・///」
提督「・・・?」
熊野「い、いえ!!そ、そんな緊張していらっしゃるのかと思って・・・。」
提督「あぁ・・・。すごく緊張してるよ。」
熊野「じ、実は私も昨日は緊張してあまり眠れなくてよ。」
提督「そうか。」
熊野「か、勘違いしていなくて?私は、今は平常心でしてよ。」
提督「そうじゃなきゃ困る。今日さえ乗り切れば・・・僕も熊野も幸せになれるんだ。」
熊野「・・・?」
提督「少し、司令室へ行ってくる。後は任せた。」
熊野「あ、提督お待ちを!!」
熊野「・・・バカ。」
ーーーー
赤城「さて、それでは帰りましょうか。」
加賀「いいのですか?まだ、西のほうは見ていませんが。」
赤城「あれだけ毎日見ていたのです。今日くらい大丈夫でしょう。」
加賀「ですが・・・。」
雪風「雪風も大丈夫だと思います!」
陽炎「そうよ。昨日も何もなかったし。」
不知火「そういう問題ではないと思うのですが。」
天龍「不知火の言う通りだ。」
赤城「ですが・・・今日は、提督と熊野の結婚式です。早めに行って準備をしなくてはいけませんし・・・。」
加賀「それもそうですが。」
不知火「・・・。」
陽炎「大丈夫だってば!ね?」
雪風「そうなのです!」
天龍「お前ら・・・。」
加賀「わかりました。それでは、私と不知火、天龍で行きます。赤城さんたちは先に戻っていてください。」
赤城「加賀さんいいんですか?」
加賀「とりあえず確認をしたいと思い。」
天龍「そうだな。俺たちがちゃちゃっと見てきてやるよ。」
不知火「つまみ食いをしては、いけませんよ。」
陽炎「するわけないじゃない!」
加賀「では行ってきます。」
赤城「あ、加賀さん!今提督から連絡が入りました!全員帰投するようにだそうです。」
天龍「提督から直接・・・?珍しいな。」
不知火「なににせよ、緊急のしれませんね。」
加賀「・・・わかりました。今すぐ帰投しましょう。」
ーーーー
提督「これで赤城たちは帰ってくるはず。あと30分・・・。鎮守府の対空レーダーの最高範囲は4000m。おそらくそれから出撃したとしてもギリギリ間に合うはず・・・。」
大淀「何を独り言しているのですか?」
提督「あ、なにないよ。」
大淀「そうですか。それよりも、ついに今日ですね。」
提督「え・・・?」
大淀「しっかりしてくださいよ?今日は提督にとって大切な日じゃありませんか。」
提督「ま、間違ってはいないけど・・・。」
大淀「当り前です。熊野さんが泣いてしまいますよ?」
提督「え・・・?」
提督「あ、あああ!!覚えているとも。僕もすごく緊張しているんだ。」
大淀「本当ですか?」
提督「本当だよ!アハハ。」
大淀「まったく・・・。提督は、もう少し自覚したほうがいいですよ・・・。あなたが結婚することで何人の艦娘が泣くことかを・・・。」
提督「ん?ごめん、最後のほうよく聞き取れなかった。何?」
大淀「なんでもありません。」
提督「いやいや、なにかあるでしょ。」
大淀「今日の提督は、ずいぶん絡んできますね・・・。」
提督「いやいや、そんなことないよ。」
大淀「・・・。」
提督「なんだよー、突然黙って。」
熊野「ずいぶん楽しそうでいらして?」
提督「く、熊野・・・。」
熊野「私とご結婚なさるより、大淀さんとのほうがよくて?」
提督「そ、そんなことないよ!ね。ごめんよ・・・。」
熊野「ふん・・・。」
提督「熊野・・・。」
大淀「提督!!緊急入電です!!敵機動部隊が鎮守府に向け攻撃を開始したようです!!現在敵艦載機編隊が接近中!!」
提督「よし、対空攻撃を開始せよ。赤城、加賀は敵機を撃滅しつつ帰投するように。水上打撃艦隊を緊急編成!旗艦は長門だ!敵機動部隊を発見しこれを殲滅せよ。」
大淀「わかりました。」
提督「熊野、悪いが話は・・・ってもういないか。」
大淀「・・・。」
副指令「提督!!対空砲、準備できました!」
提督「順次、攻撃を許可する。」
赤城『こちら、赤城。』
大淀「赤城さんからです!」
提督「なにかあったか?!」
赤城『いえ、こちらの機動部隊はほぼ撃退しました。ですが、妙な感じがします。加賀さんたちを先行させ東側海域の偵察にあてることを具申します。』
提督「・・・わかった。加賀、天龍、雪風は最大船速で戻ってこい。こっちからは、陸奥、長門、熊野の準備をさせておく。合流次第、東側海域に向かってくれ。」
加賀『わかりました。』
天龍『おう!』
雪風『まかせてください!』
提督(幸運艦を入れたことで、なにかが変わればいいのだが。)
提督「長門、聞いていたか。」
長門「聞いていたぞ。」
提督「よし。合流後は、長門が旗艦として指揮を執ってくれ。」
長門「任せろ。」
提督(よしっ!今度こそは・・・!)
