スーパー架神大戦ダンゲロス
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開戦前日;side 八葉重エリ
「家杉ちゃーん! どこにいるのー!?」
ハルマゲドン開催を控えた希望崎学園を必死に駆け回っていた女生徒がいた。
名前を八葉重エリ。普段は親友の家杉よしえと二人で野球部のマネージャーをしているが、現在その親友の行方がわからない。
彼女の家にも携帯にかけたところ、家杉の母親はまだ帰っていないと答え、携帯は繋がりすらしない。
普通ならば一旦帰り、警察に届けを出すところだが今は事情が事情だ。
ハルマゲドン開催を明日に迎えるこの学園に取り残されているかもしれない家杉を放っておくことなど出来ない。
八葉重や家杉と仲の良い友人たちにも協力を頼んだが、未だに家杉の気配を感じられない。
焦る八葉重の心を嘲笑うかのように時間は過ぎていく。
僅かな期待をかけて集合場所の正門に行くと自分以外の家杉捜索隊は全員集まっていた。
「留田ちゃん! 見つかった?」
留田と呼ばれた女生徒は首を横に振る。その表情から見える疲れが熱心に探したのだという証拠だった。
「私だけじゃない。狩場も津栗も羽生も‥‥みんな見つけられなかった」
家杉を探す女生徒達の数は多かった。
留田、狩場、津栗、羽生、波虚、紺須田、暮古里、比江留に八葉重を加えて九人。
これほどの人数で探して見つからないのだ。
普通の学校ならばさほど気にも止めないだろう。とっくに帰宅していて、どこかで寄り道していると考えるのが定石だ。
だがここは明日、生徒会と番長グループとが殺し合いをする舞台となる場だ。家杉がどちらかの陣営により、戦争に巻き込まれた可能性も十分にあり得る。
「やっぱ、家杉ちゃんて魔人だったのかな?」
「だから無理やりいうこと聞かされちゃってるのかもね」
暮古里と狩場の会話で一同は思い出す。
家杉が不思議な力を持っていたことを。
八葉重と家杉が野球部のマネージャーになりたてのころ、部員の一人が足を酷く怪我した事があった。とても素人に治せるような怪我ではなく、本来ならその場にいた人間に出来たことなど精々応急手当を施して痛みを少し和らげるぐらいだった。
だが、家杉は違った。彼女は足を押さえて呻いていた部員に駆け寄り、患部に手を当てた。すると次の瞬間に部員の表情が明らかに変わった。不思議そうな顔をしていた部員はなんと二本の脚で立ち上がったのだ。
驚き愕然としている八葉重や野球部員達の中で、家杉は立ち上がった男子生徒を見て、女神のような優しい表情で微笑んでいた。
無論ここは魔人の巣窟である希望崎学園だ。単に家杉が治癒能力を持つ魔人だったと解釈すればそれで済む。彼らを驚かせたのは家杉が魔人だったということだ。
希望崎でも自分が魔人であることを隠して登校している者はいるし、実は魔人なのではないかと疑われている人間もいる。
だが、今まで家杉が魔人なのではないかと疑った者は誰一人としていなかったのだ。
能力を持っているなんて情報は入らなかったし、魔人のように頭のおかしい性癖や思想を持っているとは思えなかったし、魔人のような常軌を逸した行動など起こしたことはない。それどころか誰に対しても優しく接し、マネージャーとしての仕事も完璧にこなす一方で気の利く心遣いも忘れない姿は男子の理想とする清純な女子そのものだった。
だから、家杉が魔人だと言われても全くピンとこないのだ。
それに、その時野球部員の一人が家杉が魔人なのかを聞いたとき、当の彼女は微笑みを崩さずに「どうでしょうね?」と答えただけだったので今でも家杉が魔人だったのかどうかは謎だ。
その後も家杉は八葉重や留田等の友人や野球部員達を不思議な力で癒し続けた。彼らは家杉に感謝しつつも彼女が番長グループなどに目をつけられることを恐れ、無闇に能力を使わないように言い、外部に知られないように口を閉ざすように言った。
「外部には漏らさないように言ったのに‥‥」
留田が呻く。所詮は十代の学生。全員が完璧に口を閉ざすことなど出来なかったのだろう。
