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主は誰か

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第三章

 幕府からの使いで美濃に向かった。その美濃に入りだ。
 共をしている従者はだ、明智に懐かしむ顔で言った。
「まさかです」
「こうしてな」
「美濃に戻って来るとは思いませんでしたな」
「確かに。しかもな」
「その美濃がです」
「織田家のものになるとはな」
「思いも寄りませんでした」
 こう明智に言うのだった。
「そのことについても」
「全くじゃ、しかもな」
「その織田家がですな」
「義秋様をお助けしてな」
「将軍にされて」
「上洛されるとのことじゃ」
「信じられませぬな」
 従者も唸って言う。
「織田信長殿が」
「うつけと聞いておったが」
「はい、しかし」
「美濃も手中に収められてな」
「義秋様を助けて下さ」
「そのことは確かだ、それに」
 明智は道を進みながらその道を見た、一見すると何の変哲もない普通の道だ。
 しかしだ、彼はその道を見て言った。
「整った道じゃな、よく」
「そういえば歩きやすい道ですな」
「我等が美濃にいた時よりもな」
「整った道ですな」
「うむ、非常にな」
 道が奇麗に整えられ歩きやすいというのだ。
「よい道になっておる」
「ですな」
「しかもな」
 明智はさらに言った。
「町も村も前より遥かに豊かで賑やかであったな」
「はい、確かに」
「堤も整いならず者も見ぬ」
「随分とよい国になっていますな」
「これは政がよいからじゃ」
「織田信長殿の」
 従者もこの名を出した。
「それがですな」
「まさかな」
「ここまでの政とはですか」
「想像もしていなかった」
「そういえば尾張では」
 信長、いや織田家の拠点である。実際信長も稲葉山に移るまでは尾張にいた。
「織田家同士で揉めましても」
「領民が何かを言ったことはないな」
「はい、皆織田殿を慕っているそうですな」
「まずは民じゃ」
 何につけてもというのだ。
「民が慕う大名はやはり確かじゃ」
「だからですか」
「うむ、これだけの政をされてもな」
「それは当然のことですか」
「そうなる、ではその織田殿とな」
「これより会われて」
「お願いしようぞ」
 こうしてだった、明智は織田信長と会うことになった。細面で白面の強い目の光を持つその者と会ってそうして。
 その彼と話した後でだ、明智は信長に呼び止められてだ。こう声をかけられた。
「明智殿は以前は美濃におられたな」
「ご存知でしたか」
「聞いておる、明智家は代々美濃におった」
「はい、それで美濃にいましたが」
「しかし越前に行かれ」
「そのこともご存知ですか」
 明智は信長が自分のことをそこまで知っていることに内心驚いていた。 
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