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フラメンコドレス

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第五章

「いいと思うわ」
「よし、じゃあカルメンとエルカミーリョになってな」
「行きましょう」
「そうするか」 
 夫が左腕を差し出すと妻はその腕を右手で取った、そのうえで祭りに繰り出した。
 そして二人で祭りを楽しんでいるとだ、アントニオは。
 目の前からあのフランスからの観光客が来た、見れば。
 彼も着飾っているがだ、その隣に。
 膝までのワンピースのフラメンコドレスを着た可愛らしい小柄な女がいた。全体に幾段にもフリルになっているドレスで白地に青い水玉の柄だ。
 靴は白いヒールで頭には白薔薇がある、浅い褐色が入った肌で黒く大きな瞳に唇の左の付け根に黒子がある。髪の毛は長い茶色の髪を後ろで団子にしている。
 その女も見てだ、アントニオは彼に微笑んで言った。
「楽しんでるな」
「この通りさ」
 観光客はその女を抱き寄せて笑って応えた。
「声をかけてな」
「そうか、一緒にか」
「こうして祭りを楽しんでるんだよ」
「それは何よりだ、じゃああんたもな」
「今日は心ゆくまで楽しむな」
「それじゃあお互いにな」
「この祭りを楽しもうな」
 こう話をした、そして別れたが。
 自分達とすれ違った観光客と女を背中越しに見送ってからだ、イザベラは夫に言った。
「あの娘ね」
「知ってる娘か?」
「そっちのお店の娘みたいよ」
「あれっ、そうなのか」
「雰囲気がそうよ」
「そうなのか」
「まあお祭りの時はね」
 こうした時はというのだ。
「ああした娘も稼ぎ時だから」
「観光客にもついてか」
「稼ぐのでしょうね」
「そうか、まあどんな娘でもな」
「このお祭りにいればっていうのね」
「花だからな」
 それでというのだ。
「いいか、後ろにおかしなのがついていないとな」
「それは大丈夫よ、あの娘そうした気配はないから」
 イザベラは直感からだ、先程の女に悪いものを感じなかったことから述べた。
「飲み屋か何処かの娘みたいよ」
「そうした飲み屋のか」
「大丈夫よ。あの観光客の人も遊んでる感じで」
「こうしたことは慣れてるか」
「だからね」
 それでというのだ。
「安心していいわ」
「じゃああっちも二人でか」
「楽しむと思うわ、そしてね」
「俺達もだな」
「ええ、二人で楽しみましょう」
「いつも通りな」
 アントニオはイザベラの言葉に笑みで答えた、そして結婚してからもっと言えば結婚する前からそうである様に二人でこの祭りを楽しんだ。フラメンコドレスで飾られた祭りを。


フラメンコドレス   完


                        2015・12・30 
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