大淀「・・・。」
ーーー
長門「まだ、来ていないか。」
熊野「仕方ありませんわ、補給もしなくてはいけませんし。」
陸奥「そうね。もう少し待ちましょう。」
長門「うむ・・・。それにしても、今日の提督はずいぶん冴えているな。」
熊野「そ、そうですわね。」
陸奥「大丈夫よ、提督もちゃんと覚えているわ。」
熊野「そ、そうかもしれませんが・・・。」
陸奥「熊野って、意外と乙女よね。」
長門「む?乙女とはなんだ?」
陸奥「姉さんは、黙って。」
長門「・・・!」
熊野「そんなことは、ありませんわ。私は、乙女でなく淑女ですわ。」
陸奥「そんなムキになっちゃって。かわいいわね。」
熊野「ムキになんてなっていませんわ!」
長門「からかうのもその辺にしておけ、来たぞ。」
加賀「待たせたわ。」
雪風「お待たせなのです!」
天龍「すまない、補給に時間がかかってな。」
長門「構わんさ。では、これより鎮守府東側海域の哨戒を行う。幸いにも、すでに赤城たちは敵を退かすことに成功している。」
加賀「さすがです。」
熊野「鎮守府の安全は、いちおは保たれたということですわね。」
長門「まあ、そういうことだ。」
天龍「おっと・・・。まだそういうわけじゃ、ないみたいだぜ?」
加賀「ですね。敵機動部隊2時の方向に発見。傷ついているようです。」
長門「よし、雪風と天龍は先行して陽動してくれ。加賀は、烈風の発艦開始。私と陸奥、熊野は有効射程距離まで詰めるぞ。」
全員「了解!」
加賀「第一次攻撃部隊。発艦始め。」
天龍「よっしゃああああ!!いくぜえええ!!」
雪風「いつでもいけますっ!」
敵は、機動部隊と言いつつも傷ついたヲ級が2隻、ト級が3隻という最低編成数すらない状態であった。
しかし、鎮守府近海にいるいじょう脅威に変わりはなかった。
天龍、雪風ペアは一気に距離を詰めていった。
ト級は、先制攻撃とばかりに砲撃を始めたが見当はずれの方向に砲弾は飛んでいった。
天龍「さすがは、幸運艦!」
雪風「それは褒めすぎです!」
天龍「いくぞ、魚雷発射用意!」
雪風「発射!!」
天龍、雪風ペアに支給された新型酸素魚雷は航跡を残すことなくト級にダメージを与えた。
苦しそうに唸るト級に、彼女たちの連装砲が容赦なく火を噴く。
2隻のト級が沈んでいき1隻は、ヲ級を守るように反転した。
しかし、反転した航路を見越したように長門・陸奥・熊野の砲弾が降り注ぎほかの2隻と同じ運命をたどるように轟沈していく。
そのさなかでも、加賀の烈風は確実に制空権を確保し彗星の発艦を始めていた。
長門「さすがだな。」
加賀「みんな優秀な子たちですから。」
陸奥「そろそろ行きましょうか。」
熊野「ですわね。」
加賀「ヲ級1隻の甲板に被弾確認。」
長門「よし、全砲門一斉射!撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!」
陸奥「くらいなさいっ!」
熊野「とぉぉぉぉぉぉう!!」
長門「よし、あと1隻だ!!」
陸奥「いくわよおおお!」
100発近い砲弾を受け最後のヲ級は、断末魔の叫びを残すことも許されず沈んでいった。
その後を、彼女たちは憐れみと悲しみと満足感を含んだ目で見ていた。
ーーー
提督「本当か!」
熊野『ええ、今長門さんたちが改めて警戒をしているけど目視で確認しているわ。」
提督「わかった。終わり次第、帰投してくれ。」
熊野『承ってよ。』
提督「ふぅ・・・。」
大淀「大戦果ですね。」
提督「あぁ・・・。なにより、誰一人として怪我人が出なくてよかった・・・。」
大淀「本当です。提督の奇跡のような直感がなければ今頃どうなっていたことか・・・。」
提督「ま、まあ・・・。その正夢みたいなものを見てな。」
大淀「正夢ですか・・・?」
提督「そんな気にしなくていいさ。」
熊野『提督、これから帰投するわ。』
提督「よし、ご苦労だった。」
熊野『えぇ。』
提督「・・・なあ熊野。」
熊野『なんでして?』
提督「その…帰ったらの予定なんだ・・・。」
天龍『熊野、逃げろ!!』
熊野『え?』
その音を正体を判断するのに提督は、数秒の時間を要した。
いや、正確にいうのならば音の正体は聞いた瞬間に理解ができた。
だが、受け入れるとが出来なかったのだ。
陸奥『生き残り?!』
長門『くっ・・・!天龍と雪風は、熊野の救援に!』
天龍『わかった。いくぞっ!』
雪風『はいっ!』
加賀『・・・・!頭にきました!』
提督「おい!おいっ!!熊野!」
熊野『て・・・い・・と・・く・・・。』
提督「おいっ!しっかりしろ!熊野!!」
熊野『私・・・提督とあえて幸せ・・・でしてよ・・・。』
提督「やめろよ・・・。やめろよ!まだ、助かるだろ!!」
