死んだ目
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第五章
「彼等が戦火だけでこうなったと思われますか」
「違うと」
「博士は歩かれても学問をされますか」
「フィールドワークですね」
「はい、それは」
「学者はその場所に行きその目で観ることもです」
そうしたこともとだ、グラッグスはオーフェルにすぐに答えた。
「学問です」
「だからこそですね」
「このベルリンにも来ました」
「左様ですね」
「はい、ですから」
それで、というのだ。
「これからです」
「実際にベルリンを観て回りますね」
「そうするつもりです」
こう言うのだった。
「大尉はその案内をして頂くのですね」
「そうです、ただ」
「ただ?」
「くれぐれもです」
「くれぐれも、ですか」
「何を観ても取り乱されないで下さい」
オーフェルは強い声で忠告するのだった。
「いいですね」
「取り乱すとは」
「はい、それはない様に」
こう言うのだった。
「お願いします」
「それは一体」
「観られればわかります」
「ベルリン市民の目が暗い理由が」
「実際に歩いて観られれば」
オーフェルは真剣なそれも暗い顔で話した、そして実際にベルリンまで運んで来たジープに彼を乗せてだった。自分が運転をして案内をはじめた。グラッグスは助手席に座ってそうしてだった。そこからベルリンの街を観て回った。
するとだ、ベルリンには市民達暗い目で歩く彼等だけでなくだ。
ソ連軍の将兵達もいたがだ、彼等は。
その手にだ、金目のものだけでなくだ。歯ブラシや歯磨き粉に洗剤といった生活用品を持っていてだ。あれこれと賑やかに話していた。
その彼等を観てだ、グラッグスは眉を顰めさせて隣の席で運転をしているオーフェルに対してこう尋ねた。
「あの、あれは」
「彼等がどうしてああしたものを持っているか、ですね」
「はい、生活用品だけでなく」
「金目のものをですね」
「持っているのですか?」
「戦争には付きものですね」
「略奪、ですか」
グラッグスは眉を顰めさせたままこの単語を出した。
「つまり」
「そうです」
「しかしです」
その事実を観てからだ、グラッグスはオーフェルに尋ねた。
「ソ連、いえソ連軍は」
「階級がなく、ですね」
「はい、誰もが平等で」
その言葉を続けていくのだった。
「そしてです」
「誰もが豊かですね」
「ものが満ち足りていて」
「略奪なぞはですね」
「する必要がない」
「そう言われていますね」
「しかしです」
その彼等を車中から観つつだ、グラッグスはさらに言った。
「彼等は何故」
「ここでは誰もがしていますよ」
「ソ連軍の将兵達が」
「そうです、ベルリンを占領して」
そして、というのだ。
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