「くっそ! 誰が言いやがったんだ!」
「落ち着け。今そんなこと言っても仕方ない」
苛立つ留田を狩場が宥める。
しかし、番長グループに拐われたという説が濃厚になったところで八葉重達が何かできる訳でもない。
屈強な魔人の揃う番長グループに人間の女子高生九人が挑んだところで結果は見えている。
そんなほとんど諦めかけていた彼女達に声をかける者がいた。
「おや? 何をしているのかなお嬢さん達。この学園はもうすぐろくでもないことになるから早く帰った方がいい」
振り返った九人の女子は時代錯誤な格好をした美形の上級生と、それに付いて歩いている眼鏡の似合う知的な印象を持つ同級生を見た。
「鵺野さん!」
「チグリスさん!」
津栗が鵺野蛾太郎の名を呼び、紺須田がチグリスの名を呼んだ。それを見て疑問に思った暮古里が二人にこっそりと聞いた。
「し、知り合いなの?」
「うん。生物部の部長」
「図書委員の先輩」
疑問を持ったのは暮古里だけではない。
鵺野とチグリスも一般女子高生がハルマゲドンを控えた学園に遅くまで九人も残っていることに疑問を抱き、その疑問についての答えを比江留から聞いているところだった。
「なるほど。事情はわかったが、残念ながら番長グループに家杉さんはいない」
「え?」
「小生も実は番長グループに属する身でね。番長グループがそんなことをしていたらわかる」
もっとも番長グループではなく、番長グループ内の個人が勝手にやったことだったらわからないかもしれないが。と付け足した。
「あの、番長グループにいるのに、帰るんですか」
「理事長にやめろと言われたのでね。うちの番長も戦いたくない者は参加しなくていいと言ったし、ありがたく抜けさせて貰うことにしたんだ」
「私も生徒会に所属しているんですけど、大体同じ感じです。ちなみに生徒会の方にも家杉さんに関する情報は入ってきていません」
と、九人の疑問にあっさりと答えて見せた。それどころか両グループ共に家杉の能力について知っていた者はいなかったという。
「じゃあ、一体家杉ちゃんはどこに‥‥」
羽生が小さく呟いたきり、九人は何も言わなかった。もう、彼女らには家杉を探す当てが無い。
「確かに心配だな。チグリス」
「はい、探してみます」
鵺野に促され、チグリスは眼鏡の位置を調整する。その様子を不思議そうに見ている九人に鵺野が説明する。
「チグリスは情報収集に長けた魔人でね。もし家杉さんの失踪が人為的なものであれば見付けられるかもしれない」
その言葉を聞き驚く九人。真っ先に反応したのはチグリスと同じ図書委員の紺須田だった。
「チグリス先輩、魔人だったんですか!?」
「うん。隠してるつもりはなかったんだけどね」
―――生徒会だしね。
「私の能力はグラスホッパーっていって、眼鏡をかけてる人の視界をジャックできるの。範囲は結構広いから、この学園内に家杉さんがいるなら何かわかるかも」
言った直後にチグリスは能力を発動する。
眼鏡のレンズに様々な映像が映る。それをじっと見つめるチグリス。それを八葉重達と鵺野は固唾を飲んで見守る。
やがてチグリスの表情が凍りつき、能力の発動が終わった直後に「なんてこと‥‥」と呟き一同が不安に包まれる。
チグリスは九人に向き合い、言った。
「家杉さんの状況が判ったわ」
九人は皆、驚いてチグリスに注目する。
「状況は考えられる限り最悪よ」
「!?」
不安に駆られた九人に、チグリスは重々しく告げた。
「家杉よしえさんは、転校生への報酬にされてしまっているわ」
八葉重達の表情が凍り付いた。鵺野も同様の反応を見せる。
チグリスは続ける。
「家杉さんの居場所は運動部用倉庫に隠されている地下室の中。縄で縛られていて身動きがとれない状態。口もガムテープで塞がれているから声も出せないでしょうね」
転校生。
それがどういう存在かは八葉重も知っている。
今まで都市伝説のようなものだと思っていた。
「転校生、だと!? なんでそんなものが―――」
「どうやら夜魔口悪夢が呼び出したようです。ちなみに生徒会も同様の考えを持っていたみたいで‥‥」
鵺野は絶句する。
一体何を考えているのだ!?