熊野『私・・・心から・・・あなた様をお慕い申しておりました・・・。』
提督「熊野っ!!」
熊野『私と出会っていただき・・・ありがとうございました・・・。』
提督「・・・!」
熊野『こんなところで沈むなんて・・・故郷の神戸で・・・かわいい服を着て・・・神戸牛を食べたかったですわ・・・それに・・・提督と・・・』
提督「っ!」
大淀「・・・熊野さんの生体反応消失しました。」
提督「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ーーー
提督『・・・。』
扶桑『また、だめでしたか。』
提督『・・・。』
扶桑『いい案なのですがね・・・。実は、4回目の時にはすでに試していたんですよ?この方法は』
扶桑『どうかなさいましたか?』
提督『ここは・・・地獄か?』
扶桑『いいえ、ここは幸せになる場所です。』
提督『だったら!!どうして、何も変わらない!!逆らっても、抗っても運命ってやつに負けて終わりなのかっ?!』
扶桑『・・・。』
提督『お前たち・・・無力な俺たちがただただ絶望に打ちひしがれるのを楽しんでいるんだろ・・・?』
扶桑『そんなことは・・・』
提督『なら、どうしろっていうんだよっ!』
扶桑『私が教えたとしても、それが正しい結果である保証はどこにもありませんよ?』
提督『もう、なんでもいい・・・。もう・・・いいんだ。何も変えられはしない。』
扶桑『・・・諦めますか?』
提督『え・・・?』
扶桑『この挑戦をやめますか?』
提督『それも・・・いいかもな。』
扶桑『・・・そうですが。ですが、あなたがこの挑戦を止めるということは残してきた鎮守府の艦娘たちに心の傷を与え、愛していた熊野さんを見殺しにするということですが良いのですね?』
提督『・・・っ!』
扶桑『何度も申しておりますが、ここは幸せになる場所です。決して、不幸になる場所ではなりません。しかし、挑戦者が・・・提督が何度失敗しても立ち上がるという条件付きですが。』
提督『・・・。』
扶桑『どういたしますか?』
提督『・・・やるさ。もう一度やるさ。』
扶桑『それは、よかった。そうそう、私から一つ助言をさせていただくとするならば・・・誰かの力を借りるというのも悪くないものですよ。』
ーーー
1945年7月20日
提督「・・・!」
提督「また・・・同じ朝か。」
提督「もう・・・繰り返しはしない・・・。だけど、どうしたらいいんだ。」
扶桑『誰かの力を借りるというのも悪くないですよ。』
提督「誰かの力を借りる・・・。そうかっ!そういうことか!」
熊野「提督?朝でしてよ・・・もう、起きられていたのですか。」
提督「ああ、熊野か。おはよう。」
熊野「珍しいですわね、いつもお寝坊さんの提督がこんなに早く起きるだなんて。雨が降らなければいいのですけど。」
提督「・・・。」
熊野「な、なんですの?そんなに見つめないでくださる?さすがに恥ずかしいですわ。」
提督「・・・。」
熊野「怒りましたの・・・?そんな・・・私も本気で言ったわけではなくてよ・・・。」
提督「熊野。」
熊野「ちょ、ちょっと待ってくださいまし!そんな・・・ゆっくり近づいてこられても!!」
提督「・・・。」
熊野「心の準備がっ!!」
提督「・・・。」
熊野「・・・!」
提督「まつ毛、ついてたぞ。珍しいな。」
熊野「え・・・?」
提督「僕は、少し用があるから先に行ってるよ。それじゃ。」
熊野「・・・バカ!!オタンコナス!!!アンポンタン!」
ーーー
大淀「あら、提督おはようございます。」
提督「おはよう。」
大淀「今朝は早いですね。」
提督「・・・どうして毎回同じことを言われるんだ。」
大淀「え・・・?」
提督「僕ってそんなに、起きないかな?」
大淀「ええ・・・、いつも熊野さん無理やり起こしていますよ。まあ、熊野さん自身それを楽しみにしているみたいですが。」
提督「熊野が・・・?」
熊野『まったく、だらしのない男ですわね。私の旦那様になる自覚をお持ちでして?』
熊野『淑女である、私に釣り合っていただきませんと。』
熊野『お寝坊さんは、なにか勘違いしていなくって?そんな人が私に触れないでくださる?』
提督「いやいや・・・嘘でしょ?」
大淀「あー・・・。提督は、鈍感ですね。」
提督「・・・?」
大淀「いいです、気にしないでください。それで、なにかご用があったのではないのですか?」
提督「あーあー、そうだった。通信機を貸してくれ。」
大淀「通信機ですか?」
提督「あぁ・・・。それと、今日は西側海域を重点的に哨戒するように。」
大淀「どうしてですか?」
提督「長年の勘だよ。」
ーーー
提督(赤城たちが哨戒にでて1時間・・・。もう少しでおそらく・・・。)
