戦国異伝
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第二百三十六話 生きていた者達その五
「では、ですな」
「これよりですな」
「夜は我等の最も好きな時」
「我等の時です」
「ならば余計にですな」
「都合がよいですな」
「全くじゃ」
老人がだ、ここで言った。
「ではな」
「これよりですな」
「町を焼いた火も消えましたし」
「これより城攻めにかかり」
「安土の城を焼きますか」
「あの城はただ堅固なだけではない」
老人は安土城を忌々しげに見ていた、見れば闇の色の衣を着ている。長者が着る様な色以外は品のある色だ。
天主の方は見ている、しかし夜なので絢爛さは見られない。しかし老人はそのことをどうでもいいとして言うのだった。
「結界でもある」
「この国の心の臓である都を守る」
「そうしたものですな」
「そのうちの一つですな」
「あの城は」
「比叡山と高野山も目障りじゃが」
それと共にというのだ。
「あの城に大坂の城もな」
「目障りだからこそ」
「それ故にですな」
「あの城を焼く」
「そうしますな」
「そうじゃ、あの城を焼き」
そしてというのだ。
「そのうえでな」
「結界の一つを潰す」
「それも目的ですな」
「ではそれを今からはじめる」
老人は確かな声で言った。
「まだ城に兵は入っておらぬ、だからな」
「これよりですな」
「城を攻め」
「そのうえで」
「城を焼きましょうぞ」98
そのことにもかかろうとだ、彼等の中で話してだった。
老人は自分の傍で馬上にいる彼を見て言った。
「城攻めじゃ」
「・・・・・・わかった」
明智はこう返した、虚ろな顔で。
「ではこれより攻める」
「御主達もじゃ」
明智の後ろに控えている斎藤と秀満にも告げた。
「よいな」
「わかり申した」
「ではこれより」
「はじめるとしよう」
二人も応える、そしてだった。
明智は兵達に城攻めを命じた、それを受けて。
兵達は城を囲みそのうえで実際に攻めに入った、だが。
ここでだ、その安土城がだった。
櫓という櫓に火が灯りだ、城のあちこちにも火が灯った。
そして天主もだ、火が灯り。
その絢爛たる姿が夜の中に映し出された。兵達はそれを見て驚いて言った。
「何じゃ、一体」
「急に火が灯ったぞ」
「天主にまで」
「これはどういうことじゃ一体」
「提灯か」
兵の一人が言った。
「天主や櫓に提灯を置いておったのじゃ」
「それに火と点けてか」
「その灯火で映し出しておるのか」
「そうしたのか」
「それで夜の中に城が浮かび上がってきたのか」
「そうであったのか」
「そうじゃ、しかし」
それでもと言うその兵だった。
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