酒憂
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第二章
起きるとまた沈み込んでだ、飲む。それの繰り返しになっていた。
宮廷には反乱の話ばかりが飛び込んで来る、何処で兵が反乱を起こしただの赤眉の者達がどの城を手に入れただのだ。
届く話は新にとって悪いものばかりだ、それで。
宮廷に残っている彼等もだ、不安に満ちた顔で話をした。
「このままではな」
「うむ、どうしようもない」
「帝はあの有様だ」
「酒に溺れておられる」
「憂いに支配されて」
「どうにもならない」
「そうした状況だ」
こう話すのだった、彼等の間だけで。
それで彼等もここで酒を飲もうとする、だが。
一人がだ、不安に満ちた顔で他の者達に言った。
「飲んでいいのか」
「酒をか」
「それをか」
「そうだ、飲むとだ」
それこそというのだ。
「帝の様になってしまいはせぬか」
「憂いを消す為にか」
「飲んでしまい」
「そしてまた憂いが出て来ると飲む」
「それの繰り返しになるというのか」
「違うか」
こう他の者達に問うのだった。
「そのことは」
「確かにな」
「それでは帝と同じじゃな」
「今の帝はな」
「あれではな」
最早というのだ、王莽は。
「憂いが深いあまり」
「酒に溺れておられる」
「そして憂いを晴らされようとしても晴れず」
「酔いが浅くなればまた飲まれ」
「碌に召し上がられもせず」
「酒ばかりじゃ」
そうした状況になっている王莽を見ての言葉だ。
それでだ、彼は言ったのだ。
「だからな」
「止めておくか、我等は」
「酒を飲むことは」
「そうするか」
「ここで飲んではな」
「帝と同じになるわ」
そうならない為にだ、彼等は酒を止めた。
そのうえでだ、彼等はここでこうしたことも話した。
「そしてな、これからだが」
「うむ、このままだとな」
「新は危うい」
「というかもう駄目じゃ」
「この国はどうにもならぬ」
「乱は収まらぬ」
実際に都長安にも軍勢が迫ってきている、幾ら軍勢を送っても負け続けている。そうした状況でしかもである。
「肝心の帝があの有様じゃ」
「ではな」
「もう終わりじゃ」
「この国はな」
「終わりじゃ」
「どうしようもない」
「これではな」
こう言ってだ、そしてだった。
「我等も危うい」
「帝と命を共にすることになるぞ」
「帝と共に死ねるか」
「果たして」
このことになるとだ、彼等は。
顔をことさら、これまで以上に曇らせてだ。こう言ったのだった。
「それは出来ぬわ」
「あの様な帝には殉じることは出来ぬ」
「憂いに負けて酒を飲むばかりの帝とはな」
「到底な」
「出来ぬ」
忠義の心は消えていた、最早。
「帝になられる前ならともかく」
「今はな」
「出来ぬはな」
「それではな」
「去るか」
「そうするか」
こう話してだ、実際にだった。
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