大淀「提督っ!赤城さんから緊急通信です!」
提督「よし、つなげ!」
赤城『提督!ご報告です!敵機動部隊を目視で確認しました!距離2000!』
提督「わかった。それでは、これより全戦力をもって機動部隊に対処する。」
赤城『わかりました。私と加賀さんで先制攻撃を仕掛けます。』
提督「それでいい、こちらからは水上打撃部隊を編成後そちらに向かわせる。」
赤城『了解しました。』
提督「大淀!至急、鎮守府内で動ける全艦娘に通達!準備が出来次第、鎮守府西海域へ出撃せよ。」
大淀「わかりました。鎮守府内にいる全艦娘に通達します。鎮守府西海域にて、哨戒中の部隊が敵機動部隊と交戦中です。速やかに、艦装を装着し出撃してください。」
提督(とりあえず、第一段階はこれでいい・・・)
大淀「どうかなさいましたか?」
提督「あ、いや。大したことではない。」
大淀「そうですか・・・それにしても思い切った決断ですね。」
提督「まあな・・・。今は、絶対防衛圏最後の砦であるこの鎮守府と艦娘の命を守ることに専念するべきだと思ってな。」
大淀「なるほど・・・。ですが、もしものこともあります。対空兵の配置も指示したらいかがでしょうか?」
提督「そうだな・・・。では、対空兵へも指示を出してくれ。」
大淀「了解しました。」
提督(頼む・・・今度こそ。)
長門『提督。突貫だが、水上打撃艦隊を組んだ。これより、出撃する。』
提督「よし、頼んだ。いいか、くれぐれも用心してくれよ。」
長門『もちろんだ。』
熊野『あら、私にはなにか言うことはなくって?』
提督「い、いやあ・・・その・・・。」
陸奥『ヘタレね。』
北上『提督ってダメダメだなー。』
大井『本当、なんて男なんでしょう。』
暁『レディーに恥をかかせるなんて、ひどいわね。』
雷『男らしくないわ。』
電『そ、そこも司令官さんのいいところ・・・なのです・・・?』
響『そこで、疑問しちゃだめだろう。』
提督「もう・・・わかったから・・やめてくれ・・・。」
鈴谷『熊野こそ、はっきり言えばいいのにー。』
熊野『あら、鈴谷。思わず後ろから20,5cm砲を撃ちそうでしたわ。』
長門『もう、海域に出ているぞ。少しは緊張感を持て。』
陸奥『そういう長門もニヤニヤして聞いてたじゃない。』
提督「お前ら・・・この通信、鎮守府内に駄々漏れだぞ。」
全員『・・・。』
北上『まあ、そういうこともあるよねー。』
響『ハラショー。』
提督(まったく・・・すぐ調子に乗るんだから。)
提督「・・・俺は守れるのか。」
大淀「あの・・・提督。」
提督「・・・。」
大淀「提督?」
提督「あ、ああ!なんだ?」
大淀「大丈夫ですか?顔色が優れませんが。」
提督「大丈夫だ。少し考え事をしていてな。」
大淀「あまり、無理をなさらないでくださいね。提督のことは、みんなが心配していますから。」
提督「わかているよ。ありがとう、大淀。」
大淀「い、いえ・・・。そんなことは。」
提督「戦況はどうだ。」
大淀「順調のようです。機動部隊といえど、傷ついたヲ級を中心とした部隊らしかったので。護衛についていたネ級の砲撃に苦戦していますが、間もなく長門さんたちが付くので大丈夫でしょう。」
提督「そうか・・・。よかった。」
大淀「ええ。ここが、突破されてしまうと本国が直接被害を受けることになりますからね。」
提督「その通りだ。まさに、防御の要だからな。」
大淀「それに・・・この後はご予定がありますしね。」
提督「ん?」
大淀「なんでもありませんよ。」
提督「お、おう・・・。」
大淀「・・・。」
提督(どうして何度やり直しても大淀は、含みのある言い方をするんだ・・・)
大淀「提督!東側海域より敵機来襲!」
提督「くそっ!少し早いぞ!!」
大淀「距離600!」
提督「対空迎撃開始!!」
大淀「だめで、何機か抜けてきます!!」
通信兵「第2、第3砲塔沈黙!!対空能力30%下がりました!」
提督「対ショック姿勢!!全員伏せろ!!」
大淀「きゃああああ!」
提督「ぐっ!」
大淀「工廠が敵爆撃によって破壊されました!」
提督「ほかには!」
大淀「今のところ目立った被害はありません。」
大淀「赤城さんたちに戻ってもらいましょう!」
提督「・・・だめだ。」
大淀「え・・・?」
提督「今、あそこの防備を薄くすれば誰かが死んでしまう。僕は、誰一人欠けさせてはいけないんだ!」
大淀「でも!」
通信兵「敵、司令塔直上!!だめだあああ!!!!」
大淀「提督!!」
提督「くそっ!!これまでか・・・。」
全員「・・・。」
大淀「え・・・?」
通信兵「敵の反応ロスト・・・。識別不明の機体が鎮守府空域を飛んでいます・・・。味方のようです!敵機の数が減っていきます!」
