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獅子王の無念

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第二章

「全くな」
「はい、非常にです」
「ここはです」
「厄介な場所です」
「水も少なく」
「戦いにくい場所です」
 そうした場所であることも話した、そして。
 そのうえでだ、彼等は自分達の王にさらに話した。
「しかもです」
「ここは敵地です」
「地の利は敵にあります」
「何時敵が来るかわかりません」
「そのことも厄介ですね」
「だからだ」
 それ故にとだ、王は話した。
「斥候は多く、そして遠くまで出している」
「それ故にですね」
「敵地であるが故に」
「左様でありますな」
「そして常にな」
 自身が率いる軍勢も見つつだ、王はまた言った。
「軍勢の左右には槍兵を置いている」
「マムルークに対する為に」
「そうされていますな」
「そして弓もな」
 見れば弓兵もいた、それも結構だ。
「備えている」
「クロスボウではなく、ですか」
「弓であるその訳は」
「知れたこと、弓は幾らでも放てる」
 だからだというのだ。
「クロスボウは威力があるが放つには技術が必要であまり多く放てぬし矢が飛ぶ距離も短い」
「だからですか」
「弓にされているのですな」
「敵のマムルーク達に対する為にも」
「そうしていますな」
「敵は侮るな」
 決してというのだ。
「異教徒であろうが強い」
「ですな、確かに」
「実際にエルサレムは奪還されています」
「敵の王サラディンは手強いです」
 実際は王とは名乗っていないサラディンだが十字軍の者達はこう考えているのだ。
「だからですな」
「ここは警戒に警戒をして」
「そしてですな」
「エルサレムまで行くのですな」
「そうだ、あと糧食そして武器は絶やすな」
 そうしたものもというのだ。
「それを軍勢に届ける道も守れ」
「はい、そうしています」
「そのことも常にです」
「しております」
「戦いはパンや武器はなくては出来ない」
 そうしたものがなくてはというのだ。
「勇気だけでは出来ない」
「よく勇気と信仰で戦うといいますが」
「王はいつもそう言われますな」
「まずはパンと武器があってこそ」
「そうであってこそ戦えると」
「勇気があろうとも食わない者は力が出ぬ」
 これが王の言葉だ。
「果ては餓えて死んでしまう、剣や盾がなくてどうして戦える」
「だからですか」
「まずはパンと武器ですな」
「その二つが常にあってこそ」
「そうして戦えるのですな」
「そうだ、だからこうしたものは絶やすな」
 決してというのだ。
「わかったな」
「わかりました、では」
「そのこともです」
「しかと備え」
「そうして」
「進むぞ」
 こうしたことを話してだった、王は軍勢をエルサレムに向かわせていた。何度か戦いもあったがイスラムの軍勢は退けていた。
 そうしてエルサレムまであと一歩というところまで来た、もうエルサレムの壁と建物ははっきりと見えている。だが。 
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