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第四章

「安保とか反対とか民主主義とか言うてもな」
「暴れてるだけですか」
「棒切れ振り回してヘルメット被って何やっとるんじゃ」
「何か民主主義を守るとか言うてますよ」
「それやったら選挙行け」
 また一言で言った工場長だった。
「それだけや、棒持って暴れて何になるんや」
「革命ちゃいます?」
「革命なって何あんねん。ソ連になるんか」
「そんな感じですね」
「アホか。ソ連になったらえらいことになるわ」
 一樹は工場長のこの言葉を聞いてだ、彼が父と同じことを言っていると思った。
「あそこは自由にものが言えんしちょっとしたことで警察に捕まる国やぞ」
「あの人等は違うって言うてますけど」
「それもわかっとらんからアホなんや」
「ソ連の実態もですか」
「満州のこと見てみい。わしの叔父なんかあそこから身一つで逃げてきたんやぞ」
「大変だったんですね」
「ソ連軍は武器持たん人にも銃を撃ってきて女は誰でも襲い掛かってや」
 このことはあまりにも有名であった、しかし特定の新聞はあえて隠していたことだ。知識人や政治家の一部も同じだった。
「とんでもない奴等でや。しかもや」
「しかも?」
「あっちの連中も同じやった」
 口をこれ以上はないまでに顰めさせての言葉だった。
「というか連中の方が酷かったらしいわ」
「ソ連軍よりも」
「そうやったらしいな。あっちに日本人一人も残ってないわな」
「逃げたんじゃ」
「ちゃう」
 忌々しげにだ、工場長は一樹に言った。
「それはな」
「っていうと」
「そや、殺されたんや」
「そうなんですか」
「逃げた人もおる、けれどかなり殺されてる」
「それほんまですか?」
「わしがこの目で見てきた」
 工場長は強い声で言うのだった。
「満州でソ連軍、それであっちの奴等にや」
「ころされてたんですか」
「相当な、その時にそのソ連軍と一緒に入ったのがな」
「北朝鮮の」
「あの政権や」
「何か日本と戦ってたっていいますけど」
 一樹は新聞や学者の言っていることをここでも言った。
「実際はちゃうんですね」
「ちゃうで、あの男偽物や」
「じゃあ本物jは」
「あそことか満州で皇軍と戦ってたらしい」
 工場長の言うことはこのことについては曖昧だった。
「けれどそれが何人かおってや」
「あれっ、何人もですか」
「おってな」
「それであの人は」
「三人目か、わしが聞いた人にしては若い」
「若いんですか」
「年齢が合わん、実際は強盗か何かやったらしい」
 このことを一樹に話した。
「パルチザンでもゲリラでもなかったらしいわ」
「実際は犯罪者だったんですか」
「馬賊みたいなもんやな」
 戦前に満州にいた賊達だ、こうした者達も暴れ回っていたのだ。
「ソ連軍にもおったちゅうし」
「そうした人なんですか」
「そのソ連軍にな」
「満州で滅茶苦茶やった」
「ドイツの方でも酷かったらしい」
 ソ連軍はというのだ。 
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