大淀「どういう・・・?」
??『こちら、本国より来た第4機動部隊旗艦大鳳。提督、応答願います。』
提督「間に合ったか!」
大鳳『はい、遅れてしまい申し訳ありません。こちらは、大鳳・翔鶴・瑞鶴・筑摩・利根・島風の編成できています。』
提督「すまない、助かる。」
利根『なに、困ったときはお互い様じゃ!きにするな!』
筑摩『お姉さま・・・そんな乱暴な言い方は。』
島風『・・・うにゅー。』
瑞鶴『翔鶴姉!ここで働いて、加賀を見返してやるわ!』
翔鶴『瑞鶴は、本当に加賀さんが好きね。』
提督「現在、西側を我が鎮守府の艦隊が防衛している。東側海域を頼める。』
大鳳『わかりました。攻撃を開始します。』
大淀「提督・・・。」
提督「ああ・・・。」
提督(これで、運命は変わるはずだ・・・!)
ーーー
数か月後
鉄と血の臭いが鼻をつく。
誰かが慌ただしく走り回っているかと思えば、次の瞬間なにも聞こえなくなる。
廊下には、部屋に入りきらない者達が折り重なるように寝ていた。
その一つに近づいていく。
そっと手を伸ばしたが、手を伸ばし返すされることはなかった。
大淀「提督。」
提督「・・・。」
暁「電は・・・最後まで勇敢に戦ってたわ。姉妹皆逝っちゃった。私、お姉さんなのに生き残っちゃったよ・・・。」
提督「・・・。」
暁「提督・・・。」
泣き名がら抱き着く暁を提督は、そっと抱きしめるしかなかった。
その様子をほかの者も悲痛そうな顔で見ている。
いつからだろうか、この鎮守府で生きているものの数が死んでいったものの数より少なくなったのは。
いつからだろうか、横たわるその人達が次の日の朝に目を覚ます者の数より多くなったのは。
すべてあの日からだ。
提督「あの日・・・勝たなければ・・・。」
大淀「提督。」
提督は、大淀の姿を見る。
普段は前線に出るはずもない彼女ですら、大破の状態だ。
もはや、彼女たちを癒すことも新しい装備を整えることも、あまつさえ補給することすらこの鎮守府ではできなくなっていた。
提督「今日は・・・何人死んだ。」
大淀「・・・5人です。これで、生きている艦娘は私・陸奥・熊野・陽炎・暁の5名だけになりました。ですが、すでに全員中破以上のダメージを受けています。出撃したら・・・帰ってこれるかどうか・・・。」
提督「そうか・・・。」
大淀「大本営はなんと・・・?」
提督「・・・。」
大淀「提督・・・?」
提督「命アル限リ死守セヨ。自害ハ認メラレズ。」
大淀「そうですか・・・。これでは、増援も来ませんね。」
提督「すまん。」
大淀「謝らないでください。提督は、必死にやっていました。それは、誰もが思っています。ですが・・・そうですね・・・時期が悪かった・・・。」
鎮守府奇襲の数日後。
大本営からきた増援は、一時提督を参謀本部へ召還するため鎮守府より旅立っていった。
そして、そのわずか2日間のうちに鎮守府は再び深海棲艦に奇襲をされた。
入渠施設、補給施設、工廠が再建不可能の状態まで破壊された。
運の悪いことに、演習中の加賀・赤城が轟沈。
鎮守府は、実質対空能力をすべて失ったのと等しい状態になった。
提督が帰ってきた時には、既に6人の艦娘が亡くなっていた。
だが、大本営は鎮守府を絶対防衛圏の要として機能させる決定を変更することはなかった。
日々失われていく人命と貴重な資源を見ながら、ただただ空襲におびえる日々を過ごすしかなかったのだ。
提督「すまんな・・・みんな。」
大淀「え・・・?」
提督「少し、独りにしてくれ。」
大淀「はい・・・。」
足取りは重い。
だが、行かねばならなかった。
何が変わるかはわからない。
提督「これは、僕の望んだ未来じゃない。」
ーーー
提督『・・・。』
扶桑『・・・。』ズズズ
扶桑『あ、提督!失礼しました。提督もお飲みになりますか?』
提督『未来は変えられたよ。』
扶桑『本当ですか?!それは、おめでとうございます。』
提督『だけどっ!』
扶桑『・・・!』
提督『あんなものが・・・僕が望んだ未来なのか・・・?』
扶桑『・・・。』
提督『これじゃあ・・・誰も幸せになっていないじゃないか・・・。』
扶桑『・・・提督。やり直しますか?』
提督『・・・。』
扶桑『いえ、やり直しましょう。すぐに準備をします。』
提督『やめてくれ!』
扶桑『・・・!』
提督『変わりはしないんだ!僕が幸せを望めば、みんなを不幸にする。熊野の幸せを望めばそれは不幸になる。誰かの幸せを望んだところで変わりはしない!!』
扶桑『そんなこと・・・ありませんっ!』
提督『あるんだよ!何回やっても何回やっても誰かが死んで、誰かに恨まれて、誰かに疎まれて・・・どこが幸せなんだ!』
