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真田十勇士

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巻ノ二十四 鎌倉その六

「こちらも」
「これ程とは」
「いや、、どれもです」
「実に美味いですな」
「刺身に味噌汁」
「どれも」
「新鮮な魚はよいな」 
 幸村もしみじみとして言った。
「わさび醤油に漬けて食うと最高じゃ」
「ですな、あくまで新鮮な場合ですが」
「その場合に限りますが」
「しかしです」
「確かに刺身は美味いです」
「最高の食い方の一つですな」
「全くじゃ」
 幸村は家臣達にも確かな声で答えた。
「上田では食えぬがな」
「ですな、川魚はあろうとも」
「川魚はタチの悪い虫がおりますので」
「虫を腹の中に入れてはなりませぬ」
「だからですな」
「御主達にも言う、生の川魚は食ってはならん」
 断じてという口調での言葉だった。
「拙者も食わぬ」
「鯉も鮒もですな」
「鮭等も」
「そうじゃ、無論蟹もじゃ」
 この場合は沢蟹だ、そうしたものもというのだ。
「田螺にしてもな」
「とかく川のものは生では食うな」
「よく火を通してですな」
「そのうえで食え」
「そういうことですな」
「拙者は生水も控えておるが」 
 常に一旦沸かした水を飲んでいるのだ、若しくはその沸かした水が冷えたものを飲んでいるのである。
「それはな」
「身体を考えてのこと」
「それで、ですな」
「我等にも言っていますが」
「戦場で存分に戦えるにはまず身体あってこと」
「外も中も満足で、ですな」
「そうじゃ、五体満足でな」 
 そしてというのだ。
「中もよいからこそじゃ」
「だからですな」
「川や田にあるものは生では食わず」
「そして水もですな」
「生では口にせぬことですか」
「熱を通すとよい」
 それならというのだ。
「中の虫や毒を殺すからな」
「だからこそですな」
「そうしたものは火を通してですな」
「それから口にする」
「それがよいのですな」
「そうじゃ、常に存分に戦う為にな」
 まさにその為にというのだ。
「己の身体のことは常に考えていることじゃ」
「とかくおかしなものは食わぬこと」
「それが大事ですな」
「まずは、ですな」
「そこからですな」
「そういうことじゃ、しかしこうした時はよい」
 新鮮なものはというのだ、それも海のものならばだ。
「存分に食おうぞ」
「味噌汁もまた」
「これもですな」
「そうじゃ、食うぞ」
 こう家臣達に答えてだ、そしてだった。
 幸村は家臣達と共にその味噌汁、海老や鯛の頭のその味も楽しんだ。無論酒もだ。その馳走の後で鎌倉の寺等を巡ってだった。
 幕府の執権だった北条氏の屋敷があった場所まで来た、もうそこにはその屋敷はない。だがその場所に来てだった。 
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