鵺野は先程番長グループに家杉はいないと言った自分を恥じた。彼も夜魔口がこんな行動を取ることはないと思っていた。いくら過激な彼女でも、そんなことはしないだろうと思っていたのだ。
生徒会によほどの恨みがあるとしか思えない。
「や、八葉重ちゃん‥‥」
暮古里が泣きながら話しかける。
九人とも、青い顔をしていた。
もう、家杉を助けることは出来ない。
もう、家杉に会うことは出来ない。
普通の女子高生が受け入れるには、過酷すぎる現実だった。
鵺野もチグリスも、なんと声をかけてやればいいのかわからない。
「わたし、行きます」
唐突に、八葉重エリが口を開いた。
全員が一斉に八葉重を見る。
「わたしが、家杉ちゃんを助けてくる」
「なに言ってんだ!」
一番早く反論したのは波虚だった。
「そんなこと出来るわけないだろ! あんたまで殺され―――」
「わたしも魔人なの」
「なっ―――」
波虚だけでなく、その場にいた全員が何度目かもわからない驚愕に包まれた。
「隠していてごめんね。でもわたしの能力なら勝算が無いわけじゃない、と思うの」
「だからって一人じゃどうにもならないだろ! あたしも一緒に―――」
「それは駄目だよ」
八葉重は波虚の言葉を遮る。間違ってもこれ以上友人を危険に晒すことは出来ない。
「確かに一人じゃ無茶だけど、波虚ちゃん達を守りながら助けに行くのは無理」
波虚は泣きそうな顔をする。
八葉重の決意は硬い。
自分の言葉で止められないことを悟った。
でも、大切な友人が二人も命の危機に晒されていると知って、最悪の展開を予想してしまう。
「だって、八葉重ちゃんまで死んじゃうかもしれないんだよ? そんなの―――」
「安心しなさい」
不安に潰されそうな波虚に、鵺野が言った。
「八葉重さんは一人ではないし死なない。小生も協力しよう」
今度は八葉重が驚かされた。
「言ってなかったかね? 小生も魔人だ。それなりに場数も踏んでいるつもりだよ」
「で、でも何で? ハルマゲドンに参加したくないから逃げたんじゃ―――」
波虚が不思議そうに問いかける。
「確かにそうだが、小生も家杉さんには世話になっていてね。クワガタの病気や怪我を何度も治して貰った」
―――あいつ。あれほど無闇に使わないようにって言っといたのに。
さらにもう一人。八葉重に手を貸す者がいた。
「八葉重さんが言う通り、確かに強力な能力なのかもしれないけど、一人の魔人の力で転校生を倒せるとは考えにくい。情報も全く無いのに」
「チグリスさん‥‥」
「大丈夫。私も着いていくし、ヌガーの指揮能力も高いから」
「ヌガー?」
「小生の渾名だ。八葉重さんもそう呼んでいいぞ」
鵺野は八葉重以外の八人に向き合う。
「そういうわけで、ここは小生達に任せてほしい。そして君達には別の役割を頼みたい」
「なんですか? 私たちに出来ることなら何でもやります!」
誰よりも真っ先に答えた留田に鵺野は何世代も前のガラパゴスケータイを渡した。
「援軍を呼んでほしい。知り合いに転校生に対抗出来そうな魔人がいるならその人でもいいし、なんなら魔人公安でも構わん。当てができたらその携帯に入っている小生かチグリス、これから入れる八葉重さんの番号にかけてほしい。小生達も転校生の情報が入ったらそれに連絡しよう」
ちなみにこの携帯は特殊な魔人能力でコーティングしているため、傍聴される危険は無い。
留田は力強く頷いて鵺野の申し出を快く引き受ける。他の七人も同様だ。
「八葉重」
留田は八葉重を強く抱き締める。
少し涙ぐみながら、
「絶対に二人で帰ってこいよ」
「‥‥‥うん」
留田を抱き締め返し、七人とも同様の抱擁をかわす。
八人の友人達が見えなくなるまで見送った後、八葉重は鵺野とチグリスと共に校舎へと、死地へと引き返す。
「そういえば八葉重さん」
「はい?」
「貴女の能力、転校生にも勝算があるかもしれないって言ってましたけどどんな能力なんですか?」
そういえば言いそびれたな、と思いつつ八葉重は答えた。
「私の能力は―――」
【ハルマゲドン開催まであと―――】
後書き
今後出せるかわからないので、かわいい((ryのキャラを全部ぶっこみました。
八葉重のキャラが違う? ちょっと何を言っているのかわかりませんね。
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