扶桑『それは・・・!』
提督『お前っ!僕を不幸せにする悪魔かっ!』
扶桑『・・・。』
提督『変わりはしない・・・。みんな幸せな世界なんて・・・夢の中だけだ・・・。』
扶桑『・・・本当にそうでしょうか。』
提督『まだ言うのか!』
扶桑『何度でも言います!あなたは!やるべきことをやったのですか!』
提督『やったさ!いつもやってる!』
扶桑『このループは!正解を見つけるまで終わらないんです!だけど、あなたはそれを放棄した!あなたこそ!誰かを幸せにしようとしない悪魔です!』
提督『そんなことはないっ!やっているじゃないか!』
扶桑『それなら!あなたは、一度でも熊野さんが心から笑ってあなたとお別れした記憶があるんですか!』
提督『・・・!』
扶桑『・・・ここは、生き延びる場所ではありません。あなたは・・・なにを目的にやり直してきたのですか・・・?生きるためですか・・・?幸せになるためですか・・・?』
提督『違う・・・。俺は・・・幸せにしたいんだ・・・。』
扶桑『それなら・・・その気持ちを忘れないで挑戦してください。』
提督『・・・。』
扶桑『あなたなら・・・できるはずです。』
提督『・・・すまなかった。』
扶桑『いいんです。もう、来ないでくださいね?頑張ってください。』
ーーーー
1945年7月21日
提督「・・・。」
提督「7月・・・21日。」
提督「日付が違う・・・。」
提督(鎮守府が壊れているわけではなさそうだ・・・。僕自身も元気だ。まだ、朝の4時か・・。もうひと眠りするべきだろうか・・・)
提督「・・・違う。悔いが残らないようにやらなくちゃいけないんだ・・・。」
提督は、ゆっくりと体を起こすとほこりを払った。
よくみると、そこは執務室ではなく食堂だった。
まだ、人気のいない食堂で1人寝ていたと思うと、あまりのばかばかしさに提督は笑ってしまった。
提督「まずは・・・空母たちの部屋から行くか。」
正規空母部屋
提督「なるほど・・・加賀は寝るとき赤城に抱き着いているのか・・・。」
赤城「うーん・・・かき氷・・・。」
加賀「赤城さん・・・もう食べられないです・・・。」
提督「・・・本当は起きてるのか・・・?」
加賀「zzz」
赤城「zzz」
提督「ふむ・・・。」
提督「・・・お前たちには・・・迷惑かけたな。嘘までついて・・・仲間を見捨てさせて・・・。それが間違っているなんてわかってたのに・・・。」
提督「いつも、みんなのお姉さんとして頑張っているお前たちは誇りだ。ありがとう・・・。」
提督「・・・じゃあね。」
赤城「・・・提督?」
加賀「うん・・・?赤城さんどうしましたか?」
赤城「今、提督がいたような・・・。」
陽炎型部屋
提督「ふむ・・・。陽炎は、本を開いたまま寝ている。不知火は・・・まあ、熊の人形を抱いて寝ているな。」
提督(陽炎は、本が好きなんだな・・・不知火もなかなか可愛いところがある。僕の知らない姿・・・か)
提督「ありがとうな。陽炎、お前の元気な姿にいつも元気をもらってたよ。たけど、つまみ食いしすぎだ。間宮さん怒ってたぞ?不知火、いつも大淀を手伝ってくれてありがとうな。お前の冷静な判断は頼りになったよ。だけど、もうすこし顔の表情を豊かにしろよ?そこは、陽炎を見習えよ?」
提督「・・・。」
部屋の一角に張られている写真を見る。
陽炎型の2人鎮守府のメンバーと撮ったものばかりだ。
その中の一枚に目がいく。
2人が初めて来たときに撮った写真だ。
一緒に写っているのは、ほかの誰でもない提督自身だった。
提督「懐かしいな。」
提督「お前らと初めて会った日にまさか、怒られるとは思わなかったよ。まあ、遅刻した僕が悪いんだけどさ。」
提督(・・・じゃあ、またな)
不知火「ん・・・。」
陽炎「ちょっと、不知火蹴らないでよ。」
不知火「・・・。」
陽炎「どうしたの?」
不知火「不知火は、提督の気配を感じたのですが・・・。」
陽炎「・・・そっか。」
ーーー
第六駆逐の部屋
提督「・・・なかよくみんなで抱き合って寝ているのか。」
提督「と、いうか。普通に考えて幼女たちの部屋に提督とはいえ、男の僕がノコノコはいっていいのだろうか?」
響「ふにゃ・・・。」
提督「ふげっ!」
響の寝返りと共に繰り出された強烈な蹴りを受け、提督は自らの考えに首を振った。
提督「僕は、なんていうことを考えているんだ。」
提督「・・・暁。いつも、4人をまとめようと必死になってくれてありがとう。お前なら、立派なレディーになれるさ。雷、このなかだと突っ込み役だったな。だけど、お前がたまにやるドジでいつも笑顔になれたよ・・・ありがとう。電。いつも心配してくれてありがとうな。敵味方関係なく、気遣いが出来る良い艦娘になれよ。響。クールなように見えて、実は熱いやつだよな。影ながら、皆を引っ張っていってくれてありがとう。」
