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獅子王の無念

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第一章

                       獅子王の無念
 勇敢、そう言うべきか。
 獅子心王リチャード一世は少なくとも臆病ではなかった、敵に背を向ける様な男では決してなかった。
 ロンドンにおいてだ、敵が来たと報告を受けるとすぐに出陣を決めた、その時に。
「私は勝つまで決して敵に背を向けない」
「はい、勝ちて帰りましょう」
「必ず」
「だからだ」
 家臣達にだ、強い声で言った。その獅子の如き目で。
「このまま一直線に進む」
「えっ、しかし」
「我等の目の前はです」
「壁がありますが」
「城壁が」
「そうだな、しかし私は今誓いの言葉を述べた」
 他ならぬ自分自身へのだ。
「敵には決して背を向けないとな、ここで壁を避けて門を通れば敵に背を向けてしまう」
 そちらが敵のいる方角だからだ。
「だからそれは出来ない、門を通ることはな」
「ではどうされますか」
「壁があるのですか」
「壁を越えますか」
「そうしますか」
「いや、この壁は高い」
 ロンドンのその城壁はというのだ。
「馬では越えられない、だから壊せ」
「何と、壁をですか」
「壁を壊してですか」
「そして先に進むのですか」
「敵のいる方まで」
「そうだ、壁を壊してそしてその壊した道を通りだ」
 そうしてというのである。
「先に進むぞ」
「わ、わかりました」
「そうされるのですか」
「ではこれより」
「壁を壊してです」
「先に進みましょう」
「そうだ、私は決して敵に背を向けない」
 やはりこう言うのだった、そして。
 王は胸を張りだ、馬に堂々とした姿勢で乗ってだった。そのうえで。
 敵に向かって進軍した、獅子心王はこうした男だった。
 敵に対しては容赦なくまた非常に好戦的でまさに戦いの中で生きていた王だった、それは欧州においてだけでなく十字軍においてもだった。
 イングランドを遠く離れた異郷においてもだ、彼は戦い続けていた。その目的は一つだった。
「私は自分に誓う、エルサレムを異教徒達から取り戻す」
「サラディンからですか」
「そうされますか」
「そうだ、そうする」
 ここでも家臣達に言うのだった。
「必ずな」
「ですか、では」
「エルサレムまで進みましょう」
「そして必ずです」
「聖地を取り戻しましょう」
「私はその為に来たのだ」
 やはり揺るぎない言葉だった。
「ここまでな」
「はい、しかし」
「ここはです」
「噂は聞いていましたが」
「暑いですね」
 家臣達は周りを見た、今イングランド郡は出陣し砂漠を進んでいる。中東の砂漠はだ。
 暑く日差しが強い、それで彼等は自分達が着けておる鎖帷子とその上に纏っているサーコートを見て言うのだった。
「このままではです」
「鎖帷子、兜のままですと」
「日光で焼けてです」
「敵より前にです」
「そちらにやられていました」
「そうだな、ここはイングランドともフランスとも違う」
 王もそのことについて話す。 
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