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色気がない

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第五章

「服までな」
「似合う?」
「さっきまでエプロンにジャージだっただろ」
「着替えたの」
 くすりと、誘う様な笑みでの返事だった。
「これにね」
「いい服だな」
 夫は妻の今の服装を見てこう言った。赤い胸元が開いて鎖骨まで見えている薄いシャツにだ。下は黒のかなり短いタイトスカートで脚は黒ストッキングだ。首筋には銀のネックレスがあり指輪もしっかりと付けている。
 その姿の妻にだ、彼は言ったのだ。
「いい感じだな」
「そう?」
「何かもうビールはよくなったよ」
「あら、飲まないの」
「ビールよりもな」
 すすす、とだ。大助はビールをテーブルに置いてまだ立っている妻のところに来てだ。
 抱き寄せてだ、息を荒くして言ってきた。
「今からな」
「お部屋で?」
「子供達もう寝ただろ」
「子供部屋でね」
「だったらな」
 それならというのだった。
「今からベッドでな」
「積極的ね」
「その格好見たらな」
「したくなったのね」
「いいよな」
「いいわ」
 微笑んでだ、妻も夫を抱き返して耳元で答えた。
「それならね」
「寝室行こうな」
「ええ、そうしましょう」
「ここでもいいけれど」 
 今二人が抱き合っているリビングでもというのだ。
「俺は」
「ちょっと、ここで?」
「もう我慢出来ないから」
「寝室まですぐじゃない」
「いや、もう」
 こう言ってだった、すぐに。
 大助は美紀をその場で押し倒してだ、服を剥ぎ取りこそしないが荒々しく脱がした。そして妻の下着姿を見てまた言った。
「黒か」
「ええ」
 黒だった、ブラもショーツも。
「ちょっと替えてみたの」
「いいな、しかもガーターなんてな」
「どうかしら」
「これはいい、じゃあな」
「ええと、やっぱり」
「ここでするな」
 こう言ってだ。寝室のベッドの上でなくそのリビングだった。
 二人は、大助が積極的になって夜の営みをした。大助は美紀がそうした服になると常にだった。妻を自分から求めた。
 そしてだ、一年程そうした日々が続くと。美紀は友人達にこう言えた。
「三人目がね」
「あら、出来たの」
「一年前は全然だったっていうのに」
「それがなのね」
「出来たのね」
「いや、あんたにね」
 そのあだっぽい友人に顔を向けて言った。彼女は今もそうした外見だ。
「アドバイス受けて」
「それで実際になのね」
「夜にそうした格好になったら」
 色気のあるだ。
「メイクもして着替えたら」
「それでなのね」
「旦那がいつも迫ってきて」
「そうして夜を過ごしたら」
「出来たのよ」
「効果てきめんだったのね」
「ええ、そうなったら」
 こう話すのだった。
「よかったわ、ただね」
「ただ?」
「そうした格好になるのは夜だけで」
「今は」
「この通りよ」
 完全にだ、家事しかしていない主婦だった。メイクも何もなく色気なぞ何処にもない。喫茶店にいてもお洒落なものは感じない。 
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