提督「こんな小さな体で今まで助けてくれてありがとう。」
提督「これからも・・・姉妹で助け合っていけよ?」
電「・・・。」
雷「ふぁぁぁ・・・。扉空いてるじゃない。」
響「ん?どうした。」
暁「・・・!まさか、レディの寝顔を盗み見ようとした不埒な者がいるの?!」
電「はわわわ。さっき誰かいたのです。」
暁「ええ?!ぅ、嘘でしょ?!」
響「そんなに怖がるな。」
暁「怖がってないわよ!」
雷「司令・・・?」
全員「・・・そうかもね。」
ーーー
天龍の部屋
提督(よく考えれば、みんな相部屋なのに天龍だけ1人部屋だったな・・・。)
提督「おいおい、雪風。どうしているんだ。」
提督(それにしても、雪風はよく天龍になついてるよな。元気で明るい雪風と冷静な天龍・・・二人のコンビは実践でも活かされてたな)
部屋に落ちている紙気づくと提督は拾い上げる。
後ろに番号が書いてある
提督「おいおい・・・あたりクジじゃないか・・・。さすが幸運艦といったところか・・・?」
机の上にクジを置くと提督は、近くにおいてあったノートを開いた。
中には几帳面な字でびっしりと書いてある。
提督「・・・これが天龍の夢か。そうか・・・鎮守府みんなと旅行か。いいな。」
提督は、ノートを閉じると元の場所へ戻した。
提督「雪風・・・。お前はいるだけで幸せを振りまくようなやつだったな。名前だけじゃない。お前は鎮守府のみんなを幸せにしてくれたな・・・。ありがとう。天龍。駆逐艦皆をまとめてくれてありがとう。その姉御肌は、みんなの目標でもあったな。ありがとう。」
雪風「天龍お姉ちゃん・・・。」
天龍「あ、おい。雪風よだれよだれ。」
雪風「ふへへへ・・・。」
天龍「起きねえし。ん?日記の裏表が逆だな・・・。」
天龍「・・・だれかいたのか?」
ーーー
長門型の部屋
提督(次はここか・・・待てよ・・・。長門のことだ、入った瞬間攻撃されるとかないだろうな・・・?)
提督(ゆっくり入らなきゃ・・・。)
提督が部屋の中に入るとそこには、本を開いたまま机に突っ伏している姿とおなかを出して寝ている陸奥の姿あった。
提督「普段に姿じゃ二人とも想像できない姿だな。」
提督「まあ、ここは艦娘たちのプライベートの時間だもんな。僕が勝手に入っている方がおかしいのか・・・。」
長門「きさまっ!なにやつ!」
提督「・・・!」
長門「そうか・・・。」
提督「なんだよ、寝言かよ・・。まったく・・・寝ている時くらい肩の力抜けよな・・・。お前には、主力艦隊旗艦なんて押し付けてわるかった。それでも、文句ひとつ言わずにいつもみんなを無事に守ってくれてありがとう。陸奥・・・。長門のサポートいつおありがとうな。陸奥のことあこがれてる艦娘って結構いるんだぞ?」
提督(・・・お前ら二人に何回も窮地を救われたな。)
長門「むう!」
陸奥「もう!姉さん寝言うるさい!」
長門「なっ!殴ることはないだろ。」
陸奥「ゆっくり寝たいの!」
長門「だからといって・・・。」
陸奥「どうしたの?」
長門「いや・・・勘違いかもしれないんだがな、人の気配を感じたんだ。」
陸奥「・・・提督かな。」
長門「そうかもしれんな。」
ーーー
熊野と鈴谷の部屋
提督(さて・・・最後はここか・・・。)
提督「お邪魔しまーす・・・。」
提督の目の前には、いびきをかきながらお腹を掻いている鈴谷の姿が目に入った。
部屋全体は、きれいに片付いており壁には様々写真が貼ってある。
ピンクの電灯などは、おそらく熊野の趣味だろう。
提督「たく・・・。風邪ひくぞ・・・。」
鈴谷「う~ん・・・。今日は金曜日だからカレーだ・・・。」
提督「夢の中でもカレー食べてるのか?」
鈴谷「えへへ・・・。」
提督「・・・。」
提督は、そっと鈴谷の頭へと手を伸ばすとなではじめる。
心なしか、先ほどより鈴谷が心地よさそうに寝息を立て始めた。
提督「思えば、お前のおかげで俺がやり直そうと思えたんだよな・・・。」
提督「ありがとう・・・。お前のそんな気持ちに俺は心が動かされたんだ。いや・・・元気なお前を見てていつも元気を分けてもらってたな・・・。ただし、カレーの食べすぎはだめだぞ・・・?」
提督「本当にありがとうな・・・。」
提督は、部屋を見回し始めた。
しかし、熊野の姿はどこにもなかった。
提督の脳裏に首から血を流した姿の熊野の姿が浮かぶ。
提督「まさかっ!」
鈴谷「うーん・・・。」
鈴谷「ほげっ!」
鈴谷「もう・・・。ベッドから落ちちゃったじゃん・・・。あれ・・・?熊野?」
ーーー
執務室
提督「はぁ・・・はぁ・・・。」
提督(間に合ってくれ・・・!)
提督は、執務室へと飛び込んだ。
そこには、月光に照らさた幻想的な雰囲気を醸し出す彼女が椅子に座っていた。
いつかと同じように、こちらに背を向けている。
提督「嘘だ・・・。嘘だろ・・・。」
よろよろと彼女へと近づいていく。
彼女は、ピクリとも動くことなく背もたれに体をあずけたままだった。
提督「熊野・・・。」
覗き込んだ彼女の顔は、静かに寝息を立てていた。
首から出血していることもなかった。
提督「・・・バカ野郎。驚かせやがって。」
そっと熊野を抱きしめる。
力強く、しかし丁寧に。
提督「よく考えれば・・・お前を抱きしめたこともなかったな・・・。」
熊野「ん・・・。提督・・・。」
提督「ごめんな・・・。」
そっと彼女をもとに戻すとふとこら箱を出す。
それは、本当なら昨日渡すべきであったものだ。」
提督「熊野・・・。必ずお前を幸せにする・・・だから、結婚してくれ。」
そっと彼女の頬へキスをする。
提督は、指輪を彼女の左薬指へはめると部屋を出ていった。
熊野「ん・・・。」
熊野「・・・私は夢をみているのでしょうか。」
そっと自分の左手へはめられてるものを見る。
気が付くとその両目から涙があふれていた。
熊野「提督っ!」
ーーー
海岸
朝日が昇る様を提督は、眺めていた。
提督(これで俺のやり残したことは終わった。そうだ・・・。俺が本当にしたかったこと・・・。生き残ることでも生かすことでもない。素直に気持ちを伝えること)
徐々に薄れていく姿に提督は、気が付いていた。
思えば、最後の最後にやり直す機会が与えられたのは奇跡だった。
提督「これで・・・俺は満足だ。」
そっと足を踏み出そうとしたその時であった。
雪風「しれぇ!」
加賀「こんなところに。」
赤城「まったく、驚かさないでくださいよ。」
長門「どこへ行くんだ!」
陸奥「そうよ、まだ早いんじゃないの。」
提督(どうして・・・俺のことは見えていないなはずなのに・・・。)
天龍「くそっ!見えないからって聞かないなんてことするなよ!」
鈴谷「やっと、熊野に答えたんだね!」
暁「まったく、レディを泣かせるなんて・・・。」
電「司令官!私たちは感謝してるのです!」
雷「そうよ!見えなくても聞こえなくても・・・司令がそこにいることなんてわかるわよ!」
提督(どうして・・・どうして・・・。)
響「一人で行くなんて、まったく気障なんだな。」
不知火「あなたは!最高の提督でした!」
陽炎「ありがとう!提督!」
提督(・・・!俺こそありがとう!」
全員「・・・!」
雪風「今、しれぇの声が・・・。」
長門「ああ、確かに!」
提督(ありがとう・・・。さようなら・・・。」
熊野「あなた!必ず・・・会えるわよね・・・。私く・・・待ってるわよ!必ず・・・!愛してるわ!」
提督「・・・!」
提督(愛してる・・・」
誰も提督の姿を見たものはいなかった。
だが、そこにいたことは感じ取れた。
残された彼女たちを見ながら提督はただ、感謝するのみだった。
ーーー
最近、鎮守府にこんな噂が広まっていた。
死を迎えた時、やり直すチャンスを与えられる者がいると。
もちろん、都市伝説に変わりはなく信ずる者もすくなかった。
だが、そんなことは関係なかた
今日も一人の少女がここへ来ている事実は変わりないのだから。
??『やあ、君は本当に幸運だ。ここへ来れたんだから。僕の名前かい?名前なんて僕にとってはなんの意味もないさ。だけど、ここがどこかだけは教えてあげなきゃね。
ここは、幸せになるための場所さ。』
~Fin~
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